〜出会い〜
眩い光を感じて目を覚ますのはいつ以来か。
差し込む光で意識を取り戻し、リヴェイはゆっくり目を開く。
青々とした空、柔らかい大きな白い雲。視界に広がる快晴の空に驚き、リヴェイは上半身をゆっくり起き上がらせる。
「おはようございます」
先程真白の空間で聞いた声に、リヴェイは辺りを見回す。
しかしその姿はなく、訳もなく彼は空を見上げた。
「私は姿を持ちませんので探しても見つかりませんよ。そして私が話しかけるのは、一旦これまでです」
「ふむ、お前がここまで案内してくれたのか?」
「ええ、それに近いです。今の状況を説明し次第、私は消えます」
「少し淋しいな」
「だからと言って規則を破らぬよう、心がけてくださいね」
姿なき声は笑ってから言葉を紡ぐ。
「貴方にはこの世界で必要な知識が入っています。常識や規則、言語など、生きていく上で問題はありません。また、戸籍や金など必要な物も最低限ですが用意しましたので、計画的にお使い下さい」
便利なものだ。ありがたく頂こう。
リヴェイはズボンのポケットに異物感を覚え、それを取り出す。
見たことのない皮でできた物。見たことがないのに、それが財布であることを理解できた。
それを機に知識が流れ込む感覚に襲われ、軽い頭痛を引き起こす。
「……日本ではリヴェイ・アドバーグという名前は不自然でないのか?」
頭痛を引きずりながら、頭に入った膨大な知識の不審点を空に訊ねる。
「日本には多くの他国民が暮らしていますので、名前に関しては問題ありません。そして気を付けて欲しいのですが、貴方はいわゆる外国人の容姿をしています。その点は忘れないでください」
「ほう。理解した」
「では、本当に最後になります。人間社会を楽しんでください」
「ああ、恩にきる」
リヴェイのその声に返事はなかった。冗談半分に淋しいと言ったのだが、それは本心だったようだ。
彼は立ち上がり、改めて新たな世界を見渡す。
少々の木々に灰色の高い建築物。建築物は何も灰色だけでなく、色とりどりである。
一番の驚きはテレビという物だ。
リヴェイは遥か彼方、駅前の大型テレビを見つけ、胸が焼けるような興奮を味わう。
素晴らしい!これが科学というものか!魔術、魔法に引けを取らないではないか……。
押し寄せる興奮と驚愕を抑え、リヴェイは大きな深呼吸をする。
こんな簡単な事で気分が楽になるとは、知らなかったな。
彼は今自分がいる位置を公園と知り、そしてその意味を知ってゆったりと歩く。
生き急いでも意味がないではないか。この瞬間を見逃さず、最大限に楽しまなくてどうするか。
「おにーさん、楽しいそうだね?」
「ああっ!楽しいとも!」
背後からの声に、リヴェイは生き生きと答える。今の環境が楽しくて仕方がないことは事実だが、それ以上に待ちかねた人間との対面だ。
リヴェイは期待を膨らませながら、背後の声の主へと振り返った。
「うらやましい」
そして愕然とした。
その声の主は齢十ほどの幼い少女で、何ともみすぼらしい格好をしている。服は汚れ、一部が破けている。顔や手足の見える肌は土や泥で汚れている。
ホームレスいうやつではないか?しかし、それは成人を指すのが一般ではないのか?
「おにーさんは、楽しそうだ」
そう言う少女の哀しげな表情は、リヴェイの胸を締め付けた。