協力
追記・ミスを誤魔化すために改稿しました。
尾行してきた男を捕まえた後、俺はテレパシーで3人に連絡をとった。喫茶店での尋問はマズイ、ということで、申し訳ないが3人がこちらに来る形になった。ついでに適当な屋台で食い物買ってこい、と伝えたら、向こうからの意志は伝わらないはずなのに呆れられたような気がしてしまった。
「お待たせしました~。」
「あら、そいつが尾行してたやつね。」
「食べ物も買ってきたけど……何に使うの?」
3人が合流してきたようだ。
「おう、ありがとな、わざわざ。お、いいね、ホーンラビットバーガーか。」
俺は3人に礼を言うと、クロロからホーンラビットバーガーを受け取り、かぶりつく。こっちの世界に来て初めて食ったものだ。なんとなく懐かしさを感じてしまう。
「ほら、クロロ。言ったでしょ?単に食べたいだけだろうって。」
「……小腹がすいたんだね。」
「そういうことだ。すまんな、使いぱしって。」
俺はそんな会話を交わしながら食べ終える。
「……何か、捕まった俺が言うのも何だけど、お前ら、特に黒ずくめの奴なんか軽すぎねえか?」
尾行してきた男が呆れ顔で、地面に転がされた状態から俺を見上げてそういった。
「それだけ、てめえが雑魚だってことだよ。ちょっとでも変な真似したら一瞬で殺せるぞ。」
俺は男を思いっきり見下して、声にドスを効かせて睨む。
「さぁ、まずは名前だ。」
「ぐ、グリル・マルガリタだ。ここを根城に活動しているAランク冒険者だよ。」
俺が質問すると、俺の脅しが効いたのか狼狽えながら答える。
「ほう、Aランクとなると素行もよくないとなれないが、そんなそこそこの大物がなんで尾行してきた?目的はあるのか?」
俺はさらに質問を重ねる。
「……はぁ、俺はあるパーティーに入っててな、そこの親方に尾行するように頼まれたんだよ。……誓っていうが、害意は無い。むしろ、お前らに協力して欲しいんだよ。尾行は、お前らの実力を確認するためだ。」
グリスは観念したようにため息を吐くと、そんなことを言い出した。
「ほう、じゃあパーティーリーダーを呼んでくるから居場所と名前と風体を教えろ。ついでにほかのメンバー全員だ。」
「ああ、親方の名前はニコラス・ハーメンだ。ギルドの1階の酒場にいるはずだ。40歳ぐらいで、大分ゴツい装備をしているからすぐ分かるだろう。仲間は、グリザベラ・エレオスとグリザベル・エレオスって名前の双子の姉妹だ。グリザベラが姉だぞ。親方と一緒にいるはずだ。」
俺の質問にグリルはすらすら答える。
「そうか、3人とも、何かこき使ってばっかですまんが、ちょっとこいつを見ててくれ。こいつの親方とやらを呼んでくる。」
「はい、分かりました。」
「お気をつけて~。」
「任せといて。」
3人とも了承してくれたので、俺はまたギルドへと向かった。
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「いやあ、そこのグリル?だっけ?あんた中々賢いわね。」
暁がギルドに向かった後、時間を持て余したミリアがグリスに声をかける。
「……どういうことだ?」
思わずグリルが聞き返してしまう。
「アカツキさんの尋問は、とにかく……怖いんですよね。」
「ああ、あれは……尋問じゃなくて拷問じゃない?」
「拷問というのも恐ろしいかもしれないわね。」
レイラが説明すると、ミリアとクロロも話し出す。
「そうですね……グリルさん。」
「何だ?」
グリルはレイラに声をかけられ返事をする。
「アカツキさんの拷問は、詳しくは言えないですが、内容をちょびっとだけ説明しますね。」
レイラがそういうと、ミリアとクロロが固唾を飲むのがグリスから見えた。ミリアなんかは足がガクガク震えている。
(こいつらはAランク、いや、ヘタすればSランクなのに、そんな奴らがここまでビビるなんて、一体どんなエグイ拷問なんだ?)
