#2 金色の退治屋
その日はツイてなかった。
―いや、その日もツイてなかった。
白い閃光…。
何度も何度も閃光が走る。
まばゆいくらいに。
「んなっ…しつこいっ!」
シュンッと鋭い音がする。
ツインテールの少女…彼方琉嬉。
彼女は逃げていた。
かなり追い込まれている状況。
学校の人気がない裏側の通路付近。
どういうわけか琉嬉は劣勢だった。
場所が悪い…のもあるが。
何より相手が強すぎる……。
「そろそろ観念するぅ?」
「………ふざけんっ…な…!」
再び白い閃光が放たれる…。
リィ…ンと虚しく鈴の音が響いた。
時はさかのぼり当日の昼間。
「はふ。疲れた。」
午前中の授業が終わるチャイムが鳴り響く。
早速昼休み。
「さてと。昼飯でも買いに行くか…。っそして部活のために行動しなければ…」
部活を作る決心をした。
部活の内容は、「ふかしぎな事件を解決するための部」。
略して「ふかしぎ部」。
書いても字のごとく。
ふかしぎな事件を琉嬉が解決しようとする。
(よく考えたら正式な部活じゃなくてもいいような気がするな…)
とはいえ、下された条件は、部員は4名以上。
それ以下は部活としてはみなされないようである。
これからは部員を集めなければいけないのだが、琉嬉と同等のレベルの術者が欲しい所。
だが、そう簡単にいないだろう…と軽く絶望しきっていた。
あれこれ考えながら購買部へと向かう。
クリームパンを求めて。
彼女は向かう。
購買部にたどり着いたのはいいが、この日は先客が多かった。
「うへ…また人多…」
へこたれそうになりながら昼飯争奪戦開始!
背の低い琉嬉にとっては苦戦する戦いでもある。
「んがーっ!どけーー!」
残念ながら小柄の琉嬉では太刀打ちできない状況。
「これは…まさに戦争…。負けるか~!」
勢いよく特攻していく。
しかし、柔らかい何かに顔面がぶつかった。
「あうっ」
ぽてんっと可愛く転ぶ。
「あ、ごめーん。大丈夫?」
「いたた…ん…?」
見上げるとそこには見事な金髪の女子生徒が居た。
セミロングでもみあげ部分に青いリボンを巻き付けてるような髪型。
何より驚くべき所は非の打ち所がない綺麗な金色の髪の色。
少し着崩した制服姿。
一瞬どこぞのヤンキー女かと思わせる佇まいだ。
そして女の琉嬉でさえはっとするくらい美人。
その美人顔をよく見ると眉毛やまつ毛も真っ黒でなく金色っぽい。
瞳の色は灰色っぽく、時折青っぽくも見える。
「え…と…ごめん。(すごい金髪…ハーフ…?)」
一見ハーフとも思えそうにスタイルもいい。
しかし美人ではあるが顔つきはそこまで外国人っぽくはなさそうだが。
「あはは、こちらこそごめんね。んーと、彼方…さんだっけ?」
「知ってるの?」
「なんのなんの…有名だよ。転校初日にケンカやらかしたって…凄いよね」
「う……それは言わないで」
すっかり有名人。
ぶつかったのはどうやらこの金髪美人のようだ。
よくみると琉嬉にはない、見事な膨らみのお胸に目がいく。
さっきの柔らかいものにぶつかったのは、どうやらこの金髪女子の胸だったらしい。
「あたしは欲しいものゲットしたもんね~えへへ。じゃね~」
「お、おう……」
そそくさと行ってしまった金髪女子生徒。
「あ、こんな事してる場合じゃなかった。くそーっどけぃー」
リベンジとばかりに再び突撃する琉嬉であった。
とはいえボロボロになっていた。
先日も來魅との戦い。
いやその前も不良達ともケンカ。
毎度のごとくボロボロになる。
今度は購買部での壮絶なパンの奪い合い。
そこでもボロボロになる。
制服が毎日のように汚れていく。
鞍光高校の女子制服は上着が橙色。
なので黒い汚れは目立つのだ。
男子制服は黒を基調としたデザインなのに。
「今度から学校行く前に買って行こうかな……」
「まーたパン?好きだね~。昨日もパンだったよね?パンばっかりだから大きくならないんじゃない?」
「…いいじゃん別に」
教室に戻ると割と仲がいいクラスメイトがいた。
だが琉嬉は素っ気無い返事で返す。
一応友人…?にはなるとうのか。
それなりに話はする。
眼鏡の子とショートカットの子二人。
眼鏡っ子が湖林美夏通称・みなっちと
ショートカットの子が高城柚子通称ゆう。
「ねえねえ、お弁当とかは買ったりとか作ったりとかして来ないの?」
一瞬ムっとした顔しながら琉嬉は、
「まー、いろいろ事情あってね…。大体料理するっていう器じゃないしさ。僕は」
「ふーん…。あえて、深い所は聞かないでおくよ…」
「だね」
なーんとなく察知した二人。
中々場を読めるようである。
「言っとくけどアンタらが思ってるような複雑な家庭でもないからね」
「あ、そうですか…」
会話が続かない。
黙々と食べる3人。
そもそも琉嬉は普段から無口タイプ。
自分が必要ないような事は他人に話しかけない。
その影響なのか独り言は多い。
それゆえ不思議っ娘さが増していた。
前の学校ではクラスでも少々浮き気味…でもあった。
こちらに転校してきてもこの短い期間でありながらも数々の問題行動で尚更不思議少女と可している。
そんな琉嬉に話しかける二人組みは優しいものである。
「ごちそうさま」
食べ終えた琉嬉。
「クリームパンうまかった?」
みなっちが質問。
「…うん」
「……う~やっぱりかわいい!!琉嬉ちゃんかわいい!」
といいながら二人は琉嬉に抱きつく。
「ちょ…!?」
すっぽり覆いかぶさるように琉嬉の姿が見えなくなる。
「苦しい…って!」
琉嬉の手刀が二人の頭に命中する。
「あいたっ!」
「ひんっ」
悶絶する二人。
かなり力入れて手刀決めたらしい。
