言霊
さらに追記
元の『言霊』の文章を保存して下さり、ご好意にて内容をメッセージにて送って下さった方がいました。おかげさまでもとの文章に戻すことが出来ました、という報告とお礼をこの場を借りていたします。
「さて、魔術についてのおおざっぱな説明は以上にしようか。」
俺がそう口を開くや否や、
「あれでおおざっぱなの……?」
とミリアが呟いたが気にしない。
「さて、次はとても偉い先生がいるから、そいつに魔法について説明を求めようか。」
「偉い先生、ですか?」
「それって誰だい?」
俺の言葉にレイラとクロロが反応する。
「そりゃあ当然こいつらだ。」
俺はストレージで焔帝の杖と嵐王の短剣をだし、床に置く。
『うむ。教師を務めさせていただこう。』
『ワイは説明が下手やから補助に回るで。』
2匹の龍だ。
「あ、なるほど。何千年も生きているからこっちの世界についてはこの2人……でいいのかしら?とにかく、聞けばいいわね!」
ミリアが納得したように頷く。
『まあ、2人で構わん。』
イグニスがどうでもよさげにそう返事した。俺は2匹と呼ぶつもりだ。
「魔法についてだが、実は分かっていないことが多いんだ。」
俺は今回の魔法講義の趣旨を3人に説明する。
「今分かっていることは、『魔力を使って、イメージ通りに現実を改変』するのが魔法と言う事。魔法の発動条件として、それぞれの魔法によって最低限きめられた魔力がある事、しっかりイメージすること、魔力をコントロールすること、そしてその魔法の名前を詠唱する事。多少の例外はあれど、この4つが基本だな?」
俺は3人にそう問いかけると、3人は頷いた。
「それと、もっと細かいところまでいくとすれば、装備の補助を使えば無詠唱で魔法が発動できること、使う魔力によって同じ魔法でも効果の強さが違うことがありますね。」
「それと、同じくらいの魔力を込めても、『ウィンドアーマー』にとっての『ハイパーウィンドアーマー』みたいに上位互換があれば、その上位互換の魔法の方が効果が高いわね。あと、等級が上がれば上がるほど消費魔力や規模、イメージやコントールが難しくなるってことね。」
「あと、属性に分けられていて、人によって得手不得手があることかな。それと、魔法の名前を間違えると不発になる事だね。それに、魔法の名前は開発者が決めていることか。」
3人はリレー形式のように他の法則も並べていく。ここまでは中堅冒険者ぐらいになれば誰でもすらすらとでることだ。
「で、ここで質問があるんだ。何故、『魔法の名前を詠唱すると魔法が発動するんだ』?ということだ。」
俺の言葉に3人は頭をひねる。
「そういえば……そこは答えられませんね。」
「魔法研究学会でもはっきりした理由は出ていませんね。」
「名前が魔法の内容を表していることに関係があるのかな?」
3人の反応はそれぞれだ。
「で、俺もそれが分からないから2匹に聞こう、というわけだ。」
俺一人で聞いてもよかったのだが、せっかくだから3人も一緒に聞いて貰おう、ということだな。
仮説は浮かんではいるが、それが本当とは限らないし、ちょうどいい機会なので聞いてみようと思う。
『ふむ、そういった疑問か。そうだな……。』
イグニスが考え込むような声を出す。
『ミリア。』
「何?」
イグニスがミリアの名前を呼ぶ。
『今、ミリアは名前を呼ばれて返事をしたな?』
「そ、そうだけど……?」
イグニスの話にミリアが困惑したように頭をひねる。
『このように『名前』というのはそのものを決定づけるものだ。今、ミリアは名前を呼ばれ返事をした。つまり自分がミリアだと認識していることに他ならない。』
「ふんふん、それで?」
イグニスの説明にクロロが食いついた。
『認識は名前があるととてもしやすい。例えば、ミリアの本名がアースラという名前であっても、我らはミリアの事をミリアだと思っている。つまり、たとえアースラという本名があろうと、我らにとってはミリアなのだ。』
「あ、なるほど!」
例に挙げられた本人であるミリアが頷いた。
『魔法は、初めに開発した者が名前をつける。そしてそれは、その魔法の効果を示しているのだ。それを魔法の教科書や本、または口伝や実演で名前と効果を刷り込まれ、その魔法はこれだ、と強く認識するのだ。それでイメージが補われる。また、それを口に出すことによってよりイメージを強固なものとし、魔法として発動するわけだ。』
なるほどな。俺の仮説は当たっていたようだ。
つまり、言葉に意志が宿る、『言霊』ってやつだろう。俺には縁のない話だが、教科書を暗記する場合はただ読むよりも『音読する方が』覚えやすい。言葉に出す、ということはそれだけイメージや記憶を強固にするのだ。その言葉に出すのが、『名前』と『効果』が刷り込まれた『魔法の名前』だからイメージを強くすることが出来るのだ。
「あれ?それじゃあ無詠唱魔法の仕組みは何ですか?」
レイラが首を傾げて質問する。
『無詠唱魔法は『基本的に』その者が得意な魔法だけ使える場合が多い。多く使っているということは、それだけ印象に残り、イメージしやすいと言う事。よって、わざわざ口に出さずとも魔法を使うことが出来るのだ。まぁ、我らみたいにその属性に強く精通していれば、その属性なら無詠唱でも操れる。それと……アカツキの場合は例外にすら含めたくないが、一応例外だ。』
イグニスの、最後に余計なものがついた言葉に、3人が何故か強く頷く。
「ちょ、お前ら!?人の事を何だと思ってる!?」
俺は勢いよく立ち上がり、3人と1匹に抗議する。
『まぁ、落ち着きなはれやアカツキ。貴様の場合は幼少のころから、魔術とやらで、『無詠唱で』魔力をイメージに変換する技術を練習しとったんやろ?いくら道具によるイメージの補助があったとしても、そんな訓練を続けとったらそら無詠唱もポンと出来るわい。しかも、貴様は想像力が豊かな奴やから、イメージを覚えるのも早いんやろ。』
ウェントスの発言に、3人はなるほど、といったような表情を作る。俺も同じような顔をしているだろう。なんとなく落ち着いた俺は、腰を下ろす。
『お前ら3人も、それぞれの属性に強い親和性のようなものがある。それぞれの属性ならばお前ら3人は無詠唱魔法はそのうち使えるようになるだろう。ミリアはこの前『ビッグジャンプ』を無詠唱で使ったな?あれと同じようにな。』
イグニスが最後に、3人に向かってそう言って締めくくった。
「さすが神様だな。ここまで詳しい解説が聞けるとは。」
「……龍が仲間にいるって、今更実感するけど凄いことですね。」
「全くもって同感よ。」
「さすが何千年も生きているだけあるね。」
俺たち4人は、感嘆の声しか上げることが出来なかった。




