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ふかしぎ真霊奇譚  作者: 猫音おる
第一章   ~学校怪奇編~
6/92

#6 新居にて心霊

せっかくのGWにも関わらず引越し完了…と言いたいが、まだ引越し作業は終わってなかった。

引越し先の家はまだ片付いてないのだ。 

 琉嬉ら家族はみゆの発端の温泉小旅行を得て母親と妹の悠飛と久々の再会を果たした。

後日、正式に引越し先の一軒家に住むと事となる。

そして、今回は何かと成り行きで、最強妖怪の來魅とも過す事になった。

導や、嶺珠には了承を得ている。

だが、妹の悠飛は納得してない部分があるようだった。

片付いたのはいいが、引越し先の家に行っても家具やらなにやら配置を新たにしていかなければならない。

そう考えると持ち前の面倒な性格が拒否反応を起こす。

「……どうした、琉嬉」

 やる気のない顔の琉嬉を少し心配したのか、はたまた面白がったのか、少しにやけながら來魅が話をかける。

「荷物を整理するの面倒」

「…まったくたるんどるやつだな」

「居候妖怪には言われたくねー」

「まったく…引越し業者使わないでケチるからこんなことに…」

 文句タラタラである。


 トラックをチャーターし、導の実家でもあるお寺の若い集達などを手伝いに借り出したりして荷物を運んだ。

その結果、所詮は素人の手。

案の定スムーズにはいかず、少々手間取って時間がかかっていたのだ。

物も適当に置いたりして、せっかくの家の中がまだ片付いてなかった。

「まあまあ、琉嬉ちゃん。明日もあるんだから、今日はお休みなさいな」

「…せっかくの休みなくなっちゃうよ」

 母親の嶺珠が休むように言ってくる。

それもそのはず。

午前中からやり始めてまだあまり終わってない。

導以外は男手はない。

とはいえそこらの女よりは、はるかに力を持っている姉妹ではあるが。

嶺珠は普通の人間でもあるし。

ましてや來魅は力を使えずに、ただの子供状態。

それでも、家具やらは重たい物で、さすがに数が多いのもあるし素人が運ぶとなると辛いものがある。

ガランとしてた引越し先の家の中は物であふれていた。


 琉嬉達が引っ越してきた場所はつい数日前まで住んでた所とは一風変わった場所となった。

木々森林が近くにあり、少し住宅街から離れれば農業や牧場がある、田舎。

学校までも駅二つ分遠くなり、今後は少し早めに家を出ないといけないのかもしれない。

 前と違うのは、マンションでなく一軒家となったため以前よりはるかに気楽さが増えた事。

マンションだとどうもまわりを余計に気をつけなければいけないのもある。

それがかなり軽減されただけでも良しと考えるか。

突然の引越しの中でも無理やりプラス方向へ考えた琉嬉だった。


「なあ、來魅」

「ん?なんだ?」

「ところで、お前いつまでうちにいるつもりなんだ…?うちの親も何も言わないけどさ」

「んー。気が済むまで」

「…なんだその言い訳」

「まぁいいではないか。言っただろ?お前様の用心棒みたいな感じでいいんだぞ」

「……用心棒雇うほど弱いつもりじゃないんだけどな…。てか力使えないだろ?今」

「なぁにを言うか。見るがいい。大分力を取り戻したぞ」

 ボウッと右手から闇の炎を少しだけ出す。

「おおい、危ないって!」

「それとな、短い時間だけなら全力を出す事が可能のようだ」

「へ?」

 ズゴゴゴ…と一瞬だけとんでもない霊気が立ち込める。

「マジで?僕の封じの術は完璧じゃなかったのか…」

「フッ、私くらいの高級な妖怪ともなると単体の術者程度の封じの術なんぞ、跳ね返せるわ!短時間だけ…」

 どうやら本来の力が戻った來魅であれば、琉嬉の封じの術は自力で解く事が出来るらしい。

しかし、数珠の霊力のせいか短時間ですぐ力が抑え込められるらしい。

なので長時間での全力行動は不可能だという。

「うむむ、完璧だと思ったのにな…お前には完全には通じないのか…」

「ふふ、そうとも言えんぞ。なんせ外せんから。力は取り戻したが…この数珠のせいで真の力が発揮出来んのう」

 ジャラッと右手の数珠を出す。

「何コレ…、姉ちゃんと同じ数珠?」

「そう、霊力封じのね」

 悠飛は知らなかったようだ。

「…ふーん……妖怪ねぇ…。こんな子供が…」

 にわかに信じられない様子。

無理もない。

見た目はただの外人の子っぽい幼女なのだから。

「ふむ。琉嬉の妹やら。お主も妖怪か?」

「はぁ?何言ってるの?それに私には「悠飛」っていう名前があるんだけどね」

 あきらかにツンケンしている。

「ふむふむ。悠飛とやら。お主の力は氷を操るのだな。珍しいなぁ。人間で冷気を操るとは」

「……別にいいじゃん。別に私だけが冷気を操れるってワケじゃないし…」

 悠飛は霊気ならぬ、冷気を操り、氷を飛ばしたり剣にしたり、一定の空間を冬みたいに冷やす事も出来る。

かなりの高等技術である。

來魅は話に聞くばかりで実際にはまだ見てない。

それに、その力が妖怪じみていると言う。

「ま、これからもよろしくな」

 握手を求めようと手を差し出す。

「…フン」

 不服そうながらも軽く手を合わせてすぐどこか行ってしまう。

「んー、何か悪い事したかの?」

