表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔術師の異世界ラプソディー  作者: 木林森
5章 渓谷に落ちる雷霆(ライトニング・マギア)
70/166

電気

 あれから、頂上まで半分ほどのところまで登ってきた。途中で4回ほどシルフと遭遇した。1回目は幼体1匹だから良かったものの、2回目は幼体3匹、3回目は成体、4回目なんかは成体2匹に幼体3匹といった大集団に出くわした。2回目と3回目はまだまだ余裕だったが、4回目は地獄だった。成体は魔法やブレスも強力だし、動きも粗がなく、集団での連携もよくて苦戦した。自重していた俺の魔法を何回かぶっ放したら一気に形勢が逆転し、そこから攻めまくって勝つことが出来た。素材がウハウハだ。

 そんなわけで、今は昼食タイムだ。

「アカツキ、今回のメニューは何なの?」

 ミリアが目を輝かせて尋ねてくる。

「鶏の干し肉ダシベースでいくつかハーブと調味料を加えたスープで、その中に小麦粉で作った団子を煮る。」

 俺はそう答えながらストレージで調理器具等の準備をする。

「アカツキさんは料理が上手ですよね。前の世界で1人で何でも出来るようにした成果ですよね。」

「旅の途中で温かい料理が食べられるのも幸せだよ。」

 レイラとクロロは口々に俺を褒める。

 この4人で、旅の途中の食事係は俺だ。地球で教育された生活スキルの中でも、俺は料理が割と得意、かつ好きだったのだ。

 この世界の冒険者は、基本、料理は『最低限』しか出来ない。野宿ではある程度必須だが、正直干し肉や携帯食料を齧るだけでも問題ないし、臭いで野生の動物や魔物が寄ってきたりもする。手間もかかるし、時間が命の冒険者には、料理が出来る人が少ない。3人とも、街の料理屋に劣らぬ結構な腕前だが、『手早く』、『美味しく』、『簡単に』、『多い』、という4つの観点から見て俺に軍配が上がったのだ。味については俺が僅差でビリだが、代わりにほかの項目は1位だ。

「ありがとよ。料理作る側としては冥利に尽きるぜ。」

 俺はそういいながらかまどの上に鍋をセット。水を生み出す水属性初級魔法『ウォーター』で鍋を水で満たし、かまどの中には五行思想で木に当たる青色のカードを何枚か入れる。そして赤いカードを放り込むとちょうどいい感じの火が熾る。

 水の中に予め準備しといた小麦粉の団子と鶏の干し肉、こっちに来てから研究した特製調合ハーブとソリルを加える。

 ソリルは以前、「塩みたいなもの」と表現したが、まんま塩だった。しょっぱいし、半透明の結晶だし、塊を割ってみたら劈開という性質が確認できた。ここまで同じだと間違いないだろう。

 しばらくすると、あたりにいい匂いが立ち込めてきた。シンプルながら、中々よく出来たもんだ。

「さて、そろそろいいだろう。」

 俺はそういうと、ストレージで4つの器とスプーン、それとおたまを取り出し、全員分に分ける。

「よし、それじゃ頂きます。」

「「「頂きます。」」」

 唱和して口をつける。うん、中々の味だと思う。

「今回はどんな話しをしてくださるんですか?」

 レイラはスプーンでスープを掬って一口すすると、俺にそう問いかけてきた。

「恒例のあれね。」

「アカツキさんの世界って凄いよね。」

 ミリアとクロロも口々にそういった。

 ドラミを出たころから、こうやって旅の途中で野外で食事をするとき、俺は地球の話をすることが恒例になった。3人とも強い関心を示してくれるので、俺も話し甲斐がある。

『アカツキの世界は魔法が無いからな。代わりにカガクとやらが発展している。大変興味深い。』

 俺の横に転がっている焔帝の杖からイグニスが声を漏らす。向こうの科学知識を話すときのみ、イグニスは自分も聞きたいとお願いしてくるので、こうして出している。

「そうだな……今回は『電気』について話しをしよう。」

「デンキ……ですか?」

 レイラが首をかしげる。

「こっちでは魔法や火がほとんどだけど、俺たちの世界では電気が普及しているんだ。こっちでは電気の認識自体が曖昧なんだよな……例えば、雷とかだな。」

「あ、なるほど、雷ね。」

 俺の喩にミリアが頷く。

「他にも乾燥する時期とかにセーター脱いでるときにパチパチッ、て感覚とか、金属を触るときにバチンッ、て感覚は電気が関係しているんだ。」

「へぇ~、雷とあれが同じものか……。それって、どうやって起こっているの?」

 クロロも食いついてきた。

「確かに。雷を起こす魔法は昔から開発されていますが、未だに小規模な雷すら起こせていません。とにかく、どんな風に、どんな理由で雷が起こるのか、イメージすらつかないんです。」