「琉嬉ちゃん~痛いよう」
「いきなり抱きつくからだろ!…むぅ」
「…怒った仕草もかわいいなぁ…」
「…お前らなぁ…!」
とにかく男女関わらず違う意味でモテる琉嬉。
授業が終わりを知らせるチャイムが鳴る。
「ねえねえ琉嬉ちゃん、帰り何か予定ある?」
みなっちが早速話かかけてくる。
「…何?」
「いや~予定がなければちょいとー街中行って軽くでも~って…」
首を傾げしばし考え込む琉嬉。
今日になって突然の誘い。
「あ、嫌なら別にいいんだけど…さ」
「私たちさー、もっと琉嬉ちゃんの事知りたいな~って…ほら、まだ去年の終わり頃転校してきたばっかじゃない?だから…」
しばしの沈黙。そして、
「いいけど。別に」
「やったー!じゃあ早速行こう行こう!」
「だね」
「その前に席にまずつけ!」
スパパンッと気前のいい音が鳴り響く。
クラス中が琉嬉達に視線が集まる。
三人はいつのまにかいた担任に頭をはたかれた。
「午後の授業始めるぞ…まったく。はしゃぐのはいいけどやることはやっていけよ」
「へ~い」
「何もはたかなくても…」
(お前らのせいだろ…)
琉嬉は心の中で愚痴った。
そんなこんなんで三人は街中に出てた。
鞍光高校の近くの駅から二駅ほど。
中央駅に繰り出すと駅前はかなり栄えてる。
「でも琉嬉ちゃん来てくれるとは思わなかった~」
「うんうん」
夕方近くの午後4時頃。まだまだ賑やかな街中。
「でもなんでOKくれたの?」
「…ちょっと欲しいゲームがあったからついでに買おうかなぁと」
「…え?」
琉嬉はゲームオタクでもある。
知識はかなり高い。
あくまでもゲームだけなので他の漫画とかアニメには疎い。
「え…と琉嬉ちゃんは…ゲーム好き?」
「そうだけど?」
「ふぅん…そんな感じには見えないような気もしないでも…」
「………そう?」
(…こんな子が暴れたなんて信じられない)
二人は顔を見合わせて改めて琉嬉の事を見るが信じられない風だった。
「ココにしようか~」
ありきたりのファーストフード店ではある。
そこで休憩しようというのだ。
琉嬉は欲しいゲームも買った。
「さて、何頼もうかな~」
「じゃあクリームパン」
ここでも頼む琉嬉。
「…本当に好きなんだね…クリームパン」
「うっさい!」
「あーもーかわいいなぁ」
今日一日で大分仲が良くなった三人。
店内はにぎやか。
よくある女子高生グループには見える。
と思われるが。
三人の会話はちょっとだけ浮いていた。
「へぇ~。ゲーム好きなんだねぇ」
「…悪い?」
「いんや~別に悪くないよ~。私も好きだし」
「みなっちの場合はアニメから入るタイプだもんね」
「ちょっとー!ゆうったら…」
「……?」
「みなっちは軽くオタクさんなんだよ」
「…否定はできないけど…。ゆうだってアイドルおっかけじゃん。スポーツ少女の意外な一面」
「同じもんだって!多分。はははー!」
(…この二人…)
お互いの趣味をばらし合う。
こうやって痛い会話をしながらさらに近づいた三人であった?
「さて、解散ですね」
時刻は夕方6時を回る。
「まだ明るいけど明日も学校あるしね~」
「……うん」
次第にテンションが下がる三人。
下がりながらもそれぞれの帰り道につく。
「そいじゃ、また明日な~琉嬉~」
「またねー琉嬉ちゃん」
「…おつかれ~(ゆうのやつ早速呼び捨てかよ…)」
二人の姿が夕方の人ごみの中に消えていく。
「…さっきから気づいてるよ。なんか用?」
琉嬉は気づいていた。
わずかな霊力でも感知できる能力。
琉嬉にはそれができる。
「あはは~バレた?」
「……店に入ったときから」
「うへ、マジで?」
帽子被った…少女。
コートのような上着だが、両肩から袖がない変わったデザインの上着を着ている。
ズボンは濃い緑色のミリタリーチックな形をしてる。
「微力ながら霊力を感じた…。どこか敵意交じりのね」
ザァッと、空気の流れが変わる。
「へぇ。とんだ感知力だね…」
異様な空間。
その場だけが別な空間を作っている。
「ここでもなんだから場所変えようか?」
少女が口開く。
「……」
無言でうなずく琉嬉。
「…で、何の用?」
と言いつつもいつでも動けるような態勢を取る。
「もうわかってるじゃん」
「恨まれるような事してないと思うけど…」
「これも仕事だからね」
そう言うと帽子の少女は素早い動きで突っ込んでくる!
(…速いっ)
まずは…蹴り。
間一髪避ける琉嬉。
さらに続く蹴りの連続。
「くっ!」
なんとかかわしながらも体勢を直しながらも攻撃の嵐はやまない。
「なんなんだいきなり…お前は!」
「勝ったら教えてあげる!」
攻撃の猛襲を避けながらも反撃のチャンスを伺う。
「この…!」
琉嬉の掌底が少女をとらえる。
が、リーチの差か少女をかすめる。
避けた反動で少女の頭から帽子が落ちる。
「…お前!」
やはりというか。
昼休みに購買部で会った金髪の少女であった。
「あ、気づいた?あん時会ったよね~」
「…その派手な頭だもん。気づかないわけないだろ」
「あはは、やっぱり?」
制服姿ではないので気づくのが少々遅れた。
「まあこのまま力温存したまま戦っても埒が明かないね。本気で言って一気に行くよ」
ここからが本番。
琉嬉はそう思った。
少女の右手が光輝く。
そ手から剣状の光が伸びてゆく。。
まるでSFの漫画やアニメみたいに、ビームサーベルみたいなのを持っている。
「…!霊気?の剣…?」
「まあそんなもんだね!」
「…霊気だけを圧縮してその場に作ってるのか…」
少女の技術力に関心してしまう琉嬉。
とはいえそうも言ってるヒマもない。
一振り一閃!
