エピローグ6 疾風迅雷
体調を崩して投稿が遅れました。
レイラとミリアを寝かせると、俺とクロロは治療に参加した。俺はクロロにありったけのポーション類を渡して、魔法や魔術での治療。クロロはポーション類を飲まして回った。
ちなみに、俺たちが傷つくことはほとんどなく、あっても俺の魔法や魔術があるため、ポーション類は宝の持ち腐れだった。念のために、ということで持っておいたのだ。金には困っていないので割と余分に持っている。
一段落すると、俺はニコラスさんとダグラスさんにことの顛末を報告しに行った。
「……あの竜巻はミリアが起こしたものだったのか。」
「……忌まわしい炎を吹き飛ばしたのも彼女だったな。」
2人は嬉しさ半分、驚き半分、といった表情でそういった。
「レイラとミリアは魔力の枯渇、クロロも致命傷を受けたことや無茶な行動、かくいう俺も大分疲れたので今夜はこの辺で勘弁してください。」
夜はもう、日付も変わり、2時は回った。大分眠いし、疲れたのも本当だ。……副リーダーに指名された割には、4人の中で一番働いてないのが俺だったりするがな。
「まあ、いいだろう。それじゃ、今日はゆっくり休め。それと、酷なようだが、今日の6時から今回の義勇兵に対する全員参加のミーティングがあるから、しっかり参加しろよ。場所は街の中央の公園だ。」
ニコラスさんはそういって俺を解放してくれた。
俺とクロロはその後、重い体を引きずりながら宿に向かい、そのまま寝た。
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たかだか3時間の仮眠の後、俺たちはげっそりしながらもなんとか起きた。特に3人の疲労度は凄まじく、目が死んでいた。魔力切れは、大体2時間ほど寝れば全快するらしいが、だからといって体調は悪いままだ。俺も大分疲れてはいたが、3人よりはましだったので、クリムと馬車を取りに行った。宿屋から公園まで馬車に乗っていこうという、住民が避難して道が広いのを利用した方法だ。
4人そろって朝飯を食べる元気はなく、朝飯を食べずに馬車に乗り込んだ。
ちなみに、何でこんなに早いのかを説明すると、この後にギルドが報告やら何やらをまとめなければいけないらしく、早いに越したことはないそうだ。
公園では、義勇兵として参加していた人が並べられた椅子に座っていた。その姿は疲労が漂っているが、近くにいる人と雑談をするぐらいには元気だった。若い冒険者は死んだようになっているけどな。
このあたりで、ベテランと若輩者で分かれるところだ。俺たちは後者。
馬車から降り、4人並んで座って待っていると、しばらくしてダグラスさんが前に出てきて、話しを始めた。
「さて!このたびはご苦労じゃった!街への被害も最小限にとどめられ、残念ながら犠牲者も出たが、相手の規模を考えると、それでも上々じゃ!……まず、このたび、犠牲になった勇敢な者たちに、黙祷を捧げようと思う。」
ダグラスさんは大声で話し始めると、一転、静かな声になって黙祷を促した。
静寂の中、時折、すすり泣く声が響いてくる。
死者は、最終的に半分ほどだった。イフリートを筆頭に魔族が参戦してきてからの被害が特に大きかった。中でもイフリートの『インフェルノ』はレイラの渾身の魔法も敵わず、多数の命を奪った。それでも、本来は今よりも大分死んでいたのだろうと思うと、まだマシなのだろう。
1分ほどの静寂の後、ダグラスさんは顔を上げ、また話始めた。
「ありがとう!さて、今回の事は国やギルドの本部、それと他国やその他もろもろにも伝える予定じゃ!魔族が襲撃に関わっていたほか、かの魔王の配下、『四天王』を名乗る魔族の存在もある!」
ここで、場の空気が緊張感に包まれた。
