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ふかしぎ真霊奇譚  作者: 猫音おる
第二章   ~生徒会怪編~
8/92

#8 ふかしぎ部発足すべし

なぜか知らないが、生徒会の役員だという城樹叉羅沙なる生徒に襲われた。

霊術師として同士の戦いに。

というか、先に仕掛けたのは琉嬉の方ではあるのだが。

琉嬉はひとつの考えをまとめていた。

部室隣の生徒会…。

もしかして、自分達と同じ力を持つ者が集まってる、似たような集団なのではないかと。

他にも複数の術者が少なくとも学校にいる…?

そういう話になるのだ。

(いやいや、そもそもなんでこんなに術者が多いんだ?そりゃ元より霊やら妖怪やら多い地域だけど…)

 あれこれ考えてるうちに学校の校門前まで着いてしまった。

「ぶっ」

 ぼふっと何かにぶつかる音を立てて琉嬉はいつぞやみたいにまた尻餅を着いて、転んだ。

「たたっ…」

 お尻をさすりながらなんとか立ち上がろうとする。

「お、ごめんよ。大丈夫か?」

 男子生徒の声が聞こえ、優しく手を差し伸べる人物。

「あ、ども…」

「お?もしかして噂の彼方琉嬉ちゃん?」

「…そうですけど?」

 知ってるかのように声をかけてくる。

手を差し伸べている生徒は赤みかかった茶髪で、背が高くスラっとしている。

でも叉羅沙よりは大きくないようだ。

叉羅沙が異常なだけである。

琉嬉は差し出された手を取り、起き上がる。

「るーきちゃん、また誰かとぶつかったの?」

 振り向くと護がいた。

「よく人とぶつかるよね?」

「うっさい」

 よく考えたら護との出会いもぶつかったからだ。

みゆともぶつかって出会ってる。

もはや天性の当たり屋だ。

小さいから見えないのかもしれない。

「おっと、急がないと遅刻だぜ?」

 男子生徒はそう言うと早歩きで校舎へ向かっていた。

「…今のって加賀君じゃない?」

「加賀?」

「そう、校内きってのイケメンで生徒会副会長やってるらしーよ。あたしはよくわからないけどネ」

「へぇ…。」

 すぐに脳裏には「霊術師」の人間か…?と浮かぶ。

生徒会関係者はみんな自分と同じ力を持つ能力者なのだろう、と。



「はぁーっ?生徒会がみんな能力者ぁ?!」

「声がデカイ。護。隣は生徒会室だぞ」

 冷静に携帯ゲームをしながら話す琉嬉。

「あ、いいや…だって…。そんな素振りなかったと思うけど…?」

「そりゃそうだ。お前だって人知れず過ごしてたんだろ?」

「うーん…たしかに」

 部室。

琉嬉と護だけいる。

この日も放課後になり、部活動の最中……という事なのだが。

一年後輩のみゆと御琴の二人はまだ来ない。

ダラダラ二人でいるだけ。

なんだかんだで、結局琉嬉は学校で一番親しくいるのは護である。

コンコンとノックする音が聞こえてくる。

「どーぞー」

 琉嬉は返事。

「失礼しますよ~」

 突然部室に入ってきた人物。

「え?誰?」

 護が驚く。

入ってきた人物は学生でもなく、見覚えのある教師でもない。

動きやすそうなジャケットに、ちょっと暗めのベージュのチノパン。

メガネをかけた爽やかな青年…。

参堂耿助であった。


「どうも。こんにちは。参堂です。ふかしぎ部の顧問として来ました」

 と、ふかしぎ部の外部顧問としてなぜかやってきた。

その仕掛け人はもちろん…琉嬉である。

「顧問…って…嘘でしょ?」

「本当ですよ」

 にこにこ笑顔で返す。

相変わらず人当たりが良い人物だ。

「耿助さん、ども。もうちょっとしたら他の部員も来ると思いますよ」

「ええ」

「ちょ、ちょっと…琉嬉ちゃん?どういう事…?本気じゃん…てかこの人どういう人?」

「ああ、それはあいつらが来たら教えるよ」


 あれから数分後、残りの部員も到着して改めて耿助が自己紹介した。

顧問…として雇われたのは琉嬉の発案。

とはいえ、若くして神社の神主を勤めている。

決して暇ではなく、時間がある時は来れるようにしたいと発言。

大体週1~2くらいになるだろうという話だ。

「あのさ、琉嬉ちゃん。変な話…コレはどうなってるの?」

 護の怪しい指つき。

手の形はお金を表す形をしていた。

「基本はボランティアってコトで。ま、スポンサーのみゆがなんとかしてくれるでしょ。あ、あとね、やっぱ部費…出してくれるように頼んでおこうかな」

「……手回しの行動力すごいね…琉嬉ちゃん」

「あ、ちなみに耿助さんもね、五大家のひとつらしいよ」

「えー?!そうなのー!?」

 護が驚く。

「港咲さんのお嬢様…みゆさんでしたよね?覚えてらっしゃるかな?」

「あはは、なんとなく覚えてる気もしますね~。あ、みなさんコレ、どうぞ」

 みゆが大きな鞄の中から出した物。

大量のお菓子や、ジュース類などの飲み物。

ジュースはそれなりに冷えてるのでどこかで買ってきた物っぽい。

どうやらみゆと耿助は面識はなんとかあるらしい。

みゆが別に驚かない訳だ。

こんだけ近い地域に住んでいれば何かと接触点はあるだろう。

お互いに五大家として有名な家系なのだから。

琉嬉は逆に、本家とは外れているからあまり接触なかったという。

その割にはかなりの能力を持っているのだが。

「…ここに五大家の内の3つが揃ってるなんて…凄いね」

「そうなんですか?」

 御琴はよく分かってないらしい。

「いいでしょう。僕が分かってる範囲だけお教えします」


 数分間、あれこれ説明する。

御琴は黙って説明を聞く。

さすがは大人だけあって分かりやすい説明。

このままこの学校の教師にでもなってくれればいいのに。

部員達はそう思い始める。

五大家の話や、琉嬉と一緒に住んでる來魅の事を説明する。

詳しい事情を話す度に護はへぇー、うそぉ?と言った驚きを隠さずに声に出す。

護はある程度の事は知っているのだろう。

裏世界に生きている者ととして。

だがこう言った詳しい事情は知らないようだ。

途中から琉嬉も会話に加わる。

「んで、五大家とかは置いといて、この学校には僕らみたいな能力を持ってる人が他にもいます」

「…マジで?!」

「……お前いろいろ知ってそうで知らないんだな…」

 護に対して呆れる琉嬉。

話をそのまま続ける。

「隣…の生徒会。叉羅沙を含むメンバーがおそらく霊術師の人間だと思われる…んだけど」

「だけど?」

「だからどうしたって話なんだけどね」

「ありゃりゃ」

 ずっこけそうになる面々。

「はは、噂に聞くとそうらしいですねぇ。僕はこの学校の出身ではないのですが…。僕の親、つまり先代の宮司の話なんですけどね…」

 耿助が上手い具合に話題を繋げてくれる。

「鞍光…だけに限った事ではないんですけどね。怪事件が多いのは知ってますよね?」

「そりゃ、もう。だからうちらみたいな家系が存続してるんだし」

「そう。それも世界レベル…らしいですけどね。こんなに沢山の怪奇めいた事が起きるのが」

「世界も同じような人達がいるって事ですよね?」

「はい。いますよ。たまにテレビでもやってるでしょう?エクソシストとか」

「ああ…たしかに」

「ただ、この街一帯は大昔から不可思議な怪奇事件が多いです。なので僕達のような陰陽師などが集まって…過ごしてきた歴史があります」

「なるほど…」

「そしてこの鞍光はそれが頓着されて、結果僕らのような術者が集まってしまったようですね」

「なるほどなるほどー」

 思い当たるフシが琉嬉にはあった。

(そうか…だからウチの家系はこの地を離れなかったのか…。ウチだけじゃないな…みゆの所だって…耿助さんだって。

霊術師、退魔師としての需要がなくならないからなんだ…)

