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結界の主

「じゃあ、この辺で二手に分かれるぞ」

 ディバルが羅針盤を見て言った。

「結界…がここで途切れているからか。ではお前とアリスで私とイルタラということになるな」

 雪風丸がしゃがみこみ一本の糸をのばした。

 どんな色にでもなるその色はプツンとそこから切れていた。

「ああ、それでいい。貴様とアリスは意思伝達の印をつけておけ。この結果が元に戻ったとき、すぐに駆けつけてこられるようにだ」

 アリスと雪風丸が互いの手のひらを合わせ、次に左胸付近に手を当てると小さなショックうけ、数秒の停止時間があった。

「あの、一つ疑問が出たんだけど」

 イルタラが結界の行く末を見ながら言った。

「なんだ?」

「いや、さぁ。この結界って誰がしたんだろう? この森に術師がいるって聞いたけど、まさか力が弱いって聞いてたのに…そんな術師がこんなに巨大な結界なんて張れるわけないよ」

 術師とは、神術や魔術、錬金術などを多方面から研究、使用などをする者だ。そして、森に住まうのは主に魔術に長けている者だという。

「だが、術師といえどその才能を突然開花させたという事例もよくあることだ、と私は聞いたことがある。それにこれは、見た目は神術で作られたものに見えるが実際中心は魔術で構成されている。誰か、拡大鏡を貸してくれ」

「はい、どうぞ。これを使ってください」

 四人の誰でもない声が雪風丸に拡大鏡を手渡した。

「ありが……――って、お前誰だよっ」

 雪風丸が後ろに跳びのいてその声の主を指さした。

「え? え~っと。僕の名前って何だっけ……あ、思い出した。僕はレン・マズルカって言います――どうして、四人とも後ろによっていっていらっしゃるんですか?」

 闇の中から眼鏡をかけた白い顔がぽっかりと浮かんでいる。その位置にレンは一人取り残されていた。

「いや、だって怪しいですよ」

「お、驚かすなっ!!!」

「どうしてここにいるのかしら」

「……」

 四人からそれぞれの言葉が飛んできた。

「へ? えっえ~?! そんないっぺんに喋られたら、僕聞き取れないですよぉ~」

 そしてレンが頭を抱えて座り込んだ。

「え? たった三人の言葉を?」

 イルタラが肩に手を置いて横から覗いた。

「実は僕、十年前から誰とも会ってないんですよ。それで自分の名を名乗る機会が無くって……それに、普段、術名しか言わなかったので」

 ニッコリ笑うレンにディバルが歩みを進めて問う。

「ここに結界を張ったのは貴様か?」

 ギロリと鋭く光る眼がレンの擬似痛覚を刺激し、刺さった。

「貴様は、アルバート・マズルカではないのか?」

 さらに質問を重ねる。そして、レンは「アルバート・マズルカ」という言葉に目を輝かせた。

「ぼ、僕ってアルバート様に似ているんですか?!」

「俺はそんなことは言っていない! 貴様はマズルカなのかと訊いている!」

 ディバルは勢い余ってレンに攫みかかろうとしてアリスが後ろから止めた。

「はっ? 僕は確かにマズルカです。でもこれはアルバート様を尊敬するために名乗っているだけで本名なんかなんだったか思い出せません」

 ディバルの顔が怒りに歪んだ。

「アルバート・マズルカって一体誰なのよ?」

 アリスが背中から訊く。

「……」

 無言という返答だった。

 イルタラはすっきりとした顔立ちのレンをよく見た。

 レンは、その見た目からとても若い少年ということが窺えた。年は、十四から十七ほど。

「十年前ですか……かなり幼いときからのようですね。言葉はどうやって覚えたんですか?」

「屋敷にある本を読んでるからだと思います。どんな本でも揃ってるって感じですよ、僕の屋敷は――あ、そうだ。家に来ませんか? 久しぶりに人に会ったので僕はとても嬉しいんですよ」

 一年で一番夜が長い空にやっと月が昇った。この月には今にも動き出しそうな奇怪な黒い影がぽっかりと浮かんでいた。まるでそれが現実というように。

「術者の屋敷か…興味があるが、ディバル、アリス、イルタラ。行ってみないか?」

「わあ、来てくれるんだね?」

 ディバルが頷くと、レンは「やったぁ!」と声を上げて喜んだ。

「こっちだよ」

 レンを先頭に森の奥深くまで歩みを進めた。

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