表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/5

呼ばれた先は

 深い眠りから覚めていく。

 昨日は…、そうか。老狐さんの地元…何て言ったっけ…。ああ。そうだ、奏壌かなつちに行く途中だった。

 聞いたこともない地名だったけど…。

 それより、今何時だろ。あ───。


「ヤバい…。やっちまった…。寝過ごした!!」


 自分で決めた時間に目覚める。何時もなら、当たり前にできたのに今日に限ってできなかった。

 少し仮眠するつもりが爆睡してしまうとは、社会人としてあるまじき行為。ましてや時間にうるさい業界だ。


「ともかく…。老狐さんに謝らないと───。あれ?」


 ふかふかだ。ふかふかのベッドの上だ。

 おかしな。車内で寝ていたはずなのに何が起きたのか…。

 理解が追いつない。困惑する。

 もしかしたら、老狐さんの仕業だろうか…。

 車の中でダウンしてしまった僕を運んでくれる人物、思い当たるそれは老狐さんしか居ない。


「でも…。ここは、何処だろ? かなり豪華なホテルだよな…。まさか、ロイヤルスイート!?」


 不味いぞ。持ち合わせが…ないっ!!

 親切はありがたいけど、老狐さん…なんてことを!!僕の給料何ヶ月分だよ!?

 数十万…いや、百万超え?


