#5 春のち冬のち春
やっと暖かくなってきた日差し。
転校してきてから三週間たらず。
いろいろなバトルからまだ5日たらず。
本当にいろいろあった。
ありすぎて心身供にさすがに疲れた表情だった。
(このまま何もなく1年過ぎて欲しい…)
心底悩んでいた。
この学校に転校してきた後、いろんな面倒事に振り回されている。
さすがの琉嬉もネガティブモードだった。
「おっす」
女のカケラさえなさそうなぶっきらぼうな挨拶。
護だった。
親しい仲間が来ても琉嬉は机にうなだれて動こうとしない。
「元気ないね~」
「うん」
「おいしいラーメン屋でも行こうか?」
「女だけでか…?」
「おいしいパン屋さん!クリームパンとか!」
「さっき食べたからいらない」
「ケーキバイキング!」
「太るからだめ」
「じゃあ、ゲーセン!」
「みゆとか御琴と行けば」
「むむ…じゃあ、みゆの家!」
「あいつの家は落ち着かない」
「むむむぅ…じゃあ、適当に買い物!」
「目的ない買い物は嫌いだ」
「うぬぬ…じゃあ、ゲームショップ巡り!」
「最近新作出てない」
「……あちゃ~。こりゃ重症だね」
「うん…」
「…だめだこりゃ」
興味ありそうな事何言っても効果なし。
それほど疲れきっているようだった。
「琉嬉ちゃん~まだ若いんだから今からそんなに疲れてたら体持たないよ」
「う~ん…」
「だめだめ。最近元気ないのよ~」
「うんうん。相当滅入ってるみたい」
みなっち&ゆう。
二人の力を持ってしても立ち直りがきかない様子だった。
琉嬉が力ない理由はもうひとつあった。
「ふかしぎ部」を作るために生徒会へ行った時であった。
「あのー、すみませーん」
コンコンと、生徒会室の戸をノックする。
すると中から返事が聞こえた。
「どうぞ~」
「しっつれいします」
入ってみると、一人の女子生徒が居た。
中の窓からの夕日が逆光で眩しい。
周りは誰もいない。
一人のようだ。
「あのー、生徒会の人ですかね?」
「はい。そうですよ」
その女子生徒は、少し地味な雰囲気を出しているが、可愛らしい人だ。
髪型も三つ編みをひとつに束ねた、おさげ。
「えーと、部活作りたいんですけど、いいですかね?先生の方には許可取ってるんだけど…」
「はいはい。聞いてますよ。彼方さんですねえ」
「あ、はい(知ってるんかよ)」
部活許可証の用紙をこの女子生徒に出す。
「はぁい、たしかに承りました」
「あ、ども」
どうもほわほわした喋り方なのに、淡々としてて調子狂う。
この女子生徒は多分生徒会のメンバーなのだろうが。
「あの……申請許可はいつ下りるんですかね?」
「ん~、それはGW明けくらいですかねぇ?分かりませんけど。うふふ」
「ああ、そうですか…(何か会話しづらい…)」
「部活に使っていいような部屋ってあるんですかね?」
「なんなら生徒会室の隣空いてますんで使います?」
「へ?」
生徒会室の隣。
女子生徒が室内にある廊下とは続いてない、戸に向かい、開ける。
すると、ガランとした、机と棚しか置いてない部屋があった。
「……なんで使ってないんですか?ココ…」
「なんせ、生徒会室だけで生徒会の資料など賄えてるので…どうせならどうですか?」
「ああ、うん……使っていいのなら使いますけど…」
「ならよかった~。じゃあ担当の先生にも許可が正式に下りるまでにも使用してもらっていいですよ。私が責任持ちますから」
「そ、そうですか…」
なんとも、スッキリしない感があってどうもモヤモヤする琉嬉。
いろいろありすぎて生徒会に部活の話を通すのも遅くなってしまったのだ。
結局部活が正式に作れても使用できる部屋がないと何も出来ない。
その部室が確保が出来たのがいいが…なんと生徒会室の隣の部屋。
なんか上手くハメられたような感じもするが、良しとする。
あれこれ考えてるうちに気持ちよい陽気の中時間が進んでいく。
何事もなければいい。
そう思っている琉嬉だったが、すぐにイベントはやってきた。
「琉嬉ちゃん琉嬉ちゃん!」
「…はい?」