 納得言った顔をする。

「だから、その生徒会の人達もなんらかの家系でもおかしくありませんよ」

 耿助の言うとおりである。

「それにしても…この学校はおかしいくらい、もとい、面白いくらい霊がいますね。驚きました」

「あ、やっぱり?」

 普段から霊を見かける。

琉嬉達のような術者じゃなく、ちょっとした霊感がある者は大変なんだろうな…と思い始める。

それに御琴をいじめてた連中。

過激な行動に出たのは、取り憑かれてたからだ。

そんな辛そうな状況を改善するために、ふかしぎ部を作ったのだから。


 話はまだ続いていた。

「それとですね…。これは僕の推測なんですけど…」

「推測?」

 人差し指をピンと立てて小さい声で言う。

「五大家以外に…霊術師として有名な家系が他にも沢山あります。僕も全部把握しきれてませんけど」

「そ、そうなの…?みゆは知ってる?」

「え?う~ん……そんな事言われてもな~。だって、ホラ、所詮女子高生だしぃ。子供だしぃ。みたいな?」

「女子高生づらされても困るが…あんまり知らないんだな?」

「…いえーすいえーす。あ、でも五大家以外の有名なとこを総称でなんて言ったけな…」

「霊術会?」

 ポツリと護が「霊術会」と、声を漏らす。

「そう、日本霊術会にほんれいじゅつかいです。その中でも特に有名なのが霊術名家れいじゅつめいけ、ですね」

「あー、霊術会霊術会、それそれ~」

 完全に忘れてただろうというみゆ。

「あ、僕も聞いた事あるよ。」

 日本霊術会。

高名な者達や家系が集まって組織化された集まりの事である。

耿助が中指で眼鏡をクイッと上げながら説明を続ける。

「ええ。我々のような霊能力を持つ者が力を合わせるために出来た団体です。表向きは宗教団体のような物ですけどね。

あ、一応僕の参堂家も協力はしてるんですけどね」

 どこか怪しい笑顔。

琉嬉は思った。

多分、耿助さんは霊術会には参加してるけど……大きく力は貸してないな…と。

「トップの方が今確か…若い方だったと思います」

「へぇ…」

「本部が関東の方ですからね。あまり関わりがないですけど」

「にしても、護はよく知ってたね?」

「ちょっと昔ね…」

「…?そう」

 過去に何か霊術会と関わりがあったかのように匂わす。

琉嬉はそれに触れる事もなく話題を続けた。

「ええ…と、どこまで話したっけ、そうそう、霊術会名家ね」

「そう、名家の方々がこの学校にいてもおかしくありませんよ?なんせ…五大家とは違って数が多いですから」

 またもや眼鏡をクイッと動かす。

「いくつくらいあるんですか?」

「…力強い名家は10程…と、聞きましたから…術者が多いこの街にいてもおかしくありませんね」

「なるほど~」

「なるほど……って、お前、僕の事気づいてただろ?」

「いんや~、だって彼方って苗字…珍しいッスよ?もしかして~って思ってただけですよっ」

「…港咲の方が珍しいと思うけどな…漢字的にも」

「えへへ、そう?」

 随分と話がそれる。

みゆは話をかき乱すのが得意のようだ。

「霊術名家ねぇ……そもそも一般的に知られてる存在ではないでしょ?五大家もそうだけど」

「ええ、そうですね」

 そう。

基本的にはこうした世界で生きてる人間達は決して表沙汰には出てこない。

世間一般的には知られてはいない、裏の世界の住人だ。

五大家も表向きはお寺、神社、財閥富豪、などなど、決してテレビに出てるような有名人とかではない。

五大家以外の霊術会名家とやらもそうだ。

「…つまり、僕が言いたいのは、生徒会メンバーが名家出身者…なんじゃないか、ってコト」

「おお、なるほど」

 手をポンッと叩きながら納得するみゆ。

それに続く他の部員達。

護は綺麗な金髪の髪の毛を青いリボン?で束ねてる髪をくるくる指で遊びながらこう言う。

「……で、琉嬉ちゃんは仮に、生徒会の人達が霊術名家だとしてもどうするの?」

「どうするもこうも、ふかしぎ部に引き入れる!」

「………」

 みんな一斉に黙り込む。

「あの……本気ですか?」

「何を言うか御琴よ。その手の能力者を集めておけば後々楽だろ?」

 両手を腰に当てて、ふんぞり返る。

「何が楽なのか分からないけど…?」

 首を傾げ疑問に思う他の部員達。

「でも、まー、琉嬉ちゃんが頑張るんなら私も頑張るッス!」

「おう、さすが副部長よ!僕の意志を告げるのはみゆだな!」

 なぜかノリノリ。

「いやはや、面白い方々ですね。僕も同じ年代に生まれたかったですね」

「はぁ…」

 無理矢理のように入部されられた護は何が何だか。

琉嬉を退治屋の仕事として、狙った結果が今に至ってる。

少しだけ後悔した護だったのだ。



 こうして部活という名のダラダラした会話だけの部活が続く。

生徒会について話題をあげてる。

その生徒会は壁一枚の隣である。

生徒会室に聞こえてるのだろうか。

現在使用してる校舎は新しい校舎なのだそうだ。

15年程前まで、今は旧校舎と言われている、古いレンガ式きの壁が目立つ校舎だったそうだ。

その校舎が今でも現存している。

一部は新校舎と繋がっていて行ける部分もあるが、基本的には旧校舎は使用禁止になっているため入る事は出来ない。

旧校舎なら聞こえるかもしれないが…今の校舎は綺麗で壁も分厚い。

よっぽどの大きな声でないと聞こえないと思われる。

結局この日は何もする事もなく、またもや解散となる。

時刻は夕方の6時近く。

「あー、こんな時間か~、あたし先に帰るね~」

「おーう、仕事?」

「まぁねぇ~」

 足早に帰っていく護。

「あの…琉嬉先輩?仕事って何ですか?芹澤先輩はバイトでもしてるんですか?」

「バイト…ではないか。本業じゃない?」

「本業?」

「フフフ、神楽さん。僕等のような世界の住人には、副業だけではやっていけないんですよ…」

 なぜか遠い目の耿助。

「耿助さん…何か辛い事でもあったの…?」

 みゆが不思議そうにお菓子を頬張りながら耿助を見ていた。


 それぞれ帰る準備をして、それぞれ部室から出て行く。

「…さて、と。帰りますか…」

 琉嬉もガタッと椅子がずれる音を立てて立ち上がる。

耿助は部室に置いてある棚に何かのファイルを置く。

「耿助さん…それは?」

「ああ、別に特別な物でもありませんよ」

 そう言うとファイルの中に収めていた何枚かのプリントを琉嬉に渡す。

「…これは……」

「これまでの鞍光市の、怪奇事件と思われる資料です。とはいえ、僕の神社が関わったケースですけどね。これを参考にしてみてください」

「……よく見ると隣町の事とかありますね。これは…僕が転校する前にいた学校の街…」

「小さな案件ばっかりですけどね」

 いつものにこやか笑顔で言う。

「耿助さん、ありがとう。でもこんな危ない資料学校に置いといていいんですか?」

「いえいえ、かまいませんよ。出会えたのも縁。これからもお互いに楽しみましょう」

「…あはは、耿助さんっていい人ですね。こちらこそよろしく」

 あまり笑顔を見せない琉嬉の幼く可愛らしい笑顔。

本気で嬉しかったようだ。


 耿助の神社での事案。

それを事細かに記録してある資料のコピーのようだ。

耿助だけの所でも年に50件近くのふかしぎな事件を取り扱っていたようだ。

大体は人形供養、小さな町中の心霊物件、などなどのお祓い。

 琉嬉は一人残り耿助から譲り受けた資料を読んでいる。

日付、場所など細かく書いている。

起きた事案も詳細が書いている。

とはいえ、これは一般的に見られても大丈夫な資料のようである。

軽めの事案ばっかりだ。

ファイルの中には何も書いていない、真っ白な紙が数枚。

(もしかして…ミスった乱丁プリント…?な訳ないか)

 不思議に思い表と裏をペラペラめくったりしながらも確認する。

しかし両方とも何も書かれてない。

一枚を取り出して沈む夕日の方に向かって透かして照らして見てみる。

だけど何も浮き出てこない。

(……なるほど…ね。こういう事か)