「年頃ってやつさ」


 当然ながらも、居候と化した來魅もついてくる。

完全に家族の一員みたいになってしまってる。

「ほれ、部屋の割り当ては出来たのか?」

「來魅専用の部屋欲しいの?」

「なーに、そこまで欲はないぞ。これまで通り琉嬉と一緒にいてもいいんだぞ」

「……オイオイ…(そんなに僕と一緒にいたいのかよ…?)」

 ヘンな考えがよぎってしまう琉嬉だった。

「部屋割りは出来てる。前とは違って広いから部屋も余ってる所に來魅が使っていいってさ」

「それはありがたいのう。でも本当は一緒に居たかったんだがの」

「…やめろ、そんな趣味はないから」

「…はいはい。ラブラブですね」

 悠飛が皮肉めいた事を言って自室にする予定の部屋へ行く。

「……え?何?嫉妬?」



 その日の夜。

晩飯時。

琉嬉はある疑問を導に投げかけた。

「ねえ、父さん」

「ん?なんだい?」

「この家…なんで誰も買い手つかないであったの?」

 どうやらかなり安く入手出来た家らしい。

安い割には全然買い手がつかないで、長いあいだ売り出していたようだ。

外見などは綺麗だし、屋内も綺麗にされている。

「うーん。なんでだろうね?事故物件でもないらしいし。でもね、不思議と人が出て行くらしいんだよ」

「へぇ…」

 琉嬉は周辺を見回すがこれといった不可解なものは見当たらない。

「…心霊的な話は?」

「特に詳しくは聞かなかったけど…」

「ふむ…」

 なんでも細かい事でも気になった事は解決させないと気がすまない。

琉嬉の興味津々病が発動した。

「不動産屋さんは何も言わなかったけど、チラっと情報を仕入れたんだけどね」

「へぇ、さすがはライター」

「以前住んでた住人は、見たって言ってたらしんだよね。噂程度だけど」

「見た?何を?」

「…幽霊…ってね。本当かどうかはわからないし、もし居たとしても僕らだったら気づくだろう?」

「…それもそうか」

 見た感じ、入った感じは特に何も気づかない。

それに幽霊が出るのであれば、感知力の高い琉嬉や、導達も気づくはずである。

「事故物件て訳でもないわよねえ?」

 少し嶺珠も気にし始める。

もちろん、嶺珠も見える側の人間だ。

家族揃って霊術師の一族。

「それはないって。キッパリ言ってたよ」

「仮に事故物件だとしても、沢村刑事に確認取ってもらうからそんな事すぐ分かるよ」

「さすが、琉嬉ちゃん」



 晩飯も終わり、まったりする琉嬉と悠飛と來魅。

そこで琉嬉は提案をあげた。

「で、一晩起きていて、何かないか調べる」

 琉嬉が言うには、取り合えず起きててみて、何か起きるか調べるという事だ。

「一晩で分かるものかな?」

「やってみなくちゃわからんさ」

「…そう(…姉ちゃんってなんでいつもこう、年頃の女の子っぽい喋り方じゃないんだろ…)」

 時々変な喋り方になる姉が心配になる妹であった。

というか、悠飛も大概であるが。



 時刻は夜中の12時をまわるところだ。

琉嬉は起きたままゲームをしている。

まだネット回線が新たに契約してないので、ネットはしばらくお預けだ。

來魅も暇を持て余したのか寝てしまっている。

「ったく…。さっさと寝るなんて、大妖怪があきれるよ…」

 まじまじと來魅の寝顔を覗き込む。

「……ほんと、見た目は人間と変わらいな。髪の毛が派手な色以外は」

 寝てる來魅のほっぺをつんつんする琉嬉。

「子供だな。見た目は。………(可愛い)」

 さらにぷにぷにいじりだす。

「柔らかい~」

 いじり倒してるのに起きる気配がない。

完全に無防備である。

世界を牛耳るとも言われる程の妖怪が、何の警戒もなく寝ている。

不思議な光景だな、と、琉嬉は改めて思う。

(コイツは……本当なんなんだろうな…。子供っぽいはしゃぎをすれば、大人のような言動するし。妖怪はよくわからん)

 もう半月近く、來魅と過ごしているが、いまひとつ來魅という人物像の性格が掴みきれてない気がしてならない。

一度本気で腹を割って話す必要があるのかもしれない。

よくよく考えれば來魅の過去の事はあまりよく知らない。

ご先祖…とまではいかないが、琉嬉の高祖母にあたる人間達、五大家の術者らによって封印をかけられた。

たった100年程前の話ではある。

何がどうなって封印されてしまったのか。謎である。

(今度本気で聞いといた方がいいのかな…?)

 あれこれ考えてる中、ずっと來魅のほっぺをぷにぷにいじる琉嬉。

「…僕もほっぺがもちみたいって言われるけどなー」

 琉嬉はなぜか自分の頬もむにむに触りだし、來魅と触り比べする。

「うぐぅ……にゃむにゃむ……。ねむぅ~」

「あ、やり過ぎたかな」

 一瞬起きそうになったがまた静かに眠る。

「………しっかし…。ほんと、なんていうかまあ…。ここまで気許すなんて、よっぽど我が家庭がお気に入りなのかね…?」

 ほんの、出会うつい最近までは生きるか死ぬかの戦いをしたというのに。

「うーん。よくよく考えたらこうなったのも僕の放った「真霊気」のせいだったけ…?」

 このように深く考えるほどに自分のやった行いは正しかったのか?、と疑問に思ってくる。

來魅自身は封印が解けてから、特に人間世界を脅かすような事はしてなかった…ハズだが。

戦う理由は今になってあったのだろうか?