お騒がせ娘みゆ。
いつの間にか先輩じゃなくちゃん付けで呼んでる。
この突拍子もないお嬢様?のおかげで、以前にえらい迷惑を受けた。
とはいえ交渉の「ゲームおごり」に乗ったわけでもあるのだが。
あのあと結局ゲーム一本を買ってもらったのだ。
「せっかくなんでみんなで遊びに行こう~! なんてたってゴールデンウィークぅ~!だからね~」
「…お前のおごりでなら」
「いいよん~」
金銭に弱い琉嬉。
「ただし、交通費は各々で」
「ケチ」
「む。じゃ、交通費も負担してあげるよ!」
「それでこそ港咲財閥!」
途端に元気になる琉嬉。
「……財閥って…。ねえ琉嬉ちゃんって相当お金の亡者…?」
さすがにみゆも引く。 貪欲とはこの事か。
自分のお金はよっぽど使いたくないらしい。
「さて、どこかに行くによるね~」
「…温泉がいい。近場でいいから」
「じゃ、決まり!」
即決。
何も考えてないのか。
トントン拍子に話が進んでいった。
すっかり世間はゴールンデンウィーク(以下GW)の話題で持ちきりだ。
もちろん彼方家も…。
「いいなあ~。お父さんも一緒に行きたいなあ~…。せっかくのGWなのに。引越しもあるのに…」
「だめ」
「え~そこをなんとか…」
「女だけだし。まだみんな学生だし」
自宅。
琉嬉の父親、導も一緒に行きたいとごねる。
「また今度ね」
軽くあしらう。
「来週あたりにとかでどうだい?まだ休みは続くだろ?」
「……」
来週とはまた早いな。と思う琉嬉。
でも好きな温泉行けるのだったら…と考える。
「いいよ。暇あったらね」
「そうこなくっちゃ!家族で温泉旅行とかもいいよね~」
「まったくこのオヤジは…。て、家族で…。ん?」
「そうそう、GW中には母さんと悠飛がこっち来るよ」
「ほんと?」
琉嬉の母親ら家族。
ようやく三ヶ月ぶりにまた一緒に過ごせる。
事情があって中々こっちには来れずにいた。
だが、琉嬉は温泉旅行に行く約束をしている。
さて、どうしたものか。
「うーむむ…、どうするか。現地で会えたりしないのかな…。無理か」
「あ、そっか。琉嬉ちゃん温泉に行くって言ってたね。どうだい?母さんに言って、
長旅を癒すためにも温泉に寄ってくるように言っとくかい? せっかくのGW。ついでにゆっくりしてくるのもいいかもしれないよって」
「なんか無茶苦茶な予定になるだろうに…。大体遠回りになるじゃん」
「なあなあ、琉嬉よ。私は行っても大丈夫か?」
來魅が目を輝かせて言う。
「え?それは……どうだろう?」
「だめなのかの?」
「う……」
見つめてくる顔は可愛らしい幼女だ。
とてもあんな恐ろしい強さを持つ妖怪とは思えない。
「あう…しょうがないなぁ…。引越し作業を手伝ってくれるんならいいよ」
「おお、そうか!じゃあ頑張るぞー」
「何を頑張るんだよ…」
この天使のような笑顔に負けてしまう琉嬉であった。
不安だらけのとんでも合流が決定した。
GW三日目。朝。
といってももう昼に近い。
11時前頃。
みんなみゆの家に集まっていた。
みゆの家から出発するという。
琉嬉は少し気怠そうだった。
なんせ、GWのはじめは引越し作業をずっとしてたからだ。
なんとか、一軒家に荷物をほとんど運び終えた。
あとはこの旅行の後に最後の仕分けをして終わるのだが、その前に小旅行を楽しむ事になった。
「やあ」
最後の到着したのは琉嬉だった。それと…。
「おー、琉嬉ちゃ~ん…って、誰?その子?」
「やおー」
呑気に変な言葉と共に挨拶をする來魅。
みゆ達には見慣れない少女が琉嬉と一緒にやってきた。
そう、來魅である。
結局くっついてきた。
「あー、話すと長くなるんだけど…」
「いいよいいよ、ざっくりでいいから~」
「あれ、その子…この前森中にいた子だよね?外人の子?」
護は初見ではない。
一度琉嬉との戦いが終わった後で会っている。
「んーと、何処から話せばいいのかな。まあ、なんていうか…訳あって預かっている親戚の子…という訳にもいかないか」
「どゆこと?」
