遠い東の国から
「ほう……生気が有り、知能の有る生物が中におる」
背の小さな少女が森の前の切り株に座って、燃え行く森を観ていた。
「しかし、のう……。いまさら消すなんて儂には似合わないだろうのう」
老人のような言葉が妙に似合う。
「お。出てきたらしいのう。だが、――何故火に向かってくるのだ?」
炎の影から男二人、女一人が駆けてきた。
一人の男が女に服を被せ、三人で火の中をくぐって来た。
「誰だ? お主ら」
老人言葉の少女――雪風丸が近くの高い樹に飛び移り、ディバルたちに声をかけた。
「あのう。その前にこちらの質問に答えて頂いてもらっていいですか?!」
樹を見上げてイルタラが聞いた。
「なんじゃ?」
「ここに火をつけたのはあなたですか?」
熱風が背中に当たりとても熱い。
「そうじゃが? さあお主らの答える番じゃ。さっさと述べよ」
雪風丸は三人を急かす。
「僕はイルタラと言う!」
「私はアリス。ほら、いいなよっ」
「俺はディバルだ。降りて来い! 話がしにくい!」
ディバルの問いかけに、
「良いじゃろう。降りてやる」
応じ、雪風丸が降りてきた。
「よかろう……儂の名は市室雪風丸じゃ。 遠い東の国から、全世界の視察に来た美少女じゃ」
雪風丸の爆弾発言に三人、
「「「美少女ぉ?!」」」
絶句した。
「そうでないか?」などと言う雪風丸は名前の割にはかなりの美少女ではある。が、老人言葉からその台詞が出たことで三人とも目を擦った。しかし、何処からどう見ても肌の艶やかな二十代手前の少女にしか見えない。
「よく見ると、おぬしらも美的……だのぉ」
目を細め惚れ惚れしたように三人を見た。が、咄嗟に、
「あっ、今ディバルに目をつけたわね。ディバルは私のものよ!」
ディバルの所有権を主張する。
「ほう。おぬしらそういう関係か……あまりものはあるのか?」
まるで物を扱うような物言いだ。だがアリスがイルタラの腕をグィッと掴まえて前に出した。
「こいつがあまりものよ」
イルタラが驚愕に口を開け、雪風丸が「ほう……」とじっと見つめていた。
「よい。わしの恋仲になれ」
「……はあっ?!」
イルタラの口が先ほどよりも大きく開かれた。あと少しであごが外れそうになるところだった。
「それはいいとして、イチムロ。貴様はここで何をしている」
必死であごを直しているイルタラを背にディバルが問う。
「森林観察じゃ。いや人間観察かもしれない――どのようにしてこの地域のものが火を消し止めるのかを見るためじゃ」
燃え盛る炎を見つめ、ぼんやりと答えた。
「どうじゃ、きれいじゃないかの? 儂はこの景色が気に入った。そして、今燃えているこの樹木らは年老いすぎた。そろそろ地に這いつくばっているよりも新しい若木にこの世を任せるべきではないか。その引継ぎの行為が樹木らでは出来ぬ。儂はその手伝いをしているだけじゃ」
先ほど、雪風丸が上っていた巨樹も既に樹齢数百年時を越え立っている。
「ぞんなことじたら神にさがら……いまずよぉ……」
イルタラが痛みの直らないあごを必死に動かして反論する。
「そう……自然の流れに反することをわしは起こしたのだ――そして今、そんな儂を迎えに来たらしい」
雪風丸が目を細め、誰もいないはずの場所に視線を置いていた。
――狂った?
三人がそう思った。
そして数歩歩き、右手を前に差し出し、炎に向かって、
「――倒れる?!」
イルタラが雪風丸に駆け寄りその体を支えた。
「……ありがとう。おかげで儂はとても佳い夢を見た気分じゃ、雪風丸」
雪風丸の口から出た言葉は、雪風丸への言葉だった。それから雪風丸は目を閉じた。