またも間一髪避ける琉嬉。
後ろにあったビルの壁がいとも簡単に切れている。
「うお…マジか!」
「ほらほら、よそ見してる暇ないぞー!」
すかさず防護壁を張る。
――だが。
ザシュッと音を立てて、いとも簡単に防護壁が切り裂かれる。
「ななっっ…!」
無残にも防護壁が崩れていく。
霊撃、物理攻撃も防ぐバリア…なのだがあっさり破られてしまった。
「そんなの無駄無駄だよ!」
「むぅ…」
琉嬉は霊力込めたお札を乱発する。
が、ことごとく切り刻まれる。
「乱れ打ちも効かず…てなんなんだアイツは!」
思わず後退する。
「逃がしやしないよ!」
あたりは暗くなっていた。
視界がさすがに悪い。
そんな中閃光が走る。
琉嬉は追い詰められていた。
「そろそろ観念するぅ?」
「…ふざけん…なっ!」
剣が振り下ろされる。
バチンッと鋭い音と強烈な霊気が弾けとぶ。
「!?な…何?」
琉嬉は左腕にしてる数珠で受け止めていた。
「コイツまで切れそうな威力だなソレ…」
長くはもたなさそう。
いくら特製の数珠とはいえいずれは切れるだろう。
「そんな隠し技があったなんてね…、でも剣は一本じゃないんだよ」
「ぐ!?」
そう。今までは一本だった。
だが少女から作り出したモノではあるからには、一本だけとは限らないのである。
「二刀流ならどうかな?彼方琉嬉ちゃん」
「何?どういうわけで僕を殺そうとしてるの?」
琉嬉は…というか、彼方家は退魔師としてはそこそこ名が通ってる。
つまりそういう霊術師の世界を知っている者であれば琉嬉の事などわかるだろう。
「頼まれたんだよね。とある人にさ。あんたを気に食わないヤツもいるって事だよ。
あたしはそういう仕事をしている退治屋ってやつ?人間、妖怪問わず」
彼女から放たれた言葉。
まさか同じ学校にこのような事をしている人間がいるとは思っていなかった。
「…へぇ。それは知らなかった…僕を気に食わないやつがいるとはね…」
だが少女は笑顔で、
「でも彼方琉嬉がこんなかわいい女の子だったなんて…心が痛むわ~」
「かわいい女の子で悪かったね!」
「ふふ。でも仕事の依頼には応えないとね。だ、か、ら。倒すよ!」
「くぅ…そうかいそうかい!倒せるもんならやってみるといいさ!」
強気に出る琉嬉。
勝算がないわけではないからだ。
奥の手がまだある―。
そう、來魅に使った「真霊気」。
しかしそうそう使っていい技ではない。
「……その顔は…何かありそうだね」
「かもね」
先に動いたのは少女だった。
またも札攻撃をする琉嬉。
「乱れ撃ち!」
数え切れんばかりの札。
それが空中を舞う。
「だからその程度じゃ通用しないって!」
目の前に来た札を斬りながら突進しいく
「化物かよあの女!」
人間離れした動きに驚く。
「もらった!」
「くぅ…」
やむを得ず防護壁をまた作る。
あっさりとまた切り裂かれる。
やはり無意味。
とはいえその一瞬で体勢を立て直す琉嬉。
(…なんか一撃死する魔法から逃げてるみたいだ…)
ゲームに例えている。
(こっちの手札はあと…10枚くらいか…。さてどうするか)
先日の來魅との戦いで御札の数がかなり減ってしまった。
「ちょこまかと動いて~おとなしく斬られなさい!」
「うるせ!」
いずれは尽きる札。
「遅い遅い!」
少女の動きは凄まじく早い。
避けるのがやっとでもある。
またも乱れ撃ちを放つ。
「また同じ手?飽きないねー!」
その中を掻い潜って来る少女。
「この一撃なら…絶空符!」
他のはと違う霊力が込められた札。
それを思いっきり投げつけるように解き放つ。
「なんのこれしき…ん?」
それも斬る…が。
ドォンと響く爆発音がした。
その場が吹き飛ぶくらいの爆風が巻き起きた。
煙が充満する。
煙が消える頃には少女の前から琉嬉の姿はなかった。
「…ちぇっ。逃げられちゃった~」
つまんなさそうに言う。
しかし、さすがに街中。
大きな音にびっくりして近くにいた通行人や近くのお店の店員達が何事かとやってくる。
「うーん。ヤバイねこれは」
そう言うとその場から少女も離れた。
「ほほぅ。お前様を追い詰める人間がいるもんだな」
「笑い事じゃないよまったく。逃げるが勝ちってね。今回は割に合わない感じして。てか、同じ学校の女子生徒っぽいんだよね」
自宅。
琉嬉は命からがら逃げたようなもんだ。
來魅の時とは違う、琉嬉自身が戦いをやめた。
「なんなんだまったく…アイツは」
結構なご立腹である。
「ふふん。この封印を解いてもらえばその女を滅してもやらん事もないぞ?」
今度はゲームをしながらも物騒な事を言う來魅。
どうやらゲームの面白さにものめり込んだようだ。
「それはだめ。來魅は勢い余りすぎて他に迷惑かけそうだもん」
「ケチだのう…」
ブツブツ文句を言い出す。
見た目は子供の女の子。
少しは普通の人間以上に生きてるはずなのにどうも子供っぽい面が目立つ。
元々こういう性格なのかもしれんが。
「人間同士でも戦うんだな」
「争いばっかりしてるよね。でも人間だけじゃなくて生きる者は同じ種族でも争ってるもんだよ」
「そうか?言われてみればそうかもしれんの」
ポリポリと頬を掻く來魅。
でもすぐゲームに集中してしまう。
「……多分、明日会うよね?」
「同じ学校であればそうだな」
「…はぁー、行きたくないな。アイツ…すごく強い」
「バカ言うな。琉嬉はこの私に勝ったではないか」
「そう言ってもらうと自信にはなる…けど。あの時とは状況は違うんだよね」
「ふむ」
「仕事とか言ってたな…同業者類のモノかな」
同業者……。
つまり、悪霊妖怪のお祓い専門の術者の一人…という事なのだろう。
「でも腑に落ちないのは人間相手にもやるってコトか…。もしかして殺し屋みたいなやつか?」
「あれか?高い建物の窓から長い銃でパーンと撃ったりする?」
「…なんの漫画読んだの?來魅…」
学校へ行く足取りが重たい。
これといった特別嫌な授業があるわけでもない。
ただ、先日の金髪少女に会いたくないからだ。
ここ、鞍光高校は田舎町の割には生徒数が多い。
知らない顔があるのはどこの学校でも一緒だが、なんせ同じ学年でも12クラス。
誰が誰だか分からないのは当たり前である。
あの金髪の少女が何年生でどこのクラスかは転校してきたばっかりの琉嬉には知る由もない。
この人数の多さにかけて会わなきゃいい…とすら思っている。
(でも、まさか学校内では戦い挑んできたりしないよね)
琉嬉本人は関係なく不良共をなぎ倒したり屋上で來魅と戦った訳であるが。
(どうか会わないように…)
その願いが通じたのか、登校時には出会う事はなかった。
その日の昼休みだった。
先日と同じように昼食のパンを買いに行こうとした所だった。
(…待てよ……。購買部に行ったらまたあの金髪女と会うんじゃあないか?)
