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狂おしく

「善」と「両」と「悪」を人の心、凡てに宿らせ、争わす。

 そのとき、人はいつの間にか自身の総てをそれに委ねてしまう。

 平穏な心を創った者は、全てが平等に存在しているか、全てが死んでしまったか。

 青い心を持った者は、「善」「両」「悪」。あるいは、「善」「悪」「両」と順位をつけたか。

 黒い心を創った者は、「善」が完全に死んだか、「悪」と「両」が手を結んだか。

 不安定な心を創った者は、「両」が強いはずのほかの二つを抑えて一番上に立ったか、最悪な条件は「両」だけしかそこに存在しないということだった。

 「不安定」というのは人の生命までもをおびやかす。どこでも。どんな時代であろうとも。

 それは、生活、精神を狂わせ、死に追いやる。

 レイラは、「悪」と「両」が手を結んだ状態だ。だが、それは長くは続かないだろう。

――いつしか、「両」がその心を支配してしまうから……。

「あいつは狂った霊だ!! アリス、お前にも見えるはずだ! 身体からはみ出てしまった霊体が!!」

「な…に? それって、そんなもの見えるわけないわ――それに、離して?! レイラを助けないと。一対二は卑怯よ!! お願い! 離してっ、レイラが死んじゃうわ!!!」

 うつろな目をして、どこか遠くのレイラを見ていた。

「あいつはもう死んでいる!! “人形”に入っているあんなものは、人間とは呼べないぞ!! あれは……“両”の支配した怪物なのだ!!!」

「そんなもの……私なんかに分かるわけないじゃない!!!」

 アリスは叫び、自力で“霤の巫女”の束縛を解いた。

 ディバルは振り下ろされた剣を刃で止め、アリスに言った。

「来るな!! アリス、お前はここに来てはならない!! 三年前のように、そこで脅えていてくれ。さあ! 座れ!!!」

 舌打ちをして、“第二番”を共鳴させた。そして、それと同時にアリスが座り込んだ。

――そこでおとなしくしてくれ。お前が……一番苦しいはずだが、と。

「また……あの光が私を照らすの?」

 涙を流し呆然とつぶやくことしか出来ないアリスに、雪風丸が、

「あいつは、ただ、ディバルに嫉妬しているだけだ。気にするな、アリス。お前のせいじゃない。この戦いはどちらにしたって後悔はついてくるのだ。亡霊が放たれるとそれで、後悔。ディバルが死んだら亡霊も放たれて亡霊も放たれ、ディバルもきっと放たれるであろう。結果は何も変わらない……」

「貴様は……天へ上るはずの身。というのに、どうして“遺物”を集めるっ!!」

「バカがっ! 俺は貴様のことが憎いんだよ。貴様のせいで俺は死んだっ!!!」

 “最初の剣”が振り下ろされて“第二番”で跳ね返す。

 “聖”だけの剣を持つ“聖人”と“聖”と“悪”を混同してしまった剣を持つ“両人”が刃を向け合った。

――斬り倒す!!

 同時に二人が走り出した。

「イルタラッ、援護を頼む!」

 そして、二人が交差した。

――キィィィィン

 ディバルの“第二番”がしなって響いた。

「ハっ。俺にその攻撃が効くものかっ。実際の肉体がないんだからな!!」

 音による攻撃は無駄かと思われた。

 そして、次の瞬間、

 レイラが倒れた。

「――! 何故だっ?!」

 問われた。

 「フッ」と口元を歪ませ、

「莫迦が。音は振動だ。作り物くらい壊すのは容易。“悪魔”が入っていながらその程度か・・・・・・――さあ、お前の最期だ」

――シネ……。

 ディバルの指が刀の背を這って、無という音を出した。

 レイラは叫んで走り去る。

「イヤだあっ!! 俺は死ネない!!!」

 そして、

「森で燃えて灰になるだろうか……」

 そういった瞬間、

「レイラ待って!! レイラ、レイラぁッ!!!」

 とアリスが狂ったようにレイラを追いかけ始めた。

――アリス?!

 またも三つの声がアリスを呼ぶ。

 しかし、全ての声はアリスの心に響くことがなかった。

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