#7 怪しい長身京美人
GWも終った。
久々の登校となる。
あれから新居の方も霊が出現しなくなり、落ち着きを取り戻した。
そして正式のふかしぎ解決部の発足が決まったのだ。
部長は勿論発足人の琉嬉。
他の部員は、護。みゆ、御琴の4名。
早速記念すべき部活動第一回目が行われようとしていた、が。
やりにくい生徒会室の隣だった。
「なんか落ち着かないね~」
と言うのは護。
それもそうだ。
成り行き任せで部室を確保したが、隣が生徒会というなんともふかしぎな状況。
まさにふかしぎ部に相応しい状況ではあるが。
「そうですね。で、何をするんですか?琉嬉先輩…」
「んー、まだ決めてない」
「そんな事だろうと思ったよ」
「うるせー」
と、漫才のようなやり取りの琉嬉と護。
「おっす。琉嬉たーん」
「…なんだみゆか。たんはよせ、たんは…」
「えへへー」
底なし元気お嬢様、港咲みゆ。
遅れてやって来た。
「お前なぁ…一応僕の方が先輩なんだぞ…」
「細かいコトは気にしなーい。だって同じ五大家じゃないですか~」
「気にしろよ…」
最近の学校は特にこれといった強力な霊はいない。
害のないのが一日に1、2体くらいしか見かけない。
これならば幾分普通の学校と変わらないレベルだ。
「んーとね、別に活動は学校内だけじゃなくってもいいと、僕は判断したよ」
「は?どゆこと?」
「護は考えが足りないなぁ。ようするに学校以外の所でもふかしぎ事件を追う。それがふかしぎ部の活動目録だ!」
どーん、と貼りだしたのは活動目的を記した手作りの活動目的…みたいなもの。
1・学校のふかしぎ事件を解決する
2・学校外のふかしぎ事件も取り扱う
3・活動は毎日
4・何もない日は解散
5・部員勧誘も決行せよ
などと、書かれてた。
「ねえ、何もない日は解散って…」
すかさずツッコミを入れたのは護だった。
「それは僕がゲームをしたいからさ」
「ほうほう…なるほど~。琉嬉ちゃんらしいね」
腕を組みながら頷いて納得するみゆ。
その反面嫌そうな顔している護。
「あの…部員探しって…入れる条件はあるんですか?」
「それは僕が面接します」
「はぁ…」
「琉嬉ちゃんがやるとなると…条件厳しそうだねぇ。だって最低でもお祓い出来ないと無理じゃないですか~」
「みゆよ、ごもっともだ」
珍しく護とみゆの意見が合う。
「とゆーこ、と、で。記念すべき第一回は作戦会議を行います」
「さ、作戦?」
突拍子もない事を言い出す。
一体なんの作戦なのか。
他の面々はぽかんとしている。
「あ、あのさ、琉嬉ちゃん…琉嬉ちゃんは何かあるんですか?」
おそるおそる聞く。
「いや、別に。他のみんなの意見がなんかあればなと」
「……こっちも特にないんだけどなあ…」
いきなり行き詰まった。
こうして一時間程経つがろくな話題が出ないどころか、昨日見たテレビの話や、琉嬉が引っ越した先の出来事などの話題が出る。
これといった活動するような内容の話題は出てこなかったのだ。
「今日は解散!」
「…駄弁ってただけだね…」
「うっさい!活動はなくてもこうして毎回みんなと集まる事が必要なんだよっ」
「へぇへぇ…」
案の定何もなく終わってしまったようだ。
ぷんすか怒ってるようにも見えるが、どこか楽しそうに見える。
「ま、こういうのもアリだよね」
両手を頭の後ろに重ねて言う護。
「帰宅部やってるよりは、青春出来るかな?」
「青春…いい響きだねっ。ね?みこっちゃん?」
「僕にそれ振るのぉ?」
なんだかんだでにぎやかだ。
「ああ、そうだ。みゆは副部長でスポンサー。御琴は事務係」
「えー?私が副部長~?いいんですか?」
思いがけない役職を言い渡され驚く。
