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Sage Saga ~セイジ・サーガ~  作者: Eolia
第3章 グランドールの小さなギルドマスター
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第21話

第8話を最後に、全然バトルが発生してませんね。

本当はバトルの描写が好きなんですが……

 話がアレンのことに及んだところで、ミリィは初めて彼の失踪について言及した。王都へ向かったであろう事、そして自分達もその後を追うつもりである事も含めて。


「無茶言わないで! いくらなんでも危険すぎるわ。もし捕まったらタダじゃ済まないかもしれないのよ」


 それに対するジュリアの反応は、ほぼ予想通りのものだった。戒厳令下の王都に侵入するという事が本来どれほどの罪になるのかは分らないが、もし軍部が何かを企んでいて、その為に発令されたものだとしたら、それに逆らうということは軍部の計画を阻む行為と見なされるかもしれない。そうなれば最悪のケースだって考えられるのだ。


「でも、もしそれが本当ならアレンさんが危険だわ。アレンさんはこの事を知らないから、捕まっても重い罪にはならないと考えてるはずよ」


 アレンがなぜ王都へ向かったのかミリィには分からない。しかし軍のクーデターなどということを予測しているとは考えにくかった。


「俺も先生の事が心配だ。頼むよジュリア」


 フィゼルもミリィに続いた。二人の意思が固いと判断したジュリアがひとつ溜息をつく。


「分った、もう止めない。だけど十分に気を付けるのよ」


「王都へ入る方法があるのね?」


 アレンだってまさか真正面から王都へ強行突入するはずはないだろうから、憲兵に見つからずに進入するルートがあるはずだとミリィは確信していた。そしてジュリアならきっとそれを知っていると。


「確証は無いけど……。シルヴィスっていう村を知ってる?」


 フィゼルは当然のことながら、ミリィもしばらく考えた後首を振った。


「グランドールから王都へ延びる街道の途中に登山口があるの。シルヴィスはそこから山道を登って行って、中腹ぐらいの場所にある小さな山村よ。今は特産の果物の栽培で成り立っているけど、昔は林業が盛んだった村なの」


「それで、その村がどうしたの?」


 ここまで聞く限りではその村がどう関係してくるのか分からなかった。


「その村はね、山で採れた材木を特別なルートで王都へ運び込んでいたの。大きな材木だもの、街道に下りる山道では狭くて一度には沢山運べなかったみたいね。だから王都へ直接向かう林道を切り拓いたの」


 ジュリアがそこまで話したところで、ようやく二人にも話が見えてきた。街道以外にも王都へ向かう道があるということである。


「でも、その道は憲兵に見つからないの?」


 いくら特別な道だからといっても、非公式というわけではないだろう。材木を運び込んでいた道だというなら、当然その存在は向こうも承知のはずである。


「今は使われていないわ。村も十年以上前に林業はやめて、今じゃすっかり農業の村になってるの。絶対とは言えないけど、忘れられている可能性は高いわね」


 少なくともそれ以外に思いつくルートは無かった。それが駄目なら恐らくアレンも王都へ入ることはできないだろう。どちらにしろ、アレンに追いつける可能性は高い。


「よしっ、それで行こう!」


 そう言うとフィゼルはもうすでに外に飛び出そうとしていた。ジュリアの話を完全に理解できたわけではないが、アレンが危険だということは十分に分かった。それを思うと居ても立ってもいられないのだ。


「くれぐれも気を付けるのよ。もし万が一憲兵に見つかっちゃったら、ギルドの名前を出していいから」


 今にも走り出しそうなフィゼルの襟首を掴んで抑えていたミリィに、ジュリアは真剣な眼差しで言った。


「えっ!? でも、それじゃジュリアに迷惑がかかるわ」


 元々王国軍とギルドの関係はあまり良好とは言えない。それはギルドの活動範囲が軍の管轄とぶつかることが多々あるためで、軍部から見れば自分達の縄張りを荒らされているようなものだという。しかし軍がその縄張りとやらをしっかり網羅していないからギルドの様な民間組織が必要になるのだ、というのがギルド側の主張だ。さらに小回りの利かない巨大組織である王国軍には市民の声は届きにくく、犯罪の対応にも遅れがちになる。そのため、現在ではギルドの存在と活動は政府によって保障されている。軍部にしてみれば自分達の顔に泥を塗られたようなもので、内心は面白くないと思っているだろう。


 もしギルドの関係者が軍部の主導で発令された戒厳令に背いて逮捕でもされようものなら、日頃その存在を苦々しく思っている人間にしてみればギルドを糾弾する絶好のチャンスとなりかねない。


「これは私達の個人的な問題で、ギルドとは関係ないわ」


 自分達の勝手な理由で王都へ侵入しようとしているのだ。もし万が一の事態に陥っても、その責任は自分達で負うのが筋である。


「何言ってんの? あなた達はギルドのスイーパーとして王都へ行くのよ」


 ジュリアは二人を指差しながら言った。きょとんとしている二人にジュリアが続ける。


「忘れたの? 王都の地下水路で怪しい影が目撃されたっていう話。まだあの依頼は生きているのよ。当然それを受けたのはあなた達なんだから、王都へ行くのは立派なギルドのお仕事よ」


 なるほど、と納得するにはあまりに強引な理屈である。いくらギルドの活動が政府によって保障されているとはいえ、超法規的に動けるわけではない。このような事態に至っては、少なくとも戒厳令が解除されるまで依頼の件は凍結されるはずである。


「まぁいいじゃない。細かい事は言いっこなしよ。その代わり余裕があったらでいいから、依頼の方も頼んだわよ」


 もしもの時は、王国軍に睨まれようとも彼らの助けになるというジュリアの決意だった。たとえそれがギルドという一組織を預かる身としては不適切なものだとしても、母でも同じことをするだろうという確信があった。


「ジュリア……ありがとう」


 ジュリアの健気な心遣いが嬉しくて、ミリィはカウンター越しにジュリアの頭を抱きしめた。ジュリアは一瞬驚いたように眼を丸くしたが、その心地良さにしばらく身を任せた。


「えへへ、何だかミリィって変わったよね。いい感じになってる」


 ミリィの抱えている事情をジュリアは知っていた。その事情ゆえにミリィが心に闇を抱えているのも無理からぬことだと思っている。それがたとえ表面的にでも柔らかくなってきているのがジュリアには嬉しかった。


≪続く≫

いよいよフィゼルとミリィがグランドールを出て王都に向かいます。

新キャラが出るかも?

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