「ん、まあ、いずれバレる事だ。私から話そう」
來魅が自ら話すと言い出した。
「ええぇぇぇーーー?!」
みんなが驚愕する。
ハモった声が屋敷周りをこだまする。
「妖怪ぃ?!嘘だぁ…」
護は気づいてなかったようだ。
それもその筈。
あの時は來魅は霊力をまだほとんど失っていた訳だ。
そしてこの見た目。
普通の人間と思ってたようだ。
「そうそう~。こんな可愛い妖怪の女の子がいるわけ…あるよねえ。だって今目の前にいるんだもん」
「うむ。これからよろしくなっ」
まばゆいくらいの可愛い笑顔をふりまく。
「可愛い~」
「本当ですね」
來魅は自身が妖怪だという事を話した。
だが、この地域に居座った最強の妖狐…とは話さなかった。
「でも、信じられません…妖怪だなんて…。普通の人間の女の子と変わりないように見えませんが?」
疑問を持つ御琴。
「む、何を言うか。力は最大限に使えなくともこれくらいはできるぞ」
そう言うとボフンッと來魅の体を煙が包む。
するとちっちゃな狐が現れた。
「うひょ~可愛い~」
「どうだ?」
「うひゃ、狐が喋った~」
「次はこれだ」
再びボフンッと変身する。
すると今度は大人の女性の姿をした來魅になる。
「うわお~、ボインボイン~」
「おっさんかよ…みゆ」
「ふふん、どうだ?これで分かるだろ?私くらいの上級の妖怪となると、変化の術は余裕だぞ」
「ハイハイ、それはいいから、今回はおとなしくしててね?」
琉嬉がペチンッと指を鳴らすと、來魅の変化の術が解けて元の幼女の姿になる。
「あ、戻った」
「ああ~、けちくさいやつだの。もう少しくらいいいだろう?」
「いいから出発しよう」
「…今後ここから出かけるっての多くなりそうだね。楽しみだ~」
ワクワク気分の護。
普段こういう事ないのだろう。
一番はりきってるようにも見える。
「男性陣って僕一人ですかね…?」
「だね~」
逆に不安の御琴。
「気にするなって~。半分男扱いされてないようなもんだしさっ。美少年!」
「何も嬉しくないですよ…それ」
小型バス。
そんなものまで手配する港咲家。
金持ちはそんなの当たり前なのであろう。
運転手とは別に使用人の正木さんも付いてくるようだ。
「さあ~揃ったところで早速出発しま「あ、ちょっと待って」
出発するみゆ達を遮る琉嬉。
「その前にさ、もうひとついい?」
「ほえ?まだ何かあるの?」
琉嬉は家族が来るというのを話した。
ついでにどうせなら一行が行く温泉で合流でもしようかと。
通り道なので会えるだろうという魂胆。
「いいよ~。琉嬉ちゃんのお母さんとか会ってみたいしね」
「どういう期待なんだそれ…」
なんて事を話しながら出発するのであった。
車で進むこと1時間弱。
いや、もっとかもしれない。
長い間乗ってたかもしれない。
会話ばっかりの者いれば寝てる者もいる。
ここぞとばかりに携帯ゲームを進める琉嬉。
「…ゲームやってたら乗り物酔いしない?」
「大丈夫。酔わないやり方あるから」
「……さすが…。プロだ」
「わ、私はどうも車というやつにはまだ慣れん…」
「大丈夫?來魅ちゃん?」
どうやら來魅は琉嬉とは正反対に乗り物酔いを起こしてるようだ。
意外な弱点を発見。
それぞれの思惑で到着。
「さあ~着いたね~」
まだ昼の3時過ぎ。
「よーし、ちぇっくい~ん」
「元気だね…」
そんなみゆを横目にみんなは目を輝せていた。
綺麗な旅館。
古くはあるがとても綺麗。
「さて、早速部屋へれっつごー」
「あの~…僕はどうすれば…?」
唯一の男子一人。御琴。
「んーとね。大部屋にしたからみんな入れるよ。みこっちゃんも一緒」
「…待ってくださいよ!これでも僕は男ですから…」
「めんどいからいいじゃん。もう」
やはり9割方男として考えてないようだ。
女顔だけではなく、決して高くはない身長。
ガリガリでもないほどよい肉付きの細さ。
これは女に間違えられてもおかしくはない。
「では、みなさん。今日のスケジュールはどうします?」
「ちょっくら外を出歩くのもいいかも?」