「ヤバい…。また、目眩が…」


 今感じているのは、昨日のものとは違うが目眩には違いない。

 ───何てふざけている場合じゃない。どうしようか。


「プロデューサーさん。起きてますか?」


 この声は…。夏原のものだ。


「あ、ああ。起きてるよ」


 夏原の声にホッとする。

 この場違いなホテルに居るのが、自分だけでなくて良かった。

 恥ずかしいが…、彼女達にも支払いを持って貰おうと思う。…年下の、それも未成年に、本当恥ずかしい話だ。


「良かったぁー。全然っ目を覚まさないから心配したんですよ」


 と思う裏腹に、夏原は僕のことを心配してくれていたようだ。何時も動き回っているイメージが強いせいで、朝になっても起きてこないから、何かあったのじゃないかと…。

 これでは、お金を貸してくれと言い出せない。ま、それは後でも良いか…。


「心配掛けたみたいだな。悪い。だけど、ちゃんとこうして起きたから心配いらないよ」

「そうですね。ただの寝坊だったんなら良かったです…」

「ん? どうしたんだ?」


 どうも歯切れが悪い。何時もの夏原らしくない様子だ。


「何かあったのか? まさか!?イベントの方が終わっちゃったのか!!僕が寝過ごしたせいで!!」

「大丈夫です。そっちの方はまだ時間がありますって、老狐さんが言っていましたから」

「そ、そうか。…なら、良かった」


 ここのところ、失敗続きだ。今回は失敗できないと気合いを入れたつもりが、この有り様では、社長に…どころか、夏原たちにも合わせる顔がない。


「そうだ。ここは一体どこなんだ? かなり豪華なホテルのようだけど…」

「そうなんです。ビックリですよね!?私達も起きたらスッゴいホテルで驚きましたよ。プロデューサーさんが、手配した…。訳ないですよね?」

「当たり前だろ。て言うか…、もしかして一人一室ってなわけないよな?」

「勿論、一人一人別の部屋ですよ。本当、スッゴいんですよ。ここ、部屋がキラキラしてるんです!!プロデューサーさんの部屋は…質素ですけれど」


 これで質素? おいおい、何の冗談だよ。これで質素なら僕のアパートは犬小屋だ。

 話の内容を鑑みると、本当に別々の部屋に割り当てられているようだ。


「ああ…うん。とりあえず…、これからの話をしよう。イベントまで時間があるのはありがたい前乗りして来て良かった。明日が本番だ。えっと…、だよな?」

「それが…。どうやら、もう少し時間が掛かるみたいです。なんか手違いがあったみたいで…」

「え!?そうなの!!──そうなると困ったことに…うん。ならないな!!スケジュール真っ白だからな!!」

「もう!!胸を張って言わないで下さい、そんなこと!!」


 いや、そうなんだけど事実今月の仕事は残すとこ一つ。つまり、このイベントだ。


「だ、大丈夫だよ。心配しなくても…。一応、来月は、それなりに仕事あるから───」

「お、これは中々いい仕事しますねぇ。流石は、私のプロデューサーだね」


 いつの間にやら、秋山に春野も来ていた。

 まあ、都合がいい。


「夏原、悪いけど冬森も呼んできてくれるか?」


 どうせなら、全員で。その方が話が早い。


「大丈夫だよ。実はこんなこともあるかと私も来ていたのだぁー!!」

「どわぁー?!───い、いつからそこに…」


 ベッドの横から飛び出した冬森に苦笑いだ。

 恐らく、初めからいたのだろう。夏原も上手くいったことに喜んでいる。


「気づいていたのか、夏原?」

「まあ…。来たときにはそこに隠れてましたから」

「おはよー、村崎さん。───面白いんだよ。村崎さん、急に起き上がったと思ったら、ブツブツ独り言言ってるんだよ」


 聞かれていたのか…。そうだよな…。


「ごほんっ。さあ、みんな集まったな。じゃあ、これからミーティングだ。ミーティングをしよう」

「え…? ここでですか?」

「そうだけど…。どうしたんだ、春野?」


 何時もなら、否定的なことは言わない春野が珍しい。

 もしかしたら、男部屋ということに遠慮があるのかな…。そう言った奥ゆかしさがあるのが春野だ。

 正直、可愛いのは良いことだ。


「…あの、村崎プロデューサー。ここは寝室です。わざとではないのは理解してますけど、いやらしいです不潔です!」


 何と!? これは、うっかりしていてた。


「すまない。本当、わざとじゃないんだ」

「もう。桜花は考え過ぎだよ。例え、村崎たんが、Tシャツでパンツ一枚の姿でも、私達に手を出すわけないじゃん。だから、考え過ぎ」


 やれやれ…といった感じの秋山。

 だが…ま、待て。…ヤバい。やっちまった…。秋山の言った通り、Tシャツにパンツ一丁だ。

 これは、うっかりでは済まされない。


「だ、大丈夫です!!見てません、私の位置からは見えてませんから!!」

「それ…、フォローになってないから。因みに…、私の位置からはバッチリ見えてるよ?」

「いや、もう良いから…。皆、済まないけど出て行ってくれ…」


 当然、その言葉に逆らう者はなく…、黙って部屋を出て行ってくれた。

 パパよりスゴい筋肉と言った冬森の言葉は聞こえない。どこまで見られたか考えたら…。

 社長に殺される…。




 着替えを終えて、寝室を出る。すぐ隣も部屋は繋がっており、その豪華さに素直に驚く。

 見渡しただけで、価値があるものだと直ぐに判る。王室ご用達と言われても納得だ。

 いや…、よく知らんけども。


 そんな中にとけ込む少女たち。なかなかどうして。随分と堂に入ったもの。馴染んでいる。

 ほほほ、桜花さん…とか、ごきげんよう、紅葉さんなどなど。まあ…、悪ふざけだ。

 見ていて微笑ましいが…。


「おーい。本当にミーティング始めるぞ」

「はーい。では、改めて…。おはようございます、プロデューサー。今日も宜しくお願いします」


 起立。礼。着席。───挨拶は大切だ。アイドルといえども仕事だ。そこのところは、キチンと教え込んでいる。挨拶できないアイドルはあっという間に仕事を干されてしまう。


「はい、おはよう。じゃあ、ミーティング始めるぞ。まず、事前に打ち合わせしていたことから伝えるぞ。昨日までドタバタしていたからな。ゆっくりと話せなかったから、ちゃんと聴いてくれよ」


