アイドル達
都内某所、ライブハウス───。
アイドルユニットのライブイベントが始まろうとしていた。
4人の少女達で構成されるアイドル<シーズン・フォー>。
メンバーを年齢順に紹介すると、夏原夕、真っ直ぐな性格でみんなのまとめ役。シーズンフォーを引っ張っる頑張り屋の18歳。
秋山紅葉。気まぐれでいつもみんなを困らせる小悪魔。笑顔の可愛い16歳。
春野桜花はのんびり屋。のほほんとした雰囲気がみんなを癒やす、同じく16歳。
冬森静香は純真無垢な15歳。メンバーの中でもダントツに実力の光る最年少。それでも今はまだ原石だ。
歌と踊りをメインにした新進気鋭の清純派アイドルこそ<シーズンフォー>なのだ。
そして、そのプロデューサーの村崎俊悟。35歳。
そこそこ遣り手のプロデューサーで名が通ってはいるが、今一つ押しが足りなない人物だというのもまた有名な話だ。
幾度かの失敗を経て、数人ほどのアイドルを人気アイドルへと導いた。
だが、それはやっぱり人気アイドルとなった彼女達の実力で、プロデューサーとしての力量とは言い難かった。
そんな彼、村崎俊悟が見いだした少女たち。彼女達もまた、プロデューサーとしての力量ではなく、本人達の力で羽ばたくだろうと期待した。
だが、デビューさせたものの…。鳴かず飛ばずの売れ行きだ。
その流れを変えようと企画された結成一周を記念したアニバーサリーライブ。
準備は整い、幕は開く。
少女達が舞台袖から飛び出しライブが始まる。
…残念なことに目の前に広がるのは無人の客席だ。
ライブが始まったと言うのに誰もいない会場は、シーンと静まり返り、とてもこれからライブが始まるとは思えない雰囲気に包まれる。
記念すべきライブに空気は重く…、言葉も出ない。
夏原夕は、客席を見渡す。広くないはずのライブハウスが不思議と広いと思うのは仕方ないことだった。
申しわけなさそうにしているプロデューサー。別に彼を悪く思ってはいない。むしろ、今まで見捨てずに支えてくれてきたことに感謝している。
客席に居るのは村崎俊悟だけ…。一人でも見ている人がいるのなら───。
「みんなーっ!!今日は来てくれてありがとーっ!!」
「夕ちゃん………。え、えっと…。私たちを応援したくれたみんなのために一生懸命頑張るから、最後まで聴いていって下さいね?」
「うん。そうだね。今日は今までの感謝の気持ちを込めて張り切っちゃうから!!」
「だから、ちゃんと聴いてね。プロデューサーさん?」
みんなも何も、張り切って幕を開けたが、当然誰もいない。居るのは自分一人…。
静香の一言に村崎俊悟も苦笑いだ。幾ら売れないアイドルとは言え、ここまでの事態は今までなかった。
みんなそれぞれ持ち味のあるアイドルだ。身内贔屓を差し引いても悪くない。
顔も悪くない。モデルとしても通用するレベルだ。実際、街を歩けばスカウトされると本人談だ。
歌だって悪くない。人を惹きつける魅惑の歌声は世に出るアーティストにも引けをとらない。
それは全部、彼女達の涙ぐましい努力の結果だ。
それを一番分かっているからこそ、彼も彼なりに営業努力を続けている。今日のライブチケットだって売れる限り売った。来てくれそうな知り合いには配ってもいる。
これからでも客呼びでもしてこようかとも思ったが、少女達の真っ直ぐな眼差しに足を止める。
彼女達の言葉は、村崎俊悟一人に送られた言葉だ。自分達の歌を聴いて欲しいと…。
「みんな、済まない。───僕の責任だ。こんな想いをさせる為に君達をアイドルにしたわけじゃない。次は…次のライブこそ、絶対に成功させる!!満員にしてみせるぞ!!」
失敗と反省を胸に、次こそはと決意を新たにする。
「大丈夫です!!私たちだって、こんなことで挫けたりしません。村崎さんのこと信じてます」
「うん。私たちずっと村崎プロデューサーに着いてきたんだもん…。もっとレッスンして歌も踊りも、もっともっーとっ!!上手くなってみせるから!!」
───考えてみたら、彼女達のライブを見るのは初めてかもしれない。いや、見ていなかった。
ライブの裏方仕事はほぼ一人でこなしていた。
本来、一人手やることでもないが資材、機器、照明に音響全てをやっていた。
人手もない。
金もない。
だから、自分でやるしかない。と…。
じっくり見ている暇などなく、何時も聞き流していたようにも思う。
それとこれとは話が別。プロデューサーの仕事は、プロデュースする事だ。
「よしっ!!僕は絶対君達を立派なアイドルにしてみせる!!だから、今日は僕に精一杯の歌を聴かせてくれ!!」
今日は一ファンとしてシーズン・フォーの歌を聴こう。プロデューサーではなく、村崎俊悟として…。
「「「「はいっ!!」」」」
そして、開演から少し遅れてアイドルユニット、シーズンフォーのライブが始まった。
個人的には歯が浮くようなラブソング。夢や希望を歌った歌は苦手なのだが、今日はやけに胸に響いていた。