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1.出会い

 魔法国家ラディウス王国。そこの首都、ヘリオポリスは、太陽の街と呼ばれている。

 道路を走る車や街に溢れる道具諸々は全て、魔法によって作られ魔法によって動かされている。王国内でも、城下町であるヘリオポリスは最も魔法に依存している街だと言っても過言ではない。

 街の中央には立派な城がそびえ立ち、ヘリオポリスに住む者も大抵は貴族出身の高貴な身分であった。


 そんな街の城に、俺はめでたく王子として産まれた。名前はセト。中々呼びやすくて簡潔な名前なので、自分では気に入っている。俺が産まれるにあたって、国中の人々は大いに祝福し、喜んだらしい。と言っても、既にこの国の王には子供が二人いるため、俺は三番目の王子となる。


 心優しいおだやかな長男、オシウス。賢くしっかり者の長女、イリス。そして産まれた次男セト。

 生まれながらにして王族である俺達は、国中の期待を背負ってすくすくと成長した。



「お母様!今日は干ばつで困っていた農民のために、雨を降らせて参りました!」


「まあ、それは素晴らしいことをしましたね。オシウスはまた水の魔法を使うのが上達したのね。」



 長男である兄オシウスは、9歳にして水魔法を習得していた。生まれ持った才能と、日々の学習の賜物である。サラサラと黒髪をなびかせて走る彼は、いきいきと目を輝かせていて、俺から見ても美少年だったと思う。


 一方、健康的で社交的に育った長男とは裏腹に、次男の俺は内向的であまり外に出ない子供だった。


「セト、あなたもお外で遊んだら?」


 俺は母親や側近の言葉に首を振る。俺もオシウスと同じ黒髪をしていたが、まずオーラが暗かった。まだ4歳だというのに、歳に見合わない不思議な雰囲気を持っていると、城の人々が噂していたのを聞いた事がある。


 ちなみに姉であるイリスは、姫だというのにただの暴力女だった。気に入らないことがあると、当時4歳の俺を普通に回し蹴りをしてくるような奴だ。姉に幻想を抱いてはいけない。

 

 そうなると、やはり国民の期待は後の王となるオシウスに集まる。優しくて優秀なオシウスは、皆の人気者だった。



 そんなある日の事だった。とある事件により、城中が突如悲鳴に包まれた。


 その事件とは、王子オシウスの暗殺未遂だった。そしてその犯人はこの俺だ。王と王妃は目の前の光景に目を疑っただろう。血を流してうずくまるオシウスをナイフで刺したのが、たった4歳の自分の息子だと信じたくなかった筈だ。


 何故兄を殺そうとしたか?そんなの、なんか気に入らなかったからに決まってる。そりゃあ、人付き合いの出来る兄が人気なのは分かってる。当時の俺が何を考えていたのかは知らないが、嫉妬していたんだと思う。


 事件は城内で隠蔽され、俺は城の地下深くの部屋に閉じ込められることになった。幸い、オシウスは一命を取り留めたのだが、このとき母親である王妃のお腹には四人目となる娘がいたのだ。彼女を危険に晒すわけにはいかない。との事だったらしい。


 地下に監禁されてから、俺は荒れていた。

 部屋にやって来るお世話係の執事やメイドを次々とナイフで傷つけて、中には殺してしまった者もいる。

 そんな俺を止めようと複数の兵士が乗り込んできた事もあったが、全て返り討ちにしてやった。それほど、俺は戦いに関して異常な程の能力を発揮していたと自負している。


 このままではお手伝いがいなくなってしまう。セトを扱える者は誰かいないのか、と困った父は国中を探し回り、そしてとうとう見つけた。国で最も強いと言われている、俺と同い年の幼い少女を。



***


 とある田舎村で産まれたその少女は、アトナといった。謙虚で真面目でしっかり者。そして彼女は強かった。

彼女は4歳にして、国を守る戦士としてこのヘリオポリスへ来ていた。毎日戦争に向けての鍛錬、そしてならず者への制裁。


 彼女の美しく幼い容姿からはそんな力があるとは想像もつかない。アルビノの、美しく白い髪に透き通るような肌。青く澄んだ瞳を見て、人々はまるで天使のようだと絶賛した。そして、彼女の鮮やかな戦いぶりを見ると、アトナの事を皆こう呼ぶようになった。『戦いの女神』と。