 何かに琉嬉は気づいた。

真っ白な紙を机に置き、何かを念じるように目を瞑り、ブツブツ呟く。

紙の上に右手をかざして霊気を送り込んだ。

すると、紙に文字が浮き出てきた。

「んー、耿助さんったら、笑顔の裏ではこんな細工施してるんだから…」

 つまり、一定の霊力がある者でないと見れない代物だったようだ。

紙質も普通の紙とは違う材質なのが、手触りで分かる。

何かおかしいと思っていた。

「霊具……か」

 霊具。琉嬉が呟いた言葉。

つまり、霊媒師などが使用する道具の事である。

これがあれば能力者の力などを上げてお祓いなどをより簡潔に出来る。

それらの一種なのであろう。

読んでいくと一年の中で3、4回くらいの割合で大きめの事案が載っている。

そして最後の最近の日付の事案は…來魅のついての事が書かれていた。

「……ああ、そういう事か…。耿助さんもやらしいモノ作るもんだね」

「何がいやらしいって?」

 ビクッと琉嬉が突然の言葉に、小動物みたいに跳ねた。

「なっなっ……誰だっ?!」

 振り向くと朝の男子生徒が居た。

「よっ」

「……な、なんで勝手に入って来てるのさ…」

 ふと見ると生徒会室と繋がっているドアが開いていた。

こちらからは鍵が無いので開ける事が出来ない。

両側から鍵で施錠するタイプのドアなのだが、ふかしぎ部の方には鍵をもらっていない。

「いやいや、すまんね。つい出来心で。で、何?エロ本でも読んでたの?」

「……違うっ」

 イラっとする琉嬉。

その表情が外に現れていた。

「ごめんごめん。怒らないでくれよ」

「……じゃあなんで入ってきたの?」

「んー、面白い子が隣の部屋で部活を作ったていうから、気になってね…俺は加賀龍翔かが りゅうしょう

高二だから…彼方琉嬉ちゃん。君と同じだな。隣の生徒会で副会長やってる。よろしくな」

「……はぁ…」

 唐突に現れては自らの自己紹介。

顔は…自信に満ち溢れてそうな顔をしている。

生徒会…副会長という事は…叉羅沙同様おそらく何かの術者の一人…と思われる。

以前生徒会に叉羅沙と一緒に行った時には顔をみなかった。

「あの、何か用?」

「用って言われても……特にないんだけど」

「じゃ、帰って。僕もそろそろ帰るんで」

「…つれないなぁ」

「ナンパでもしてるつもりなの?」

「あらら、そう見える?」

 どこかチャラチャラしたようにも見える態度。

女の琉嬉にとっては男のこういう態度にはどうしても、そう見える。

半分女としての行動は捨てているのだが。

(………なんだろ、この男子……違和感が)

 琉嬉にはこの加賀と名乗った生徒に対して違和感を持った。

夕刻の日が落ちそうな眩しい日差し。

その日差しが影をより一層強く見せている。

加賀の影がなぜか二重に見えた。

(………??…影が…?)