グリルは身構えた。
「想像してみてください。動くのは口だけ。立ったまま、自分の意思に反して体は動かず、目を動かすこともできない。当然食事や睡眠も許されません。どれだけ苦しくても、どれだけ怖くても、恐怖のあまり叫ぶことしかできません。体は、全身を岩の中に埋められたようにピクリとも動かせないんです。」
レイラは青ざめた顔で、どこか鬼気迫ったように説明した。レイラが言っているのは、以前アカツキがやった『聖釘』で動きを止める魔術だろう。
「は、はは……逆らわなくて本当に良かった。」
グリルは乾いた笑いを漏らした。
「基本、アカツキさんは仲間や害を及ぼさない人には優しいので、安心してくださいね。」
レイラがフォローするように言ったが、グリルは乾いた笑いを漏らしたままだった。
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「すみませーん、ニコラスさん、グリザベラさん、グリザベルさんはいらっしゃいますか?」
俺はギルドに入って早々に、入り口から大声でそう叫んだ。その場にいたほぼ全員の目が俺に向くが、その中で特に強く睨んでいる奴らがいた。
「ニコラスは俺の事だが、何か用か?」
「グリザベラはあたいよ。」
「ぐ、グリザベルはグリザベルです……。」
そいつらが立ち上がり、俺の方に歩み寄ってきた。ニコラスさんは装備からして戦士か騎士だろう。なかなか立派な装備だし、剣も盾もなかなかいいものだ。髪の毛は短い金髪、顔つきは厳つく身長は2m弱。瓜二つの女性2人のうち、気が強そうな方がグリザベラさんか。装備からして魔法使いだ。こちらも装備はなかなかいいもので、特にローブなんかは袖に魔力を感じる。一方、妹のグリザベルさんは気が弱そうだ。一人称が名前の様で、中々間の抜けた答えを返してくれた。こっちは聖職だろう。回復魔法を使えるのは珍しい、しかし需要はとても高いため、聖職がいるか否かでパーティー総合力に大分差が出る。どちらも青い目に銀髪のロングだ。姉は全身真っ黒の典型魔女っ娘、妹は真っ白な法衣、という狙っているとしか思えない見た目である。
「ちょっと、俺のケツを追っかけまわす変態さんが貴方方の仲間と言う事で、呼び出しに来ました。」
俺はにこやかに、ただし目は笑っていない、そんな表情で単刀直入に用件を伝える。
「ほう、グリルの尾行を見破ったか……。いいだろう、案内してくれ。」
ニコラスさんは、俺の顔を品定めするように睨むと、そういった。
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「ただいまー。おうグリル、仲間を連れてきたぞ。」
「へ、へえ。」
俺がニコラスさんたちを連れて戻ってきて、声をかけると、何故かグリルは怯えたように俺から這いずって距離を取った。
「……俺、そこまで怖がられることしたか?」
俺は思わず首をかしげる。
「アカツキさんから教わった拷問を1つ教えたら、ああなっちゃいました。」
レイラがにこやかにそういった。ミリアとクロロもにこやかだ。
「ああ、なるほどな。ファインプレーだ、怯えてもらう分には従順になるだろう。」
俺はそういうと、3人にニコラスさんたちを紹介する。
「3人とも、この人らがそいつの仲間だそうだ。この人がニコラスさん、この人がグリザベラさん、この人がグリザベルさんだ。姉妹そっくりだが、装備で見極めれば問題ないだろう。」
俺は紹介を終えると、ニコラスさんたちの方を振り返る。
「さて、じゃあ尾行の目的を聞きましょうかね。下手に嘘ついたり抵抗したりすると、お互い楽しくないですよ。」
俺はにこやかにそういうと、全員を路地裏に引き連れる。
「勘違いしないでほしいが、害意は無い。尾行をさせた非礼は謝ろう。だが、俺たちもそろそろ手段を選んでられなくてな。ちょいと話しを聞いてくれ。」
俺たちはそれぞれ、地面に座って腰を落ち着けながらニコラスさんの話に耳を傾ける。
「最近、渓谷から手前にある密林の魔物が増えている気がするんだ。だが、あくまで気がする、というだけだからギルドや他の連中も相手をしてくれん。実際、俺たちも確証があるわけでもないのだが、それでも、何か嫌な予感がする。そこで、何か大ごとになる前に密林の魔物を減らすべく、俺たちは仲間を探していた。密林は危険だから、そんじゃそこらの冒険者じゃ話にならんし、だからといって強い冒険者は忙しくて取り合ってくれん。そこにお前らがこの街を訪ねてきた。装備から見て、強そうだと思ったから、それを確信にするためにグリルを尾行させたんだが……想像以上だ。グリルの尾行を見破るなんてな。」
ニコラスさんはそういうと、俺たちを一旦見回すように顔を眺めていく。
「下手に過信されちゃ困るからいうけど、見破ったのはアカツキだけよ。あ、アカツキは全身真っ黒のそいつよ。」
「ミリア、それは言い方が悪いよ……。」
ミリアがそういって、レイラが注意する。
「お前らの中には、とても信頼関係が出来ているように思える。アカツキがお前らの事を信頼しているからには、お前らも強者だろう。」
ニコラスさんがそういって口角を上げる。……3人とも、強者とかそういうレベルじゃない気がする。
「そんなわけだ、3人とも、どうする?」
俺は3人に問いかける。
「明日は予定があるので、それ以外なら構いませんよね?」
「条件次第ね。」
「あ、そうだね。引き受けようと思ってたけど報酬も貰わなきゃ。」
3人は口々にそういった。
「決定です。明日は無理ですが、それ以降は数日は協力できます。報酬次第で受けますよ。」
俺はニコラスさんに振り返り、そう知らせる。
「ああ、条件は……狩った魔物の素材のうち、75%を譲ろう。本来は5分5分なんだけどな。悪い取引じゃないだろう?あそこの魔物はいい素材が取れるし、俺らだって腕はなかなか立つんだぜ?」
ニコラスさんは、いたずらっぽく笑みを浮かべてそういった。
「……とてもいい条件ですね、受けても問題ないと思います。」
「結構太っ腹ね。」
「むしろこっちから受けたいぐらいだね。」
3人は吝かではなさそうだ。俺も問題ない。
「分かりました。では、引き受けましょう。明日、俺たちがギルドに帰ってきたら、その時にでも細かいことを話しましょう。」
「おう、分かった。いや、尾行といいすまなかったな。グリルは返してもらえるよな?」
俺が了承すると、ニコラスさんは緊張を緩める。
「はい。さ、グリル。親方が待ってるぞ。」
俺はグリルに歩み寄ると、ロープをほどいてやる。
「あ、ありがとよ。済まなかったな、尾行して。」
グリルはそういうと、ニコラスたちのもとに歩いていく。恐怖の色は表情から消えていない。
「それじゃあ、また明日。」
「おう、生きて会えるのを楽しみにしてるぜ。」
俺たちはそう言葉を交わして分かれた。俺たちは宿の方向へ、ニコラスさんはギルドの方向へ、それぞれ反対側に進んだ。
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