そんな気がしてならないのだ。

「……ううむ…」

 でも、そんな來魅を見てるとついつい可愛さに我を忘れそうになる。

「世界最高峰の力を持つくせに…この可愛らしさ…。ズルい」



 時刻は既に深夜1時半を過ぎていた。

「…ん。そろそろ寝ようかね」

 ベッドは來魅が占領している。

「しゃあないね」

 押入れにぶっこんどいた布団を取り出す。

床に敷いて寝る準備を整える。

とはいえ、まだ部屋中は片付いておらず、ダンボール詰めになったのがまだ大量。

部屋…というより、まだ物置部屋みたいになったままである。

片付けをサボって、ゲームに熱中してたせいでもあるが。

「明かりを消して…」

 部屋の電灯を消した途端、少しだけ異様な空気を察知した。

「……さっきまで感じなかったのに…何、この霊気の数…?」

 琉嬉は机の引き出しから数枚の札を取り出す。警戒態勢だ。

「…のう、なんだこの霊気は?」

「さすがに來魅も寝てても気づいた?」

「そうだのう。まったく気配なかったのになんだコレは?」

「さあ…わからない」

 不可解。まさに不可思議。

家中には霊的な気配は一切なかったのに今は複数の霊気を感じる。

まったく感じなかった霊気が突然現れる。

この異様な状態に、少々焦る。

それも、これから住もうという家にだ。

「段々近づいてくる感じだ…」

「……どうするんだ?」

「場合によっちゃ祓う。でもこの程度の弱さなら父さんでも対処出来ると思うけど」

「うむ。ともかく向かうとするか」

 ベッドからぴょんっと飛び出す來魅。

「うん。……て、何その格好で動くの?」

 來魅の姿はシャツ一枚と下はパンツ一枚。

つまり下着姿。

「寒くないの?」

「あほう。天下の妖狐さまをなめるなよ」

「……そんな格好で戦うつもりかい」



 物がまだ散乱している。

わざと明かりをつけないでゆっくり下に降りていく。

謎の霊気の正体を掴むため、わざと明かりをつけないで姿を確認しやすくするためだ。

霊とやらは光を受けると姿を消す…ワケではないが、姿をくらましてしまうようだ。

「のう、どうだ?」

「しっ」

 來魅の言葉をかき消すように静かにしろとポーズ。

「…來魅。あっち」

「ほぅ」

 琉嬉が指差す方向。

家の丁度居間。

居間の窓にうっすら見える人影。

「おっ、誰かいるぞ」

「…霊だ」

 いつ何かあってもいいように攻撃の姿勢を取る。

息が少し詰まる感じ。

いかに慣れた事でも油断できない。

それはようく肝に銘じている。今も決して油断しないように様子を見張る。

「…やっぱり、一体だけじゃないぞ…2、3体か?」

「だね」

 霊はゆっくり家の中へ入ってくる。

それでもまだ琉嬉と來魅は動かないで様子をみている。

「これは普通に人間が見たら驚くだろうなぁ。どうするんだ?琉嬉。倒すのか?」

「……悪霊でもなさそうだしね…。しばらく様子見ってコトで」

「ふむ」

「てか、起きてこないな…他の家族は…」

 おそらく気づいてない。

さすがに素人レベルの霊感ではないだろう、と思ってはいたが、さすがに寝ていては気づかないものだろうか、と、琉嬉は思っていた。

そのまま黙って様子を見ている事にした。


 霊達は徘徊する事もなくまっすぐ通り抜けていく。

居間を通り、部屋外の廊下へ出て行き、そのまま玄関方向へ抜けていく。

特に何もしない。

そしてこちらの姿にも気づかないように通り過ぎていった。

「…なんだったんだ?」

 すっかり頭の中がハテナマークの來魅。

「んー。まだ確定できない事は言わないでおくよ。間違ってたら恥ずかしいから」

「なんじゃそりゃ」

 その後30分くらいしばらく待っていたが続いてくる他の霊はいない。

通り過ぎた霊は全部で5体程いた。

男女共にいて、年齢は結構年配だろうか。

60代前後だけで、若い感じの霊はいなかった。

「…それにしても、全部ジジババの霊だったのう」

「事故とかじゃなくって…病死とか老衰とかで亡くなった人かな?その辺は知らなくてもいいんだけど」

「ふぅむ。特に危害加える事でもなくそのまま通り過ぎるとか…摩訶不思議だな!」

「…楽しそうだな」

 それっきりその日は、霊が来なかったのでここらで打ち切った。



 結局翌日は引越し作業を終えるため、一日かけて物を整理整頓していた。

終わるといい時間の夕方だった。

案外、物も多く、母親と悠飛が使用する物も入れたためかなりの大仕事となったのだ。

この日は疲れて動くのも面倒になり、そのまま一日を終える事となる。


 が、やはり同じ霊が同じくらいの時間帯になり、何もせず通り過ぎていった。

「これは……厄介というか、気になってしゃあないね」

「そうねぇ。お母さんはそんなに気にはならないけど…」

「母さんは寝てるからだよ」

「そ~う?」

 嶺珠は夜中はきっちり寝るタイプのようだ。

「その話だとまた夜中起きてるんだね?琉嬉ちゃん?」

 父親の鋭いツッコミ。

「う……それは…」

「まぁまぁ、いいではないか」

「お前が言うなよ…」

 などと、すっかり馴染んだ來魅と彼方家達。



 そのまた翌日、早速沢村刑事に何かあったのかと聞いてみたが特に何かあったという話はないようだった。

もしあったとしたらネットでもなんでも今の情報収集力ならすぐ分かるだろうという話だ。