「それともまず温泉入る?」
「私は先に風呂に行くとしよう」
「僕も先に行きたいです」
「じゃ、わたしも~」
みゆと御琴、そして來魅は先に入るという。
「僕も後で入るかな。今ゲームいいところだし」
琉嬉は後に入る事に決定。
と言ってもゲーム終了してから。
「護は?」
「うーん…どうするかな~。とりあえず後にしようかな。後でまたみんな入るでしょ?」
「だね~」
護はと琉嬉は後に入る事になる。
とりあえずはバラバラに行動することに。
一人部屋に残る琉嬉。
黙々とゲーム中。
護はどこかへ出て行った。
「うー…ん。疲れたな。そろそろ入ってこようかな…」
そう思ってるのも束の間。
なんかのゲームの音楽が流れてくる。
琉嬉のスマホが着信している。
「ん?」
メールだった。
内容は母親から。
そろそろここの温泉街に着きそうだと。
「…先に入る前に迎えに行った方がいいのかな」
そう言い立ちあがるとちょっとした違和感を感じた。
「……この旅館もいるねぇ…。浮遊?」
ふと気づくと目の前には人がいた。
というより人型した物体…。 霊体だと思われるもの。
だがすぐさまふっと姿を消した。
「…ふーむ。ここの霊なのかな?ま、いっか。よくある事だし」
慣れた琉嬉にとってはそう気にするものでもなかった。
あまり見てなかったが旅館近くには綺麗な山々。
景色が綺麗。
新緑真っ盛り。
天気もよく散歩日和というやつなのだろう。
硫黄の臭いがこもる中、琉嬉はテクテク歩いていた。
「お、どこぞの小学生かと思えば琉嬉ちゃんじゃん」
「護か。小学生とか言うなっ」
偶然にも護と合流。
そう遠い所には行ってなかったようだ。
「何してたの?」
「いや~なんかお土産になるものとかないかとね~。そういう琉嬉ちゃんはどしたの?お風呂には行ってないの?」
「ん?いや、お母さん達がそろそろ着くっていうから迎えに…」
「ほうほう。んじゃ一緒に行きますか。琉嬉ちゃんのお母さんってどんな人なんだろうね~」
「変な期待しない方がいいって。普通だから」
「本当に?」
怪しげな表情をする護。
「どこで待ち合わせ?」
「近くの公園の駐車場だかって…なんでわざわざそこなんだか」
「娘扱いがひどいようで…」
ともかく、その公園とやらに向かう二人。
「……のう、お主、みゆと言ったな?」
「うん。そだよ~」
來魅とみゆは早速風呂に浸かっていた。
大浴場。
連休だけあって他の人も沢山いる。
「…やっぱり、あの時会った子だよね?」
「会った?いつだ?」
「えー、忘れちゃったー?」
「ふむ…?」
二人は以前に会ってるらしい。
しかし來魅は覚えてないようだ。
ザバッと水音を立てながらみゆが立ち上がる。
窓の方へ行き、景色を眺める。
「気持ちいいね~」
「うむ」
「ねえねえ、來魅ちゃんって言ったけ?本当に妖怪さんなの?」
「そうだぞ。さっきも見ただろ?今は琉嬉のヤツに力を封印させられてのう。変化の術とか、低級の術しか使えんのだ」
「ほへぇ」
当たり障りのない会話をする二人。
しかし、みゆはヘラヘラ笑っているが、いきなり会話の内容を切り替えた。
「來魅ちゃん…って、あれだよね?あれ」
「あれとはなんだ?」
「んー、隠してるつもりだろうけど…わたしには分かっちゃてるんだよね~?」
「……ほぅ?」
少し切り詰めた雰囲気になる。
「………五大家…知ってる?」
「うむ」
「へっへ~やっぱり。じゃ、來魅ちゃんは100年前に封じられた妖怪さんだ」
「………ふむ。気づいておったな。お主」
「気づかない訳ないじゃん~。えへへ。こう見えても五大家のひとつの、港咲家の人間ですから」
ぽよんっと、みかけによらない大きな胸を突き出して威張るようなポーズを取る。
どこか陽気でおちゃらけた感じを出しているみゆだが、ちゃっかりと気づいていたようだ。
「ふふふ。面白いな。私を封じた者達の子孫とこうして同じ風呂に浸かってるという状況は。時の流れを感じらせるぞ」
「………多分、琉嬉ちゃんと話したのかもしれないけど、恨んではいないの?」
