♪Eps.11.3(Another Stories of Suite)
可愛い可愛い息子を紹介しよう!
名前は、耀くん。血は繋がってないけれど、俺の自慢の息子。
肌が白くて、マイセン人形みたい。あ、マイセン人形は言い過ぎか。
でも外見もほんと可愛い。ちょっと北欧とかの血が入ってるらしくて、彫りの深い顔をしている。
髪は真紅に染めているけれど、地毛は栗っぽい色だ。目も薄茶色でビー玉みたいに綺麗なんだ。
男が男に向かってこんなに褒めちぎるなんて怪しく思われるかしれないけれど、実際、絵に書いたような「美少年」なんだ。
性格はまるで猫みたいで、もうね、何かね、いわゆるツンデレってやつなのかな。とにかく萌えなんだよね。普段はツンツンしていて俺に冷たくするくせに、抱きしめてあげた時とか、頭を撫でてあげた時とか、磁器みたいな白い頬を桃色にに染めて照れるんだ。そして恐る恐る甘えてきて…、あーっもうね、これはね、親である俺にしか分からないかも。素直に甘えられると、もうこっちは無条件で愛したくなる。
あ、玄関のドアが開いた音がする。愛しい息子が帰ってきたようだ。今日は店が定休日だから、一日一緒に過ごせる。
さぁ、玄関に行ってみよう! 靴を脱いで揃えている音がするよ!
「ただいまー」
「おかえりっ!」
駆け寄った勢いで抱きつく。32にもなってるのに、大人気ないとよく耀に言われる。
いつもここで憤慨して突き放されるのだが、この日ばかりは違った。
「…耀?」
大人しい。どうして? 何も反応してくれないよ。
腕の中に収まる少年は、憤慨するどころか裾を軽く引っ張ってきた。
「…真一……」
「どうしたんだよ、何かあったのか?」
「ん…」
不安そうなか細い声。心配になってくる。
こういう風に素直になる時は、ぜーったい何かあった時だ。
今こそ、父親の顔する時じゃないか。
「…とりあえず家に上がって。俺はいつでもお前の味方だ」
「…真一…、真一…」
「どうした」
「そばにいて……」
俺の胸に顔を押し付けて、くぐもった声がそう言った。
か、可愛い。
不謹慎なのかもしれないけど、可愛くて悶てしまう。
さっきから可愛いしか言っていない気もするけれど、それ以外の言葉ではしっくり来ない。
「…そばにいるよ。安心しろ。…ほら、いつまでもこんなところにいるわけにもいかないだろ」
話は聞くからと促し、耀を家の中に連れこんだ。始終、耀は人形のように表情がなかった。
「…ようするに、弟くんがいたと?」
クリーム色のソファにちょこんと座った耀は、浮かない顔して頷いた。そんな彼を見て、何だか不安な気持ちが移ってきてしまう。
「そうか…」
彼は、いわゆる家出少年だ。3年前に家から飛び出してからは、ずっと家戻ってない。戻れないのだ。
戻ったところで、彼が壊れてしまうのは目に見えている。
彼が恐れているのは、その実家に連れ戻されるということだ。それには、家族やその知り合いに見つかりたくないのだ。
「全く頭になかったわけじゃないんだけど、まさかいるとは思わなかった…」
「…そうだな。でもな、耀、何があっても俺は、おまえを離したりしない」
むしろ、俺が離さない。今の生活は、ほぼ耀を中心に回っている。
この子が俺のところに来た最初の日の、ボロ雑巾のような姿はもう見たくない。見て喜ぶような奴は、それを変態と呼ぶんだ。
この子が正常でいるためにも、実家には戻してはいけない。危険すぎる。
「…聖くんはおまえを見て、なんて言ってたんだ?」
俺は息子の隣に座り、肩を抱き寄せた。俺と全然似ていない中性的な顔立ちの耀。彼は少し考え込んだ後、肩に身体を預けてきた。
「何て言ってたかなぁ…、忘れたよ」
忘れたわけではないだろう。思い出したくないのだ。
離れていても一番に想い、誰よりも心が通じ合ってしまう相手だからこそ、この状況はつらいのだ。
耀を抱く腕の力を、一層強めた。
「でも逆に良かったんじゃないか?」
「え…」
「聖くんが近くにいた方が、おまえの気苦労がなくなるだろ。…きっと神様が赦してくれたんだよ」
「…そんなわけ無いだろ」
「いいや。耀、おまえ聖くんの姿見て、ちょっとホッとしてるんじゃないのか」
うむぅ、とうんともいいえとも取れる返事をして、耀は、猫が膝に乗ってくるように倒れ込んできた。俺の太ももに寝そべって、背中を丸めた。
「それは否定できないよ…でも、正直会いたくはなかった」
「耀…」
整った横顔は、苦悩に満ち溢れていた。眉間にシワを寄せながら、静かに瞳を閉じた。
出来るなら、俺が変わってあげたい。
やっぱりさ、自分が愛している人には笑ってほしいと思うじゃん。血が繋がってたっていなくたって、耀は愛しい家族には変わりない。我が子であり弟のような耀に、苦しい顔なんてさせてたまるか。
鳩尾の前で眠る息子の、つやつやした指通りのいい髪を撫でてやる。おじさんこれからも頑張んないとな。
頑張るから、壊れないでいてくれよ。
頼むから。
おじさん何でもするから。
「…手羽先食べたい」
俺の考えていることが分かったのかなんなのか、暫し間を開けた後、息子はポツリとそう呟いた。
「…は? てばさき?」
「自分でもようわからんけど手羽先食べたい…」
「唐突だな。でもいいぜ、手羽先夕食に出してやるよ」
ささやかなリクエストに、頬が緩んだ。悩んでいても、腹は減る。
32歳のシングルファザーは、手羽先の肉をどこから調達しようか必死で考えた。




