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魔術師の異世界ラプソディー  作者: 木林森
6章 疾風迅雷の復讐者(シャープウィンド・アヴェンジャー)
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閑話 癒しは重要

裏話的な何かです。

 俺は、仮眠を取ったあと、その日一日の自由時間でニコラスさんに会いに行った。濁されていた、俺たちがいない間の出来事について聞きたかったからだ。

「……あれは、今でも思い出すと頭が痛くなる。結果的には滅茶苦茶良かったんだがな……。」

 ニコラスさんは額を抑え、ため息を吐く。

 あの時、恐慌状態だったはずの義勇軍。しかし、俺たちが戻ってみると、なぜか、皆魔族相手に勇敢に立ち向かっていた。しかも意気揚々と。士気がとても高く、騎士団でも集団で囲わなければならない魔族と、4対1ぐらいではあったが、互角に戦っていた。しかも、何人かは魔族を仕留めたらしくレベルの上昇が凄かったらしい。

「あれはな……。」

 ニコラスさんは、思い出すように、その時の事を話し始めた。

             __________________

 魔族だと!?そんなふざけたことがあってたまるか!

 俺、ニコラスは目の前の魔物を切りつけ、いったん離脱しながら心の中で毒を吐いた。

 しかし、馬鹿げている、あれは偽物だ。と鼻で笑うのは簡単だが、そうは問屋が卸さない。

「うわあああ!」

「嫌だあああ!」

 周りの冒険者どもも恐慌状態に陥ってやがる。幸いと言うべきか、俺はまだ大丈夫だが、いつああなってしまうか、少なくともああならない自信は無い。

 視界の端で、暴走したミリアを抑えるべく、アカツキたちが猛スピードで撤退していくのが見えた。

「まじかよ!あの強すぎる4人でも負けただと!」

「もう……おしまいだ……。」

「ぎゃあああ!」

 そして、それを見たやつらは、再び混乱する。

「くそっ!」

 俺は、苛立ち紛れに、向かってきた烏鬼3体を両断する。

「親方、これじゃあ手を打たなきゃヤバいですぜ!」

 信頼できる仲間の1人、グリルが話しかけてくるが、生憎、俺にも手なんか浮かばない。

「とりあえずこの場をしのぐぞ!」

 俺は八つ当たり気味に叫んで、斧蟷螂を両断する。

「とっくにグリザベラは魔力切れだしな……。」

 グリザベラは、第三波から天空属性上級魔法を連発していた。とっくに魔力切れだ。

 俺も絶望しかけた、その時、


「『ライトセラピー』!」

 

 凛と透き通った、聞き覚えのある女の声が響き渡る。

 聖光属性上級魔法『ライトセラピー』。かけられた者の精神は落ち着きを取り戻し、冷静な判断をさせることが出来る。上級魔法の中でも難しい部類ではないが、一味違う。

 戦っている『義勇兵全員』に使用したのだ。義勇兵たちは落ち着きを取り戻し、目の前の魔物に対処するが、だれが使用したのだろうと混乱している。

「皆さん……あとは託しました……。」

 『ビッグボイス』にのって、先ほどと同じ声が聞こえる。

「……グリザベルか。」

 俺は、仲間の1人の名前を呟いた。聖光属性に強い適性を持ち、回復魔法が得意だが、何よりも『精神魔法』が得意な狼人族の少女。

「グリザベル達の大好きな……この街を……守って下さ……い……。」

 ビッグボイスは途切れた。先ほどの魔法で魔力を使い切ったのだろう。

「グリザベルたんが……。」

「あたいらのために……?」

「……グリザベルたんの魔法を無駄にするな!」

「そうだ!俺たちは、街を、グリザベルたんを守るぞ!」

「うおおお!魔族がなんぼのもんよ!」

「私たちのグリザベルたんに指一本触れさせないわ!」

 あいつはギルドのアイドル的存在だ。見た目と態度、性格に魔法。それらが相まってとんでもない人気を誇る。つまり、

「うおおお、(グリザベルたんは)俺が守る!」

「(グリザベルたんに、)魔族なんかに手出しさせるかあああ!」

 あいつらを動かしているのは『劣情』。街を守ろうというのは、グリザベルの意思を叶えるためであり、あいつら自体は『グリザベル』を守ろうとしているのだ。

「あっしは頑張りますぜえええ、グリザベルううう!」

 すぐ横にも馬鹿グリルが一名だ。

「うん、結果がいいんだ……それで良しだ。うん。」

 俺は、何故だが切ない表情で魔物と相対した。

             __________________

「と、いうわけなんだ。」

「えぇぇぇ……。」

 ニコラスさんは微妙な表情、俺は心底呆れた表情を作る。いや、作ってしまう。

 いや、まじか。シリアスな何かかと思って、この街の冒険者すげえとか思ってたけど、なんのこっちゃ。グリザベルさん凄いな。

「まぁ……結果が良かったんですし、それで救えた命があるんですから良しとしましょうか。」

「……それもそうだな。」

 俺たちはそういって、それぞれ『違う意味のため息』を吐きながらその場を解散した。

(グリザベルさんは、立派だな。……俺は『街のみんなの命と自己満足』で、『自己満足』を選んだのにな。)

 俺はそう考えて、また1つため息をついた。

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