「恨む?そんな気持ちなんぞとっくにないよ。心が広いのだ。私は」
どうやら本当に恨んでるような様子はないようだ。
「へぇ~、さすが來魅ちゃん。あっぱれ!」
「ふふん」
今度は來魅が無い胸を突き出す様なポーズ。
(でも正直、本当に大物の妖怪なのかどうかは分からないんだけどね…)
眉唾物。
本当かどうかは現時点ではみゆには分からない様子だった。
「は~いい景色だね~」
旅館など見下ろせる公園。
その駐車場。
車が沢山止まっている。
さすがは大型連休の中。
なかなかの混み具合である。
まだ来てる様子はない。
「どする?待ってるのも暇だしちょっとその辺散歩でもしてこようか?」
「……うん」
「イマイチ乗り気じゃないなぁ…」
「いい所だね~。都会暮らしには気持ちいいわね~。って言うほど都会じゃないんだけどさ」
「うん」
(…なんですかこのノリ…。いや、まあ昨日からの琉嬉ちゃんと変わってないっちゃあ変わってないけど…)
かなりローテーション。
元から明るくはない性格ではあるが。
その時であった。
「!」
ザザザザ…と木々がざわめつく。
「気づいた?」
「うん」
二人は強い霊気を感じていた。
それも一つじゃないと。
「ここって心霊で有名な公園?」
「そういうのってみゆが詳しいよ」
先ほどの爽やかな空気が一片していた。
肌寒い風が通り抜ける。
いや、妙に冷たすぎる。
5月の始め。
気温なんぞ15度近くにはなる。
それでも肌寒いのには変わりないが、尋常ではない冷たい空気。
「ねえ…これって寒すぎない?」
異変を感じ取る。
護の喋る口からは白い息がもれてた。
気づけばかなり気温が下がっている。
「……これって…?」
何かに気づいた様子の琉嬉。
「もう春なのに、冷えた空気…なんかヘンだよ?」
「そうだね…」
琉嬉は冷静に心構える。
空を見上げると雪が舞っている。
「え?雪?…嘘でしょ?」
キラキラ舞い落ちる白い物。
まさしく雪だ。
この時期に雪…。
多少山中であればおかしくはないかもしれない。
だが、モノの数分前は、あきらかに気温が雪が降るような寒さではなかった。
急激に冷え込んだのだ。
より一層、雪が強くなったとき。
その瞬間であった。
「覚悟っ!」
突然木々の茂みから人影が現れた。
「んなっ!?」
急襲。
剣みたいな武器で攻撃。
だが護が間一髪霊力剣で受けとめる。
「ななな、なんだおまえっ?突然攻撃とか?!」
「うるさい!」
「わっ!」
護は力まかせに吹き飛ばされた。
突然現れた人物―。
少年…のようだった。
美形。
顔の半分が髪の毛で隠れるような、ビジュアル系のバンドににでもいそうな髪型だ。
スラっとしたスタイル。
上着はジャケットのようでズボンは革パンのような光沢のあるズボンだ。
右腕には剣のような物…。
剣を持っているというより、剣の形したものが腕を覆っている。
それで攻撃してきたようだ。
「…氷の剣……?」
冷気の正体。
この少年が放っていたようだった。
「お前っ!なんなんだ!?一体?!いきなり攻撃してて…何様のつもりか知らないけど… 場合によっちゃぁ許さないよ!」
護も戦闘モードに入る。
そしてすぐさま仕掛ける。
「くっ!」
少年もすぐ攻撃を受けとめる。
「ちょこまかと!」
「こっちのセリフだって!」
壮絶な斬り合いが始まっていた。
護の動きについていける程の動きを展開している少年。
「凍桜!」
無数の凍りの刃が放たれる。
「こんなの!!」
全てを切り刻みながら突撃する護。
「前もこんな攻撃を受けたよ!」
おそらく琉嬉の攻撃方法の一つの事だろう。
護には通用しなかった。
「なんて女だ…!」
「こっちもお返し!」
護の霊力剣から圧縮された霊撃が放たれる。
いわゆる飛び道具。
「サンダーストライク!!」
ネーミングはさておき、まばゆい稲妻のような霊撃が剣から解き放たれる。
かなり強力な霊力のエネルギーだ。
「くぅっ!」
そのまままっすぐ少年の方に向かう。
「盾っ!!」
氷の盾…とでもいうべきか?