「このことについては、とにかく理由が分からん!分かることは、儂たちはより修練を積み、強くなって有事に備えることを怠ってはいけない、ということだけじゃ!今回の事で気を緩めず、より精進に励むのじゃ!」
冒険者たちの大きな返事がそれに追従する。
「うむ。……さて、このたびの襲撃を凌ぐことが出来たのは、ひとえに、お主らの頑張りと、思いと、強さのおかげじゃ!だが、その中でも特に活躍したある者に、『称号』を与えようと思う!お主らの中でも、そのものに対して様々な呼び名で呼んでおろう!そこで、その中でもぴったりだと思った称号を、そのものに与える!」
ダグラスさんの言葉に、周りの人の視線が一斉に俺たちの方向に向けられる。さらに詳しく言うと、『ミリア』に視線が集中している。
「……へ?あたし?」
ミリアが自分の顔を指さし、首をかしげた。
「ミリア・マグヌス!前へ!」
「は、はい!」
ダグラスさんがそう声を出しながら、ミリアを促す。ミリアは訳が分からない、といった表情で、促されるまま前に出る。
「お主の活躍は凄まじいものじゃった!魔族が来る前の活躍も凄まじかったが、魔族が来て、しばらくたった後のお主は素晴らしいの一言じゃった!『目にも止まらぬ速さ』と強力な『風』と未だ成功例がない『雷』で魔物や魔族を片っ端から蹴散らし、さらにあの強力な魔族の炎を吹き飛ばし、最終的にその魔族にも、見たことないほどの強力な攻撃で止めを刺した!お主がいなければ、この街は滅んでいた、といっても過言ではない!」
ダグラスさんの賞賛に『ヒュー!』と歓声が上がる。俺たちも拍手を送り、ミリアを称える。
「そんなミリアには、称号『疾風迅雷』を与えたいと思う!」
『ウオオオオ!』
『おめでとう!』
『尊敬するぜ!『疾風迅雷』!』
ダグラスさんの宣言に、周りからより一層の歓声が沸いた。
『疾風迅雷』、か。右手の『風』と左手の『雷』、それに掛けて圧倒的な速さを表す『疾風迅雷』。それに、双剣と言う事で『2つの片手剣』を重ねたんだな。毎度思うが、『言語理解』の翻訳の仕方は素晴らしい。
「そう、『疾風迅雷』、ね……。」
ミリアはぼそり、と呟いて、無意識だろうか、腰に下げている双剣の柄の感触を確かめるように握った。
「うん……気に入ったわ!あたしは『疾風迅雷』のミリアよ!」
ミリアは晴れやかな笑顔になってそういうと、腰の双剣を抜き、魔力を送って、掲げてみせる。それに、周りはより強い歓声を上げる。
「ミリア!格好いいよ!」
「いよっ!『疾風迅雷』!」
レイラとクロロが、それぞれミリアに歓声を送っている。その表情は、誇らしげで、嬉しそうで、素直な喜びを表現していた。
そして、俺もあんな表情をしているのだろう。
「勇敢なる戦士、『疾風迅雷』に乾杯!」
俺は、それを自覚しながらエールを送る。
ミリアは俺たちの方を向くと、照れくさそうに、誇らしげに、双剣をより高く掲げた。
溜まっていた疲れは、すでに吹き飛んでいた。
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あの後、その流れのまま解散し、俺たちは一旦俺の部屋に集まっていた。
「あらためて、称号ゲットおめでとう!ミリア!」
「僕からもお祝いするよ、ミリアさん!」
「良かったよ、ミリア!」
3人で口々に褒め称える。
「え、えへへ、ありがと。」
ミリアは顔を赤くして後頭部を掻くと、照れくさそうに笑ってお礼を言った。
「……これも、皆のおかげね。あんたたちが、全員居たからこその成功よ。……正直、あんたたちが称号を貰えないのが不思議なくらいね。」
ミリアは、声のトーンを落として、そう呟いた。
「いや、今回の最高の功労者はミリアただ1人だ。」
