呼ばれた先は
深い眠りから覚めていく。
昨日は…、そうか。老狐さんの地元…何て言ったっけ…。ああ。そうだ、奏壌に行く途中だった。
聞いたこともない地名だったけど…。
それより、今何時だろ。あ───。
「ヤバい…。やっちまった…。寝過ごした!!」
自分で決めた時間に目覚める。何時もなら、当たり前にできたのに今日に限ってできなかった。
少し仮眠するつもりが爆睡してしまうとは、社会人としてあるまじき行為。ましてや時間にうるさい業界だ。
「ともかく…。老狐さんに謝らないと───。あれ?」
ふかふかだ。ふかふかのベッドの上だ。
おかしな。車内で寝ていたはずなのに何が起きたのか…。
理解が追いつない。困惑する。
もしかしたら、老狐さんの仕業だろうか…。
車の中でダウンしてしまった僕を運んでくれる人物、思い当たるそれは老狐さんしか居ない。
「でも…。ここは、何処だろ? かなり豪華なホテルだよな…。まさか、ロイヤルスイート!?」
不味いぞ。持ち合わせが…ないっ!!
親切はありがたいけど、老狐さん…なんてことを!!僕の給料何ヶ月分だよ!?
数十万…いや、百万超え?
「ヤバい…。また、目眩が…」
今感じているのは、昨日のものとは違うが目眩には違いない。
───何てふざけている場合じゃない。どうしようか。
「プロデューサーさん。起きてますか?」
この声は…。夏原のものだ。
「あ、ああ。起きてるよ」
夏原の声にホッとする。
この場違いなホテルに居るのが、自分だけでなくて良かった。
恥ずかしいが…、彼女達にも支払いを持って貰おうと思う。…年下の、それも未成年に、本当恥ずかしい話だ。
「良かったぁー。全然っ目を覚まさないから心配したんですよ」
と思う裏腹に、夏原は僕のことを心配してくれていたようだ。何時も動き回っているイメージが強いせいで、朝になっても起きてこないから、何かあったのじゃないかと…。
これでは、お金を貸してくれと言い出せない。ま、それは後でも良いか…。
「心配掛けたみたいだな。悪い。だけど、ちゃんとこうして起きたから心配いらないよ」
「そうですね。ただの寝坊だったんなら良かったです…」
「ん? どうしたんだ?」
どうも歯切れが悪い。何時もの夏原らしくない様子だ。
「何かあったのか? まさか!?イベントの方が終わっちゃったのか!!僕が寝過ごしたせいで!!」
「大丈夫です。そっちの方はまだ時間がありますって、老狐さんが言っていましたから」
「そ、そうか。…なら、良かった」
ここのところ、失敗続きだ。今回は失敗できないと気合いを入れたつもりが、この有り様では、社長に…どころか、夏原たちにも合わせる顔がない。
「そうだ。ここは一体どこなんだ? かなり豪華なホテルのようだけど…」
「そうなんです。ビックリですよね!?私達も起きたらスッゴいホテルで驚きましたよ。プロデューサーさんが、手配した…。訳ないですよね?」
「当たり前だろ。て言うか…、もしかして一人一室ってなわけないよな?」
「勿論、一人一人別の部屋ですよ。本当、スッゴいんですよ。ここ、部屋がキラキラしてるんです!!プロデューサーさんの部屋は…質素ですけれど」
これで質素? おいおい、何の冗談だよ。これで質素なら僕のアパートは犬小屋だ。
話の内容を鑑みると、本当に別々の部屋に割り当てられているようだ。
「ああ…うん。とりあえず…、これからの話をしよう。イベントまで時間があるのはありがたい前乗りして来て良かった。明日が本番だ。えっと…、だよな?」
「それが…。どうやら、もう少し時間が掛かるみたいです。なんか手違いがあったみたいで…」
「え!?そうなの!!──そうなると困ったことに…うん。ならないな!!スケジュール真っ白だからな!!」
「もう!!胸を張って言わないで下さい、そんなこと!!」