そう。昨日の戦う前に学校で一度会っている。
しかも購買部の前で。
そもそもなんで狙ってくるのかが分からない。
思い当たる節がまったくないのだ。
考えれば考えるほど頭が痒くなってくる。
「ええぃ、考えるのはヤメだ」
ともかく思考をある程度やめたのだった。
「なんだってまあ、都合よく会うんだろうね」
落胆の声を出すのは琉嬉。
「どーも」
パンを買って教室も戻るところだった。
案の定、金髪の少女と遭遇した。
「…はは、これはこれは、早い再会で」
「そうだね~」
昼休みの廊下。
他の生徒も沢山いる。
「……まさか、ここやるつもりじゃないよね?」
「どうかな?」
不敵な笑みを浮かべる。
考えてるのか考えてないのか伝わってこない。
琉嬉はポケットに手をつっこむ。
いつでも御札を取り出せるように臨戦態勢になる。
買ったパンは勿論別のポケットに無理やり入れた。
(コイツ……本気か?)
次第に不安な気持ちになる。
(………なら…)
琉嬉は行動に出た。
金髪少女とは別の方向へ走り出した。
「そうきたか!」
少女も追いかけるように走り出す。
まわりの生徒はなんだなんだ?といった感じで少し驚く。
猛スピードで走っていく琉嬉。
まだ学校全体の構造が分かってない。
適当に走っていくだけだ。
(なるようになるだろ!)
あまり考えてないようだ。
傍からみれば突拍子もない行動。
益々琉嬉が不思議な子に見られる羽目になってしまう理由になる。
なんでか知らないが、体育館に着いた。
デタラメに走っていたのだが。
体育館は昼休み中は開放していて、球技などをして遊んでいる生徒達がいる。
それを横目に走り抜ける。
ここなら別に走ってても目立ちはしないが。
素早く見回すと別口の戸が開いてるのに気づく。
「…ラッキー…なのかな?まあいいや」
運良く体育館の別口が開いてたおかげで一瞬で外に出る事が出来た。
少女もそれに続くように追いかけてゆく。
そのまま外へ逃げ込んだがまだ校舎の前では目立つ。
なので、琉嬉はそのまま通路が続いている木々の中へ少し進む。
すると少し開けた所へ出た。
内心またこんな所で戦うのか…?と思っていたのだが。
「ここなら思い切って戦えそう?」
なぜか逆に挑発するような言い方をする琉嬉。
「作戦でもあるのかな?」
余裕そうな少女。
「作戦ねぇ……ないコトもないかな?」
「そう?」
少女両手には先日と同じ霊気の剣が作り出されていた。
「今回は早めに決着つけたいかな~」
「あ、そう…ならこっちもそのつもりでやったろうじゃん。貴重な昼休みが終わる前に!」
琉嬉から仕掛けた。
素早い動きで両手には御札を持ち少女に突進していく。
「速さなら負けないよ!」
「別に速さに自慢があるわけじゃないけどネッ」
相変わらず人間離れしたような動きで少女は琉嬉から間合いを取りながら離れていく。
(なんちゅー動きだよ…本当に人間か?)
ふと、琉嬉は脳裏に変な予感が走った。
到底人間には難しいような動き。
いや、鍛錬をすれば出来うるのかもしれないが、これまで妖怪だけではなく、人間相手もしたことはある。
しかしここまで鮮やかに動き回るのは見た事はない。
「…でも來魅に比べればまだまだ余裕!」
來魅戦で見せた複数の御札を自在に操って少女を追いかける。
「げっ、なにその技!そんなコトも出来るなんて聞いてないよ!」
「奥の手はすぐには出さないもんだよ!」
「そうね!」
少女以上に早く動き回る御札を一枚ずつ切り払っていく。
やはりうまくは命中してくれないようだ。
「当たらないよ!」
「ふふん、ならこれならどうだ!」
「ん?」
琉嬉が取り出したのは数十枚の御札。
「乱れ撃ち&乱れ撃ち&思念流符!」
「え、なにその技名?!」
「うっせい!」
トンデモない数の御札が少女を目掛けて飛んでいく。
さすがに切り崩すていくのが無理なのか攻撃せずにかわすほうに専念する。
「無茶苦茶だねコレ!」
「まだまだいくよ!」
「嘘でしょ?」
さらにばらまくように数十枚の御札を放っていく。
いったいどんだけ持っていのか。
「案外コストかかるんだから勘弁して欲しいね」
お金が掛かってるのかどうかは不明だがなんだかんだで準備万端にしていたようだ。
結局さすがの少女も避けきれる事も出来ずに一枚命中する。
「ぐっ!」
バチンッと鈍い音を立てて少女の動きが止まる。
すると残りの数十枚の札が少女目掛けて全部飛んでいく。
「……!!」
全部全部が命中していく。
塵も積もれば山となる…一枚一枚は大きな威力はないが沢山の御札であればダメージも期待できる。
少女が見えなくなるほど霊気の波動がほとばしって小さな爆発みたいのを起こす。
「もう一丁!」
さらに追い打ちをかけるように來魅の時にも見せた龍のように動き回る一撃必殺の攻撃。
凄まじい爆風を巻き起こした。
まるで昨日のように、砂煙が巻き上がっている。
その砂煙が風で流されていくと少女の姿が見えてくる。
倒れてはいない。
致命傷レベルには至ってないようだ。
(これで終わるとは思えない。次の手いくか…)
これでもかというくらいさらなる追撃を考える。
「…フフ、やるね」
「その余裕もこれまでだよ!」
勢いよく少女の懐へ突っ込んでいく。
「もらった!」
渾身込めた掌底が少女の腹部へ放つ。
「ん?!」
しかし反動が少ない。
おもいっきり撃ったのに手応えが感じられない。
この妙な反応に琉嬉はすぐさま離れて間合いを取る。
「……お前………まさか…やっぱり…」
「多分、琉嬉ちゃんが思ってる通りだよ」
少女の体に変化が起きていた。
グレーがかった瞳の色だったのがまるで炎が焼けつけるような、赤い色に変わっている。
そして胸元と両腕の甲に紋様のような物が浮かんでいる。
「悪いね。本気出させてもらうよ」
「……なるほどね…。お前さん…妖怪だったのか」
「うーん、正解だけど半分はハズレ…かなあ?」
「どういう意味…?」
その時の琉嬉はうまく頭が回らなかった。
少女の動きが格段に上がって琉嬉の腕を掴んでいたからだ。
「はやっ…」
気づいた時には琉嬉が回転して中を舞っていた。
「うげっ」