「そうそう、あの炎を吹き消したのもミリアだし。」
「止めを刺したのもミリアさんじゃないか。正真正銘、『ミリアさんの力』で成し遂げたことだよ。」
俺たちはミリアを励まし、笑顔を作る。
「……そうね。それでも、あんたたちのおかげであることには変わりないわ。……あらためて、ありがとうございました。」
ミリアは最後に、いつもの明るい雰囲気を落ち着いた感じにして、深く、ゆったりと、礼をした。
「……さ、そろそろ寝ましょ。調子に乗って騒いでたら疲れたわ。」
ミリアは、頭を上げ、顔を赤くしてそういった。
「ふふ、そうだね。それじゃ、おやすみなさい。」
「今日1日は丸々休養でいいよね?」
「おう、ゆっくり休め。それじゃ、お休み。」
ミリアが部屋を出て、それに続いてレイラとクロロが出ていく。俺はそれを見送った。
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暁は、しばらくすると『焔帝の杖』と『嵐王の短剣』を取り出した。
「で、なんの用なんだ?あいつらの前では話せないことか?」
暁はそう、2匹に語りかける。
先ほどから、2匹と暁が眷属関係であることを利用した意思疎通で、暁とだけ話したいことがある、と伝えていたのだ。
『ああ。今回の事件の時、お前の行動に疑問を持った。』
『あれだけの非常事態やで。ワイらを『召喚』すれば、貴様らはもっと安全やったし、死者も出なかったはずやで。』
2匹の声には責める様なニュアンスが混じっている。
『せめて、完全な召喚はせずとも、一部の力を解放することぐらいはできたはずだ。』
『貴様は仲間の安全が優先なんやろ?』
2匹はなおも質問を重ねる。
「そうだなぁ……まず、お前らの召喚は色々騒ぎになるから、使いたくなかったんだ。火山の時に、証拠見せるためとはいえ、イグニスを召喚したのは、今となっては軽率だったな。あん時の俺は、異世界に来たばかりで浮ついていたんだろうな。軽率な行動が多かった。」
暁は思い出を振り返るように天井を仰いだ。
『それだけが理由ではあるまい?』
イグニスがより声を低くして暁に問いかける。
「当然だ。」
暁は、にやり、と口角を上げ、笑みの形を作った。ただし、その形は『歪んで』いるように見える。
「あいつらが『あの程度』で『死ぬはず』がないだろ?確かに、俺が全力を出すか、お前らを召喚していれば簡単に事を終えることが出来ただろうな。」
暁は何かに『心酔』したように、悦に入った表情で話し続ける。
「だがな、そうすると、あいつらは成長しないし、ミリアの遺恨も晴れないままだ。そりゃあ、俺だって、あいつらに命の危険があれば、そんな真似はしない。だが、あいつらは強いんだ。繰り返すが、あいつらがあの程度では死にはしない。」
イグニスとウェントスは、その暁の表情に、声色に、背筋が凍ったようにゾッとした。
その表情は、完全に親を信じ切った子の『それ』であり、信頼する仲間に向ける『それ』でもあり、崇拝する神に向ける『それ』でもあった。
その声色は、嬉しそうに、誇らしげに、自慢げに、楽しげに、愉しげに……そういった形容詞が混ざったような、ものだった。
「まぁ、仮に、あいつらに命の危機が迫ったり、死にそうになったりしたら、」
暁はいきなりそう喋りはじめる。そして、その台詞を一旦切ると、その間に、より口角を釣り上げる。
「『俺の命に代えても』守り、傷つけた相手を消し去るさ。」
その表情は、『狂喜』に彩られていた。
これにて6章の本編は終了です。
感想にてつっこまれたところを、一部説明を入れました。
ちなみに、ミリアが称号を貰った時に、クロロと暁が叫んだ言葉は冒険者が称号を与えられた際に叫ばれる、伝統的な言葉です。