「そもそも、あのビカーン!って雷とあの地味に気に障るバチッ、て来るあれとが同じものなんて……。」

 2人も強く食いついてきた。ミリアは呆けたような顔をしてしまってもいるが。

「全部の物質が持っているんだけど、目に見えない小さな粒で陽子と電子ってのがあるんだ。この2つは相反する感じだが、磁石の陽極と陰極と同じように引き付けあう仕組みにもなっているんだよ。でも、特定の物質同士がある程度接触すると、片方には陽子が、片方には電子が集まることがあるんだ。で、それらがある程度溜まってきて耐えられなくなると電気を放出する。これが大規模になったのが雷なんだ。」

 俺はそういうと、いったんスープンと器を置いて、水の塊を出す水属性初級魔法『ウォーターボール』で何百個もの空中に小石サイズの水の塊を浮かせ、それを天空属性中級魔法『コールド』で凍らせる。そしてそれを魔術でランダムに移動させる。こっちの世界の魔法はあまり重くないものを浮かせる程度しか出来ないので、念動力テレキネシスで動かす。

 カチンカチン、と激しくいくつもの氷がぶつかり合う音が響く。

「雲ってのは水の塊みたいなもんなんだ。雲が出来るほどの高さになると大分寒くなって氷の粒が雲の中でいくつか出来るんだよ。で、これらがお互いにぶつかり合って電気を溜めこむ。で、それを解放したのが雷なんだ。」

 バチッ!丁度俺が言い終えたタイミングで小規模な雷が発生した。

「……魔法研究学会に発表したら大騒ぎになりそうですね。」

 レイラが目を丸くしてそう呟いた。

「これをもっと大規模にしたら雷が……アカツキさんの世界って目に見えない現象の仕組みまで解明しちゃうんだね。」

 クロロも同じような表情をしている。

「俺の親父が雷の魔術が得意だったからな、不思議と詳しくなったんだよ。」

 俺はそういいながら、あたまの中に『雷帝』と呼ばれた親父を思い出す。怒ると怖いから『雷親父』でもあったなぁ。

「へぇ、アカツキのお父さんもそういう風に雷起こして戦う人だったの?」

 ミリアが興味を持ったのか食いついてきた。

「いや、こんな風に科学的なものじゃなくて、魔力を使って直接雷を自由自在に操ってた。」

 俺は頭の中で親父の訓練と仕事の様子を思い浮かべながら答えた。

「思ったんだけどさ……魔術も魔法も、魔力を使っていろいろ出来るんだからさ、さっきみたいに面倒くさいことしなくても魔力から直接雷とか雷雲を出せるんじゃない?」

 ミリアがそんなことを呟いた。

「……なるほど、考えてみればそうだよな。」

 魔法は言葉や想像によって起こしたい現象を『イメージ』し、それを魔力を使って発動する。あとはそれをコントロールすれば魔法が完成する。

 魔術は、『イメージ』を考え方や物語や道具で補って、それで魔力で色々やる。

 俺はこの世界に来てから、魔法も一心不乱に勉強したが、結果的に、『イメージから魔力を使って現象を起こす』ことには変わりない、ということが分かった。

 ということは、だ。

「魔法で雷が起こせるかもな。」

 思い立ったら実践だ。魔術の開発もそうしてやっている。

「こう……魔力が電気みたいにバチバチッと……。」

 自分の中に流れている魔力(地球では『気』とか『オーラ』といったりした)を外に開放し、そこで電気エネルギーに変換するイメージで……

「それっ!」

 俺はその変換した魔力を地面に落とすイメージをして声を出す。

 バチバチバチッ!

