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明日を望む

「無事だったらしいな、アリス」

 雪風丸が首元の動脈に触れて、顔色を確認した。

「……レイラにおなか殴られたとこまではおぼえてるんだけど、その後は全部記憶が飛んでるわ」

 アリスは確かに気絶していた。目を覚ましたときの辺りの空気が酷く痛く張り詰めたものだったから、耐え切れずに泣いたのだった。

「…怖かったのか?」

 ディバルが湖の蛍たちを見てアリスに問うた。

「怖かったけど…私、泣かなかったわ」

「嘘つけ。目元を見れば分かる」

 アリスの瞳を見つめ、事実を指摘した。

 アリスの目元は少し腫れて、泣いていたことがはっきりと窺えた。

「……ごめんね。ディバルのこと忘れてて。私って心のない人ね」

「…それは言うな」

 ぶっきらぼうに答えてアリスを腕に抱いた。

 「ごめん…」とアリスはそれだけを繰り返し言い続けた。

 その様子を見て、

「イチャついておるな――どうだ? 私らもやるか?」

 雪風丸がからかうようにイルタラを見ていった。

 その雪風丸がとてもいとおしく見えたイルタラは、

「いい――って。そんな、年下からのアタックはいけないよ。それに雪風丸は何歳なんですか? とても小さいですけど?」

 この言葉が雪風丸のダイナマイトに火をつけた。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「雪風丸? どうかしましたか?」

 肩に置かれた手をつかみ、ギュッと潰すように握り締めた。

「イテテテテ……雪風丸。放してもらえませんか…?」

 イルタラが顔をのぞいたら、

「誰が小さいのだと言った? イルタラ…お前かぁっ!!――私が手のひらサイズだといっているのかあっ?!」

 そして、雪風丸がイルタラを追いかけ始めた。

 一時的な平和が訪れたらしい。

「――今夜でこの戦いが終われば、新しい朝日に照らされて新しい日々を迎えられるかな、ディバル」

「つくづく思うが、お前は詩人だな」

 暗い湖にぽっかりと浮かんだ月はそれこそ鏡に映った世を映し出しているようだった。

「何やってんだ? イルタラ、雪風丸」

 ディバルが木にもたれてアリスが仁王立ちで立っていた。

 注意された当の二人はイルタラの上に雪風丸がちょこんと乗っかり耳を引っ張っていた。なんとも和やかな情景である。

「そんなことしている暇はないぞ。それとも貴様らは行かないのか?」

「え? どこに行くって言うんですか? その前に――レイラ? さん、出したっけ――その方、どこに行ったかってわかるんですか?」

 結局、ディバルたちの追いかけるべき敵というのは、レイラなのだ。

「剣を持たれている以上平和は訪れないのよ」

「でも、あの人って噂に聞く…前の恋人さんじゃないんですか? だか」

 雪風丸が飛び掛ってイルタラの口を封じ、左腕で首を締め上げた。

「……なんだよ?」

「私がこの程度のこと、ディバルに言ってないとでも思った?」

 二人はうんうんと大きく頷き、イルタラが雪風丸を覗いた。

「あの、雪風丸は……聞いてないですよね?」

 左頬をぺチンと叩かれて「は?」と首を傾げた。

「ふんっ。お前はろくに人の話を聞いておらんのか? それとも世間知らずというものか?」

 雪風丸は皮肉を含めて言った。

――世間知らずは両者とも……と。

 ディバルとアリスが心の中でつっこむが、この二人もそういうところもあるし、その上危険なことを平気で冒すこともどうかしている。

「ま、ケンカしないで。平和って言う大きな花を咲かせにいこうよ、ね?」

そして四人はまた、歩き出した。

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