そのまま霊撃は盾に当たり反射した。
「いぃぃっ!?マジでっ!?」
自分の放った霊撃が跳ね返ってくる。
なんとか避ける護。
「もらった!」
スキをついて攻撃する少年。
「このぉ!」
護が脅威的な反射神経で態勢を立て直し霊力剣で弾く。
だが、それでも揺るぎ無い攻撃が続く。
その瞬間だった。
ガキンッと大きな音が響く。
「!!」
「はいはい、二人ともやめて」
仲裁に入ったのは琉嬉だった。
「護、僕の家族を倒さないで下さい。そして悠飛、僕の仲間を倒さないで下さい」
一瞬時間が止まったのように二人ともピタっと止まる。
その間5秒くらいだろうか。
静寂かえる。
「ええぇぇぇ!?」
先に声を張り上げたのは護だった。
「今、なんと…?」
「いや、だから家族…」
「な、なんだってーーーー!!??」
驚く護。
「……うるさい女だなぁ…」
少年がぶっきらぼうに呟く。
「…家族って事は…、何?兄弟かなんか?」
「そだよ」
「えええぇぇぇーーーーー!?!?」
「うるさい」
「うぐっ」
琉嬉チョップが護の頭に命中していた。
「…ごめん。琉嬉姉ちゃん。てっきりこの女の人と戦ってたのかと」
「…勘違いもいいところだよ。様子も見ないでいきなり攻撃しかけるのはどうかと思うよ」
「ごめん…。なんか大きな霊力と琉嬉がいたからてっきり…」
どうやら大きな勘違いしていたようである。
迷惑このうえないと言った表情をしている護。
さすがにしんどかったようだ。
「そのわりには琉嬉ちゃん。しばらく戦い見てたじゃん」
「あんなハイレベルな戦闘に割り込める余地がタイミングよくそんなにあるか、バカ」
相当本気に近い感じで戦っていた二人。
さすがの琉嬉も中々入り込めないでいた。
「…て、姉ちゃんってさっきから言ってるけど…もしかしてお兄さんとかじゃないの?」
「……」
黙り込む悠飛。
「…あのさ、僕の方が上なんだよ。悠飛はまだ中学生だし。今三年?」
「…うん」
「な、なんだってーーーーぇぇぇぇ!!」
「だからうるさい」
その場は雪がすっかり溶けて、さっきと同じように綺麗な景色になっていた。
だが、若干公園内は先ほどのバトルで多少地形が変わっていたが。
気になる点が琉嬉は考えていた。
大きな霊気が二つ以上あった。
一つは悠飛のに間違いない。
だがもう一つのは……?
今はもうすでに感じられない。
悠飛に聞いてもおぼえはないらしい。
護の方も別に今は何もないと。
自分だけが感じていた?
そんな訳ない。
護も複数感じていたとは言うが。
「琉嬉ちゃ~ん」
「あ、母さん」
何事もなかったかのようにスラっとした綺麗な女性が琉嬉の呼んでいる。
琉嬉の母親らしき人物が琉嬉らのもとにやってきた。
謎を残したまま母親と合流し、旅館に戻った。
「はぁ~余計な汗かいたよぉ~…」
「……ごめんなさい」
「いや、いいって。正直けっこうビビったんだけどね」
護も焦らすほど悠飛は強かったのだろう。
ほとんど互角のような動きだった。
単純な体術ならどっちが勝つか分からないかもしれない。
「お帰り~」
みゆだ。
すっかり浴衣も着て気分全開。
「お、戻ってきたかの。お前様」
來魅も浴衣姿。
すごく似合っている。
「お?そちらのお二方は?」
「……うちの家族」
「ども~琉嬉ちゃんの母親です。娘がお世話様になってます」
「……こんちは」
「おう、この物達が琉嬉の他の家族か」
彼方嶺珠。40歳。琉嬉らの母親なのだが、かなり若く見える。
30代前半と言っても、いや、むしろ20代と言っても通用しそうだ。
そして彼方悠飛。14歳。中学三年生。
どうみても琉嬉より年上に見える。
護とみゆはコソコソ話をしている。
「…琉嬉ちゃんのお母さんって…若いね」
「そりゃ、娘が高校生に見えない程若いからね」
「聞こえてるぞそこの二人」
「ひぃ!」
みゆはさらに気になる事を聞き出す。
「え…とこちらのお方はお兄さん?」
「…違います」
「じゃあ弟さん?」
「…違います」
「…??まぁいっか」
「いいのかよ!」
総ツッコミをくらうみゆ。
あまり細かい事を気にしないみゆならでは言動であった。
