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魔術師の異世界ラプソディー  作者: 木林森
6章 疾風迅雷の復讐者(シャープウィンド・アヴェンジャー)
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第三波

 第二波も死者が0で終わることができた。重傷者が20人ほどで、軽症者が40人、魔力切れが10人だ。

「次はいよいよ第三波だな。」

 ダグラスさんが顔を引き締めてそういった。

 第三波は最大勢力。2匹の『天狗』が率いて、ほぼ全部が密林の魔物だ。斧蟷螂が2割、鴉鬼と猛禽鬼で4割づつ、というのが大体の推移だ。

 総勢は実に4千。これだけの数になると、流石に押し負ける。しかも、Aランクの魔物がたくさんいる。ここまで来ると、いかにSランクといえど、油断は命取りになるのだ。

「斥候から連絡が入った!勢力がまして5千ほどになったそうだ!」

 早馬に乗って帰ってきた冒険者とダグラスさんは何か話すやいなや、そうみんなに叫んだ。この場にいる全員の顔が、より緊張感をます。

「5千か……対するこちらの人数は約500人だ。実に10倍差だな。」

 ニコラスさんが顎に手を当ててそう言った。

「まぁ、お主が推薦した4人がいるのじゃ。こちらにも勝機はあるぞ。」

 ダグラスさんがそうニコラスさんに声をかける。先ほどの無双が嘘みたいに、今は穏やかだ。

「ところでアカツキ。さっきなんかやってたけどあれって何だ?」

 ニコラスさんが俺に話題を振る。

「ちょっとした罠を仕掛けました。」

 俺はそういってニコラスさんに笑いかける。

「……お前の罠って密林のあれがあるから恐ろしいぜ。今はありがたいがな。」

 ニコラスさんはそういうが、顔はにやけている。

「第三波だ!」

 そんな声が聞こえてくる。

「よっしゃ、お前ら!ここが正念場だ!死ぬ気で生き延びろ!」

『おうっ!』

 ダグラスさんの声にみんなが呼応する。

 敵の勢力は空中移動と地上移動が半々といったところか。

 夜の空がより真っ黒に染まり、地面は大群の進行によって揺れる。

「それ!」

 俺は、軍勢がちょうどいい位置に来たところで、あるものに魔力を流し込む。すると、


 地上の魔物の集団は、突如、大きな『落とし穴』に落ちた!


『へっ?』

 それを見たみんなが固まる。

「やった!大成功だ!」

 俺ははしゃいでいる。

 あれは簡単な罠だ。魔物の軍勢が通過するだろう場所に地の象徴武器である円盤を埋めたのだ。さらに、赤いカードを数枚貼り付けて相乗によって魔力を底上げした。

 あとは簡単、現象をイメージして魔力をうまく流し込めば大きな落とし穴の出来上がりだ。

 落とし穴の直径は実に100m。地上を詰めて移動していた500匹ほどの魔物はその中に落ち、下の方のものは圧死し、上の方は怪我を与えられずとも侵攻を阻む。

「レイラ!」

「すっ!」

 ここに止めの一撃。レイラが大きく魔力を込め、矢を大きな穴の中に打ち込む。すると、


 矢を中心に大水が発生し、上から魔物を押しつぶした!


 レイラの魔力と『インフロウ』の性能に物を言わせた力技だ。それでも効果は絶大。地上の魔物の戦力は大分削った。

「次はお前らだ!」

 俺は空を飛ぶ魔物たちを指差して、そう叫んだ。

「堕ちろ!」

 その瞬間、空を飛んでいる魔物のうち、2割ほどが地面に墜落した。それらは下の魔物を巻き込み、陣形を乱させる。

 今のは『堕天』だ。

 翼は、昔から神や天使といった神聖、かつ人間を超越した存在の象徴だった。また、『天』は天国や天上といった言葉からわかるように、人々のあこがれで『上にある』存在なのだ。聖書や日本書紀、ギリシア神話などでも、聖域は高いところにある。