 すると、地面に向かって、昼にもかかわらず、目に見えるほど強力な電気が俺たちから10mほど離れたところに落ちるのが確認できた。

「開発した魔法、って体で魔術使ってたけど……やっと本当に魔法を開発したな。」

 俺はそう言葉を漏らすと、器とスプーンを持ち、冷めかけているスープに口をつける。

「……いやいやいや!ちょっと待ってください!」

「何普通に食事を再開するのよ!?」

「魔法を開発するってアイディアが出尽くした今だったら凄いことなんだからね!?」

 すると、ぽかんと黙っていた3人が騒ぎ始めた。

「ん?まぁ、あれだ。こんな偶然もあるよ。大体の開発は突発的な閃きなんだから。あ、これ秘密にしてくれよ。面倒が起きそうだから。」

 俺はそういって具のなくなったスープを飲み干す。そして、頭の中で、スルーしてたが、今更思い出したことを口にする。

「つーか最初のシルフとの戦いでミリアが『ビッグジャンプ』を無詠唱で発動していた気がするんだけど。」

 無詠唱魔法はSランクの『魔法専門の』魔法使いですら、簡単な魔法でも出来る人は1割に満たない。それを、ミリアは戦士であり、あくまで魔法は『サブ』のはずなのに無詠唱で発動した。

「「……あ。」」

 レイラとクロロも思い出したようだ。

「うーん……あたしって火属性が一番適性が強いはずなのに、なぜか風属性の魔法が先に無詠唱出来ちゃったのよねぇ。」

 ミリアは腕を組んでうーん、と唸っている。

 無詠唱魔法は、基本的に適正属性のみ出来るはずだ。適性、というからには当然だ。

『む?ミリア、今なんといった?』

 さっきまで黙っていたイグニスが強い反応を示した。イグニスは基本的に話しを聞くだけで反応はしない。言葉に出さずに考えるらしい。

「え、いや。えーと……なぜか風属性が先に出来ちゃった?」

『その前だ!』

 ミリアの返答にイグニスは語調を強くして問い詰める。

「えーと、えーと、火属性が一番適性が強いはず、って言ったわ。」

 ミリアは思い出しながら答える。

『火属性が一番適性が強い、だと!?そんなバカな……。』

 イグニスは何故か驚いている。

「あ、あの、イグニスさん。なんでそんなに驚いているんでしょうか?」

 レイラがおずおずと質問する。一体何をそんなに驚いているのか俺も疑問だ。ミリアは普通に火属性を使いこなしてるし、違和感はない。

『出会った時からずっと風属性が適正属性だと感じていたのだが……。』

 イグニスは気になる内容をブツブツと呟いている。

「何でそう感じていたんだ?」

 俺は直球で質問する。

『ああ。我は悠久の時を生きてきたからな、魔力の質や量には敏感なのだ。ミリアの身体の内に流れる魔力は風属性にとてつもなく強い適性を示している。火属性もあると言えばあるが、微々たるものだぞ。まぁ、そこらの冒険者から見れば十分だが。』

 イグニスはそう答えた。そしてイグニスは話し続ける。

『魔力の適正というのは、先天的なものと後天的なものがある。先天的な適正は、それの生まれつきにあるものだ。後天的なものは、それに関する激しい訓練を積むか、それに関係する激しい影響、はたまたそれを『強く望んだ』ときに獲得する。しかし、それは先天的なものに比べればどうしても見劣りする。』

「『強く望んだ』とき……。」

 イグニスの言葉にミリアは何か嫌なことを思い出したような、トラウマをえぐられたような、どことなく悲痛な表情をしている。

「ミ、ミリア……もしかしてあの時の……?」

 レイラは何か事情を知っているのか、今にも泣きだしそうな表情をしている。

「「『……。』」」

 俺とクロロとイグニスは、空気に飲まれて口を開けない。

「レイラ……うん、もう大丈夫よ。みんな、ごめん。なんか空気が重くなっちゃったわね。さ、そろそろ食休みもおしまいにして、とっとと登りましょ。」

「あ、ああ。よし、ミリアの言うとおりそろそろ行こう。」

 ミリアは無理矢理に作ったような笑顔を俺たちに向けて謝罪し、何かを吹っ切るように俺たちを促す。俺はそれに飲まれてしまい、言われるがままに指示を出した。

「は、はい。」

「う、うん。」

 2人もそそくさと立ち上がる。俺もストレージでかまどや鍋や食器、焔帝の杖を片付ける。

『……。』

 回収する直前になっても、イグニスは考え込んだように黙ったままだった。

ちょいと投稿が遅れました。代わりにこの長さなので勘弁してください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