自分でも分かるくらい、ドサンッという音と共に自分の体が地面に激突したのが分かった。
息が止まるくらい衝撃が強い。
受身が取れる暇がなかった。
「ゲホゲホ…。マジか…なんちゅーチカラ…」
「琉嬉ちゃん~女の子なんだから「うげっ」とか言って倒れないでよ~」
「…うるせぃ。くそ…(妖怪化だと…この女……)」
明らかに先程とは違う変化に同様を隠せない。
ここまでは予測は正直、してなかった。
「こんな隠し玉があったなんてね」
「そりゃどーも!」
ただでさえおかしな動きしてるのに倍以上な動きになる少女。
「そらそらそら!この程度?」
動きについていくのがさすがにつらい。
なんとか霊気を込めた御札で剣撃を受け止めているが次第に御札もボロボロになっていく。
(こいつ…遊んでやがるな)
普通なら防御の盾も斬り裂く剣なのに抑えてるのか、琉嬉の御札で受け止めていけてる。
本気の本気をまだ見せてないようだ。
「…このっ……!」
隙をついて足払いを仕掛ける。
だが異常な反応で上に避ける。
「これなら!空翔符!」
空中に飛んだ少女目掛けて数枚の御札を宙に放つ。
「おっとぉ!」
剣で弾き返す。
なんという反応速度。
「……ほんと、化物並みだね」
琉嬉はまた間合いを取りつつ反撃に出ようと伺う。
「ふむ。暇だから学校とやらに来てみたが…なんか恐ろしくでかい霊力のぶつかり合いを感じるのう…こっちか」
てくてく歩いてるのは來魅だった。
ホットパンツにグレーの色のパーカーを上着にしている。
派手な縞々色のオーバーニーを履いている。
服装は琉嬉の持っている服である。
体格が琉嬉と近いので服のサイズが合うようである。
來魅の持っている服は封印が解けた時に着てた巫女服みたいな和服と、戦った時に着ていたゴスロリ調の服…だったが、
戦いで無残にボロボロになってしまった。
そのため服がない状態。
仕方なく琉嬉の服を借りている。
ちなみにコーディネートは導。
「……どれどれ、面白そうだの。この封印さえなければ…まあいいか」
右手をチラっと見る。
琉嬉に施された封じの数珠が力強く装着されている。
でも、あまり気にする事もなく森奥に入っていく。
琉嬉はかなり追い詰められていた。
來魅の時ほど苦戦はしていないと…思ってはいるが、どうも打つ手打つ手大きいダメージにならない。
(こうも戦いづらいとは…)
ポケットの中に入れていた御札は既に品切れ。
もう自らの体で戦うしかない。
けどこんな化物じみた動きをする相手と対等に戦えるとは思えない。
攻撃から逃げてばっかりだ。
「…なんで僕を狙うの?依頼した奴は誰?」
「またその質問~?おとなしくやられてくれれば教えてあげるよ。生きてたらね」
「………まったくムカつくな…」
イラだってくる琉嬉。
持ち前の短気度がにじみ出てくる。
「あ~そうかいそうかい…そういう態度ならこちらも本気の本気になってあげるよ…!」
「そうこなっくちゃね」
ニヤっと笑みを浮かべる少女。
両手にしている霊気の剣を上にあげて振り払う動作をする。
すると突然稲妻のような霊気の波状が琉嬉を目掛けてゆく。
「くっ!」
咄嗟の防護壁を張り防ごうとするが、強力なのか相殺する形で琉嬉は後方に飛ばされれた。
「あいたた…」
かろうじてまだ人が行き来できるくらいの場所へ吹き飛ばされた。
立ち上がろうとした時だった。
少女がいる方向とは違う方向からパキパキッと何やら人の歩く足音が聞こえてくる。
「大丈夫か?琉嬉?」
姿を現したのは來魅だった。
「…來魅?!なんでここに…」
「いや~、暇なもんで散歩してたら学校とやらに着いてしまってな。大きな霊気の乱れがあるから気になって来てみたらお前様がいたってわけだ」
吹き飛んだ場所に偶然にも來魅がいた。
すぐさま体勢を直し立ち上がる。
少女の姿は草木でまだ見えない。
「……助けてでもくれるの?」
「うーん。相手の戦いっぷりを見てると、力を封じられた私には今は無理だな。大体、お前様の攻撃で元の力もしばらく使えない」
「役立たず~!」
「仕方あるまい。その真霊気とやらのせいだ。のう、その力を使えばあやつに勝てるのではないか?」
「……これは出来れば使いたくないんだよ…。もし外したら…分かるでしょ?」
「ふむ。それもそうだな」
こんな状況にも関わらず來魅はニヤニヤしている。
楽しんで見ていたようだ。
「まったく………じゃあおとなしく見ててよ!」
バッとその場から飛び出す。
「……追い詰められているというのに、一手も二手も先を持ってるような余裕さが感じられる。
見た目に反して肝の据わったヤツじゃの。琉嬉という人間は…」
「みーつけた!」
「…鬼ごっこは終了…ってね」
「ん?さっきと違って余裕だね」
「負ける気なんてないよ」
強気の発言。
しかし、相変わらず琉嬉の表情は分かりにくい。
何かを狙ってるかのように、その場に佇む。
「…どうやら観念した?」
「負ける気ないって言ってるのに観念してどうするのさ。話聞いてるの?」
「あはは、それもそうだね」
(…コイツ、けっこうアホな子か?)
そうは言っても頭の良さは置いといて少女の力は本物だ。
「さぁーて、とどめいくかな」
ギュイーンと音を立てて少女の両手に持った二刀流の霊気の剣が唸りを上げる。
(何をする気だ…?)
その両手の剣をひとつにまとめあげる。
するとどうだ。
巨大な剣を作り出した。
「ふふ、そう来るか~。でも…ね」
「勢い余って殺しちゃうかもね。勘弁してね、琉嬉ちゃん!」
「言ったろ!負ける気はないって!!」
少女は大きく伸びた剣を一気に振り下ろす。
琉嬉との間は20m以上離れている。
だがそれに届きそうなリーチの長さだ。
琉嬉は避けようともしない。
(避けないつもり?)
瞬間。
――まばゆいばかりの光が発せられた。
少女の放った巨大剣は琉嬉の目の前でかき消された。
「な……に……?」
少女は同様した。
確実に仕留めたと思ったのに剣が届いてないからだ。
「これはできれば使いたくなかった…んだけどね…」
琉嬉の体から黄金…とでもいうような色で発光している。
左腕にしてた数珠がない。
あれだけ使うのを躊躇っていた真霊気を開放した。
(く…さすがに…つらいか………?)