いや、そうなんだけど事実今月の仕事は残すとこ一つ。つまり、このイベントだ。
「だ、大丈夫だよ。心配しなくても…。一応、来月は、それなりに仕事あるから───」
「お、これは中々いい仕事しますねぇ。流石は、私のプロデューサーだね」
いつの間にやら、秋山に春野も来ていた。
まあ、都合がいい。
「夏原、悪いけど冬森も呼んできてくれるか?」
どうせなら、全員で。その方が話が早い。
「大丈夫だよ。実はこんなこともあるかと私も来ていたのだぁー!!」
「どわぁー?!───い、いつからそこに…」
ベッドの横から飛び出した冬森に苦笑いだ。
恐らく、初めからいたのだろう。夏原も上手くいったことに喜んでいる。
「気づいていたのか、夏原?」
「まあ…。来たときにはそこに隠れてましたから」
「おはよー、村崎さん。───面白いんだよ。村崎さん、急に起き上がったと思ったら、ブツブツ独り言言ってるんだよ」
聞かれていたのか…。そうだよな…。
「ごほんっ。さあ、みんな集まったな。じゃあ、これからミーティングだ。ミーティングをしよう」
「え…? ここでですか?」
「そうだけど…。どうしたんだ、春野?」
何時もなら、否定的なことは言わない春野が珍しい。
もしかしたら、男部屋ということに遠慮があるのかな…。そう言った奥ゆかしさがあるのが春野だ。
正直、可愛いのは良いことだ。
「…あの、村崎プロデューサー。ここは寝室です。わざとではないのは理解してますけど、いやらしいです不潔です!」
何と!? これは、うっかりしていてた。
「すまない。本当、わざとじゃないんだ」
「もう。桜花は考え過ぎだよ。例え、村崎たんが、Tシャツでパンツ一枚の姿でも、私達に手を出すわけないじゃん。だから、考え過ぎ」
やれやれ…といった感じの秋山。
だが…ま、待て。…ヤバい。やっちまった…。秋山の言った通り、Tシャツにパンツ一丁だ。
これは、うっかりでは済まされない。
「だ、大丈夫です!!見てません、私の位置からは見えてませんから!!」
「それ…、フォローになってないから。因みに…、私の位置からはバッチリ見えてるよ?」
「いや、もう良いから…。皆、済まないけど出て行ってくれ…」
当然、その言葉に逆らう者はなく…、黙って部屋を出て行ってくれた。
パパよりスゴい筋肉と言った冬森の言葉は聞こえない。どこまで見られたか考えたら…。
社長に殺される…。
着替えを終えて、寝室を出る。すぐ隣も部屋は繋がっており、その豪華さに素直に驚く。
見渡しただけで、価値があるものだと直ぐに判る。王室ご用達と言われても納得だ。
いや…、よく知らんけども。
そんな中にとけ込む少女たち。なかなかどうして。随分と堂に入ったもの。馴染んでいる。
ほほほ、桜花さん…とか、ごきげんよう、紅葉さんなどなど。まあ…、悪ふざけだ。
見ていて微笑ましいが…。
「おーい。本当にミーティング始めるぞ」
「はーい。では、改めて…。おはようございます、プロデューサー。今日も宜しくお願いします」
起立。礼。着席。───挨拶は大切だ。アイドルといえども仕事だ。そこのところは、キチンと教え込んでいる。挨拶できないアイドルはあっという間に仕事を干されてしまう。
「はい、おはよう。じゃあ、ミーティング始めるぞ。まず、事前に打ち合わせしていたことから伝えるぞ。昨日までドタバタしていたからな。ゆっくりと話せなかったから、ちゃんと聴いてくれよ」
と、まあ。だいたいの流れ、日程や進行を伝える。
3日に渡って開かれる今回のイベント。その場を盛り上げるためにシーズンフォーのライブ…というわけだが、その3日間はずっとライブ漬けになる。
体力的な問題もあるが、何もずっと歌い続ける踊り続けるというわけではなく、1日目は朝、2日目は夕方、最終3日目は昼と夜の公演となる。