そして深夜にあった出来事を家族に話した琉嬉。

当然、導らは少し驚いた顔していたが別段焦った様子はない。

「ですよねー」

 さすがは、心霊現象取り扱ってる家系だけあって大きな驚きはなかったようだ。

「でも、どうすんのさ?姉ちゃん…」

「うーん。父さんはあてにならないし、母さんも何もできないし。じいちゃんに頼むほどでもないだろうし」

「…ってコトは…姉ちゃんが何とかするってコト?」

「そうしかないだろ。これじゃゆっくり眠れやしないし、危害加えてくる様子もなければ無理やり祓うってのは気がひけるし」

「だなっ」

「さて、と」

 スっと琉嬉が立ち上がり、出かける準備をする。

「どこ行くの?」

「気になる事が他にもあるから、少し家の近所見てくるよ。どうせ、まだ土地勘ないんだし。この辺の地理を少し散歩がてら調査してくる」

「……それもそうだよね。学校行く道順とか覚えておいたほうがいいかな?」

「そういった意味では大変だのう。学生は」

「気楽でいいよな、妖怪は」



 外へ出てきた琉嬉ら3人。

琉嬉らが住む事になった家は住宅街から少し離れた場所。

と、行っても家と家の間が少し離れてるだけであって、少し行けば新たに開発された住宅街もある。

田舎にみえて、より開発が進んでいて近くには大きな商業施設も出来ている。

人が増えているのは確かなようだが、その大型商業施設の裏の方へ少し行けばあっという間に森林広がる大自然。

以前に熊やら鹿やら目撃談もあったとかないとか。

ある意味幽霊より怖いのが出るそうだ。

「田舎だねえ」

「そこがいいんじゃないか。私は好きだぞ。前の所より」

 近所を彷徨う感じに歩き回る。

学校へ向かう駅がある方向の道を確認しながら、周辺を歩いていく。

近所の公園、大きな通り、お店がある商店街へ続く道。

「悠飛は学校はここから通うの?遠いじゃん。卒業まで待ってれば良かったんじゃない?」

「……別に。高校上がったらどうせ電車通学になるだろうし」

「そういうもんかねえ」

 地図を片手に歩き回る。

しばらく歩き回る事小一時間経った頃だった。

ある程度ぐるっと回って来て、結局自分の家付近まで戻ってきてしまった。

手がかりになるような事は、特にない。

來魅がいつの間にかスマホを持ち何か調べていた。

「それ、僕のスマホ?いつの間に…」

「すまぬ。勝手に借りたぞ。この辺の出来事を調べておったんだけどな。特に出てこんのう」

「…何、この子…妖怪のくせにネットするの?」

 悠飛が驚く。

「何調べてたの?」

「いやな、このまちけいじばんというサイトで、ここの地域の事調べていたのだ」

「…高度な技術まで使えるのか…來魅は…」

 來魅の学習能力は高い。

妖怪とかそういうのを抜きで考えても、随分現代情報技術をこの短期間で身につけてるようだ。

「うーむ、過去の記事も遡ったんだが、事件性があるものはないな」

「そりゃ残念」


 手がかりが何も掴めないまま、とうとう家の前まで戻ってきてしまった。

だが琉嬉はまだ地図とにらめっこをしている。

「…近くにお寺か神社ないかな?」

 何かに気づいたのだろうか。

琉嬉は寺か神社の場所を地図上で探し出す。

地図を眺めながら悠飛が気づく。

「あ、ココ。近くにあるね。行ってみる?」

「確かめたい事があるんだ」

 近くの寺へ向かう瞬間だった。

「あら、見かけない顔ねぇ。こんにちは」

「…あ、こんにちは」

 丁度一人の女性に出会う。年は50代くらいの人だ。

「前からあなた達いた?見たことない顔ねぇ」

「いえ、最近越してきたばっかりです」

 淡々と悠飛が返答する。

ここらは古き家もあり、新しき家もあり。アットホームな住宅街。

近隣の住民は顔なじみが多いのだろう。

「ふぅん。そう。可愛い妹さん達ね」

「あ、え?ああ、そうですか?(やっべ、このおばさんに勘違いされてるな…)」

「…妹達って私らの事かのう?」

「…多分…。面倒だからそういう事にしとこうよ」

「ふむ」

 少し世間話するようにおばさんと近所について話してくれる。

そこで、少し核心につく内容と変わる。

「どこに引っ越してきたの?」

「ああ、住所が…」

 悠飛は少し詳しく場所を教える。

すぐ近くなので指で示して場所を説明する。

「…あら~、あそこの家?新しくリフォームしてたから、なるほどぉ。そこの家のお子さんらなのね」

「ええ、まあ」

「でもあそこの家ってすぐ住人がすぐ変わったから不思議だったのよねぇ。事故があったって訳じゃないのに。あら、あなた達住んでるのに悪いわねぇ。うふふ」

「いえ、大丈夫です」

「あらそう?でも買い手がついて良かったわねぇ」

「あ、あの聞きたい事がまだあるんですが、いいですか?」

 琉嬉がすかさず質問する。

「あら、なに?」

「…率直に聞くんですけど、この辺の近くで死亡事故とかそういった事あります?」

「え?それはまたなんで?」

「……うちのお父さんの実家がお寺で、そういう事故とかあった所が気になって…」

(気になってるのは琉嬉、お前様の方だろう)

「あら~、そうなの~?でも事故はないと思ったわよ?20年以上住んでるけど。ここは平和だし、交通事故とかも聞いた事ないわねえ」

「そうですか。どうも」

 琉嬉の質問は終わり。

何か得する情報でもあったのだろうか?