「僕は事務係って…何をするんですか…?」
ワケがわからない。
活動が曖昧な部活に何をする必要性があるのか。
そもそも事務係とは何なのか。
「んーとね、あれだ。会計とか?いろいろ。あ、部活経費は港咲家からって事で」
「………」
さすがにみゆの顔が少し引きつってた。
だが無言なのはある程度了承してるのだろう。
「ちょ、ちょっと、琉嬉ちゃん。あたしはー?」
「……お前は切り込み隊長」
「な、何それ…」
「じゃあ、ふかしぎ部のエース」
「それ役職じゃなくって肩書きじゃん!」
「えー、じゃあ平部員」
「…ひど…」
結局護はふかしぎ部エースという意味不明な立ち位置をもらった。
第一回ふかしぎ部会議を終え、ともかく帰ろうとする琉嬉達。
教室を出た瞬間。
ドンッと、こてっと誰かにぶつかってこける琉嬉。
「あらら~、かんにんなぁ」
「った~い…」
「ありゃ。よくぶつかるね琉嬉ちゃん。小さいから見えないんだな」
「うるさいっ」
ぶつかった相手は女子生徒。
しかも関西弁っぽい。
そしてみんながそろって顔を見上げた。
全員より背がはるかに高い。
一番背の高い護よりも頭一個分以上、高い。
「ほんまかんにんしておくれやす。大丈夫?」
「うん…」
そっと手を出す女子生徒。
その手につかまり立ち上がる琉嬉。
その差は歴然。
琉嬉が立ち上がるがまるで背の高さが違う。
大人と子供みたいに。
「うはっ、おっきいね~」
「…ほんとだ」
「はは、よう言われます」
これまた美人。
かわいいというより美人系。
細目の切れ長な印象の目。
キツネ目とも言うのだろうか。
常に笑顔のようなにこやかな目だ。
鼻筋もスッとしていて整っている。
ただでさえ大きい背が高く見えるような、二本のポニーテールを作った長い髪。
凄く目立つ。
「…京都?」
琉嬉が聞いてみる。
「おお、そうどす」
特徴的な言葉使い。
まあすぐわかるもんである。
「でも住んでたのは子供頃やからなぁ。大体標準語に近いと思うんけどなあ」
「よくわかんないけど標準語とは程遠いイントネーションと言葉ではあると思うよ」
「はははっ、ほんまやなあ」
そう言いながら笑い出す長身の少女。
大体180以上あるのだろうか。
平均的男子よりも大きい。
「ねえねえココで会ったがツキ、お名前聞いていいかな?」
みゆが早速興味津々に聞き出す。
「ウチの名前?」
「うんうん」
「城樹叉羅沙いいます。ちなみに二年生おす。よろしく~」
城樹叉羅沙。
二年生。琉嬉と護の同学年。
「うは~琉嬉たんと同い年だー」
「…こうも同じ年でも違いが出るもんだな……」
二人は琉嬉と叉羅沙を見比べる。
なんとなくやりきれない気持ちでになった。
長身少女、叉羅沙と別れて帰宅途中だった。
琉嬉は真っ直ぐ帰らず、寄り道していた。
行き先はもちろんゲームショップ。
行きつけの中古屋巡り。
週1にはかかさず巡っている。
チェックは欠かさないのである。
なんだかんだで護とみゆはくっついて来てる。
御琴は家の家事があるとかなんとか、で先に帰った。
いつのまにやら相当仲が良くなっていた。
平日午後5時近く。
何気ない街中の風景。
これからどんどん日が長くなる季節だ。
まだまだ空は明るい。
「おぉーぅ。琉嬉たんはこういう所を行くんだぁ」
「お嬢様には縁ない所でしょ?」
「んー。たしかにー。あんまり来ないよねぇ~」
アホっぽく見えてもいい家柄のお嬢様。
所詮庶民とは違うのだろうか。
「うわ、懐かしっ!このゲーム機昔持ってたよ!」
手に取ったのは20年近く前に発売されたげーむ機。
護が早速反応を示す。
「今でも残ってるもんなんだね~」