予定では、だが。
「夏原の話しでは、その日程も遅れているらしいし…。もしかしたら、一日だけに変更になるかもしれない。一応、覚悟はしておいてくれ」
勿論、交渉はする。一日だけでもライブ回数が増えるのか。それとも、一回の公演だけで終わるのか…。
どちらにしても損なのだが…。
「それでしたら、失敗はいりません。大丈夫ですよ、村崎さん」
今日は着流し姿の老狐さんが突如として乱入してきた。一体どこからと思う半分、老狐さんの言葉が気になる。
「お…おはようございます、老狐さん。昨晩は、お世話になったみたいで…。ご迷惑をかけました、申し訳ございません───」
「いえ、謝る必要はないですよ。逆にこちらこそ謝らせて下さい」
互いに謝罪を済ませ本題だ。さて、老狐さんの言った大丈夫とはどういうことなのだろうか。
「はい。先ずは、説明が必要ですかな…。外はご覧になりましたか?」
「いえ…、まだです。外に何かあるんですか?」
「ははは。見てみれば分かりますよ、驚かないで下さいよ」
ベランダに案内される。外に見えるのは都会では見られない大自然だ。
見渡す限りの平原。雪のように白い。
確かに観る価値のあるものだが、これが一体何なのか───。
「ぷ…プロデューサーさん……。下。下を見て下さい…」
「げぇ!?な、何じゃこりゃ!!」
「まあ、ご覧のとおり予想以上に集まりましてな…」
「ど、ドラゴンじゃん!?」
…………。
「「え?…あれ?」」
顔を見合わせ、見事にシンクロした。
見るところはそこじゃないよ。言うところはそこじゃないだろ。という意味では見事にシンクロした。
夏原たち面々も言葉を失い、呆然としている。
「ま、まあ。そうですな…。あれはドラゴンの一種です。<魔法竜ライドドラゴン>───。いや、そうでした。まずは、そこからの説明が必要でしたな。今のは見なかったことにしてください」
無茶を言う…。あんな生き物を見せられて平静でいられるか。
だが、事態の説明は必要だ。
「説明は聞きますが、質問しても良いんですよね。当然?」
「勿論です。そのための説明なのですから」
「はい、はーい。質問質問!!あれ、本物?」
元気に手を挙げる秋山…。立ち直り早いな、おい。
「ふむ。難しい質問ですな。あれは魔法で創り出された竜。真贋を問うなら、贋作である。真偽を問うなら紛れもなく竜ですかな」
「魔法!?魔法なの!!」
「ちょっと!静かに!!静かにして、紅葉!!」
秋山のはしゃぎように、夏原がようやく立ち直ったようだ。
あれではしゃげる秋山も凄いが、何時もと同じように秋山を叱りつけられる夏原も凄い…。
「す、すいません。説明お願いします」
「いえいえ。流石はシーズンフォーのお一人。なかなか良い質問でした」
「いえいえ。そんな、老老ちゃん。褒めてもなにもでないよ。恥ずかしいな」
誰だよ、老老ちゃんって。
今日、初めて会ったのに馴れ馴れしい態度。老倉さんはそう言うことで怒る人じゃないが、後できっちり教育しないとな。
と思いきや、老倉さん…もしかして、照れてる?
説明忘れてないですかー? おーい。という視線×3に気づいてない老倉さん。
「ん、ん…、ごほんっ。あの老倉さん?」
「あ、失礼しました。では、説明させて貰います。初めに言っておかなければならないのは、ここが地球とは異なる世界だと言うことです───」
語り出した老倉さん。
それは、説明というより誰かの物語のようでもあった。魔王にまつわる伝説。魔王を倒した英雄の伝説。
それらは全く現実離れしていたが、全てが僕達に繋がる納得のいく説明になる。
だが結局のところ、僕…じゃなく、シーズンフォーがやるべきことはただ一つ。ライブをすることだ。
場所は関係ない。呼ばれれば何処にでも行く。それが、売り出し中アイドル“シーズン・フォー”なのだ。