「どうかしたか?」

 影から加賀の顔へ目線を戻す。

「……加賀副会長は…、もしかして叉羅沙と同じ術者?」

「ストレートだねぇ。君も。ま、どっちにしろすぐ分かる事だろうし」

 まるで聞かれる質問を分かってたかのように、スゥッ…とポケットの中から何かを取り出す。

一枚の御札。

「何を隠そう、俺は陰陽師の末裔でね…」

 御札がポッと小さく光り輝く。

「………はぁ。で…何で僕の所に?」

「ん?君が噂の彼方琉嬉ちゃんって事で…気になってさ」

「なるほど……加賀副会長もそういう手ですか」

「ふむ、話が分かりやすくて頼もしいね」

 琉嬉はその場から、窓側の方へ飛び移る。

おもむろに窓の鍵を開けて…

「ここは二階だぜ?飛び降りつつもりかい?」

「そのつもり~」

 そのまま飛び降りた。

「…やれやれ。遊希!(ゆき)」

「はい」

 どこからか現れたのか。

和服の着物を着た女性が琉嬉を追いかけるように窓から降りていった。

空中浮遊して。



「はー、何度校舎裏でやり合えばいいんだろうね」

 とりあえず適当に走って向かった先。

校舎裏の駐車場付近。

こちらの駐車場は普段あまり車が停まってない。

なので人通りも多くないのだ。

「追って来ましたか」

 お得意の複数御札を取り出して、構える。

が、特に気配はない。

大きな霊気も今のところ感じない。

いや、感じさせない程に抑えてるのかもしれない。

「…面倒なこった」

 何もない所めがけて、御札を飛ばす。

すると何かに当たった音がする。

よく見ると、黒い糸の塊のようだった。

それがゲームやアニメなどでよく見る触手のように動いてた。

「な、なんだ…あれ?」

 見慣れない光景にびっくりする。

前にみゆと戦った悪霊のとはまた違う。

「……これひとつだけじゃないよね?」

 琉嬉はその場に留まる事なく素早く動き出す。

案の定、糸の塊のようなものが他にも3つ4つと出てき襲いかかってくる。

走りながらも観察を続ける。

「あれって……もしかして…」

 逃げてるつもりが、糸の方が早い。

あっという間に追いつかれてしまう。

そして…、琉嬉の左足が糸に捕まる。

「わわっ」

 そして力任せに上へ引っ張り上げられてしまう。

スカートが派手にめくりあがってしまう。

「くっそー、降ろせばかやろー」

 さすがに恥ずかしい格好に赤面してしまうのが自分でも分かる。

「これは…あの人の力じゃないな…妖怪か…。てかこれって…髪の毛じゃんか!」

 右足に絡まってる糸をよく見ると、黒い綺麗な髪の毛だ。

綺麗と言ってもこんだけ長くて人を持ち上げるような力があるとさすがに、気持ち悪い。

「あらまあ、凄い格好だな」

 ゆっくり現れたのは加賀だった。

冷静にじっくりと琉嬉のあられもない姿を見ている。

「んなっ、こらこっち見るな!」

「はは、琉嬉ちゃんは白か」

「セクハラだこのやろー!」

 空中に放った御札が、足に絡まってる髪の毛らしき糸を断ち切る。

切れ味も鋭いようだ。

髪の毛を断ち切った後、琉嬉は落ちるが見事なバランス力で猫のようにスタッと綺麗に着地する。

「まいったね…あんた、妖怪使役タイプ?」

「ほほう、バレてたのか?」

「いや、今適当に当てずっぽうで言っただけ」

「……ははははっ、こりゃ一本取られた!琉嬉ちゃん…策士だな」

 妖怪使役。

使役と言っても、妖怪だけじゃなく、動物、式神など。

いろいろなタイプがある。

琉嬉は相手、加賀が妖怪使役している陰陽師なのだろうと思い、適当に言った。

それが結果加賀が認めた形になったのだが。

「何?力試し?」

「そう思ったんだけどな…。叉羅沙が言うのも納得するぜ。さすがは「來魅」を倒した五大家のひとつの彼方家…ってところかな」

「………知ってんじゃん。もしかして來魅倒したのって有名?」

「そりゃもう。有名中の有名。多分世界中に知れ渡ってるんじゃないか?」

「へへ、そりゃ面倒そうだね」

 そう言いながらもさらに複数の御札を取り出す。

「面倒だから一気にいかせてもらいます」

「望むところだぜ」


 先に先手をうったのは琉嬉の方だった。

得意の御札攻撃を仕掛ける。

それはもう躊躇のない攻撃だった。

護から始まり叉羅沙に至り、そして今副会長の加賀。

この学校の生徒は、何かおかしい。

自分と同じようなクラスの霊術者がいるからだ。

油断もへったくれもない。

ともかく、部員に引き入れようと思い、出来うる限りの全力で叩く事にした。

「やるねっ!」

 加賀の方は攻撃を素手で弾いていく。

護とは違い、武器状の物は持っていない。

肉弾戦なのか?

というか、素手で弾けるものなのか。

(うーん、微量の霊気を腕に集めてるのか…悠飛みたいだな)