「…このお店はかなり穴場。僕のオススメスポット。遠いけどこっちの街に来る前からよく来てた」
「ふへ~」
そこはかなりマニアック志向の個人経営店。
琉嬉もうなずく場所なのだそうだ。
「…これって何?あたし等が生まれる前のとかじゃない?」
「そだね」
「そだね、て…。どこまでレトロゲーマーなんだアンタは…」
マニアックな琉嬉についていけなくなる護とみゆ。
物色してる琉嬉を後に二人は店の外へと出た。
「やれやれ…ついていけないわ…」
「琉嬉たんってなんか女の子っぽくない性格ですよね~。ゲーム好きな女の子はいるけどあそこまで探求する女の子っているのかな?」
「さぁ……。ま~たしかに言葉使いとか行動とか見た目に反してるよねぇ」
言いたい放題の二人。
なんだかんだで会ってから間もないが琉嬉の性格などがよく伝わったようである。
「…あれ?他のやつどこいった?」
二人が居ないことに気づいた琉嬉。
ともかく、めぼしい物を2本程見つけレジに行く。
「お、出てきた」
「勝手に外に出て行くな」
「ごめんごめん」
他人からみたら態度のデカイ子供に見えるな…などと心の中で思った護。
「にしても、女子高生3人が中古ゲームショップ巡りなんてしてるのいるかねぇ~」
「そういうのもいいんじゃないですか?ちょーっと長かったッスけどね~琉嬉ちゃん」
相変わらず楽天家のみゆ。
楽しそうであればなんでもいい、という考えなのかもしれない。
ただ、今回はさすがにみゆもついていけなかったのだが。
3人は駅に戻っていた。
それぞれの帰宅…。
時刻は夕方6時過ぎ。
まだまだ明るい。
駅では人は多くなる時間帯ではある。
「さて、そろそろ解散だね~」
みゆは反対方向。
琉嬉と護は途中まで同じ方向。
「んじゃ、また明日~」
そう言いかけた時。
「あ、あれ、学校で会った背のでっかいねーちゃんじゃない?」
護が指差す方向。
そこには学校で会った、城樹叉羅沙だった。
背が高いので目立つ。
「うぉーい!城樹さ~ん」
みゆが叫ぶ。
「あら?」
叉羅沙が気づく。
「またお会いしましたな」
やはり一際背が高い。
「ねえねえ城樹さんもどこか寄り道してたの~?」
「え?うんー。まぁそんなところやなぁ」
結局電車は来たのにも関わらず3人はすぐには帰らなかった。
「城樹さんはもう帰る?」
「いんや~?時間なら大丈夫かな」
「そか~。私のおごりでいいから駅で夜ご飯食べていかない?」
「…さすがお嬢様育ち」
なすがまま、叉羅沙を巻き込んで4人となった。
駅のファースフード店。
中はそれなりに込んでいる。
晩飯時。
平日とはいえ街の中心街の駅。
人は多い。
「城樹さん背ぇ高いよね~?何cm?」
「ん~先月やった身体測定やと、大体187くらいやったねぇ。去年は185くらいやったけどなぁ」
「うげげ、まだ伸びてるの?にしても187もあるのか…」
琉嬉は驚愕していた。
「琉嬉ちゃんなんて140ないのにね。凄い差だ」
「うっせぇ!!」
鞍光高校では間違いなく女子生徒の中では一番高いだろう。
そんな会話をしながら店を出るとき、
「…城樹さん。後でちょっとお話いい?」
琉嬉が引き留める。
「ん?」
他二人は解散となった。
だが、琉嬉は何かを気に止めて叉羅沙を引き留めたのだ。
「話ってなんどす?」
「……ちょっと気になってね」
その気になるという「何か」を確かめたく、叉羅沙に話しかける。
「城樹さん。アンタ、普通じゃないよね?」
「んー。別に、普通の女子高生やけどねえ?」
叉羅沙の方はニコニコ笑顔。
ただ、背丈は普通じゃないが。
「むぅ。僕にはわかるんだけどね」
「…わかるとは?」