悠飛と來魅は疑問であった。


 おばさんと別れてから近くの寺へやってきた。

が、現在特別変わった様子もない。

大きな霊気の力も感じない。

「ちょっとお邪魔しようかな」

「あ、姉ちゃん、ちょっと…勝手に入って大丈夫なの?」

「なぁに、子供のいたずらと思えば問題ないだろう」

「…子供って…(こういう時に自分の見た目を利用するのか)」


 チョロチョロ寺の境内を見て回るが不可解なところはない。

お寺の隣の建物に人の気配はあるが、至って普通の人間。

変わった部分は見受けられない。

「ふぅーむ」

「何か分かったのか?」

「いや、普段はごく普通にお葬式とか行われてるだけだと思う」

「ふむふむ。で?」

「特別変わった事はないネ」

「そりゃ残念」

 特に変わった事は感じられず、素直に引き返す。


 結局何もなく家に戻ってきてしまう。

深夜の出来事はただの偶然なのかもしれない、と思いもうしばらく様子を見てみる事にするのだった。




 様子見…は良かったのだが、またもや同じ現象が起きる。

夜中にまとめる仕事があった導も目撃する。

嶺珠も多少なりの霊感があるとはいえ、凄く気になってしまうと話す。

霊とはいえ、他人が勝手に家に上がりこんでくるのはあまりいい気持ちがしない。

1日様子見をしたのだが同じ霊が、何もすることもなく、通り過ぎただけだった。

これはいい加減どうにかしないとオチオチ寝てもられない。

「前住んでた住人が何度も出て行った理由が分かったよ」

「それはあの霊達が家中に入ってくるから?」

「でも、普通の人間には見えんのだろう?それなのになぜ?」

「見えない人でもね、タイミングや日によって見えちゃう時があるんだよ」

 霊感があまり強くない人間でも見てしまう。

琉嬉はそう言う。

時間帯や時折、日にとって霊磁場が強い日などがある。

自然が毎日同じ天候、季節が違うように、霊気の流れが毎日若干ではあるが違うと琉嬉は説明する。

ましてや、この鞍光の地域。

霊磁場が強い地域。

強い霊気の流れの日では普通の人間でも霊の姿を確認できるという。

特に強い霊磁場の学校周辺。

「あー、たしかに緋黄寺のある地区はそんなに霊や妖怪目撃談ないよね」

「ここが異常なんだよ。そして、この家がたまたまそういった「霊道」になってるから尚更見やすい空間になってたんだね」

「霊道か、なるほどな」


 霊道。

書いて字の如く、霊達が通る道。

詳しく解明されてる訳ではないが、死者の霊や動物など、心霊的なモノが通っていく道であって、

建物など関係なく通ってる場合がある。

「なんとなく分かってきたよ…」

 悠飛も何かに気づいた。

「もしかして、さ。前に住んでいた住人達がこの霊達を目撃してたって事だよね?」

「おそらくね」

「そして、不動産的にはそいった情報は流したくもないし、あえて古かった家をリフォームしてこんな綺麗にしたのを、たまたまお父さんが買ったって事…?」

「たまたま買ったのは本当に偶然だろうね。ただ、お金をけちったからだろうけど」

 そう、リフォームして綺麗な状態。

しかも破格の値段の割には買い手がずっとつかないでいたのだ。

「うむ。導のやつ、綺麗な家なのに格安だと言ってたからのう」

「……そうなんだ…やっぱり…」

 もしかして琉嬉のケチくさい性格は導ゆずりなのか…?と自分で思った。


「さて、どう対処するんだ?」

 來魅が少しワクワクしながら琉嬉に聞く。

「…楽しそうだな、お前…。まあいいや。無理矢理祓ってもどうせ違う霊がここに寄ってくる場合あるだろうし、霊道自体を移動させるしかないね」

「そんな事出来るの?」

「不可能ではない、よ」

 本当にこういう時には頼りになる姉。

悠飛は心の底から関心する。

「それにしても、琉嬉は若いのにいろんな術出来るんだな。さすがは彼方家の者と言ったところか」

「褒め言葉として受けとっておくよ。何も出ないけどね」

「ケチだのう」



 琉嬉が取った行動とは。

まずは霊が通り抜ける時間まで待つ。

深夜一時。

世間的には丑の刻参りとか、霊が活動が活発になる時間帯と言われている。

それに当てはまっているのか分からないが毎日この時間帯になると霊が決まって通り過ぎていく。

しかも毎日同じ霊が何度も。

「おそらく…ループしてるね」

「るーぷ?」

「同じ所をずっと永遠に移動してるって事さ。行き場がなくなった自縛霊とかにある現象」

「ほぅ」

「妖怪なのに知らない事多いのね」

「うむ。細かい事は気にしないからなっ」

 妖怪と霊は住む世界が違う。

妖怪の方がむしろ人間達と同じ、「生きている側」の住人のため生活は人間と近いのだ。

妖怪によるが、人型に近い妖怪ほど生活は人間と同じようにしている。

來魅が知らなくてもあまりおかしくはない。

「あ、出てきたよ」

 悠飛が居間の窓に現れたのに気づいた。

悠飛が琉嬉らと比べて霊感力が低いと言っても、並みの霊力者よりは強い力を持っている。

一応、簡単に見たり感知したりは出来るのであるが。

「あの霊が何処から来て何処へ行くか追いかけるよ」

「え、マジで?」