 時折、髪の毛が加賀を守るように御札を弾き飛ばす。

「…実質二対一か…ズルいよ!副会長さん」

「いやいや、來魅を倒した程だろ?それぐらいハンデくれないか?」

「男のくせにセコイ!」

「はは、そうかもな」

 尚も攻防が続く。


 いつの間にか、來魅と戦ってたような森奥に来てしまった。

ただ今回はその場所とはかなり違う場所ではないが。

たしかにあのまま学校の敷地内だとまずい。

心の中のどこかで意識してのか、知らず知らずに森奥まで来てたようだ。

しびれを切らして蹴りなどを放ってたが、受け止められてしまった。

体術では敵う相手ではない。

どうも体術だけでは戦えない相手が多い。

「ふむ…。ならば」

「逃げてばっかりではないだめじゃないかー」

 加賀がさっきと同じようにゆっくりとやってくる。

(出来れば…あの力は使いたくない…から、こうするか)

「さて、観念してくれたかな?」

「残念。僕は負けず嫌いでね」

 すると、琉嬉は加賀に向かってダッシュしてきた。

体術は敵わないはずの琉嬉が特攻を仕掛けた。

(…どういうつもりだ?)

 やけくそとも思える琉嬉の行動。

何かあると思い加賀は避ける動作に移る。

「と、思った?」

「!?」

 ズザザッと大きな音を立てて、突然琉嬉が走るのをやめて目の前で止まる。

ピカッと加賀の足元が光った。

「なんだ?」

 加賀の影が一つから二つに分かれる。

すると、どうだ。

ギュンッともう一つの影が宙に舞うように浮き上がる。

「くっ……この小娘…!」

 影が喋る。

影をよく見ると、一枚の御札が張り付いてた。

「遊希…!」 

 影の形から先程の遊希と呼ばれた着物を着た女性に変化する。

御札の力で動きを止められたようだ。

「いつの間に…?」

「チェックメイト~ってトコかな?」

「うっ…」

 加賀の顎元に御札を突きつける。

わずかな一瞬で間合いをさらに詰めていた。

「はは、参ったよ。強いなぁ、琉嬉ちゃん」

「それはよかった」



「えー、じゃあ加賀君もふかしぎ部に…どう?」

「……おいおい、それが敗者への第一声かい?」

「加賀ってなんか聞いた事あるなあと思ったら、この辺の有名な加賀家かぁ…。ほんと、本家じゃないからそういった情報あまり入って来ないよ」

「本家?琉嬉ちゃん本家じゃないのか?」

「血筋は直系だけどね。でもうちは本家側じゃないんだよね」

 すっかりトークモードになっていた。

「…叉羅沙もそうだけど、本気出してないだろ?」

「……本気出したら琉嬉ちゃんも本気出すだろ?」

「まぁねぇ」

「龍翔様…」

 先ほどの着物の女性が加賀に寄り添っている。

よく見ると額にはなんかの紋章が入ってる。

髪が黒髪で長い。

肌は薄いピンクかかったのような、桃白い肌。

妖怪だというのが一目で見て分かる。

それ以外は人間とはなんら変わらない、和風美人だ。

むしろこう言った方が分かりやすい。

典型的に思い浮かべる女幽霊…みたいだ、と。

「…このべっぴんさんは…妖怪?」

「貴様!龍翔様に何をするっ!」

「おおぅ…怖い怖い…」

「まぁまぁ、遊希…俺は直接攻撃食らってないんだし…大丈夫だよ」

「はい…」

「……(何このベタベタの二人…?)」

 なんか、ツッコむ気も失せる。

どういう関係で主従関係のような状態なのかは不明だが、遊希と呼ばれる女妖怪は龍翔にベッタリだ。

男女間のような風景に見えて、目を背けたくなる。

「はいはい。ラブラブですね」

 以前悠飛に言われた言葉をそのままそっくりに言い捨てる。

「しかし…よく遊希の動きを捉えたな…。さすがというか」

「部室にいた時……影が二重に見えたからね。もしかしたら…って思って、影に攻撃した訳」

「……ふぅ~。見破られてたか」

「龍翔様…申し訳ありません」

「それはそうとしても、どうやって動きを捉えたんだい?」

「……こういう事」

 琉嬉は複数の御札を空中でコントロールする。

一枚や二枚じゃない。

数は10枚以上飛んでいる。

「そんなに一辺に操れるのか…さすが彼方家」

「そう言い方は僕は嫌いだなぁ~。本家じゃないし」

「それはすまん」

 このコントロールした御札を加賀や遊希に気づかれないように一枚だけ、待機させて置いて遠くから攻撃をしたらしい。

琉嬉自身が突撃して攻撃しようと見せかけたのは自分自身を陽動として動いたからだ。

その一瞬の構えた隙をついて、まずは遊希の動きを止めるべく攻撃をした。

そうすれば龍翔の行動力を半減出来ると読んでの判断だ。


「……質問を二つほどするけど…いい?」

「答えれる範囲ならいいぜ」

 こんな状況ながらも、冷静にいる加賀。

結構こういう修羅場みたいなのを潜ってきてるのだろうか?

