プロローグ
私は間違いなく人間に殺されるのだ。
四人の名も知らぬ男女は私の城に押しかけ、仲間を虐殺し、そして私の言葉を耳にせず、私を切った。
目の前で私の死を見て、彼らは喜び達成感に浸るはずだ。
しかし私は彼らを責めない。責める気など毛頭ない。それでいいのだ。とさえ思える。
何故なら私は人間が大好きだからだ。尊敬までしている。
100年とない短い寿命を謳歌し、次の世代がより良く生きる為に力を尽くす。
その一環で死殺されるのであれば、悔いは一切ない。
彼らの多大なる活力に飲み込まれたのだから、それは否定しようのない敗北だ。言い訳もない。
ただ後悔があるのなら、私が魔族として生まれたこと。魔王として君臨するほかなかったこと。そして魔族と人間の確執が埋められるものではなかったこと。
このどうしようもない三点だけは、悔やまずにはいられない。
……否、哀しいのだ。
類稀なる進化を続ける人間の今後を見られないことが、またそれに力添えできないことも。
リヴェイ・アドバーグ。
この私の名だけで全てを動かせた。ほんの気紛れで世界を壊すこともできただろう。人間はおろか、魔族以外の生物を滅ぼすことも難しくはない。
それをしなかったのは人間への配慮だ。
しかし、この命が果てる前に、最後の力を使おう。
リヴェイ・アドバーグの名に命ずる。
……いや、頼み、懇願と言ってもいい。
リヴェイ・アドバーグ、最後の願いだ。
……人間と仲良く暮らしたい。
リヴェイ・アドバーグはこう想い、死を迎えた。
彼の死は魔族の崩壊に繋がり、人の生活を脅かすことはなくなり、秩序と平和を与えた。
彼を退治した勇者一行は数百、数千年の歴史に名を刻み、人を救った英雄となった。
しかし誰一人として、誰よりも人を想っていたリヴェイ・アドバーグを讃えることはなかった。
彼の名は禁忌となり、死や災害の象徴として数百、数千年語り継がれる事となる。
これは日本でもなければ、地球でもない世界。他惑星とも異世界ともつかない世界の歴史であり、伝承である。