「マジマジ。さ、準備して」

「おおぅ」

 霊達が家から出て行ったのを確認して琉嬉達も外へ出て行く。



「何処まで行くんだろ?」

「さぁね」

 兎に角も、後をついて行くしかない。

ついて行く事わずか数分。

霊達がとある場所で止まり、急に横に曲がり姿が消える。

「おい、消えたぞ」

「ここは…」

 少し丘になっている山道が見える。

まだ葉はないが木々が茂っている場所。

「近所にこんな場所あったんだ」

「どうするの?姉ちゃん?」

「…霊達はここを行った。なら行くしかないんじゃない?」

「…マジで~」

 いやいやながらも付き合う悠飛だった。


 山道を突き進む事、10分くらいだろうか。

それでも結構奥に進んだ場所だ。

周りは鬱蒼とした草木。

少し高台なので草木掻き分ければ町並みが見下ろせるかもしれない。

すぐに暗がりでも分かる灰色した鳥居が見えてくる。

「神社?」

「そうだのう」

 あまり手入れ感のされていない神社。

「廃…?」

「廃に限りなく近い…神社かな?ふぅ~、うちの家系はお寺さんなのに神社とは縁が強いなぁ」

 チラっと來魅の顔を見る。

「ん?どうかしたか?」

「いや…」

 琉嬉は神社の社をあちこち見て回る。

人の足跡は一切ついてない。

誰も立ち入ってないようだ。

動物の足跡らしきものならあるのだが。

「おい、琉嬉」

「何?」

「この神社、軽く心霊すぽっととして有名みたいだな」

「へぇ。って、なんでそんな事知ってるの?」

「じゃーん。これを見よ」

 自信満々に見せた物。

それは琉嬉のスマホの画面に映っているサイト。

いわゆる心霊系のサイトだ。

よくみたらここらしき場所が出ている。

またもや來魅のネット術で調べていたようだ。

「霊の目撃談がある神社…として有名みたい。」

「なーるほどね~。話が繋がりますね」

 腕を組み語りだす琉嬉。

「どゆこと?姉ちゃん」

「霊道はここに繋がっている。多分、おそらくだけど、最初に通った霊が「頼りにした場所」をここに選んでしまったんだ」

「選んだ…?ふむ」

「霊が安らぐためには、何か安住の地になる場所が必要になる。そのためにお寺や神社、そういったパワースポット。

そしてそこへ行き、成仏…というか安らいで、この世に別れを告げる。そう言われてる説もある」

「ふむふう」

「霊道の終点はここになってるけど…この神社がこの有様だから、安らげないから霊達が縛られてしまってここから動いて、

結局強い霊道に引き寄せられて、僕らが住んだ家の中を通過して、ここに戻ってくる。

その余計なループ化させてるの犯人が……お前だな」

 琉嬉がお札をシュバッと社の方へ投げつける。

「ぐあっ!」


 札を投げつけられた方に見かけない妖怪が居た。

「ほう…妖か」

 來魅も攻撃仕掛けるような体勢をとっている。悠飛もだ。

「が…う…。貴様…、人間の子供が…なぜそんな力を…?」

 仮面のようなものをしていてよく分からないが、男の妖怪のようだ。

限りなく人に近い形をしているが、長い耳と手足。

「神社に余計な事しないでくれるかな?迷惑してるんだよ。こっちが」

「そうだの」

「くっ…人間のくせに……俺が何をしようが勝手だろう」

「その勝手さが人間様どころか、ここのちび妖怪にも迷惑かけてんの」

「うむ。霊が気になって熟睡出来ないのだ」

「よ、妖怪?そこの小娘が妖怪だと…?いや、たしかにそうだが…」

「ふふん。お主のような小物は喰ってしまってもいいんだぞ?私のような超上級妖怪に餌になると思えば表彰ものだぞ」

「高級やら超上級やら…自分で言うもんかね…」

「表彰されても喰われたら意味ねーだろ…」

「…なんだと?上級?」

「知らぬのか?私はかの有名な妖狐來魅だぞ!」

「ら、らららら、來魅?!」

 來魅の名前を出した途端妖怪の態度が豹変した。

妖怪の間ではかなり強力な存在なのだろう。

封じられていたとはいえ、この名前を聞くと大概の妖怪が怯えるらしい。

「死になくなかったらここから出て行くといいぞ」

「ひぃ…」

「ちょーっと待ったぁ」

 琉嬉が制止する。

「何をする。琉嬉。こんなやつとっとと、とっちめた方がいいだろう。全力出さなくとも今の私でも下級の妖なんぞ一瞬で塵に出来うるわ!」

 両手から闇の炎を出す來魅。

力がかなり封じられているのにも関わらず、それなりに強い霊気のようだ。

「まあまあ、待て待て。理由を聞こうかな?妖怪さん?」

「う…」

 どっちにしろ、逃げ場はない、何をしても勝てない。

そんな状況になってしまっては話すしかないと妖怪は判断した。

「お、俺はな、ここに居た妖怪を捕らえてだな…」

「捕らえてどうしたの?」

「……あれやこれを…」

「何に捕らえたの?」

「……社の中に壷がある。それにだ」

「あ、そう。あんがと。でもね、ここはお前のようなヤツがいてはいけない所だよ」

「へ?」

 有無言わさず琉嬉の本気のパンチが妖怪顔面に決まった。




「せいっ」

 琉嬉は軽い真霊気の力を使い、社の中にあった壷にかけられた封印を解いた。

「ほほう、真霊気とやらは封じの術も解く事可能なんだな」