「……通常の人間とは違う霊力を感じるんだけどね。さっきの二人は気づいてるのかどうかは知らないけど」
しばし沈黙が流れる。
「…はは、あんさんこそ普通じゃないんとちゃう?」
なおも笑顔を崩さずにいる叉羅沙。
「……その笑顔の裏はどうなんだろうね」
そういいながら符をいきなり投げつける琉嬉。
「!!」
突然の攻撃にも反応し避ける叉羅沙。
「な、なにしはるん?!」
「…やっぱり。その身のこなし方、普通じゃない」
「………」
叉羅沙はまたもやしばし黙る。
細い目がさらに細くなる。
「大体攻撃しかけても動揺した表情もあまり見せない。なおかつその動き」
「ははは、「彼方」さんにはかなわんなあ」
結局は叉羅沙は観念し、自身が能力者だと言うことを認めた。
足元には先ほどの符が二つに綺麗に切れて落ちていた。
「城樹さんさあ…、アンタ何者?」
「何者ったてなぁ…なんて答えればええんかなぁ?」
「ちなみに僕は世界で最高峰の退魔師」
「た…退魔師どすか…。はあ…」
「予定だけどね」
堂々と言い放つ琉嬉に少し困惑の叉羅沙。
たしかに退魔師としては來魅を倒した事によって、最高ランクの位置づけになっててもおかしくもないが。
「今通ってる学校について何か知ってる?」
「……?学校?そうやなぁ。お化けが多いかなとは思うんけどね」
「…アンタでも知らないのか…。じゃあこういう能力持った人間が多いのは偶然なのか…?」
「偶然もあるかもしれへんけどな~。そこんところは生徒会なら知っとると思います…けどね」
「生徒会…だって?」
「そや」
意外な情報が聞けた。
生徒会が関係してる?かもしれないと。
「あ、でも生徒会が元凶を探しとる話みたいやね」
「ふー…むぅ。そんな事言っても大丈夫なの?」
「遅かれ早かれすぐ分かる事。生徒会言うても一部だけかと思いますえ。ウチの知り合いがやっとるから会ってみる?」
「…そうだな…」
叉羅沙と接触した事により一気に真実に近づいた気がしてきた琉嬉。
流れが引き寄せてきたといった感だ。
以前、部活申請に生徒会室へ行って一人の生徒会の役員だという女子生徒に会っている。
生徒会の人間達に会ってみないとわからないが、状況が一気にわかるかもしれない。
「それはまた明日にでもするって事で…僕さぁ聞いたことあるんだよね。叉羅沙って名前に」
「……そう?」
さすがにちょっと表情が変わる叉羅沙。
「ハンターって恐れられている人の名前が「サラサ」てね…もしかして城樹さん、アンタの事?」
まわりがザワついたような感じがした。
「……さっすが彼方さんやわぁ。裏世界に詳しいおすな」
「僕も散々変な呼称ついて噂になって知られてるらしいからね…。ましてや…いや、これはいいや」
案外名の知られている二人。
ここ数年の間に知れ渡った名。
そんな人間達が鞍光学校に集まっているのが不思議。
偶然なのかそれとも故意なのか―。
今は謎である。
「あー、そもそも学校でぶつかったのって偶然?」
「へ?偶然も何も偶然」
「ふーん…」
「疑いの目やなぁ…」
「以前どっかの退治屋ってのに襲われたからね…。今度はハンターさんの番かなと思ったりしちゃったり…」
「…退治屋って……芹澤だかって女子高生って話聞いたことが…」
「やっぱ護も有名なんだな」
裏世界の話が盛り上がる中、声をかける連中がいた。
「ねえねえ二人で何してるの?」
二人が振り返るといかにもやんちゃしてそうな男3人組 よくいる今風とでも言うのか、チャラチャラし感じだ。
「君ら…あ、え?」
3人組は気づいた。
妙な組み合わせに気づいた。
方や自分達より背の大きい女の子。
方や小学生にしか見えない女の子。
「君…背高いねぇ」