 そして、そんな神聖な場所から落とされるのはつまり、神聖さを失うということだ。

 日本神話で神の不興を買ったスサノオや、聖書で神に逆らった天使といったように、悪いことをしたものは天から『堕とされる』のである。

 あの魔物は人間に仇をなした今、悪いことをしたのだから、今、『堕天』したのだ。

 流石に全部は無理だったが、2割落としただけでも上々だろう。

「さて、初撃はばっちりだ!」

 俺がそう叫ぶと、周りは『ウオオオオォォォ!』と喜びの歓声を上げる。よし、これで士気が上がったな。俺はストレージでささっと円盤とカードを回収し(離れていても回収できるのが強みだ)、逆に布都斯魂剣を取り出して構える。

「お前は魔法使いじゃなかったのか?」

 ニコラスさんが怪訝そうに問いかけてくる。

「近接もいけますよ。ほら、それよりも目の前に集中しましょう。来ますよ。」

 俺は平然と返答し、両腕を振りかぶって俺を殺そうとする斧蟷螂の胴体を一閃して、逆に切り倒す。そのまま返す刀で空から急降下して爪を立てて攻撃してくる鴉鬼を切り捨てる。後ろから襲いかかってきた猛禽鬼2匹をまとめて蹴飛ばし動きを止めると、そのまま刀で首を切り落とす。

 続いて上空から『ウィールウィンド』を使われて、いくつかの小石が俺に襲い掛かってくるのと、それと連携して俺の死角から2匹の斧蟷螂と正面から鴉鬼が俺に襲いかかってくる。俺は小石を回転しながら避けると、その回転の勢いを利用して周囲の魔物を切り捨てる。さらにおまけで刀の軌道に合わせて火属性中級魔法『フォワードファイア』を使用して、炎を発生させて飛ばし、その外側の魔物を焼く。

「まじでやる見たいだな。」

 ニコラスさんは、俺を呆れ顔で見ながら向かってくる魔物を切り捨てていく。ニコラスさんも大概だ。

 空をふと見上げると、次々と急所に矢が刺さって墜落する魔物たちが見えた。外れた矢も結構見受けられるが、1人だけ異常な命中率と致死率を誇る人物がいる。当然、レイラだ。今回はあの程度には急所に当てるだけで十分、ということで猛毒の矢は使っていない。それにしても、レイラは命中率、致死率、攻撃ペースといったものはレイラがダントツだ。

「やあっ!」

 ちょっと向こうに視線を移すと、赤と緑の双剣を振るって魔物の死体を量産しているミリアが見えた。焼き切り、切り裂き、さらに風と炎の余波でダメージを与える。しかも速度が速いし、あの『シルフィード』のおかげで、『テンペスト』が強化され、『ハイパーウィンドアーマー』によって守備もばっちりだ。しかも、仮に破られても『防御アップ大』がある。

 そして、後ろに視線を移せばクロロの奮戦が見える。

 俺たちがどんなに頑張っても、数が数なので結構な魔物が俺たちをすり抜けて後ろに行ってしまう。そんな魔物たちの最終防衛ラインがクロロたちだ。

「『ウォールウェーブ』!」

 ちょうど、クロロの切り札が切られるのが見れそうだ。

 クロロの詠唱とともに、地面の一部が横に長く、高さ2mほどに盛り上がり、それが間隔を置いて3つ並ぶ。それらは、人が歩くペースほどの速さで、並行して向かってくる魔物の集団に襲いかかる。

 まず、いきなり現れた壁に前の魔物が当たり、それが後ろもあたって足止めと圧死を同時にする。仮に乗り越えても2つ目の壁が、それを超えても3つ目がある。さらに、1つ目の壁は一定時間経つと元に戻り、3つ目の後ろに壁ができ、それがまた進む。それらは『波』のように繰り返され、何度も魔物を押し返す。

 あれこそが地属性上級魔法『ウォールウェーブ』だ。あれはクロロ開発のオリジナル魔法で、拠点防衛の際にとても役に立つ。俺が前に教えた『ベルトコンベア』が発想の元だ。この魔法は大規模な集団に対して大人数を守る時に真価を発揮する。冒険者ならば少人数で戦うのがだいたいなので、正直、こんなことでもなければ役に立たない。何故、こんな魔法を開発したか尋ねると、曖昧にごまかされた。あいつにも何かしらの事情があるのだろう。