「生徒会メンバーが全員霊術師系の人達?」

「…全員じゃあ、ないけどな。まあ、みんななんらかの術者なのは間違いないと思うぜ。まあ、みんな生徒会なのは「たまたま」だ」

「たまたま?」

 制服についた土を払いながら話を続ける。

「偶然って事さ」

「じゃあ、もうひとつの質問。加賀君は…僕をなんで狙ったの?」

「んー、可愛いから?」

「……ふざけたら次は本気でぶっ飛ばすよ?」

「いやいやいや、それはまあ、冗談として、試したかったのさ。あの五大家の人間なのかな?って」

「………それなら納得いく」

「詳しくは会長にでも聞くといいさ。今日は悪かったな」

「………会長って、あのほんわかした女子生徒?」

「ああ。俺らは所詮偶然集まっただけの存在だしな。そんなもんだ」

「へぇ…」

 どうも納得がいかない。

琉嬉の顔が不機嫌な表情に変わる。

元々不機嫌そうな顔をいつもしてるのだが。

「偶然」とか「たまたま」とか、意図的に集まった訳ではないような言い方。

そこがなんか気にくわないようだ。

陽がかなり沈み始めている。

スマホを取り出し時間を確認する。

「…7時かぁ……。そろそろ帰るかな」

 何事もなかったかのように帰ろうとする琉嬉。

しかしある事に気づいた。

「あ、部室の鍵閉めてないし窓も閉めてないや。まったく…誰かさんのせいで面倒な事になったじゃん」

「それは本当にすまなかった」

「すみませんで解決出来たら警察はいらないんだよ」

「はは、面白いな琉嬉ちゃん(可愛い…)」

「龍翔様…顔がにやけてますよ。もしかして…」

「違うぜ。そんな訳ねえだろ。俺らも戻ろう」



 部室と生徒会室は隣同士だが、二組みは結局同時には帰らなかった。

琉嬉が先に戻った形だ。

誰もいない部室に窓だけ開いている。

琉嬉が飛び降りたからだ。

加賀もこっから飛び降りたのかは分からない。

だが誰もあれから入ってきた様子はなさそうだ。

中途半端だったファイルもそのまま。

「あーあ…。勝手に入ってくるんだもんな…。そうだなぁ。こっちも別の鍵用意しようかな」

 生徒会室と分け隔ててるのはひとつの戸。

こっちからは勝手に入れないのにあっちからは入れる状態。

ためしに琉嬉は戸を開けてみようとした。

しかし開かない。

「ですよねー」

 ある意見に到達した。

(……生徒会長に文句言ってやろう。鍵管理しっかりしろと)