琉嬉の意識が揺らぐ。
なんとか自我を保っている。
「な…何?」
驚く少女。
突然技を無効化されたのだから仕方ない。
本当に一瞬だった。
とらえたはずの剣の一撃。
何がおきたのかわからない。
「因果応報…でもないけどさ。勢い余って逆に、アンタ殺しちゃうかもよ…」
それほどの力だと確信している。
開放した「力」がうまく制御できない。
それゆえの言葉。
「ど、どういう事…?その力って…?!」
「んー…みんなは「真霊気」って言うけどね」
「…ナニソレ…?」
形勢逆転。
とでも言うのか。
圧倒的な霊力を放つ琉嬉。
「…でもここで引くわけには…」
「いいよ。やってみてよ」
「くっ…このぉ!」
とにかく剣を振るう。
だが少女の剣は届かない…というより完全にかき消されている。
「嘘でしょ…?…ならこれなら!」
またもや剣を放つ。
今度はかき消されることなく琉嬉に届いた…、が、
手で受け止められてしまった。
そして手を少女に掲げると少女は吹っ飛ばされた。
「うぐ…」
少女は木に激突し、その場に崩れ落ちた。
「く……その力……なんなの?!」
「それは僕が聞きたいくらいだよ、てね」
手のひらに力を集中させる。
來魅に放った一撃よりかなり力を抑えた霊撃を放った。
少女に命中し、少女はまるで紙切れのように吹き飛ばされた。
「かはっ……」
少女はまだ息がある。
なんとか立ち上がろうとするが座り込んでしまう。
しかし、琉嬉の表情が辛そうな表情に変わる。
「…もう…もたない…かな…。これ…」
受身を取る事も出来ないまま、琉嬉はその場に倒れこんだ。
少女の方も戦意はくなったようで、妖怪の姿から通常の姿になる。
「もうアンタを倒すとかどうでもよくなっちゃった。正直あの力出されたら勝てる気しないしね…」
少女は敗北宣言。
「まぁ…僕にあの力を使わせるなんて…逆に凄いけどね」
「褒め言葉なの?それ」
「……まぁ、そうだね」
お互い戦う気ももうなかった。
琉嬉も霊力放出しすぎで少々参ってる。
「ふぅ~。もうちょっとで逆にあたしが死んでたかもしれないな~。まさかあんなに圧倒的な奥の手があったなんてさ」
―圧倒的。
たしかにそうかもしれない。
「真霊気」と呼ばれる力。
「ねぇ、あの力何?なんか霊力が消されたていうかー…」
「……あれはウチの先祖から遺伝してきたチカラ…。だって言われてる」
「ふーん…」
「「真霊気」はいかなる霊力、妖力を遮断する… 霊力キャンセルというか…無効化する」
「ナニソレ~…反則じゃん。そんな力無敵じゃんか!」
「そうは言っても……使い手自身の霊力、体力が一気に消耗するんだ」
「つまり…諸刃ってヤツ?」
滅多に使える力ではない。
琉嬉がそう言い放つ。
とはいえこの少女相手では使わざるを得なかったようである。
「ねえ、その術って他の人のも使えるの??」
「さぁね。うちの家系の人達は使えるらしい…とは聞いてるけどね。ただ、ここまで強力なのは僕だけらしいけど」
「へぇ……」
「ま、いっか。アンタの相手はもうやめ!この仕事チャラ!
だって勝てないもん。まさか私よりが強いヤツ相手だなんて無理無理!退治屋やめようかな~ 」
隣で苦笑いする琉嬉。
「それに…」
「それに?」
「こんなちっちゃくてかわいい子倒すなんて…やっぱりできない!」
「はぁ!?…ちっちゃいっとはなんだ!そもそも、さっきあんなに殺そうと攻撃してたじゃん…」
「アハハ~。倒すってより倒されそうだったけどさ」
「……バカみたい…疲れる…」
数珠は琉嬉の腕に戻っていた。
この特別な数珠で力を制御してる。
琉嬉にとってはかなり重要な物でもある。
これがないとまた真霊気が放出してしまう。
「…ところで、金髪さん。名前は?」
「私?私は芹澤護て言うんだ。よく「まもる」って男みたいな名前って言われるけどね」
「僕はどっちだかわからないって言われるけどな」
「まあお互い気にしない気にしない!」
さっきとはえらい違うテンション。
本来のこの少女の姿なのかもしれない。
「…ねえ。僕を気に入らないってヤツは誰?」
護の仕事依頼人を問いただす琉嬉。
琉嬉にしてみれば気になるところだ。
「ん?依頼人?」
「ソイツを今後僕の邪魔しないようにとっちめてやる…!」
普段から暗そうな表情がさらに邪悪な顔つきになる。
「……怖っ」
怒らすととことんやってしまう。
そういうタイプなのだ。
「え…と。若田とかって言ってたかな。なんか胡散臭い霊能力者」
「ふーん…。わかった」
「わかったって…どこ行くの?」
「今からぶちのめす」
行動が早い。
というか、フライング気味。
「あ、ちょっと…ソイツの居場所とかわからないでしょ?私が案内してあげっか?」
「うん」
気に食わないことはとことん芽を潰す。
普段はおとなしいくせに考えることはかなり物騒な琉嬉。
「ねえ琉嬉さんや、若田って奴になにか因縁でもあるの?」
「前にね、ちょっかい出してきた事ある。僕に…だけじゃなくってお寺の方にね。いい機会だからこのまま…叩きのめしとく」
「…だからなのか…ご愁傷様…若田さん」
あれだけ霊力を出したのに余力があるのか。
それとも単に怒りまかせで後の事考えてないのか。
琉嬉は行動に移ろうとした。
「おい、琉嬉」
二人はビクッと反応し声をした方を向くと來魅が居た。
気配を感じさせずに現れたものだから二人共驚いてしまった。
「え……?何この子?友達?」
唐突に現れた來魅に驚く護。
「あ、いや…ちょっと前にネ……」
(外人の子?それにしても派手な髪色してるな~)
それは金髪の護とお互い様である。
「私の事はいいが、琉嬉よ。学校とやらはまだ終わってないのではないか?」
「あ…」
二人はボーゼンとする。
「やっば…昼休み終わっちゃったかな?」
護は携帯を取り出し時間を確認する。
時刻は午後1時15分を過ぎたところだ。
すっかり忘れてたのか、戻ろうとする。
しかし琉嬉は体力がなくなって歩くのすらしんどそうだ。
足元がフラフラである。
「んもう、琉嬉ちゃん、おぶってあげるから」
「…すまない」
「來魅はどうするの?」
「私が一緒にいては困るだろ?今日はおとなしく帰るさ。導の買物の手伝いをしないといけんからの」
「買物?」
「うむ。夕飯は任せとけ。お主らは学校に戻ると良い」
「…そうさせてもらうわ…」
「そ、そだね」
琉嬉は護におぶってもらったままその場を後にした。
二人が去っていった後。
一人残された來魅は森中から出ようと移動を開始する。
すると何か白いものが目に付いた。
「やれやれ…ん?これは…なんだ?」
落ちてる場所に向かうと白い布のようだもだった。
数箇所破れていはいるが布自体は綺麗な状態だ。