 と、まあ。だいたいの流れ、日程や進行を伝える。

 3日に渡って開かれる今回のイベント。その場を盛り上げるためにシーズンフォーのライブ…というわけだが、その3日間はずっとライブ漬けになる。

 体力的な問題もあるが、何もずっと歌い続ける踊り続けるというわけではなく、1日目は朝、2日目は夕方、最終3日目は昼と夜の公演となる。


 予定では、だが。


「夏原の話しでは、その日程も遅れているらしいし…。もしかしたら、一日だけに変更になるかもしれない。一応、覚悟はしておいてくれ」


 勿論、交渉はする。一日だけでもライブ回数が増えるのか。それとも、一回の公演だけで終わるのか…。

 どちらにしても損なのだが…。


「それでしたら、失敗はいりません。大丈夫ですよ、村崎さん」


 今日は着流し姿の老狐さんが突如として乱入してきた。一体どこからと思う半分、老狐さんの言葉が気になる。


「お…おはようございます、老狐さん。昨晩は、お世話になったみたいで…。ご迷惑をかけました、申し訳ございません───」

「いえ、謝る必要はないですよ。逆にこちらこそ謝らせて下さい」


 互いに謝罪を済ませ本題だ。さて、老狐さんの言った大丈夫とはどういうことなのだろうか。


「はい。先ずは、説明が必要ですかな…。外はご覧になりましたか?」

「いえ…、まだです。外に何かあるんですか?」

「ははは。見てみれば分かりますよ、驚かないで下さいよ」


 ベランダに案内される。外に見えるのは都会では見られない大自然だ。

 見渡す限りの平原。雪のように白い。

 確かに観る価値のあるものだが、これが一体何なのか───。


「ぷ…プロデューサーさん……。下。下を見て下さい…」

「げぇ!?な、何じゃこりゃ!!」

「まあ、ご覧のとおり予想以上に集まりましてな…」

「ど、ドラゴンじゃん!?」


 …………。


「「え?…あれ?」」


 顔を見合わせ、見事にシンクロした。

 見るところはそこじゃないよ。言うところはそこじゃないだろ。という意味では見事にシンクロした。

 夏原たち面々も言葉を失い、呆然としている。


「ま、まあ。そうですな…。あれはドラゴンの一種です。<魔法竜ライドドラゴン>───。いや、そうでした。まずは、そこからの説明が必要でしたな。今のは見なかったことにしてください」


 無茶を言う…。あんな生き物を見せられて平静でいられるか。

 だが、事態の説明は必要だ。


「説明は聞きますが、質問しても良いんですよね。当然?」

「勿論です。そのための説明なのですから」

「はい、はーい。質問質問!!あれ、本物?」


 元気に手を挙げる秋山…。立ち直り早いな、おい。


「ふむ。難しい質問ですな。あれは魔法で創り出された竜。真贋を問うなら、贋作である。真偽を問うなら紛れもなく竜ですかな」

「魔法!?魔法なの!!」

「ちょっと!静かに!!静かにして、紅葉!!」


 秋山のはしゃぎように、夏原がようやく立ち直ったようだ。

 あれではしゃげる秋山も凄いが、何時もと同じように秋山を叱りつけられる夏原も凄い…。


「す、すいません。説明お願いします」

「いえいえ。流石はシーズンフォーのお一人。なかなか良い質問でした」

「いえいえ。そんな、老老ちゃん。褒めてもなにもでないよ。恥ずかしいな」


 誰だよ、老老ちゃんって。

 今日、初めて会ったのに馴れ馴れしい態度。老倉さんはそう言うことで怒る人じゃないが、後できっちり教育しないとな。


 と思いきや、老倉さん…もしかして、照れてる?

 説明忘れてないですかー? おーい。という視線×3に気づいてない老倉さん。


「ん、ん…、ごほんっ。あの老倉さん?」

「あ、失礼しました。では、説明させて貰います。初めに言っておかなければならないのは、ここが地球とは異なる世界だと言うことです───」


 語り出した老倉さん。

 それは、説明というより誰かの物語のようでもあった。魔王にまつわる伝説。魔王を倒した英雄の伝説。

 それらは全く現実離れしていたが、全てが僕達に繋がる納得のいく説明になる。

 だが結局のところ、僕…じゃなく、シーズンフォーがやるべきことはただ一つ。ライブをすることだ。

 場所は関係ない。呼ばれれば何処にでも行く。それが、売り出し中アイドル“シーズン・フォー”なのだ。






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