「はは、女性にそないな事はあんまり言わんといてなぁ」
「……」
しばらく沈黙が続いた。
「用ないならウチはいかせてもらいますえ」
「はい」
3人組は情けなく何も声だせないままその場に立ち尽くしてた。
叉羅沙の後を追う琉嬉。
「何あれ?ナンパってやつ?」
「そうやなあ。なぜかウチよく声かけられるんよ」
「だろうね…あんた美人だもん」
「そういう彼方さんも可愛いやない」
「……よく言われるけどさぁ…。絶対違う意味だと思うんだよね」
「はは、そうなん?」
結局二人はそれなりに仲が良くなっていた。
この日は「何もなく」こうして終わりをつげた。
翌日。
琉嬉は叉羅沙を捜していた。
「何組なのか聞くの忘れたな…まあ目立つだろ。あいつは」
そういいながら各クラスを回りながら捜す。
しばし回っているとすぐ見つかった。
大きいからすごく、目立つ。
「あ、城樹さん」
よそよそしく話しかける。
「あらあ?彼方さんやないか」
「例の、生徒会に案内してくれない?なんか、さ。一人で行くのがなんか嫌というか…部室と生徒会室は隣同士なんだけどさ」
直本題に入る。
「あら~いきなり行くの?」
「さっさと問題の一つ解決したいんだよね」
「……?なんやわからんけどいろいろ大変そうやね」
「…アンタが敵じゃなければ協力してもらいたいかも」
「は、はぁ…??」
生徒会室。
結局また放課後になってしまった。
まあ生徒会の活動は放課後ではある。
「もしもーし、入りますよ~」
コンコン、とドアを叩きながら生徒会室に入る。
琉嬉はキョロキョロと見回す。
物珍しさにどうも落ち着きのない様子。
他の生徒はいないようだ。
「あらら?珍しいですねぇ。叉羅沙さん…とそちらの方は…彼方さん?」
部屋には一人の女子生徒がいた。
髪を三つ編みにした、ごく普通の女子。
この前会った生徒だ。
「…いやな、その彼方はんが用があるみたいやで」
「そうなんですか?」
「ども」
軽く挨拶を終え、いきなり本題に入る。
「えーと、私は会長やらしてもらってます、宮森まどかです。多分見た事はあるかと思いますけど…」
宮森まどか。 高校二年生。鞍光高校生徒会長。
見た目の割には行動力、言動がしっかりしていてる。
なおかつ頭脳明晰であるそうだ。
「え、あんた生徒会長だったの?!」
転校して間もないが、知る由もなかった。
一度会っているがまさか会長だとは思わなかったのだ。
ともかく叉羅沙と琉嬉は事情を話した。
「なるほど…その件ですか」
「心当たりあるの?」
「ないことも…ないですけどねぇ…」
まどか自身も詳しい話は知らない。
学校側も知らないという。
おそらく知ってるのは生徒会の一部のみ。
異変を知るものはかなり少ない状況である。
「何が起こってるのかしら、わからないのですよ」
「…マジか…」
「でも、ま、生徒会から学校側に協力の元、調べていけばええんとちゃう?」
「うーん…そっか」
琉嬉が退室した後二人は何やら話していた。
「よかったん?そのコト話して?」
「彼女は部外者…というわけにはいかないかもしれませんしね」
「…まだただの首突っ込みたがりにも見えんけどねぇ。なんせあの「彼方」家や…」
「そうですねぇ。そしてまさか表舞台に出るような部活まで作るなんて…面白いですね」
叉羅沙に負けない笑顔を見せる。
「ええの?あんな事やられたらうちらのお株奪われてしまうで?」
「それもそうですけど…」
「そうやな。「彼方」に「港咲」…五大家がふたつもうちの学校にいて、しかも仲良く隣にいるんやで」
「非常に面白い状況ですよね~うふふ」
「笑ってる場合?」
琉嬉はとにかく気になることは調べて解決しないと気がすまない性格。