「まぁね」

 封印を解いてしばらくすると、バリンッと壺が割れた。

その瞬間、美麗な女性の妖怪が現れた。

淡い赤みの色した髪の毛。

ウェーブかかったショートカット。

見た目は20歳前後くらいの女性に見える。

服装は神社にいる巫女服のような服を着ている。

「ああ、外に出れました……ありがとうございます。人間の子」

「…わぁー、綺麗」

「うん。綺麗」

「綺麗というか、可愛いのう」

「あなた方は…?」

「ふかしぎ解決部」

「…はぁ…?」


 琉嬉はこれまでの経緯を話した。

そして逆に封印されていた女性妖怪の話も聞く事にした。

「私はなんか変な男の妖怪に言い寄られて…強く拒否したんですけど…気がついたら壷の中に…」

「そらまた災難だったね。その妖怪らしきやつはぶっ飛ばしておっぱらったから大丈夫だよ」

「そ…そうなんですか…?」

「あ、申し遅れました。私は陽宵(ヒヨイ)と言います。本日はありがとうございますぅ」

 丁寧にお辞儀して礼を言う。

「ああ、こちらこそ…(あれ?)」

 琉嬉達もついつい礼をしてしまう。

非常にまったりというか、ゆったりしたマイペースの妖怪っぽい。

「しかしまあ、妖怪の中でも助平なヤツもいるんだよね…。まったく…。男というやつは…」

 あまり思い出したくない事を思い出してしまう。

「なんかあったのか?琉嬉のヤツ?」

「…んー、昔ちょっとね…」

「ふむ。そうか」


「陽宵さんは…ここの神社に住み着いてる妖怪…だよね?」

「はい。そうです。ですが、この壷に封じられてしまってからまともな仕事も全う出来ず…」

「封じられて何されたの?」

「……それは…ちょっと…」

「聞かない方がいいんじゃない?」

 悠飛が質問を止めた。

きっと、如何わしい事でもされてたのではないだろうか?

そんな勝手な想像してしまったが。

「まぁ、いいや。陽宵さん。あんたがいなくなったせいで、霊道がうまく軌道に乗らずに霊達が永遠に歩き続けてたよ」

「ああ、やはり……申し訳ないです」

「…ふむ?よく話が見えてこないが?」

 來魅は理解が出来てなかった。

同じ妖怪でもまったくタイプの違う妖怪。

「妖怪と言ってもね、神格された、人間が敬う存在の妖もいるんだよ。使う能力とかで」

「ふむ。なんでもかんでも敵対してる訳じゃないんだな」

「…お前が勝手に暴れてたから100年前に封印されたんだろ。陽宵さんは、いい妖怪なんだよ」

「姉ちゃん。陽宵さんは一体どういう…?」

「それは本人から聞いた方が早いと思うよ」

 陽宵本人から語られた事。

それは、自身がこの寂れた神社の祀られた妖だという事。

人々の安全を守る他に、霊達を安らげるために安置された社の役割を持っている事も。

霊道はこの神社に続いている。そしてこの神社で安らぎの世界へ送り届ける役割なのだ。

陽宵はその霊道を管理する役割みたいになっていた。

だが、その陽宵が封じられ、その役割を果たせなくなり霊達が永遠に霊道をループして彷徨ってしまったようだ。


「なるほどのう。私の知らない世界が沢山あるんだな」

「…案外そういう知識ないんだね…來魅って」

「フフン、私は戦ってばかりだったからなっ」

 謎にふんぞり返りながら威張る。

「あの、別に私が死んだ人達の霊魂を安らげてる訳じゃないんですけどね…」

 陽宵は自身の力を否定する。

「いや、陽宵さん自身がそういう力持ってなくても、この神社という建物が元々そういう力を持ってるの。んで、陽宵さんが住み着いたおかげで

この神社の力が安定して機能してるワケ。

神社自体が本体そういう力をしてる事じゃないんだけど、たまたまこういう風になってるだけ…かな?」

「詳しいんですねぇ。ちっちゃいのに」

「…ちっちゃいは余計だけどね…」

 琉嬉が言うには、元々の神社としての役割があったが、霊を安らげる力はなかった。

だが、霊が安住の地を頼って神社という神聖な場所に寄ってくる。

そして安らげる力を身につける。

しかし、管理がされる事もなく敬われる事がなくなると神社としての効力がなくなるという。

そこで陽宵が来て、さらに力が安定、そして強まったため現在の役割に完成したという。

「結果的に陽宵さんのおかげで安定した状況を作ってたんだよ」

「そうなんですね…。私もよくわかってませんでした。えへへ」

 照れ笑いする。

(…なんだこの可愛い妖怪は…)

 一瞬琉嬉の心が魅了されそうになった。

「この先この町のためにも陽宵さんいてね。じゃないとまた霊道が誤作動しちゃう」

「ハイ。大丈夫です。しばらくは」

「しばらく?永久に居るって事じゃないの?」

 悠飛が疑問に思い質問する。

「悠飛、いくら妖怪って言っても…永遠に生き続けるわけじゃないと思うよ」

「うむ。そうだのう。生きてる者、いずれ散る運命だ」

「はい。そういった意味ではいずれ後継者…考えなきゃいけませんかね?」

「人間に関すれば気の遠い話だけどね。僕らの代では間違いなく交代はないよ」

「そんなもんなの…?」

 なんか、納得いくような、いかないような。

腑に落ちない悠飛であった。

 