「この子が例の子?」
嶺珠が早速気になったのは來魅だ。
「おう、よろしくだ。しばらく厄介になる観薙來魅だ。琉嬉の母親よ」
「嶺珠でいいわよ~。しかし可愛いわねぇ。娘が増えたみたい」
「だいぶ年上なんだがなぁ」
琉嬉の母親だけあって、理由を聞いてても驚きもしない。
かなり肝が据わった人間なのであろう。
來魅に抱きつく。
「これこれ、嶺珠とやら、抱きつくではない」
「いや~ジジくさい喋り方も可愛いね~」
「ジ、ジジくさい…」
自分の喋り方が年寄りくさいと言われ、ちょっとガッカリした。
「温泉温泉♪」
「さっきも入ったんじゃないの?」
「ここはみんなで入るのが楽しいのさ~。裸のつきあいってやつ?」
「琉嬉ちゃん温泉好きじゃなかった?」
楽しそうなみゆ達に対して琉嬉はローテンション。
「ん?どしたの?琉嬉たん」
「…いや、別に…」
「一緒に入るのが嫌とか?」
「…」
服を脱ぎながら語り出す。
「…みんなスタイルいいからさ」
「何言ってるの~ちっちゃいってのも需要あるんですよ~?」
みゆがいらん事を言う。
「お前にはネガティブっていう言葉はないんだろうな」
「わ~護ちゃんすごいいいスタイル~」
「胸もやっぱり大きいのう」
「あんまりジロジロみないように!」
照れる護。
実はあまりこういうのに慣れてないのかもしれない。
たしかに護は背も平均より高め…。
くびれてる所はくびれてるし出てるところは出てている。
同性からもうらやまれるスタイルをしているのだ。
それく比べ琉嬉はというと…。
「何?」
みゆがすかさず質問。
「琉嬉ちゃん…それって…やっぱり女児用?」
着用してるのはジュニアサイズ用の下着。
背も低く、細身で締まった体格のため大人用のサイズでは合う下着があまりないようだ。
もちろん下着だけでもなく、服も。
「…悪い?合うサイズがないから仕方ないだろ」
「あ、悪くはないですよ~。に、似合ってると思いますよ?」
「…嬉しくないやい」
「うへ…ごめんなさい」
触れてはいけないところに触れる。
さすがはみゆであった。
「あ、あれ…?あれって悠飛くんじゃない?」
ふとみると悠飛がいる。
「あれれ~ここって女性風呂だよ?」
「えっ?」
悠飛が不思議そうな顔をする。
「男の子は隣だよ~?」
「……え…、エエェェ!?」
ガーンと聞こえそうな勢いで声を出して愕然とする悠飛。
よくよく見ると下着は女性物…。
細身ではあるが、胸はふくよかに出ている。
腰周りは綺麗なカーブ線を描いていて美しい。
悠飛が顔を真っ赤にしている。
「あの…私…男じゃないっ…」
「ん…?あれ?君って…、もしかして…女の子??」
「えええーーぇぇ??!」
今度はみんながびっくりした声をあげる。
そう。
悠飛は女である。
ボーイッシュとでもいうのだろうか。
ともかくかっこいい女の子なのであった。
「…いつ誰が悠飛を弟って言ったんだよ…」
つまり、琉嬉が姉で悠飛が妹なのである。
「……みんなして…ヒドイ」
残念そうにする悠飛。
綺麗な浴場。
熱い湯気。
温泉の香りが心地好い。
さすがにGWのせいか、人が多い。
「ひゃ~絶景だね~」
露天風呂からの景色も最高。
「また紅葉とかの時期に来たら最高かもね~」
「だね~」
はしゃぐみんなを後目にクールな琉嬉。
冷静に考えて護に問いかける。
「僕達ってこんなに仲良かったけ…?」
「ま~いいんじゃないの?ギクシャクした関係よりは」
「そんなもんなのかね…」
一際遠目ににいる悠飛。
さっきの出来事がショックだったのか、それとも元からの性格なのか、
近寄って話す事もない。
「…悠飛くんってさ、人見知りするタイプ?」
「……ん~…。僕より無口でクールかな。多少人見知りはあるかも」
「ふーん…」
護は冷静に琉嬉と悠飛を交互に見比べてる。
似てるといやぁ…似てる。
目元や決して明るくはないクールな雰囲気。
そこは似ている。
でもほとんどそれ意外は共通点ないように見える。
そう、身長など体格がまったく似ていない。
琉嬉と悠飛とでは、まったく背の高さが違う。