 一応の用事が出来たのだった。




「妖怪とはいえ、女連れだよ?そんな状況で僕をまるでナンパするように話しかけてきてさ…ムカつくよね」

「色恋沙汰なヤツは好かんと?」

「…そりゃ目の前でイチャイチャされたらムカつくだろ?」

「ははは、お前様も男が恋しい年頃か」

「そんなんじゃないっ!」

 相変わらずの彼方家。

自室では來魅がパソコンをいじりながら会話する。

今日一日あった事を琉嬉が來魅に対して愚痴ってたようだ。

「でも分かったコトがひとつ」

「分かったこと?」

「生徒会は僕の事を目の敵にしてる。彼方家だからって力試しをしてくる…。本家じゃないのにね」

「ふむ。せいとかいとやらが何だかわからんが、琉嬉に敵対してるという訳か」

 生徒会の意味が分かってなさそうだが、琉嬉と生徒会が敵対してるようだという事は理解してくれているようだ。

今になって、來魅の言った言葉が身に染みてくる。


「――だがこれから大変だぞ。その力を狙う者が出てくるかもしれん」


 來魅が放った言葉。

元々來魅と会うまでは、そこそこ名が通っていた。

だが最強とも言われる妖怪來魅を倒した(というより、力を封じただけ)事により、一層知名度が上がったに違いない。

それをどういう訳か生徒会の人間達が知り得ていた。

知り得ていたうえで、戦いを挑まれた。

しつこいようだが、叉羅沙の場合は琉嬉から仕掛けた訳だ。

「真霊気……の事も知ってるのかな?」

 珍しく不安気に言う。

「無闇やたらに使う技ではないのだろう?ならば知れ渡ってるとは思えんけどな」

「そうだといいけどね…。全力で使ったのは來魅と護と……中学の頃に一回だけ使ったかな。大した強くもない悪霊相手に」

「ほぅ。それでその悪霊はどうなった?」

「………跡形もなく消し飛んだ。その反動で僕もぶっ倒れた。力の加減も分からなくて三日間くらい寝込んだけど」

「ひえ~。さすがだな。私を倒しただけある超必殺技だな」

「……超必殺技って…。お前にもその時と変わらないくらいの放ったハズなんだけどね…。霊力以外は体は大きな傷なかったじゃん」

「はっはっは。人間とは鍛え方が違うのだよ鍛え方が」

 変な言い回し。

どうせネットで見たんだろう、と琉嬉は思った。

「さぁて……勉強でもするかな」

「勉強?珍しいな。いつもげーむばっかりしてるくせに」

「テストが近いんだよテストが!ほら、來魅は自分の部屋に戻る。パソコン貸してあげるから」

「おおぅ…そうか」

 ノートパソコンを來魅に預け、部屋から追い出すような形で退出させる。

バタンッとドアを心なしかいつもより強い音で閉める。

「ふむ…てすとな?てすとはなんぞや?おお、こういう時のためにネットがあるではないか」

 早速自室に行き、ネットで調べるのだった。

最強妖怪からIT妖怪へ――。

來魅は何処へ向かうのだろうか。




 あと一週間でテスト。

学校には付き物である。

このテストの結果でその後の展開の善し悪しが決まると言っても過言でもない。

全校全クラス、同じタイミングでテストだ。

琉嬉は成績は良い方だ。

大体、中の上といったところ。

学校中がなんとなくピリピリしてるのが分かる。

この雰囲気は転校する前の学校でも同じだ。

 授業が終わり、テスト期間のため大概の部活は短めに切り上げたり休止したりする。

だが…ふかしぎ部は休む事なんぞなかった。

それどころかきちんと集まっていた。

まだ部員がたった4名だけだが、全員いた。

「あと一週間でテストですよ~?みなさん。集まってて大丈夫なんですか?」

「心配ないって~、みこっちゃんー。だって、ここで勉強すればいいんだよ!」

 心配そうな御琴を尻目にまたもやお菓子を出す。

出したのは高級そうなチョコレート。

さすがは、いいとこのお嬢様。

出すお菓子も普通の学生には買えないような物を平然と持ってくる。

「いっただき~」

 一番最初に手を出したのは護だった。

「あんまり食べると太るよ」

「太りませんよーだ」

 子供みたいな言い合い。

琉嬉は鞄から何かを取り出す。

出てきたのは携帯ゲーム機…ではなく、教科書やノートだ。

「今日からテストまでの期間は、ふかしぎ部の活動はみんなで勉強会として活動しまーす」

 琉嬉らしかぬ言葉。

「琉嬉ちゃんったら、珍しいね。ゲームしないで教科書と睨めっこしてる」

「…お前もちゃんと勉強しないとまた留年するぞ」

「それは困る」

 そう言われると無言で鞄の中から勉強道具を取り出す。

護の鞄はよくある、女子高生が使ってるようなお決まりの鞄ではなく、緑色の大学生などがよく使ってそうなリュックサックタイプだ。

見た目はギャルみたいな風貌なのに、身に付けるファッションはどこか他の女の子と違う。

私服もスカートやホットパンツみたいな露出が多いような姿を見た事がない。

丈の長いズボンタイプが多い。

どこか、ミリタリーチックな色合いの。

それ以前に私服姿をそう何回も見てる訳ではないのだが。

「護先輩って…留年してるんですか~?」

「あ、言っとくけどバカで留年してるんじゃないよ!お金がなくって休学してただけだよ!バカじゃないんだぞ~」

 そういう発言がバカっぽく聞こえるのだ。

と、言いかけたが、今は勉強中。

琉嬉は黙々と進める。

学年が一緒の護と時には出題範囲の話をしたりしている。

みゆと御琴は同じ学年同じクラスなので捗りが早い。


 一時間ぐらい経った頃。

ガタンッと物音がする。

琉嬉が立ち上がった音だった。

立ち上がっても他の部員達の座高とそこまで変わらない。

「どったの?琉嬉ちゃん?」

「あーそうそう、この大変な時期になんだけどさ。昨日加賀とやら副会長さんと戦いました」

「え…?」

 唖然とする他の3人。

「まじで?」

「ほへ~、琉嬉ちゃん、やりすぎッス」

「で、どうなったの?」

「勿論、僕の勝ちさ」

「さすが~」

「勝ったとかなんか物騒な話ですね…」

 男の御琴が女子らしかぬ会話に引く。

「加賀家……は名家のひとつだろうね。なんか聞いた事あるもん」

「あー、やっぱり~?」

 みゆも知った風に言う。

「君らやっぱ知ってるじゃんか…」

 護はやれやれと呆れる。

「さて、ちょっとトイレ行ってくるかな」

「いっといれー」

「こら、みゆ、くだらない」

 軽くみゆの頭にチョップツッコミして出て行く。



「さぁて……、と」

 部室を出て行った琉嬉が取った行動は…というと。

トイレ行くふりして隣の生徒会室へ向かった。

コンコンと軽くノックする。

「どうぞー」

「失礼しますよ、と」

 中に入ると生徒会長のまどかと叉羅沙が居た。

「何か御用ですか?」

「御用も何も、お宅の副会長さんが勝手に入ってきたんですけどね」

「あら、それは失礼しました」

「別にそこまで怒ってないんだけどさ、ただそちらから勝手に入れるような状況は困るんで、鍵の管理を強化して頂きたい」

 ビシッと決める。

「なるほどー」

「鍵の権利をこちらにも寄越して欲しい」

 さらにビシッと決める。

「…どうするん?まどか」

「どうするったって……どうしましょうかね?」

 首を傾げ、困った顔をする。

「てゆーことなんで、先生にもご協力頂いたので、よろしく」

 琉嬉の手につまんでプラプラしてる物。

生徒会室と部室を隔ててるドアの鍵だ。

「いつの間に…」

 手回しの速さは琉嬉の得意技だ。

「この鍵だけは部長の僕と……会長さん。あんただけが管理してもらっていいかな?」

「はぁ…そういう事であれば…」

「あと、もうひとつだけ」

「はい?」

「あの加賀っていう言っといて。セクハラはお断りって。あいつ…僕のスカートの中見やがって…。用件はこれだけ、じゃ」

 左手でサヨナラの手振りをして出て行く。


「……なんやろか……、このままでオッケーなん?」

「………そうですねぇ」

 ゆっくりと後を向き、窓の外の風景を一瞬眺める。

まどかはそのまま椅子に座る。

(……はぁ、内心穏やかじゃなさそうやなあ)

 叉羅沙の方へ一切顔を向けないまま、三つ編みにした髪をいじりながら資料を見ている。

生徒会のいろいろな資料のプリントだ。

来月の頭にある体育祭についての資料だ。

生徒会はそれに向けて徐々に忙しくなりつつある。

「面白いですねぇ、本当に。うふふ」

(あー、うちのリーダー…少し機嫌悪いみたい…)

 叉羅沙はそう思ってるが、肝心の本人は表情はいつも変わらずにこやかにしている。

「…荒れそうやね」

 そう、呟いてしまった。




「おーう、琉嬉~」

「來魅?どうしてこんな所に」

 帰宅途中、駅から出た辺りで來魅とバッタリ出会った。

手には小さめの白い袋。

食べ物だろうか?