「これで無事解決?」

 悠飛が腕時計を気にしながら言う。

深夜3時頃。いい加減戻らないと面倒かもしれない。

せっかくの休みもこんな怪奇じみた事件で潰されてしまったのが悔やまれる。

「いーや、まだ解決してないよ。ま、そろそろ父さんがうまくやってると思うけど」

「父さんが?」

「うん。それと……この神社をないがしろにされ過ぎだね。お参りに来る人なんていた?」

「…ここ20年間はあまり…」

「だろうね。かろうじて存在してる感じだろうし」

「あ、でもたまにお爺さんが来てくれましたよ!」

「聞くけど、それいつの話?」

「最後に来てくれたのは、10年くらい前ですね」

 3人はズコーッとこけそうになった。


 陽宵は5年ほど前に封じられたという。

その間霊道ループが始まって、琉嬉が引っ越した先の家に毎日目撃されるようになった。

この5年間という少々長い期間があったせいか、住人が来ても来てもすぐ出て行く結果になったのだろう。

買い手がすぐついてはすぐ手放す。

元々古めの建物だったのを思い切ってリフォームしたのをたまたま導が手に入れた…というワケだ。

「なんか疲れたのう」

「そうだね…。陽宵さん。僕達は帰るよ。どうせ家近所なんだし、いつでも会えるよ」

「そうですね。こんな時間にどうもありがとうございました」

 ぺこりと深く頭を下げる。

「それじゃ」

 山道を降りていく琉嬉達。

陽宵は笑顔で手を振っている。


こうして、奇妙な心霊現象の元となった事件を解決と…なるのだった。


が、まだ終ってなかった。


「姉ちゃん、父さんがどうのこうのって言ってたけど何?」

「そうだ、それが気になるぞ?」

「ああ、それね。帰ってみれば分かるよ」

 琉嬉がもったいぶってその場では言わない。

おとなしく二人は聞き入れて自宅に戻った。



「やあ、お帰り」

「父さん」

 家に戻ってきた3人が見た光景は、疲れきった表情の導。

嶺珠の姿はない。おそらく寝てるのだろう。

「ええ、と…これは?」

 玄関の脇から居間が見える窓がる庭。

そこに、一定の間隔に置かれた謎の棒。

「これ…は陣?」

「そうだよ。陣を張って、強力な結界を張って霊道を消したんだよ」

「え?消した?でもそんな事したら…」

 不安になる悠飛。

「だから、家の中を通られるのは困るから、霊道を一旦消して、別な所に作るのさ。その為には出来上がった霊道を消して、新たに霊道を作ってあげればいい」

「…そんな事出来るの?てかうまくいくの?」

「ま、それをやるにはまた明日にならないとだめだけどね」

「そうだね、疲れただろ?早くお入り」

「うん」



 翌日になって悠飛の疑問が解消された。

霊道を消し、新たに作るという理由が理解できたのだ。

家に結界を作り、霊が侵入出来ないようにし、行き場がなくなった霊は

新たに道筋を作り出す。

そこが新たな霊道とし、機能しだしたのだ。

とはいえ、変な方向に出来ないように、導がきちんと霊道の元となる陣を作り誘導したのだが。

「あまり霊力高くないと言ってた割にはしっかり術使えるんじゃないか」

「ハハ、まあね。こう見えても彼方家の血筋だから」

「そりゃそうだろ。僕の親なんだから。これくらいは出来るさ」

 珍しい琉嬉の褒め言葉。

「これでもう家の中に霊が現れる事もないよ」

「…それでも自分の家の目の前に霊が通っていくのが気になるっちゃ気になるんだけど…。もっと遠めに出来なかったの?」

「はは。それはおいおい考えとくよ。今はこれが限界さ」

「……ふむー。しゃあないね」



 琉嬉が出したこの事件の見解。

家の買い手が次々と変わったのは家の中に霊道が出来ていたから。

さらに霊道が無限ループ化してたため、霊感がない者もタイミングによって霊を目撃してただろうという説。

そしてループ化の原因は神社。

その神社にいた妖が、別の妖怪によって封じられ、神社の力が機能してたなかった事。

多少なりとも複雑に絡まった出来事からだった。

「…あの神社がおざなりになってるせいがあるから、他の妖怪が寄り付いたせいもあるんだよ。陽宵もいい迷惑だっただろうに」

「そんなもんなのか?」

「父さん」

「なんだい?」

「近所の神社の事なんだけどさ…。ちょっと管理してる自治会だかわからないけど、きちんと敬うようにして欲しいって言ってあげてくれない?」

「……う~ん、新参者が突然言ってもどうだろうね?」

「…父さんがだめなら、じじいを呼び寄せるまでさ」

「……じいちゃんかぁ。あの人も徹底的な事するからね…」

 以前、悠飛のクラスメイトの事件についていろいろあった。

その時も最終的に祖父の炎良を呼んで半分無茶苦茶な説法で丸く治めたらしい。

一応坊さんである炎良を呼んでどうにかしてもらおうという魂胆だ。

「………神道に対して仏教が口出すようなもん?」

「細かい事気にするな悠飛。ウチは形式は寺だけど、どこも属してないヘンテコでムチャクチャなお寺だし」

 琉嬉はこう答える。

「そりゃそうだけど…」

「それに、あの神社は神社で妖が住み着いてるし」

「ははは、それもそうだのう」

「…変に不安だよ」



 結局、そんな日にちも経たずに、導や炎良らが動いてくれ神社の管理を怠らないようになった。

元々大きな神社ではないこと、神主もいない、ただただ形だけの神社だったそうだ。

歴史も100年以上前からあるそうだが、歴史がそう長くない分、大した事に使われてなかったそうである。

少し行ったところにきちんとしている大きな神社があるせいでもあるだろうとの事。

わざわざやってきた炎良も新居に来て楽しそうにして帰って行った。

「…これ以上面倒な事に関わりあいたくないね…ほんと」

「まったくだよ」

 彼方姉妹がため息をつく。

「そうか?案外楽しめたじゃないか」

「お前は今回大した事してないくせに…」

「フハハ。そうだな」

「笑い事かよ…」

 こうして、引越し早々の怪奇事件は幕を閉じた。

琉嬉らは時折陽宵の様子を見に行く日課が出来たのだった。

陽宵も嬉しそうにすぐ姿を現す。




 こうして、貴重なGWという連休があっという間に進んでいく。

気温も少し上がってきて、春らしい春になっていった。

「よし、決めたぞ!」

「お?何をだ?」

「部活の形式。学校だけじゃなく、街全体のふかしぎな事件を解決する!それが「ふかしぎ解決部!」

「…おお、なんか凄そうだの!」

「……なにそれ…琉嬉姉ちゃん…本当に言ってるの?」

「本気さ」

「……とは、顧問に…耿助さんやってもらえないかなぁ?」

 何やら考えがまとまってきたようだ。

引越しも完了し、琉嬉は新たな気持ちを迎えた。


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