自分の通う学校がましてやこんな状況であればどうにかしたい。
そういう性格なのである。
「でも、学校側に聞いても無駄です。ここは私たちでどうにかした方がいいでしょう」
「そか」
相槌うつと叉羅沙は生徒会室を出て行こうとする。
「もう帰るんですか?」
クルッと振り返るといつもの笑みでこう言う。
「ウチはまだなんとなく信用というかー、逆に疑わしいんやわぁ。ちょいーっとかまかけとこと思てな」
「…ほどほどにしてくださいね」
不可解な言葉を残し叉羅沙は出て行った。
目の前は駅。
今日はなんとなく薄暗い雲が覆ってる。
時刻はまだ夕方5時前ではあるが、暗い。
どんより空。
今にも雨が降りそう。
「……傘持って来ればよかったかな…」
急に曇り空。
「さっさと帰ろう」
琉嬉は早足になった。
駅内に入ろうとした。
が、琉嬉は何かを感じ取った。
「……これって…、霊気?」
強い霊気。
今までいつも通う駅では霊気を感じ取った事はない。
というよりこれ程強い霊気を感じ取った事がなかっただけかもしれない。
どこか敵意出した感じのある霊気。
人はまばらだ。
「なんだってこんな街中で…?」
臨戦態勢はとれる。
だがこんな街中で戦っていいものか。
琉嬉は考えていた。
「むぅ。仕方ない」
琉嬉は早足で人通りの少ない所へ向かった。
駅近くの裏通り。
ビル群の路地裏だ。
「この霊気の感覚……」
突然何かが琉嬉目掛けて飛んできた。
なんなく避ける琉嬉。
「奇襲とはやるね!ハンターさん!」
「あらまぁ。もうバレたんか」
――そこには叉羅沙がいた。
そして琉嬉の足元には短いナイフのようなものが刺さっていた。
微量だが霊気が込められていたようだ。
通常より圧倒的に破壊力が増しているのであろう。
普通のナイフがざっくりアスファルトに地面に突き刺さる訳がない。
「何のおつもりで?」
嫌そうに琉嬉が問いかける。
「いんや~。あんさんがほんまに「彼方琉嬉」なる人物かと思てな。たしかめたくてやってみたんどす」
「…よくわかんないけど戦るってコト?」
「話が早いんな」
そう言った瞬間叉羅沙は動き出していた。
かなり早い動き。
「うっ!?」
琉嬉も負けずに動き出していた。
「ちょーっとばかし動くん遅かったなぁ!」
するどい蹴りが琉嬉を捉える。
「ぐっ!」
間一髪ガードが間に合う。
反撃に出るが叉羅沙には届かない。
なおも叉羅沙は攻撃を仕掛ける。
「くっそー!リーチに差がありすぎる…!格闘戦じゃ分が悪いな…!」
身長差およそ40cm近く。
リーチがあって当然だ。
接近戦は勝てないと思い琉嬉はともかく離れるように間合いを取る。
「逃げるんか?」
「どうせ逃がしてくれないだろ!」
琉嬉は走りながら符を何枚か取り出し放つ。
「お札攻撃かえ」
直撃!かのように思えた。
だが、叉羅沙にはダメージはない様子。
その間に琉嬉はかなり間合いを離した。
軽い爆風の中から叉羅沙はなおも近寄ろうとする。
「あんさんええわ~。修羅場くぐり抜けとうな~」
「あんがとさん!」
琉嬉はともかく間合いを離して遠距離攻撃にでたい。
だが、符も無限ではない。
そうしてるうちに叉羅沙は何か呟く。
みゆなどもしてた呪文のような言葉。
「式・雷々!」
「なっ!式神!?」
突然叉羅沙から電撃なようなものが琉嬉めがけて放たれる!
「陰陽術か!」
一瞬のうちに防護壁を張る。
電撃にはなんとか持ち応えれそうだった。
「ぐぐぅ…!」
「はは、持ちこたえるなんて凄いわぁ~」
さらに何発も撃ち込む。
そうしてるうちに防護壁が壊れそうになる。
一発一発がかなりの強い攻撃のようだ。
そして最後の一撃。