 あの魔法は範囲もそうだが、壁を固く、厚く、そして長く続けなければならない。魔力の消費量は凄まじいが、レイラ、ミリア、クロロはとんでもない魔力を持っているので問題ない。

「ゲギ!」

 猛禽鬼の1匹がこの魔法の弱点を見つけたようだ。それに続いてほかの魔物たちも飛行して『飛び越える』。そう、この魔法は飛んでいるものには無力なのだ。だが、

「『ウィールウィンド』!」

 空中にいるということは、地面に比べ安定しないのだ。そこを、ほかの魔法使いが突いて『ウォールウェーブ』の弱点をカバーする。

 『ウィールウィンド』の旋風で安定を失った魔物は折り重なるようにして墜落し、また壁に押し戻される。

「ふむ……みんな凄いな。こりゃあいけそうだけどなぁ……真打が出てこないんだよなぁ。」

 俺はそう呟いた。みんなの善戦でむしろこっちが押せていることに心躍る一方、どうにも解せない。この群れを率いているという『天狗』2匹が出てこないのだ。

「なんとなく……嫌な予感がするな。」

 俺はそう呟いてしまう。その時、

「魔物の軍勢に増援が来ました!100匹ほどです!」

 と監視・連絡からの無属性下級魔法『ビッグボイス』を通してそう叫んだ。確かに、遠くを見ればこちらに高速で向かってくる影がある。だが、今更100匹追加してどうしようと言うんだ?

「今から内容を『ディスタント』で確認します。……来ました!報告にあった変異種2匹です!」

 監視・連絡役から伝えられる内容に人間側は驚きの声を上げる。そして、ついに来たか……と気を引き締めた。

「ほかは……見たことない魔物です。……なっ!嘘だろ!?あの見た目は!ま、魔族です!ほかは魔族です!」

『なっ!?』

 そして、監視・連絡役は衝撃的なことを伝えた。

「魔族だと!?」

「そんな!?」

 戦っている人たちに動揺が走る。それとともに悲鳴も聞こえてきた。動揺で動きが疎かになり、そこを突かれたのだろう。そして、その悲鳴は、

「ま、魔族!?勝てるわけがない!」

「嫌だあああぁ!」

「お、おい!馬鹿!」

 より人々を混乱させる。安定していた守りは崩れ、所々に綻びが生じ、そこから更に崩壊は広がる。さらに、そこに追い討ちをかけるように、

「ぎゃあああああぁっ!」

 監視・連絡役の悲鳴が聞こえる。何事かと見ていると、


 そいつは全身が『炎』に包まれていた!

 さらに、

「ひぎゃあああぁ!」

「きゃあああ!」

 何人かも同じように火達磨になる!

 レイラが水属性の魔法で消火を試みるが間に合わない。戦線が崩壊して溢れる魔物をクロロが必死で食い止める。

 そして、ミリアは、


「嘘よ……。」


 目を驚きに見開き、涙を流して、膝をついていた。

 あいつはこれぐらいであんな風になるほどヤワじゃない。

「おい、ミリア!どうした!」

 俺はミリアに一気に走りよると、ミリアに近づく魔物を切り捨てながら問いかける。

「あの火は……あいつの……。」

 ミリアはそう呟くだけだ。

 その言葉から、今の状況から、俺は察した。この炎は


 『ヴァイヴラ』を襲った魔族の炎なのだ。


 つまり、この集団を率いているのは、『ヴァイヴラを襲った魔族』だ。

 俺は衝撃のあまり、一瞬放心してしまうが、なんとか持ちこたえた。しかし、驚きは消えない。

 そして、その驚きを助長するように、それは告げられる。『ビッグボイス』を使っているようで、その低い声はこの場にいる者全員に届けられる。


「愚かな人間ども、よく聞け。我が名は『イフリート』。偉大なる魔王に仕える『四天王』が一角だ。貴様ら人間を、我が『炎』で消し炭にしてくれる。」

さぁ、大変なことになってまいりました。書く方からすれば戦闘シーンが多いと別の意味で大変ですが。

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