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魔術師の異世界ラプソディー  作者: 木林森
7章 旅人達の安穏(カーム・エピソード)
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あみだくじ

 色々な内容を終えると、ちょうどいい時間になったので夕食をギルドで食べることにした。勲章の恩恵は使わないともったいないからな。

 ギルドに行く途中やギルド内で、この街を救った英雄として、ミリアは何度も声をかけられ、お礼を言われ、物を貰った。

「人気者だね、ミリア。」

「よしてよ、レイラ。」

 注文を終え、時間が余ったところで、レイラがミリアを茶化し、ミリアは照れくさそうに突っ込んだ。

「さすが街を救った英雄だな。」

「いやぁすごいね、ミリアさん。」

 俺とクロロもそれに乗っかり、はやし立てる。

「もう、あんた達まで……あんた達のおかげよ、あたしだけでは、こんなことは出来なかった、あたしだけだったら、あいつに負けてた。」

 ミリアは最初は照れくさそうに、最後は真面目な表情でそういった。

「ま、結果が良かったんならたらればはいらないさ。ところでミリア、戦利品は何があるんだ?」

 俺はそう締めるや否や、ミリアに質問した。とにかく、量が多かったので、ミリアは片っ端から超容量鞄に突っ込んでいったのだ。

「えーと、基本的にこの国の特産の果物ね。ドライフルーツやその他調理済みのものもあるわ。他にもぬいぐるみやマフラーや手袋、お礼の手紙といった微笑ましいものまであるわね。……超容量鞄がなければ捨てるものだったと考えると、つくづくレイラに感謝ね。」

 ミリアは苦笑しながら、超容量鞄から手を抜く。

「それにしても……随分といつもより賑わってますね。何かイベントでもあるんでしょうか?」

 レイラがギルド内を見回しながらそういった。いつもより断然人が多く、席が全部埋まっており、立って壁に寄りかかりながらだったり、4人掛けの丸テーブルに椅子を追加して5人で座ったりしている。

「あれだろ。防衛戦の報酬の分配方法について説明があるからだ。何でも、凄い賞品が出るらしいからな。」

 俺はレイラの疑問に答える。

「ああ、そうですね。すっかり忘れてました。」

 レイラが照れくさそうに苦笑したところで、注文していた料理が来た。

             __________________

 俺たちがそれぞれ夕食を食べ終えた頃、ダグラスさんがカウンターに出てきた。

「おう、そろそろ集まっておるかの。……さて、今回集まってもらったのは、お主らが健闘した先日の防衛戦の、報酬の分配についてじゃ。今回は、あの魔族の無差別的な攻撃によって、規模の割にとれたまともな素材がとても少ない。」

 ダグラスさんの説明に、一部の冒険者たちが溜息を吐く。

「しかし、今回はお主らの健闘を国が認めてくださり、なんと、国から報酬が届いておる!」

 それを盛り上げるかのように、ダグラスさんが声のトーンを上げ、そう大声で叫んだ。

『ウオオオオオオオ!』

 地鳴りのごとき歓声がそこらから上がる。

「高純度の結晶を筆頭に、ミスリルのインゴットや騎士団クラスの装備がいくつも下賜されたぞ!」

『ウオオオオオオ!』

「さらに、上位に入った者は本人が望めば騎士団入りさせて頂けるそうじゃ!」

『ウオオオオオオ!』

 ライブの「皆、盛り上がってるか~い!」とその観客のように、ダグラスさんの言葉に冒険者たちが歓声をあげる。

 ちなみに、その騎士団クラスの装備だが、俺たちの装備に比べて圧倒的に質が劣る、と今まで読んだ本に書いてあった。実物を見ていないので分からないが、騎士団クラス、というと下っ端から幹部手前ぐらいの質になる。俺たちの装備は、ところどころが『騎士団長クラス』か『国宝クラス』のため、全体的に劣るのだ。どちらかというと、ミスリルのインゴットが気になる。

「さて、分配の方法じゃが、報酬の全体の内、魔物の素材はそれぞれに公平に分配する。残りの、国から下賜されたものを争奪戦で競う形になるじゃろう。して、その争奪戦の方法じゃが……。」

