嵐王
『カアアアァッ!』
風龍はいきなり、俺に向けてブレスを放ってきた!イグニスの時は炎だったが、やはりと言うべきか、竜巻のような風のブレスだった。
「よっ!」
俺はそれを声を上げて軽く回避しながら、火属性上級魔法『プロミネンス』を一気に3つ、3方向から風龍を囲むような形で使用する。3つの火柱が風龍に襲い掛かるが、
『無駄やで。』
その火柱はすべて風龍が纏う風、風の障壁によって散り散りになり、風龍まで届かない。
「やっ!」
ミリアが掛け声とともに『ビッグジャンプ』を発動して高さ20mほどのところに滞空する風龍目がけて、跳び上がって攻撃しようとする。しかし、
「きゃっ!」
ミリアは風の障壁によって弾き飛ばされ、地面に物凄い勢いで落下していく。
「ミリアさん!『アースハンド』!『サンド』!」
クロロがすかさずミリアの落下地点に地属性中級魔法『アースハンド』で岩で作られた巨大な手を上向きにミリアを受け止めるような形で造りだし、その手のひらに初級魔法『サンド』で大量の柔らかい砂を生み出し、クッションにする。
「すっ!」
レイラがすかさず矢を一気に3発放つ。それぞれ聖光、暗黒属性の魔法矢、それと普通の矢に『インフロウ』の効果で水の魔力を込めた矢だ。
「何を無駄なことをしよる。」
風龍はそれを見て疑問を覚えたが、ミリアに追撃を加えるべく緩慢に視線を向ける。
3つの矢が丁度ミリアに視線を合わせた風龍の目の前で風の障壁に弾かれる。そこで、
『む、小賢しい!』
暗黒属性の魔法矢がはじけ黒い霧を、それはすぐに晴れるが、その直後に普通の矢が大量に水を発し、風の流れに大量の水滴が舞い、風龍の視界を遮る。
『食らえや!』
風龍は、何故か全く見当違いの方向に『トルネード』を放つ。
『ち、小癪な!』
手ごたえを感じなかったのだろう、風龍が忌々しげに毒を吐く。
黒い霧と大量の水滴で風龍の視界を一瞬遮り、その後に最後に来た聖光属性の魔法矢で『ミラージュ』のようなことをしたのだろう。恐らく、あの『トルネード』を放った瞬間、風龍には、放った位置にミリアが見えたのだろう。
「あんがと、レイラ!『テンペスト』!」
レイラに礼をし、ミリアが自身が使っている剣と同じ名前の魔法(正確には魔法が剣と同じ、ではなく剣が魔法と同じ、だ)を唱える。しかし、その嵐は風龍に向かわず、地面に向かう。
「さっきのお礼よ!」
ミリアがそう叫ぶと、下に向けていた手を思い切り風龍に向ける。すると、地面から大きな岩をいくつか巻き込み、『テンペスト』は風龍へと向かっていく!
『なまっちろいで!』
風龍はさすがに風の障壁では防ぎきれないと感じたか、胴体と尻尾をスイングし、風も利用して岩を弾き飛ばす。それらは俺の方にものすごい速度で飛んでくる!
「それっ!」
すかさず俺と風龍の間にクロロが割って入り、ものすごい勢いで飛んでくる大岩を『アヴァランス』で両断し、防ぎきれなかった大岩は『アヴァランス』の効果で岩の壁を造りだし防ぐ。
「サンキュッ!」
俺はさっきまで練っていた複数の魔法、地属性上級魔法『ヘビーロック』で大岩(さっきの大岩の体積の3倍ほど)を生み出して風龍に飛ばし、暗黒属性上級魔法『ハザードポイズンミスト』で真っ黒な猛毒のガスを一直線に飛ばし、聖光属性上級魔法『グリントアロー』で閃光の矢を飛ばす。
魔法は、魔力を込めるほど威力を増す。今回は俺の魔力をそれなりに余裕をもって込められたので、3つの魔法の威力はそれぞれあの風の障壁を破るほどの威力を持つ!
『バラバラな属性の上級魔法を一気に3つ、しかもその威力かいな!やるのう!』
風龍は嬉しそうにそう叫ぶと、
『ガアアアアアァッ!』
大きく口を開けて咆哮した!あまりの大音量と迫力に身体が竦む。そして、
風龍が出てきた谷底からとんでもない強風が吹いてきた!
「くそっ!」
俺は、仲間に影響が出たらヤバい『ハザードポイズンミスト』をキャンセルする。案の定、大岩は向こう岸まで吹き飛ばされ、閃光の矢は強風と風の障壁に阻まれて明後日の方向に向かう。
「このやろっ!」
俺はそれを受けて白いカードを大量に取り出し、それを空中にばらまくと、風の象徴武器である短剣を取り出して風を起こし、それらを風龍に飛ばす。白は五行思想で金、つまり金属を表す。白いカードは一枚一枚が鋭い刃となり、風に乗って襲い掛かる!
