2次試験
(次はどうしようか。)
心の中で次の試験に向けての武器選びをする。1次試験を難なく終え、俺は試験の待合室にいる。
にしてもあの人弱かったな。速さはあったけど。ランクは……Dくらいかな?多分、受ける人って初心者ばっかなのだろう。よって1次試験は肩慣らし程度の内容だったわけだ。多分そうだ。
(手加減も大分したし、ポーションもあるから大丈夫だよな。)
俺はそう締めて次の試験に集中する。とにかく、内容が分からないのがキツイ。どうしようかな?
「とりあえず……これが無難そうだな。」
俺はそういって短剣を手にとり、試験の部屋に向かう。
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「うわっ!すげぇ!」
部屋に入った俺の第一声。さっきまで飾り気のない部屋だったのに、今は大小の岩が連なる荒野になっていた。広さは変わらない分なんか残念だけど。
「ほう、お主が新入りかね?」
おじいさんみたいな声が、上から聞こえてきた。上を見上げると紫色のローブをきて、長いひげをたらしたおじいさんがいた。
「貴方が次の?」
「ああ、そうじゃよ。」
なるほど、手には杖を持っていて、魔法使い然としている。
「次の説明に入りますがよろしいでしょうか?」
岩場の陰から受付のお姉さんが出てくる。
「あ、はい。お願いします。」
「はい。今回は、魔法使い専用の試験です。スタート地点はあちらとあちらの一際大きな岩の裏です。
そういってお姉さんは部屋の両端にある大きな岩を手で示す。おお、なるほど。
「スタートの10秒前になりましたら、魔法の発動の準備をしてくださって結構です。ただし、発動はスタートをしてからでないと反則になります。道具は何でも構いません。以上です。」
「スピード勝負ってやつですね。」
俺は最後に感想を漏らす。お姉さんはそれに微笑で返してくれると、
「それではどちらもスタート地点に。」
と真面目な顔になっていう。
「うむ、分かった。それと少年、儂の名前はルドルフ。少年の名は?」
おじいさん……ルドルフさんがいきなり俺に話しかけてくる。
「あ、アカツキジンノです。」
俺はこちらの世界式の名前で自己紹介してみる。うん、それっぽいかも。これからそうしよう。
「ふむ、アカツキ殿か。では、お互い健闘しよう。」
「はい、よろしくおねがいします。」
俺たちはそんなやり取りをして、お互いに背を向けスタート地点に向かった。
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(今から考えると相手をいかに早く見つけ出すかも重要なんだな。)
俺はスタート地点に立つとそう考える。さて、どうしよう……あ、そうだ、俺が持ってきているのは『短剣』、つまり『風の象徴武器』だ。これを利用してみよう。
「そうなると、やるべきことは……あれか。」
俺はそう呟く。
「では、開始10秒前です。」
お姉さんの声が聞こえる。よし、準備開始だ。
俺は自分の中でイメージを固める。風といったらゲームでは速さの定番だ。スピード勝負だし、これもありだろう。)
「5、4、3、2、1、スタート!」
スタートの合図が聞こえた瞬間、俺はさっきのライナーさんなんか比べ物にならないスピードで近くの岩に飛び移り、そこからその速さを保ってルドルフさんに短剣をもって走っていく。
風は速さの象徴で、しかも俺の手にあるのは強力な象徴武器。重力も相まって体が軽く感じる。スピードもいつも以上だ。
俺は一瞬でルドルフさんの後ろに飛んで着地する。足を着地と同時に折り曲げて、衝撃を殺し、音もなく後ろをとる。そのまま、足のばねを利用してルドルフさんに飛び掛かり、手に持っている杖を蹴っ飛ばして離させてから首筋に短剣を突きつける。
「うおっ!?」
「動かないでください。切れますよ。」
どうやら俺の接近にいまさら気づいたようだ。
「少年、いつのまに!?」