 そんな噂を聞きつけた父は、大喜びでアトナを城へ呼ぶように家臣に命じた。俺の存在の恐ろしさを知る家臣は、躊躇いながらもアトナの両親の元に連絡を入れたのだった。


『王からの命令。至急娘を王宮に献上せよ』と。



 あっさりと、後日アトナは城へやってきた。


「やあ、よく来てくれたなアトナちゃん。君にお願いがあるのだ。」


 優しく王様はアトナに話しかけた。


「はい。王様の命とあらば、光栄です。どんな事でも成し遂げてみせます。」


 なんてしっかりした子なんだ、と王は感心した。この子なら、我が息子の側近に相応しいと。


「私の息子とお友達になって欲しいんだよ。君と同じ歳だ。セトという。」


「王子様と?……私なんかがお友達になってもよろしいのですか?」


「勿論、私としても嬉しい限りだよ。……ただ、セトには少し問題があってね……。」


 王はセトの荒っぽくて少し変わった性格について、アトナに説明した。


「はい、分かりました。出合い頭に殺されなければいいのですね?」


「ま、まあ、そうだな。くれぐれも、気をつけて。」


 

 王に見送られて、アトナは地下に降りて行った。やがて薄暗い中に、木の扉が見えてくる。付き添いの兵士が、その扉を軽く叩いた。


「セト様、新しいお手伝いの者を連れて参りました。」


 何重にもかけてある鍵を外して、アトナを中に入れると直ぐに兵士はまた外から鍵をかけた。


 まるで猛獣のような扱いだ。しかしそんな扱いにももう慣れた。




「……誰?」


 この時、アトナの事を知らなかった俺は素っ気なくこれでもう何人目かのお手伝いに声をかけた。


「初めまして、セト様。アトナと申します。今日から貴方にお仕えしたく……」


 そう言いながらお辞儀をしかけたところを狙って、俺はナイフを投げつけた。アトナは素早く身を翻す。


「……避けたの?……すごいね。」


 この一発目を避けた人間は初めてだ。俺は嬉しくて、どんな人間なのかを見たくなり、数日ぶりに部屋に明かりを点けた。指を鳴らすだけで部屋の壁を取り囲む蝋燭が一斉に輝きはじめる。これも魔法家具だ。そこでアトナの顔を初めて見た俺は驚いた。


「……驚いたよ。まさか僕と同じくらいの女の子だなんて。それからさっきの攻撃を軽く避けちゃうなんて。」



「……お話に聞いていた通りでした。貴方も戦うのが好きなのですか。」


 白いワンピースの裾を払いながら、アトナは言った。


「そうだね、好きだよ。戦うのはスッキリするから。」


「そうですか。」


 俺の返事を聞いて、アトナはフッと笑みを浮かべた。


「私も戦いは大好きです。」



 突如、アトナの両手から眩い光が溢れ出した。俺は思わず目を細める。


「斧錬成魔法……ラインヴァイス・クリーガー!」


 アトナの手から放たれた光は、見る見るうちに巨大な斧へと化していった。そしてその、自身の身長の何倍もありそうな真っ白な斧を振りかざしてアトナは淡々と言った。


「これが私の魔法です。よくある武器錬成系魔法ですよ。私は斧使い。貴方は?」


 俺は一瞬、アトナの姿に呆気にとられていた。しかし、すぐに隠し持っていたナイフを数本取り出す。


「俺は、これだよ。」


 それを見て、アトナは鼻で笑った。


「なんだ、まだ魔法の一つも使えないのですか?だったら、私と戦うのはやめたほうが良いですよ。」


「なっ……!俺のお兄様だって魔法を使いこなし初めたのはつい最近だぞ⁉︎」


 そう、これはアトナが異例なだけである。普通、この世界では子供は10歳頃に才能が花開くと言われているのだ。


「正直なところ、こんな部屋を壊して抜け出すくらいは簡単なんです。でも私は王様に頼まれてここに来ました。だから、宜しくお願いします、セト様。」


 実は、この挨拶の間にも十回以上俺はアトナにナイフで切りかかっていた。が、難なく全て避けられてしまう。


「う……悔しい。なんで当たらないんだよ……?」


「それは、貴方が弱いからでしょう。」


 アトナの容赦ない毒舌に、俺はムッとして顔を上げた。しかしアトナは少し表情を緩めて言った。


「というのは冗談です。実は私が今まで戦ってきた大人よりも、貴方は強いです。だって、十数回切りつけられただけでこんなに息が上がりましたから。」


 ポーカーフェイスで目立たないが、アトナは彼女なりに結構頑張って俺の攻撃を避けていたらしい。


「……なんだよ。つまんない。」


 よく見るとアトナは絶世の美少女だった。髪から肌から全部白い。天使のようだと、この俺でもそう思った。少し照れて、俺はプイと顔を背ける。


「セト様?」


 アトナはきょとんとして、そんな俺の目の前に回り込んだ。俺は何となくその様付けが嫌になって言った。


「……あのさ、俺達同じくらいの歳なんだから呼び捨てでいいよ、アトナ。」


「でも……。」


「王子様の命令なんだけど。」


「……分かりました。セト。」


 そして俺達は顔を見合わせて、小さくはにかみながら笑った。本当に久し振りに笑った気がする。そしてこれが、俺とアトナの初めての出会いである。



ギリシャ神話が大好きで、本編にもちょくちょくネタを使っています。が、恐らくそのうち関係なくなってくると思います。

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