「式・龍々!」
まるで龍。
うねりながら霊気の塊がさらに琉嬉を襲う。
「僕の術にそっくりだー!!」
似たような技に驚く。
でもそうも言ってられない。
逃げながらも霊気の術を作り出す。
琉嬉は一か八かの賭けに出た。
両手が青白く光る。
そして前方にかかげる。
「む?」
叉羅沙はさっきとは違う琉嬉の行動に反応を示す。
「上手くいけよ~」
霊気の塊が琉嬉の目の前に迫った。
瞬間――。
叉羅沙が放った霊気の塊が反射して戻ってきた。
「ええぇぇ~!?ほんまぁっ!?」
叉羅沙は驚いた。
自分の放った一撃が戻ってくるからだ。
あわてて避ける。
避けた先では爆発が起きた。
「ひぇ~…あれまで跳ね返すんか!?」
驚愕。
いつもの笑顔も消え失せる。
細い目が見開いてる。
無理もない。
自分の放った攻撃が戻ってくるなんて考えつかない。
「なんとかうまくいったけど…今度はこっちの番、ってやつ?」
気がつくと叉羅沙の懐に琉嬉が入り込んでいた。
小さくて素早い。
そのうえ、体の大きい叉羅沙はつい懐に詰め寄せさせてしまった。
「しまっ…」
「もらったよ…呪束縛!」
叉羅沙の体にゼロ距離で呪符を突きつける。
そして、叉羅沙の体を青白い光が覆う。
「がっ…!なん?コレ!!」
軽くダメージがある。
弱めではあるが痺れるような感覚があるのは叉羅沙には解っていた。
身動き取れなくなりその場に座り込む。
「くっ…うう…、こ…これは…」
かなり動けない状態になっていた。
霊気も思うようにコントロールできない。
「か、体が…動かないわ…」
「ふぅ~。なんとか決まったな。どう?呪束縛の味は?」
「なんか知れへんけど…上手く体が動かない…」
「なーに。ちょっとだけさ。動けないのは」
と言いつつ、符を叉羅沙の顔の前に突きつける。
まさに勝負が決まったような瞬間だ。
「はは、あかんや。まいった」
そうしてるうちに叉羅沙は動けるようになった。
「お、動ける」
「ね?言ったでしょ?ちょっとの時間だけ動けなくなるって」
「…あんさん、エグい技持っとるなぁ~。しかも跳ね返す事も出来るなんてな…」
「……ちょっとね…開発中の技をやってみたんだけど…なんとか上手くいったんだよね」
「できたてほやほやの技どすか…はは」
叉羅沙は多少油断をしてたとはいえ負けを認めた。
「さて、なんで強めに仕掛けてきたのか言ってもらおうかな?城樹さん」
「はは~、なんて言うか…あんさんがほんまにあの彼方琉嬉なのか確かめたくって…ていうのはあかん?」
「…はぁ~。僕も有名人だな…。噂では何言われてるか知らないけど確かに、僕は「彼方琉嬉」だよ」
琉嬉自身はかなり呆れていた。
前も護と戦ったときも変な噂があった。
これからもこういった出来事に巻き込まれるかもしれない。
琉嬉は今後の自分の人生について落胆した。
そもそもこの戦術、技があれば護の時のようなピンチにはならなかったかもしれない。
琉嬉は心の中でこれからも上を目指す決心を密かにしていた。
「…まああんたも、護並みに強いかもね…。今回はたまたま上手くいったわけだし。まぁ、かといってどの勝負も負ける気はないけどさ」
「強気やなぁ…」
「…お前さん。これ狙ってただろ?」
ポンッと右手から投げ落とす物体。
二本の小さな短刀。
叉羅沙の投げつけたナイフと同じ形のだ。
短刀はなぜか御札に包まられている。
「…ハハ、当たらんかったか」
「危ないなー。もしかして暗殺とかそういうの得意?」
「苦手ではないなぁ」
こんな状況でも細い目でニコニコしている。
「危なかったよ~。呪束縛かける瞬間にこのナイフ、霊気でコントロールして刺そうとしたでしょ?