ルドルフさんが驚きに声を失っている。それはそうかもな。なんせ直線距離で50mくらいの障害物が沢山あるところを3秒もかからず詰め寄ったのだから。ん?そういえば外から見た時こんな大きかったか?ちょっとあとで質問して見よう。
「しょ、勝者、アカツキ様。これで2次試験は終了です。」
お姉さんの声が聞こえる。それとともに俺は首筋に突きつけた短剣を離す。俺は腰を抜かしているルドルフさんをおんぶしながら(軽い)お姉さんの元に向かう。
「お疲れ様でした。」
お姉さんに挨拶をする。
「お、お疲れ様でした。次の試験は30分後です。またあちらの部屋でお待ちください。」
お姉さんもなぜかどもりながらも次を促してくれる。
「あ、その前に質問いいですか?」
「……?はい、どうぞ。」
「はい、では……この建物って外から見た時、こんなに広く感じなかったんですが、どうなっているんですか?」
「はい、それはこのギルドには建物の中が広くなる『結界』が張ってあるからです。それなりの高位魔法なのであまり普及はしていませんが、貴族様のお屋敷などに使われております。この部屋は結界によってつくられた『魔法空間』のようなもので、ギルドの窓口の裏の通路とのみ繋がっております。」
お姉さんの丁寧な説明。へぇ~そうなんだ。なんかすごいな。
「では、あと1つ。さっき、ここにいたのに俺たちの動きが見えてましたよね?あれって障害物もあるのにどうやって見えたんですか?」
「それは、この魔法空間には『サーチ』の魔法がかけられていて、ギルドの職員ならどなたでも全体が見渡せます。それで不正の確認や勝敗の確認を行っております。」
「ありがとうございました。それでは、あちらの部屋に行ってきます。」
お姉さんの説明が終わったので俺は礼を言うと待機部屋に向かった。
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「すごいのう、あの少年。本当に不正はなかったんかね?」
残されたルドルフと受付嬢は、2人で話していた。
「はい、サーチにも不正な魔力は感じませんでした。」
「ふむ、魔法の発動がかなり早いうえにあの効果じゃからな。というか彼は本当に魔法使いかね?なんでわざわざ接近戦をしてくるんじゃい。あの分だと接近戦も相当の手練れじゃぞ。」
「彼は魔法使いと書類に書いてますからね。それに、1次試験で彼は魔法使いとしてとてつもない技能を見せました。」
「ほう?なんだね?」
「無詠唱魔法です。それも火柱のような炎を出してました。」
「何!?無詠唱魔法!?」
「はい、詠唱は無かったです。」
「それは、まさか、そんな……バカな、そんなわけ……そんなの、Aランクの儂ですら出来んぞ。Sランク魔法使いでも出来るのはそうおるまい……。」
「ですよね……。それと、点数はいかほどに?」
「当たり前じゃ。無詠唱魔法と発動スピードに規模、どれもとてつもない。満点じゃよ。」
ルドルフはそう言い残しふらふらと部屋を去っていった。「無詠唱……嘘じゃ……。」とぶつぶつつぶやきながら。
(ルドルフさんは普通に攻撃魔法と気配察知魔法を準備していましたね。気配察知魔法の領域は部屋のアカツキ様側の半分。それなのに、気づけなかった。気配察知魔法で場所を把握した後攻撃魔法で攻撃。これがこの試験のスタンダートな方法。なのに彼は……とんでもないスピードで近づき、接触するまで気づかせなかった。そして、私は見た。『サーチ』で、彼が”私の視界”の範囲を走っていったことを感じとった。なのに、私は何も気づかなかった。つまり、彼は……”目視できないほどの速さで移動した”ことになるのでは?そんなことが出来るなんて……。)
残された受付嬢は頭の中で色々考えながらも次の試験官を呼びに足を動かしていた。
もちっとだけ(試験が)続くんじゃよ。
いまさらですが、これは主人公チートものです。ま、前作も大概でしたが。




