閑話 癒しは重要
裏話的な何かです。
俺は、仮眠を取ったあと、その日一日の自由時間でニコラスさんに会いに行った。濁されていた、俺たちがいない間の出来事について聞きたかったからだ。
「……あれは、今でも思い出すと頭が痛くなる。結果的には滅茶苦茶良かったんだがな……。」
ニコラスさんは額を抑え、ため息を吐く。
あの時、恐慌状態だったはずの義勇軍。しかし、俺たちが戻ってみると、なぜか、皆魔族相手に勇敢に立ち向かっていた。しかも意気揚々と。士気がとても高く、騎士団でも集団で囲わなければならない魔族と、4対1ぐらいではあったが、互角に戦っていた。しかも、何人かは魔族を仕留めたらしくレベルの上昇が凄かったらしい。
「あれはな……。」
ニコラスさんは、思い出すように、その時の事を話し始めた。
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魔族だと!?そんなふざけたことがあってたまるか!
俺、ニコラスは目の前の魔物を切りつけ、いったん離脱しながら心の中で毒を吐いた。
しかし、馬鹿げている、あれは偽物だ。と鼻で笑うのは簡単だが、そうは問屋が卸さない。
「うわあああ!」
「嫌だあああ!」
周りの冒険者どもも恐慌状態に陥ってやがる。幸いと言うべきか、俺はまだ大丈夫だが、いつああなってしまうか、少なくともああならない自信は無い。
視界の端で、暴走したミリアを抑えるべく、アカツキたちが猛スピードで撤退していくのが見えた。
「まじかよ!あの強すぎる4人でも負けただと!」
「もう……おしまいだ……。」
「ぎゃあああ!」
そして、それを見たやつらは、再び混乱する。
「くそっ!」
俺は、苛立ち紛れに、向かってきた烏鬼3体を両断する。
「親方、これじゃあ手を打たなきゃヤバいですぜ!」
信頼できる仲間の1人、グリルが話しかけてくるが、生憎、俺にも手なんか浮かばない。
「とりあえずこの場をしのぐぞ!」
俺は八つ当たり気味に叫んで、斧蟷螂を両断する。
「とっくにグリザベラは魔力切れだしな……。」
グリザベラは、第三波から天空属性上級魔法を連発していた。とっくに魔力切れだ。
俺も絶望しかけた、その時、
「『ライトセラピー』!」
凛と透き通った、聞き覚えのある女の声が響き渡る。
聖光属性上級魔法『ライトセラピー』。かけられた者の精神は落ち着きを取り戻し、冷静な判断をさせることが出来る。上級魔法の中でも難しい部類ではないが、一味違う。
戦っている『義勇兵全員』に使用したのだ。義勇兵たちは落ち着きを取り戻し、目の前の魔物に対処するが、だれが使用したのだろうと混乱している。
「皆さん……あとは託しました……。」
『ビッグボイス』にのって、先ほどと同じ声が聞こえる。
「……グリザベルか。」
俺は、仲間の1人の名前を呟いた。聖光属性に強い適性を持ち、回復魔法が得意だが、何よりも『精神魔法』が得意な狼人族の少女。
「グリザベル達の大好きな……この街を……守って下さ……い……。」
ビッグボイスは途切れた。先ほどの魔法で魔力を使い切ったのだろう。
「グリザベルたんが……。」
「あたいらのために……?」
「……グリザベルたんの魔法を無駄にするな!」
「そうだ!俺たちは、街を、グリザベルたんを守るぞ!」
「うおおお!魔族がなんぼのもんよ!」
「私たちのグリザベルたんに指一本触れさせないわ!」
あいつはギルドのアイドル的存在だ。見た目と態度、性格に魔法。それらが相まってとんでもない人気を誇る。つまり、
「うおおお、(グリザベルたんは)俺が守る!」
「(グリザベルたんに、)魔族なんかに手出しさせるかあああ!」
あいつらを動かしているのは『劣情』。街を守ろうというのは、グリザベルの意思を叶えるためであり、あいつら自体は『グリザベル』を守ろうとしているのだ。
「あっしは頑張りますぜえええ、グリザベルううう!」
すぐ横にも馬鹿が一名だ。
「うん、結果がいいんだ……それで良しだ。うん。」
俺は、何故だが切ない表情で魔物と相対した。
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「と、いうわけなんだ。」
「えぇぇぇ……。」
ニコラスさんは微妙な表情、俺は心底呆れた表情を作る。いや、作ってしまう。
いや、まじか。シリアスな何かかと思って、この街の冒険者すげえとか思ってたけど、なんのこっちゃ。グリザベルさん凄いな。
「まぁ……結果が良かったんですし、それで救えた命があるんですから良しとしましょうか。」
「……それもそうだな。」
俺たちはそういって、それぞれ『違う意味のため息』を吐きながらその場を解散した。
(グリザベルさんは、立派だな。……俺は『街のみんなの命と自己満足』で、『自己満足』を選んだのにな。)
俺はそう考えて、また1つため息をついた。