ひょいっと拾い上げると触り心地の良い素材だ。
「ふぅむ……これは…下着ではないのか?」
女性用の下着のパンツのようだった。
「はて…なぜこのような場所に…?」
首を傾げちょっと考えてこんでしまう。
しばし10秒くらい腕を組んで考えた結果。
「持っていこう」
なんとなく持ち帰るコトにした。
「ふぅ~。疲れた。私も体力の限界近いよ」
「…元々お前が悪いんだろ」
「それもそうだねえ」
おんぶしていた琉嬉を先程の体育館の別口付近で降ろす。
いくら軽いといっても人一人分を抱えて移動するのはさすがに疲れる。
護はそのままペタンと座り込む。
「ちょっと休憩~。授業に遅刻だねこりゃ」
「また怒られるかな…さすがに何回もサボってたらヤバいかな…って、え??」
琉嬉はふと護の方を見た。
すると今日一番驚いた。
「な、なあ……護さん」
「何?」
「ヘンな事聞くけどいい?」
「どーしたの?」
「………あ、あのさ」
しどろもどろな口調。
話そうとしてなかなか話さない。
「え?なになに?」
「いや……護ってさあ、普段ノーパンなの?」
「へ?」
突然の琉嬉の発言に固まってしまう護。
いきなりノーパンなのかと聞かれるとは思ってなかった。
「な、何を言ってるんだい?琉嬉ちゃん…まったく変なコトを聞くんだから~」
と、スカートをめくり出す。
すると……護は下着を履いてなかった。
「うぎゃああぁぁぁあぁあぁぁああッッッッ!!!なななななな、な、な、なんでーーー?!?!」
「こっちがなんでって言いたいよ!変態か!?痴女なのか?!お前?」
「ちちち違うッ!そんな事は断じてありません!!えー……、なんで私のパンツないの?履いてないの?!」
「いや知らん!!」
ガクガク琉嬉の両肩を掴んで揺らしながら聞く。
琉嬉が知る由もない。
護が休憩と言いながら座った時だった。
女同士で油断してたのか、スカートの丈などを気にせずに、ドカッと座った時にスカートの中も見える状態で座った。
すると、護は下着を履いてなかったのだ。
「あ、あ、あの……見た?」
「うん。見た。」
「ああぁぁ……なんてこったい…」
「……別に女同士なんだしそこまで嘆くことはないと思うけどね」
いたって冷静。
たしかに男に見られたという訳でもないのでそこまで嘆く事もないだろうが。
「僕は別に言わないよ。いいじゃん?」
「お願い!絶対に言わないで!恥ずかしいから」
「ノーパンだったって事?」
「…それもあるけど…」
「ハイハイ。言いませんよ。金髪だってコトをね」
「あぁぁぁああ!!言うな言うな言うな!!!」
「…………心の奥底に閉まっておくよ」
ノーパンではいられない。
という事で琉嬉は何処からか、スパッツを持ってきた。
陸上部の部室から勝手に持ってきたという。
誰のかは分からないが、何も無いよりはマシだと判断したのだ。
ちなみに部室の鍵は開いてたらしい。
護はそのまま直にスパッツを着用した。
「情けないったりゃありゃしないよ…うう」
さすがにあんまりな状況に護も泣きそうな顔をしている。
「本当に履いてたの?」
「履いてたよ!なんでか戦った後には履いてなかったし…」
「うーん。もしかした戦ってる最中に脱げた?そんなバカな話あるかなあ?」
「でもそうとしか考えられない…」
しかし妙な話である。
あれだけ「死」を覚悟したような戦いの中だだったというのに。
結果は護がノーパンになってたというオチ。
琉嬉はバカバカしくなって違う意味で凹んだ。
既に時間は深夜近く…。
霊能力者と言われる若田がいるというビルにやって来ていた。
「ここだよん」
もう止める事はできない。
護もわかっていた。
「うぅ。先生には軽く怒られるし。なんか散々な日だよ」
「僕のせいかそれ?」
「…そうとも言う」
「やれやれ…それはこっちも言いたいね」
結局護はスパッツ姿のまま、若田の所へ到着したのだ。
勿論、スパッツの下は何もつけてない状態。
「ねえ、これはこれでエロい感じしない?」
護が変な事を言い出す。
「よし、行こう」
無視してズカズカとビルに夜遅いのにも関わらず乗り込む。
「ああ、ちょっと!」
「誰ですか?」
受付…?のようなスーツ姿の女性ががいる。
「あー芹澤ッスけど~。若田さんいる?」
「こんな夜にご苦労さまです。若田様ならいらっしゃいますよ」
「おけ~」
まんまと乗り込み成功。
若田の部屋前に到着。
何かこう、事務所的な作りだ建物。
そこそこ立派である。
そんな若田の部屋のドアをバンッ!と力強く開ける。
「な…なんだ!?」
いや、蹴破っていた琉嬉。
「わーかたさん。お元気でした?彼方琉嬉ですよ~。その節はどうも」
「な…?どういうことだ!?」
護が一言。
「ごめ~ん。失敗しちゃった」
「ななな…!貴様!一体どういう事だ…?」
「だーかーらー、無理。倒せませんでした。なのでお金もいりません。以上」
状況に把握した若田。
「くっ…そういう事か…これだからガキは…!」
あきらかにうろたえている若田。
「ということで、もう二度とこちらに干渉しないでください」
「ふざけるな!貴様ら彼方家のせいでこちらは商売あがったりだ!」
「それはアンタが力不足だからでしょ?」
「くっ……こしゃくな!」
若田は素早く拳銃を取り出す。
構わず撃つ。が、しかし。
「効きません」
琉嬉は事前に作り出した防護壁で銃弾を弾く。
「うん。やっぱ銃弾くらいなら弾けるよね…?護の霊力剣おかしいよ威力が」
「へへ、それはどうも~」
なぜか褒められて照れる。
「くっ……彼方家の力さえ手に入れれば…」
琉嬉が手に霊力の念を適当な紙に込める。
護との戦いで御札を切らしてしまった。
そのため適当なプリントの裏に符術用の文字を書いて急遽作った御札だ。
「ひ…ひぃ!待ってくれ!金ならやるから…」
時既に遅し。
放たれた御札はむなしく若田を目掛けて飛んでいた。
ドーン… …
激しくも爆音が響いたがすぐに静まり返る。
「あーあ。なんだか無駄骨過ぎたなぁ。今日。悪名高い琉嬉さんにはやっぱり敵いません」
「それどういう意味だよ…」
悪名高いらしい琉嬉。
「知らないの? 彼方琉嬉っていうちっこい退魔師は悪魔のように強くて凶暴で…って噂だよ?」
「誰がそんな事言ってるの?」
「んー、仕事してる時に会った術者とか妖怪とか?琉嬉ちゃんって案外有名なんだよ?あの彼方家の人間…っていう事だし」
「なるほど…彼方家ねぇ…。(…そういう目で見られているのか…)」
ちょっとショックを受ける琉嬉。
少しだけ反省をしていた。
「…ところで彼方家とか分かってて言ってるの?」
「あのね~、さすがの私もそこまで無知でこの世界にいる訳じゃないよ?