『ぐっ!』
風龍が呻く。大体が弾かれたが、何枚かは風龍に当たり体に傷をつける!
「あの風の障壁は一点集中で突破するんだ!」
俺は大声で3人に指示をする。やはりそうだ。ああいうのは一点に力を集中して突破するのが定石!
『調子に乗るでないわい!カアアアアアァッ!』
風龍は叫ぶと、俺に向かって始めとは段違いのブレスをしてくる。あの規模は避けれない!なら、
「それっ!」
俺は短剣を思い切り振って、風のブレスを弾き飛ばす!
『何やと!?その短剣……。』
渾身のブレスが弾き飛ばされたのが分かったのだろう。風龍は驚くと、俺の短剣に興味を向けた。
何はともあれ、これであいつの風はこれで操れるのが分かった。ならば、
「行くぞっ!」
俺はドラミで姫様が襲われたときにも使った『ピーターパン』の魔術を使用する。
『ピーターパン』は空中を自由自在に飛び回る。彼はいつまでも子供でいたい、と言い続けているのが特徴だ。
子供は、その振る舞いと発想から『自由』と見られることが多い。そして、『自由』の象徴としてよく使われるのが『鳥の羽』、つまり『飛ぶこと』だ!空を飛ぶ、というのはある意味で『重力』、つまり『しがらみ』から解放されることも示し、自由の象徴としてはメジャーなものだ。
俺はまだ、16歳という、『子供』だ。さらに、魔術師という職業(と呼んでいいのか疑問だが)上、自由な発想が求められることから、考え方は幼さを残す!
これらの要素が混ざり、俺は『自由』をもってして、『空を飛び回る』ことが出来る!
『何やと!』
俺が空を飛んでいることに、風龍は驚きを隠さない。
「それっ!」
俺は風龍に向かって弾丸のように飛んでいきながら、短剣を前に突出し突進する。短剣は風を操る力を持ってして風龍の風の障壁を破り、それどころかその風を巻き込んで、風の刃として風龍の硬い鱗に傷をつける!
『がぁ!』
風龍は苦しげに悲鳴を上げる!
「すっ!」
「お返しよ!」
「やっ!」
俺が風の障壁を破った部分から、すかさず3人が攻撃する!
レイラは猛毒の矢を惜しげもなく一気に5本放ち、ミリアは『ビッグジャンプ』で風龍に迫り、双剣で傷をつけ、クロロは『アヴァランス』の効果で3mほどの岩を5つ、一気に造り、それらを『投げ飛ばす』!
『ガアアアアアッ!』
風龍が本格的に悲鳴を上げる。レイラの矢は猛毒で身体を腐食し(九尾の血は神のような扱いの龍すら苦しめるようだ)、ミリアの双剣は深い傷を負わせ、クロロの岩は(レベル300越えの怪力を活用した)胴体に食い込み、それぞれ風龍に深いダメージを与える!
「今だイグニス!」
『ゴアアア!』
焔帝の杖を取り出し、至近距離から、俺の眷属になってから威力が増したイグニスのブレスを食らわせる!