 ここでダグラスさんがじらすように溜める。

「腕相撲、隠密戦、頭脳戦、野営能力の4つを競う。1人1つしか参加できないルールでいく。」

『……。』

 場の空気が一気に沈んだ。後に知った話だが、ここは前線近いと言う事もあって実力主義の面が強く、総当たり戦が有力だと思われていた。しかし、この決め方……ところどころ地味だ。

「儂は総当たり戦が良かったんじゃが……他のギルド職員が別の方法を提示してきてな。結果的に上がった案から、ニコラスのパーティーから教わった『あみだくじ』という方法で4つ決めたのじゃ。」

 ……あみだくじが普及しているな。あ、あのギルド職員の顔を見るとあみだくじがやってみたかっただけっぽいな。

「そんなわけだ……気乗りしないかもしれないが、明日の12時まで参加を受け付けておる。賞品はいいのだから、参加する価値はあるぞ。」

 ダグラスさんは、そういうと、年相応の哀愁を漂わせて奥に消えていった。

 切ない沈黙が場を支配する。

「帰ろうか。」

「はい。」

「そうね。」

「賛成。」

 俺たちはそそくさと宿に逃げ帰った。

             __________________

「で、誰がどれに参加するんだ?」

 宿に逃げ帰って、俺たちはまた俺の部屋に集まった。

「うーん、それぞれの得意分野に参加するべきですかね?」

 俺の問いかけにレイラは首をひねる。

「そう真面目に考える事でもないんじゃない?」

「報酬は確かに貴重だったけど、そこまですがりつくほどでもなかったしね。」

 ミリアとクロロはこんな感じの意見だ。

「確かにそうだな。金は腐るほどあるから真面目になる必要もないか。」

「イベント程度に楽しみましょうかね。」

 俺とレイラはその意見に賛成した。……騎士団クラスの装備やミスリルのインゴットを大したことない扱いする俺たちの感覚は、確実に麻痺しきっているな。

「そうなると、ここはギルドの連中に則って『あみだくじ』で決めるか。」

「「「賛成(です)。」」」

 俺の発言に、3人は賛成した。

「じゃあ適当に作るか。」

 俺たちは、お互いに分からなくなるレベルでごちゃごちゃにし、下にそれぞれの競技の名前を書いて、ランダムに上側を決定する。

「あ、そうだ。取り分はどうする?」

「個人で取ったものは全部個人のものでいいんじゃないかしら?」

「それもそうですね。」

「単純明快でいいね。」

 俺たちは、そんな会話を交わしながらあみだくじを作った。

             __________________

「え、えーと……。」

「これは……。」

「……。」

「あ、あははは……。」

 俺たち4人は、結果を見て、微妙な反応をする。

 最善で、それぞれの能力を活かせるとしたら、腕相撲・ミリア、隠密戦・俺、頭脳戦・レイラ、野営能力・クロロになるだろう。ミリアは言わずもがな、俺は本職は隠密系だし、レイラは頭がよく、クロロは地属性の魔法でちょっとした小屋が作れる上、最近は料理が上手くなっている(女子力高し)。しかし、今回の結果は、

 腕相撲・クロロ、隠密戦・レイラ、頭脳戦・ミリア、野営能力・俺になった。上位を狙えるのはクロロだけだろう。レイラは隠密戦もそこそこできるが、前線型の弓使いだし、ミリアはレイラ曰く脳筋(実際はもっとオブラートに包んでいたが、要約するとこう)、俺の野営能力はあくまで最低限ちょっと上、となる。ルールにもよるが、隠密戦でのレイラの強さによるゴリ押しが出来なければ上位は狙えないだろうし、野営能力で魔法が制限されるなら俺は微妙。一応、火おこしなども人並みに出来るのだが、日本での訓練のみで、実践することは終ぞなかった。

 結論を言うと、この組み合わせはそれぞれのよさをあまり活かせない。レイラとクロロが入れ替わったら最悪だが、これならまだマシだ。まだマシだが……最悪一歩手前という微妙さから、余計にいたたまれない。しかし、

「やり直すと負けな気がするから、これで決定な。」

 ここでやり直したらダメな気がするのだ。

「「「「はぁ……。」」」」

 俺たち4人のため息が重なる。

 これはこれで面白い、うん、そうだ、きっとそうだ。

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