残念だったね?こういうのは僕にも出来るんだよ」
そう言うと琉嬉は数枚の御札を中に浮かべて並べる。
「はは、それでガードしたって訳やな?」
「そういう事。でもね、さすがにナイフをコントロールする程の技術はまだないけどね。お前さん…かなりの能力者だな?」
「そう言ってもらえると嬉しいわ」
戦いは短時間で終結した。
琉嬉はなんとなくだが、叉羅沙が本気を出してないように思えた。
と言っても琉嬉も本気を出してない訳だがそれはお互い様だ。
「それはそうと、城樹さん」
「あ、呼び捨てでええどす。同じ年やし。なんかそれやと堅苦しいし」
「じゃあ叉羅沙」
(いきなり下の名前かえ…)
「僕達の協力してくれない?」
「…学校の事?」
「それもあるけど…どうせなら…」
「はぁ…なんでしょう?」
「部活に入れと?」
「そう。今すぐじゃなくてもいいよ。なんせ戦力が欲しいし。部屋も隣同士だしネ」
「うーん、楽しそうではあるかしれんけどなあ。生徒会忙しいし」
「あ、やっぱ生徒会のメンバーなんだ?」
「気づいてたんやね。そっちも」
叉羅沙は生徒会役員だそうだ。
だからたまたま、部室から出たとき同じタイミングでぶつかったのだ。
なんせ、部室と生徒会室が隣同士なのだから。
「ま、今は考慮しときます」
手をひらひらさせながら言う。
「そりゃあ残念。まだ4人しかいないから…よろしくね~ハンターさん」
「ハンターはやめてほしいわ…ダサイから」
生徒会室にはまだ明かりがついていた。
そこには二人の人影。
「どうでした?」
「どうもこうも。あっさりかわされた」
「うふふ。それは大変でしたねぇ。叉羅沙さん程の人がねぇ」
叉羅沙は学校に戻り、生徒会室に戻っていたようだ。
負けたとはいえ、何やら満足そうな顔をしている。
「あれは本物の彼方の力…やと思う。半端ないなあ。動き、高度の術、そして戦術。どれも高レベルや」
「そうですか。すごいですね」
「なんかな、何やっても勝てへん気がするわ。さすがは、妖狐來魅を退治した退魔師…やなぁ」
「ええ」
やはり知っていた。
來魅の話。
そして琉嬉が來魅を倒したという事も。
「な?俺の言う通りだったろ?」
「そうですね。噂は本当でしたか…」
二人の横にいつの間にかいた男子生徒。
少し赤みがかった茶髪で少し長めの髪型。
体格は背が高くガッシリ目に見える。
同じ生徒会メンバーなのだろうか。
「ま、これから楽しそうになりそうだぜ」
「ええ。本当に」
何かを知っていそうな雰囲気だ。
「で、なんか他に収穫あったか?」
「んー、ふかしぎ部に誘われました」
「…マジ?本気なのか…彼方琉嬉って子は」
「本気みたいやな」
「………いいじゃないですかぁ。面白そうですよ?」
そう言いながら隣の部室に繋がっている扉の方に目線を向ける。
そして不敵な笑みを浮かべるまどか。
「うふふ。吉と出るか凶と出るか……楽しみですね」
「ただいま」
「お帰り~琉嬉ちゃん」
琉嬉の父親、導が琉嬉に抱きつく。
「何かなかったかい?琉嬉ちゃん?なんか制服が汚れてるけどっぽいけど」
「おお、どうした!お前様よ。誰かにやられたか?」
「ちょっとね…」
「最近お父さん心配だよ。琉嬉ちゃん無茶しすぎかと思って…。何かあればすっ飛んで手助けするよ」
「うん。あんがと」
仲の良い親娘のやりとりを横目にみてる悠飛がいた。
「本当姉ちゃんとお父さんて仲いいね」
それに対し母親の嶺珠は、
「そうね~。年頃の女の子なら普通嫌がるのに」
「というか姉ちゃんの性格は一線を飛び越えてるから。いや、百線くらいかな…」
言いたい放題の悠飛。
「ふむ。何やら戦ったようだの。私も一緒に付き添うか?」
「いや…來魅が動いたら相手が可哀想になるから遠慮しとくよ…」
ともかく家族間の仲が良い彼方家。
「なるほどね。お父さんも数年前に聞いたことあるよ。ハンターの異名を持つ女っての。 まさかそんな若い子だったなんてね。
「えーと…たしか「ハンターサラサ」って聞いたかな?僕は」
「……なんだよね~。しかもなんか京都弁っぽいしゃべり方してたよ。あと、ハンターはダサいからやめて欲しいってさ」
笑いながら言う。
たしかに本人も「ハンターサラサ」は嫌な素振りだった。
「ほうほう。京美人?」
「美人だけど背すっごく高いよ」
「ほうほう。モデルみたいにかな?」
「187cmって言ってたかな」
「ほうほう…。そりゃ高いね……。お父さんより大きいね…」
ちなみに導は180cmくらい。
導も知っていた「ハンターサラサ」。
叉羅沙がどういう事をしていたのかは今は謎であるが、力を貸してくれそうではある。
琉嬉は新たに強力な仲間を味方にしたい。
そんな事をふと思っていた。