彼方と、参堂と、夜栄守と…水無月と…あとなんだっけ?」
「港咲家…。いわゆる五大家ってやつだね…。僕の家族は一応直系…だけど、独立しちゃってるんだけどね。だから、僕は五大家には「直接」の関係はないよ」
「へぇ~。そうなんだ」
「あながちそこまでバカじゃなくて安心したよ。護」
「あ、バカにしたな~?」
琉嬉のほっぺをむにむにする護。
「あにすんだ」
ぺいっと振りほどく。
すっかり深夜。
若田はどうなったかは知らない。
「あいつ死んだの?」
「…多分あの調子だと死んではいないと思う……けど」
「……あ、ああ…そう…」
物騒すぎる会話。
再度琉嬉にちょっかいを出すのかどうかは分からないがしばらくは姿は出さないであろう。
「もーこんな時間か…終電間近…?」
「ん。さあね。帰るよ。…今日もツイてなかった…」
「んも~ごめんってば!明日昼ご飯おごるからさ~」
切り替えが早い護。
「…それならいい」
現金な琉嬉。
とにかくもまた妙な能力者が現れて今後の学校生活に不安を感じる琉嬉。
まだまだ油断できない。
この街は何かある…
そう感じていた。
とはいっても能力者には多々会っている。
慣れてないわけではない。
ただ、同じ学校に術者がいるとは思わなかった。
それに戸惑いを隠せないのである。
「じゃ、帰る。命狙われる危険もなくなったわけだし」
何事もなかったのように帰ろうとする琉嬉。
「…アンタ、ほんっと、ローテンションだね…」
呆れたように言う護。
さっきまで散々暴れていたとは思えないクールさ。
「ま、いいか。それじゃ明日学校で。今日は悪かったね」
言ってるうちに琉嬉はすでにちょっと離れた所に歩いていた。
「え、ちょ…!早っ!!」
スタスタ行ってしまった。
「ほんとにクールというか…」
「あ、ひとつだけ聞いていい?」
くるっと向き直す琉嬉。
「何?」
「…護は僕を殺すつもりだった?」
「んー、依頼は生け捕りにしろって事だったからね。殺したら力が手に入らないとかなんとか言ってたけど」
「ふーん…ならいっか。じゃ、また」
「ヘンなの」
こうして二人はその場を離れた。
翌日―。
学校。
登校時。
目の前にたまたまみなっち、ゆうの二人がいる。
「おはよう~琉嬉ちゃん」
「……おは」
朝から元気なみかっちよゆうに対し、琉嬉は元々低いテンションがもっと低い。
結局夜帰ってもすぐには寝れず買ったゲームの誘惑に負けてしまった。
それが原因である。
「…眠そうだね…」
ゆうが心配そうに琉嬉の顔を覗き込む。
「…うん」
そんなやりとりしてる3人の背後から、
「おっす!おはようさん~ルキルキ~!一際ちっちゃいからすぐわかったよ!」
と、大声で話しかけてくる人物。
護だった。
「…護か…ちっちゃいは余計……」
「何々~?朝からテンション低いよう?もっと目覚ましなって!」
本来の姿なのか。
やっぱり明るい性格のようだ。
昨日のスパッツは着用してない。
「おろろ?もしかして琉嬉ちゃんの新しい友達?芹澤さん…だよね?」
「おういえーすいえーす。芹澤でーす」
エセ外国人風に言う護。
金髪をパラッと手がかきあげながら。
「……友達というか…昨日知り合ったばかりだし…」
「へぇ~そうなんだ…(スタイルいい人だな~)」
みなっちがうらやむ。
誰がみてもすばらしいプロポーション。
そういった意味ではとても目立つ。
「それ程でもないよ…あはは」
本気で照れる護。
朝っぱらからうるさい。
そう感じていた琉嬉であった。
「護、ちょっといい?」
「うん?なーに?」
「昨日家に帰った時なんだけどね…」
琉嬉が鞄の中から何かを出した。
琉嬉の手の中にあるのは護が見覚えのある布が出てきた。
みるみるうちに護の表情が変わっていく。
「ね、ねえ?コレ何処で…?」
「んーとね、來魅が昨日拾ったて。僕らが戦ってた所で」
「ぎゃああぁぁぁ!!」
護のヘンテコな悲鳴が校舎の前で響き渡った。
そう、琉嬉が取り出したのは護の履いていた下着そのものだった。
「ななななんで??え?脱げた?でも破れてるよね」
「推測だけどさ。戦ってる最中になんらかの衝撃が加わって、パンツが破けていつの間にか脱げてたんじゃない?」
「うそぉ………今度からスパッツ履いてようかな…?」
あんだけテンション高かった護が一気にローテンションに様変わりした。
「落ち込んでるところ悪いんだけどさ、護。ふかしぎ部に入らない?」
「…ふかしぎ部?」
琉嬉が作ろうとしてる部活だ。
「そう、ふかしぎな事件を解決するための部活!作ろうとしてるんだけど、部員が足りなくってね…あのコトを黙っててあげるから
代わりに入ってくれないかな?」
「…それ脅しじゃない?」
「そうとも言うかな」
「………エグいね。琉嬉ちゃん…」
「護ならうってつけだと思うんだけどな~。その力、もっと有意義に使おうと思わない?」
「それも楽しそうだね」
「……琉嬉ちゃん昨日の事は忘れて、これからよろしくね」
意味深なセリフ。
「忘れようにもないけどね」
「あぁん。琉嬉ちゃんの意地悪ぅ」
「気持ち悪いなぁ…」
「何々?あのあと私たちと別れてからこの二人は何かあったワケ?」
「うそ~怪しいなぁ」
すっかり仲が良くなった二人。
「…話を変な方向にもっていくなよ…」
突然騒がしくなった学校生活。
兎に角も一筋縄ではいかない日々になる。
まだまだ賑やかで前途多難な、新しい生活は始まったばかりに過ぎなかった。