二つくらいのパックが入ってるのが分かるが、何が入ってるかまでは見えない。

「何?それ」

「おう、これか?これはそこの揚げ物屋の揚げたて唐揚げだ。これがうまいと評判でな、導から聞いたのだ」

「父さんが…?引っ越して間もないのにもうそんな情報をねぇ。てか普通そういうのは主婦の母さんが仕入れるような情報じゃない?」

「ああ見えてこみゅにけーしょんとやらがいいのだろう。ほら、なんか本を作る仕事とかしてるのだろ?」

「あー、そういえばそうだったけ…。フリーライターやってるし…場合によれば霊媒の仕事も裏でしてるし…」

 フリーで雑誌編集などの記事作成などしている傍ら、裏では彼方家らしく退魔師としての仕事もたまにやってるようだ。

「ふむ。まあ、これが今日の夕飯のメインだぞ」

「…もしかしてお使い…?」

「タダで飯食うのも悪いからな。最低限の事をさせてもらっておるぞ」

「………あんた本当に大妖怪なのか…」


 駅から歩いて10分以内。

新しい新居は住宅街にある。

本当は自転車で駅まで行くか、そのまま自転車で登校すればいい。

いや、自転車だと30分以上かかる距離だ。

電車だと15分足らずで着く。

自転車で通ってる生徒も沢山いる。

琉嬉はただ、無駄な体力を使いたくないという理由で電車で行ってる。

隣を歩いている來魅を見るとなんか楽しそうな表情をしている。

見た目は本当にその辺の10歳くらいの女の子にしか見えない。

まるで妹のようでもあり姉のようでもあり。

こんな事言うと悠飛に怒られそうと思い、考えるのを途中からやめた。

「ふぅむ……見えるってのは厄介だね」

「見える?何がだ?」

 二人が歩いてる途中、少し開けて川が流れてる所。

そこの橋を渡ろうとした時。

琉嬉が立ち止まる。

「なーるほど…そういう話か」

 來魅が納得したような言い方をする。

二人の目の前には人とは思えない妖怪が居た。

背丈は2mを超えてそうだ。

闘牛のような、角を持つ牛のような顔をしている。

おそらく他の人間には見えてない。

妖怪は他の人間の目には見えないように、意識をずらす力を持つ者もいる。

そうやって人目を忍んで活動をしているのだ。

「なんか用?」

「お前…オレの事が見えるようだな。お前が彼方琉嬉か…」

「知ってるようで何より。僕も有名になったもんだ」

「だな」

 來魅が続けるように相槌をうつ。

「さぁ、その來魅を倒した力とやらを…よこセ」

「はいぃ?」

 耳を疑う台詞。

「もしかして…真霊気?」

「そうダ」

「噂が広がるのはなんとやらだな」

「……はぁー」

 大きくため息をつく。

琉嬉は呆れたように、歩き出す。

「はいはい、僕はテスト期間で忙しいんだ。別の日に来てよ」

「そうはいかン」

「なんだよ~面倒だな」

「良い良い、琉嬉。これを持って先に帰ってくれないか」

「…え?」

「言っただろ。お前様を助けてやる」

「………大丈夫…だよな。お前なら」

「任せろ」

 琉嬉は走ってその場から逃げるように去る。

「待テ!」

「待つのはお主の方だな。最近腕がなまってたのだ。楽しませてくれよ?」

「…なんダ小娘…?」

「その真霊気に倒された來魅だぞ」

 普段は封じられた來魅の力。

一時的にだけ、全力を出せるようになってる。

その一時的な力を、久々に出した。

「貴様ハ…?!」



 結局あの後、琉嬉が帰ってから5分程度で來魅は戻ってきた。

何事もなかったかのように。

琉嬉が見た感じ、あの妖怪はなかなかの上物だったはずだ。

それを5分もかからず、倒したという事なのだろう。

改めてゾッとする。

「……來魅の言った言葉が分かった気がするよ。早速現れるんだもんな」

「そうだろ?私に任せておくといい」

「あー……そうだなぁ…ある程度は頼もうかな」

「うむ」

「でも学校では無理だよなぁ…。さすがにあんな術者が沢山いる所には押しかけないだろ」

「ほほう、そんなに術者がいるのか。楽しそうだな」

「楽しくありません」

 二人にしか分からないような会話をしながら食事をする。

「なんかあったの?あの二人?」

「さあ、でもいい事はあったんじゃないかな?」

 疑問に思う悠飛。

急激に仲が良くなったようにも見える。

「なんていうか……あれは明らかに、僕を狙ってるのかな~って、思う」

「ほう」

 加賀が琉嬉の事を可愛いと、面向かって言われたのをちょっと思い出す。

男からまじまじと言われるのはあまりないから、ちょっと恥ずかしくなる。

逆に女からも言われる事も多いので慣れてたのは思っていたのだけど。

「力を試したい…って言ってたな…。なんで今になってこんなに…」

 じ~っと、普段からのジト目の目をさらにジト目で來魅の方を見る。

「な、なんだ…私のせいか?私は私なりに謝罪の意味を込めて、お前様を守ってやるって言ってるだろ」

「それは確かにありがたいけど……はぁ」

 小さくため息をつく。

しかし右手で持ってる箸は唐揚げをしっかり掴んで口へ動かしていた。

妖怪であればあしらえばそれはそれでいい。

しかしそれが人間相手となるとそうもいかない。

なかなか難しい問題に直面してきたのだ。

テストも近いのに。


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