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魔術師の異世界ラプソディー  作者: 木林森
5章 渓谷に落ちる雷霆(ライトニング・マギア)
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風龍

 あれから、しばらく空気が重かったが、それでも戦闘が始まったらそんなことも言ってられなくなった。

 昼食から今まで、2回シルフと遭遇した。戦わずに逃げたのを含めると計5回だ。2回目の方は成体と遭遇した。クロロが魔法を使わずにシルフの成体のブレスを受け止めていたり、レイラが『ハイパーウィンドアーマー』の風の流れを計算して矢を当てたり、ミリアが風の流れを利用してむしろ剣の威力を強めたりと、中々エキサイティングな戦闘だった。シルフの成体がたった3人になすすべもなくやられていく様子はちょっとシュールだった。

 戦闘を挟んで、結果的に、あの空気は払拭されたので良かったと言えば良かったのだろう。

 そして、今は頂上に俺たちはいる。底が見えないほど深い谷があり、その入り口から3mほどのところに、火山の『焔帝の門』のように大きな門が立っている。こちらの色は全体的に緑色で、光沢のある水色の装飾がついてる。

「これが『嵐王の門』か。……今考えると、全体の色はそれぞれが司る属性で、装飾の色はもう一つの属性の色だな。」

 俺はふとそんなことを呟いた。

 風属性の『緑』に天空属性の『水色』だ。ちなみに、火山の『焔帝の門』は火属性の『赤』に聖光属性の『金』だ。

「それにしても、凄い風ですね。谷の底から吹き上げてくるのと普通に吹いてくるのとで、一般人なら立っているのも辛いでしょうね。」

 レイラが若干苦い顔で呟いた。弓使いにとっては風は天敵なのだ。多少の強風ならレイラには効果がないが、これほどの強風だからな。

「うーん、これはまたキツイ環境ね。火山の頂上はかなり暑かったけど、こっちはこっちでまた厄介だわ。」

 ミリアも若干鬱陶しそうだ。

「うわぁ、綺麗な門だなぁ……。」

 クロロだけ何事もないように『嵐王の門』を見上げて感嘆している。シルフの成体のブレスを真正面から受けてもほとんどダメージがないクロロにはこれぐらいの風は大したことないのだろう。

「さて、何はともあれ、準備はいいよな?前回のパターンで行くと、この門に俺が触れたら勝手に開いて勝手に龍が現れるんだよな?」

 俺は右手に持っている焔帝の杖、その中に意志を宿すイグニスに話しかける。もしかしたら戦闘しないで済むかもしれないので(会うのが目的であり、仲間にしようとか戦闘をしようとかそういう目的は無い)、仲介役にイグニスを任命した。

『アカツキ、確かに、戦闘は避けた方がいいかもしれんが……確実に戦闘になるから我をあてにしても無駄だぞ?』

 イグニスからこんな答えが返ってくる。俺たちの願望を真正面から折ってくる。

「ま、まぁ、あれだ。万が一ってのがあるだろ?」

 俺はイグニスに返答しながら『嵐王の門』に触れる。

 ギイイイイイイィ

 すると、前回と同じように門は音を立てて開く。

『この我ら龍を祀る門は我らに匹敵する、またはそれ以上の魔力や戦闘能力、さらに技術や知識を有する、選ばれた者にしか開けることが出来ん。ふむ、お前みたいな奴は、』

 イグニスが何かを言いかけたその時、

 ゴオオオオォ!

 谷底からの風が強くなる!そして、


 谷底から、大きな緑色の帯が物凄い勢いで天に昇っていくが見えた!


 俺たちは、天に昇り切ったその緑色のものを見上げる。

 天には、長さにして目測40m、太さは4mにもなりそうな大きなシルフがいた。ただし、鱗の緑色は、もはや深緑と言えるほど濃く、纏う風は目視できてしまうほどに強い。牙も爪もより太く、より硬く、より鋭く見える。眼光は鋭く、見られただけで恐怖に慄きそうなまでの強さで、白銀の鬣は風になびき、より見た目の威厳を増幅する。

 紛れもなく、『風龍』だ。風龍は天でとぐろを巻くように滞空し、俺たちを睨む。そして、

『ワイの『嵐王の門』を開けたのは誰や?』

 腹の底に響くような、低く、威厳のあるドスの利いた声で問いかけてくる。

『風龍よ……毎度思うが、威厳を見せるのは良いが、それは方向性が違うだろう。』

 俺の右手から、イグニスが呆れたように声をかける。

『……貴様は火龍か。ふん、人間の道具に成り下がるとはな、堕ちたもんだのう。人間の力は認めるが、ワイらには圧倒的に劣るわい。どうせ、長い間動かんくて鈍ったか、油断でもしたんやろ?』

 風龍は視線を俺の手元に移し、より眼光を鋭くする。

『そのことはどうでも良い。それよりもその話し方を何とかしろ。』

 イグニスは風龍をたしなめる。

 そう、俺もそれは思った。確かに、威圧感や恐怖、威厳は凄まじいが……方向性が違う。『言語理解』加護がどう働いているのか不明だが、流暢な大阪訛り、ドスの利いた低い声と、神の威厳というより、『ヤクザ』の威厳の方が近い。イグニスの話しを聞く限り、こちらでも同じような言葉なのだろう。『言語理解』の加護は無駄に高性能だ。

『威厳やとか、そんなことを考えとるわけちゃうわい。これが素なんや。貴様だかてせやろう?』

『む、それもそうだな。』

 イグニスが言い負かされたようだ。

「……怖がって竦んでた私が馬鹿みたいです。」

「同感よ……。」

「同じく……。」

 それを見て、どこか緊張感がなくなったのだろう。3人はそういうと、はぁ、と深いため息を漏らした。

『そいで、『嵐王の門』を開けたのは誰や?火龍を従えとる貴様かいな?』

 風龍はイグニスへの興味をなくし、本来の疑問を解消すべく、俺を睨んで問いかける。

「そういうことだ。紛れもなく、その門を開けたのも俺だよ。こいつの時もそうだ。」

 俺はそういって焔帝の杖を持ち上げる。

「お前に一目会ってみたい、っていう軽い理由でこうしているわけだ。お前を目覚めさせて悪いが、これから戦闘、とかなしにしてくれるとありがたいんだがな。」

『そらなしやな。』

 俺が続けてお願いを言うと、ノータイムで断られた。

『ワイらは戦いが好きや。特に、強いもんとの戦いはな。火龍を従え、『嵐王の門』を開けた貴様なら、楽しませてくれるやろう。そこの3人のツレもや。こいつが連れているからには一癖も二癖もあるんやろう?まとめてかかってこいや!』

 風龍はそう言い切ると、威圧感を強め、大きな口を開けて笑みを浮かべる。

『さぁ、久しぶりやでぇ。こんなの何千年ぶりやろなぁ。ワイを、楽しませろや!』

 風龍はそう叫ぶと、体に纏う風の勢いをさらに強める。

 それは、戦闘を開始する合図だった。

初期設定とキャラが違いますが、2匹目の龍の登場です。

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