〜会話〜
「君の名前は?」
「私の名前は深月雪だよ。おにーさんはロリコンなの?」
「断じて違う。だいたい疑いながら名乗るのは、如何のものだ」
「名前を聞かれて名乗れない人は臆病者だって、おとーさんが言ってたの」
「フフ、父上は中々に豪気なお方だな」
深月雪と名乗る少女は首を傾げて「ごーき?」と呟いた。
幼子には難しい言葉だったか。
「強くあり立派である、ということだ」
「そんなことないよ?おとーさんあっさり死んじゃったもん」
雪はなんでもない様子で首を振り、リヴェイの言葉を否定する。
死を語る少女に複雑な感情を、リヴェイは自信が抱いてた人間観と実際のものの違いに違和感を覚えた。
「父上は亡くなってしまったのか?」
そう訊ねてから、この日本では人の死を詮索するのはマナー違反であることに気付いた。
しかし雪は気にすることなく首肯する。
「火事に巻き込まれて、死んじゃった」
人間の脆弱さは知っている。熱や冷気、電気といったものへの抵抗力が低いのだ。
住まいが燃えて中の人間が生きる事など稀であろう。
「ふむ、それは気の毒な話だ。……では、もしかして母上も?」
「おかーさんはその前からいなかった」
雪が置かれている救いのない状況に、リヴェイは初めて同情の念を抱いた。
「そうか、辛いことを訊いてしまったな」
「ううん。辛いことをいつまでも辛いと感じるのは弱虫なの。今一番辛いのは……お腹が空いてること」
そういって雪は膝を抱えてしゃがみ込む。リヴェイは慌てて近寄って座り、「いつから食べてないんだ?」
雪は膝を抱えながら指を二つ立てる。
人間というのは一日三食食べることを推奨されているというのに、この子は六食も抜いているのか。
「何か食べさせてやろう。付いてくるのだ」
リヴェイはしゃがみ込んだままの雪に手を差し伸べる。
雪はゆっくり口を動かした。
ロリコン。
そう動かしたのがわかり、リヴェイは首を振る。
「私は人に欲情しない、安心しろ」
リヴェイは知識を得たが、未だ常識が浸透していないということに気付かない。
雪は彼の非常識な言葉に首を傾げたが、目の前の大男が危害を与える様に見えず、その大きな手を取った。