『グ、ガアアアア!』
風龍は、ついに暴れ出す!風の障壁が風龍の怒りに合わせたように暴走し、荒れ狂ってきたため、俺は巻き込まれないようにすかさず距離を取る。
風龍は身体の一部から黒い煙を上げながら、息を整えるかのように深呼吸を繰り返している。それに伴って暴走していた風の障壁が収まっていく。
『く、くくくく、がっっはっはっはっ!』
すると、風龍はいきなり何か、とても愉快なことがあったかのように大笑いし始めた。
『面白い、面白いぞ!ここまでワイにダメージを与えるとはのう!』
落ち着くと、俺たちを見据えてとても嬉しそうに口角を上げてにやりと笑う。
『何千年も前の勇者ですらここまででは無かったわい!……よし、決めた、貴様らには特別にワイのみが知るこの世の理を見せてやろう!』
風龍がそういうと、空が厚い雲に覆われていく。イグニスとの戦いで俺が使った天空属性上級魔法『クラウディ』だ。
『ワイら龍は貴様ら人間、いや、ワイら以外の誰もが知りえないこの世の理をそれぞれ1つずつ知っておる!それぞれの属性を司り、悠久の時を過ごしてきたからこそ分かる、この世の理だ!』
厚い雲はついに完成し、俺たちを完全に空から遮断する。
俺たちは何が来るのかと身構える。全員がそれぞれの防御魔法を即座に使えるようにする。その一方で何が来るのかと期待するような目を3人はしていた。あの3人は好奇心が強い。かくいう俺もあんな目をしているのだろう。
『貴様らが『雷』呼ぶこの現象!その光は当たったものを焼き、多少離れていてもその余波だけで動きが止まる!』
……。
「「「……へ?」」」
緊張感をはらんでいた空気が俺たちから霧散する。
『くくく、貴様ら、あまりの驚きに言葉も失ったか?この『雷』とは雲の、』
「中の氷の粒がぶつかり合って電気が蓄積されるんだろ?」
「それでそれらが限界になると外側に放出するんですよね。」
「ちなみに、空に近づくにつれて気温が低くなって雲の中に氷が出来るのよね。」
「それと、電気の正体は目に見えない小さな粒で、陽子と電子っていう2種類があるらしいね。」
俺たちは肩透かしを食らったかのように白けたような声で、風龍がノリノリで語ろうとした雷の仕組みをリレー形式で解説した。そして、最後に4人で深い溜息を吐く。
『な、何故、貴様らはそれを知っとるんや!?』
風龍が目に見えて動揺する。そりゃあそうだろうな。確かに、つい数時間前までは『この世界の者』は誰も知らなかっただろう。だが、昼食の時に俺が3人とイグニスに教えてしまった。
いったいどんな凄いものが来るのかと楽しみにしていたが、知っていたことの上、話題に出たのがついさっきだったのでもう完全に白けてしまった。
「はあ……もしかして雷を見せようとしたのか?」
俺は一応確認のため風龍に問いかける。
『……このことを知っていたのは素直に褒めよう。だが、貴様らにこれを防ぐ術はあるんかいな?』
風龍はちょっと悔しそうだが、それでも余裕を取り戻したようだ。確かに、風龍の魔力で放たれる雷はなかなか防げるものではないだろう。だが、
「攻撃は最大の防御。ある意味防げる。」
俺は即座に親父の得意技、雷を起こす魔術を使用する。
ギリシア神話の最高神ゼウスは雷霆、つまり雷を使う。雷は、日本と同じようにギリシアでも『神の力』と信じられていた。神の力とは超常現象、つまり魔力を利用した現象の事だ。
この魔術に特別な道具は必要ない。条件は1つだ。それは、
(魔力を扱えることだ!)
俺は両手を重い物を持ち上げるようにあげ、それを風龍に向かって振り下ろす。すると、
『ガアアアアッ!グ、ガアアア!』
風龍に超大規模の雷が落ちる!風龍は先ほどのダメージも相まって大きく苦しむ。そして、
ズウウウウウン……
ダメージによって滞空する力すら失った風龍は、大きな音と地響きを立てて地面に落下した。そして、空を覆っていた厚い雲もコントロールを失い霧散した。
「どうだ、風龍。なかなか効いただろ?」
俺は落下した風龍に顔面近くに歩み寄り、目を覗き込んで問いかける。
『見事や、実に見事やで……あの雷をどうやって起こしたかはワイは知らん。それが、ワイはとても気になるのう。それと、貴様が使っていたあの短剣、あれにワイは何ともいえん親近感とでも言おうかのう、相性が良いと感じた。どうだ、ワイを貴様の眷属にしてくれんかのう?』
風龍はとても面白いものを見つけた、とばかりに俺を見下して(倒れていても俺より目の位置が高い)そういってきた。
「イグニスの時みたいに、この短剣にお前の魂を宿すんだよな?」
俺はそういって短剣を取り出す。
『ああ、そういうことや。契約はせんのか?』
風龍はそういうと、俺を試すように見下ろす。
「するとも。お前の力を貸してくれ。……一目会うつもりだったのに結局これだもんな。」
俺は了承し、最後に苦笑しながら言葉を付け加える。
『くくく、本当に面白いのう、貴様は。』
風龍はニヤリと笑ってそういうと、全身が光に包まれ、それは収束すると俺が持っている短剣に吸い込まれた。
『契約完了やな。』
短剣から風龍の声が聞こえる。
「そういうことだな。」
俺はそう返事すると、こっちに集まってきた3人に振り返る。
「……イグニスに続いて風龍まで眷属にしちゃうなんてねぇ。」
「どんどん人間離れしていきますね、アカツキさん。」
「これが眷属の契約かぁ……初めて見たなあ。」
3人は思い思いの感想を口にする。
「ま、何はともあれ会うことは出来たんだ。さ、帰ろうぜ。」
俺は3人を促して歩き出すと、ぐっと背伸びを一つした。
いつの間にか累計13万pv、ユニーク1万6千人を突破してました。ありがとうございます!