「なんていうかさ。悠飛くんってさ。男の子っぽいけど全然女として成長してるよね」
「はあ?」
「それにひきかえお姉さんの琉嬉ちゃんは…」
ぺたーん。
「なんだ…その間わ…」
背も胸も成長してない琉嬉。
「ね、琉嬉ちゃんってさ、子供料金とかで乗り物とか乗れるでしょ?」
「………乗れるとは思うけど……やった事なんかないよ!………時々「お嬢ちゃん」、お金多いよ、って言われる時もあるけど」
どうやら思い当たる節があるようだ。
「いいな~。若く見えるっていいよね~。こう見えても私は顔は幼いってよく言われるんだけどね~」
「コイツ…」
自慢してるようにしか聞こえなかった。
「僕なんか寂しいです」
唯一男一人・御琴。
悠飛も実は女だという事もわかり、ますます居場所をなくしたようだった。
「まーまーいいじゃないの~。ハーレム気分で~。羨ましいな~みこっちゃん」
みゆがまたヘンテコ発言をする。
「…お前金持ちのお嬢様のくせに発言おかしいぞ」
ツッコミをいれるのも飽きてきた琉嬉。
一行は晩飯も終わり部屋に戻ってきていた。
GW一日目の日が暮れようとしていたのだった。
夜中。
深夜2時頃。
ふと目が覚めた琉嬉。
悠飛の姿がない。
他のみんなは寝ている。
寝る前相当騒いでたので疲れたのであろう。多分。
琉嬉は何かを気にかけるかのように部屋を出ていき、さらに外へと出る。
静かな夜の街中…というより森中。
近くに何件か民家や旅館があるくらい。
密集はしているが少し進めばすぐ森となる。
たまに車の通る音がするくらい。
静かである。
「…悠飛のやつ……」
異変に気づいていた。
持ち前の微量でも感じ取る霊感力で。
昼間の公園あたりに来ると一層に、琉嬉の霊感知力が反応していた。
「うかつだった…。あんとき二つ感じたのは気のせいじゃなかったんだな」
「姉ちゃん!」
悠飛が後ろを向くと琉嬉がいた。
ガサガサ茂みが揺れる。
またもや冷たい空気に変わる。
「さすがお姉ちゃんだね…」
「悠飛。お前…憑かれてたな」
「……うん。ほんと、間抜けだよ」
どうやら霊的なモノに獲り憑かれていたらしい。
「お前……どうするつもりだ?」
「…どうするって…一人で倒そうと思ってたんだけど…」
悠飛が一人で始末するつもりだったらしい。
しかし琉嬉は右手てツインテールにしている髪を触りながら、
「ふむ。仕方ない。ここは姉としてだな。お祓いをしてあげよう」
「…姉とかどうでもいいからだったら、早くなんとかしてよ」
「ヘイヘイ」
どこからか出したお札。
霊気を込めて悠飛の胸あたりに押しつける。
「むむ…ちょっと会ってないうちに大きくなりやがって」
「そんなコトどうでもいいからっ」
念を込めると悠飛の体から霧状の物が噴出す。
そして人型…のようにも見える霊気の塊ができる。
悠飛はこの悪霊に憑かれていたようだ。
「どこで拾ってきたのか知らないけど…コイツは…ランクBってとこかな」
「ランクなんてあるの?」
「僕が勝手に決めた!」
そう言うと琉嬉は真っ先に攻撃にかかった。
「やれやれ…私は結局お姉ちゃんに助けられっぱなしだな」
悠飛も続いて攻撃に加わる。
人知れぬ戦いが密かに行われた。
朝の日光が眩しい。
またもやいい天気。
「さ~て温泉満喫したし、次はどこ行こう~?」
「港咲さん…元気ですね」
あれだけ騒いでも一晩寝れば復活。
おそるべしタフガイ。
実はあれから人より倍食事をとっていたり、
お約束の卓球やったり、
就寝前のおしゃべりタイムも中心となっていた。
その疲れを全くみせない。
「あ、琉嬉ちゃん」
護が気になった事を聞く。
「何?」
「昨日夜中どこ行ってたんですか~?しばらく戻ってこなかったし」
悠飛の方をチラっと見ながら 、
「ん…?いや~、別に。な?」
「うん」
「…あーやしぃ。まぁ何かあったんだろうけど。琉嬉ちゃんの事だから」
「まあね。わかったのは悠飛が霊に耐性が強くなってたってコトかな」
「……ああ、そうですか…。(怪しい)」
なんだかんだで仲がいい姉妹。
護はうすうす感づいてるようであったが。
一行は帰路についた。
だが、GWはまだ終わらないのであった。