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魔術師の異世界ラプソディー  作者: 木林森
5章 渓谷に落ちる雷霆(ライトニング・マギア)
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褒美

冗長ですね。

「まず、この4名には王宮所属の装備士によって作られた『魔法手袋マギア・グローブ』を授けよう!当然、全員両手分だ!」

 王様がそういうと、入り口に控えていた、さっきとは別の騎士が4人、1人1つずつ何やら豪華な小箱を持ってきた。

「え、うそっ!本当っ!」

 右隣りでミリアが小声で興奮したように叫んでいる。ちなみに、並び方としては、右から順にミリア、俺、レイラ、クロロだ。パーティーリーダーの俺は真中が確定として、後の並び方はどうでも良かったので、あみだくじで決定した。あみだくじの文化はこっちに無いようで、決め終わった後に3人があみだくじで色々遊びはじめ、俺が蚊帳の外にされたのは余談だ。

「一体それってなんだよ?」

「私も知りません。」

「僕も。」

 俺たち3人はミリアに問いかける。

「魔法って大体は手から魔力を送るでしょ?その魔力を送るのを補助してくれる手袋よ。通常の手袋より魔力の効率がいいのよね。……王宮所属の装備士が作ったものなら、魔力増幅とかも不思議じゃないわね。」

 ミリアはそんな返答を俺たちによこす。当然、体は動かさず、小声でだ。レイラが昨日買った弓みたいなものだろうな。だとしたら、それを両手分で4人……結構な額になりそうだ。

「では、4名とも、感触を確かめて貰うべく、今この場でつけてもらいたい。」

「「「「はい。」」」」

 王様の言葉に俺たちが頷くと、4人の騎士がそれぞれ俺たちの前に箱を差し出す。手の甲には王家の紋章(火をかたどっている)が赤色で刻まれているぐらいが特徴の一般的なこの世界の指貫手袋だ。

 色は、俺のは黒、レイラは金、ミリアは茶色、クロロは青色だ。気をきかせてくれたんだな。ネックレスの結晶と同じカラーでもあるし。

 俺はそう考えて苦笑しながら手袋をつける。

「おおお……。」

 思わず感嘆の声を上げてしまった。両サイドでは3人も同じような反応をしている。

 素晴らしい、魔力がとにかく送りやすいのだ。それどころか、ミリアの予想通り、レイラの『インフロウ』のように魔力が少なくなるどころか増幅される。それも、結構な量だ。俺は思わず調子に乗って魔力を6割くらい送ってみる。

「えっ?」

 急に、周りでバタン、と倒れる音がいくつか響いた。まさか、また何か!?

「……アカツキ、あんたのせいよ。早くその魔力を抑えなさい。」

 隣のミリアがジトー、と俺を見て、注意してくる。

「……アカツキ殿の本気の魔力はこれほどのなのか……。並の人間じゃあ卒倒するな。とんでもない威圧感だ。」

 王様が青い顔で俺に向けてそういった。

 ……そういうことだったか。魔力を放出は威嚇にもなるのか。で、やりすぎるとこうなるわけだ。騎士団長や各隊長や、公爵家の当主はさすがといったところか、立っているが、他の貴族や並の騎士は、この部屋にいる人は皆卒倒している。部屋の外はまだ無事の様だ。……これからは自重しよう。

 倒れた人を執事さんたちが丁寧に介抱し、それぞれの部屋に運んでいく。一通りの騒ぎは収まり、感謝の儀は続行される。

「さ、さて、次は、それぞれの装備品だ。まずはクロロ殿、前へ。」

「はいっ!」

 王様は若干詰まりながら、クロロは緊張しながら、それぞれやり取りをする。

「まず、クロロ殿は此度の戦いで剣を失ったそうだ。そこで、王宮所属の鍛冶師に至高の一品を打たせた。」

 王様がそういうと、部屋の外にいた騎士が、立派な、全体的に黄色がかかった両刃の片手西洋剣を持ってくる。

「クロロ殿は土属性に適性があるとのことなので、土属性の魔法効果を付与させた。芯には超高純度、Sクラスの土結晶を惜しげもなく使用し、外側は魔力を通しやすいミスリルで出来ておる。」

Sクラスの結晶だと……手のひらサイズで白金貨10枚は下らないものを一本の剣の芯にしたか。さらに外側がミスリルか。王様の言うとおり、とても魔法が通しやすいうえ、重さは鋼鉄と同じぐらいなのに硬さはサラマンダーの成体の爪レベルだ。そして、とても希少な上高いのでも有名だ。

 そんな剣を受け取ったクロロは、顔を輝かせている。

「剣の名は、土属性上級魔法『アヴァランス』の名を借りて『アヴァランス』だ。媒体となるもの、つまり土や砂があれば、巨大な岩石が作れるし、通常サイズならなだれを起こせるくらいの量が出来る。」

 土属性上級魔法『アヴァランス』か。大量の岩石を、土や砂を媒体として作り、なだれを起こす。特徴として、作るだけでなく移動させる魔法が組み込まれていることだ。平坦なところや、自分が下でも相手に向けて岩なだれを向かわせることが出来る。大体は王様の言った通りだな。

「クロロいいなぁ……。」

 ミリアが指を銜えてクロロと、その手に握られている『アヴァランス』を見つめる。ミリアは剣マニアだ。ただ、集めると言うよりも、『使ってみる』のが好きだそうだ。

「お前だって新しいの貰えそうだぞ。」

 俺はミリアに小声で話しかける。

「まぁ、今の状態はそういうことよねぇ。」

 ミリアは苦笑しながら自分の腰を見る。そこには、普段下げられている2本の剣がない。王様が、預かるというので、預けたのだ。

「さて、次はミリア殿!」

「はい!」

 噂をすれば、ミリアの番だ。王様に呼ばれ、元気よく前に進む。

「ミリア殿は珍しいことに、双剣使いだそうだ。そこで、彼女が使っている2本の剣、『ヴォルケイノ』と『テンペスト』を預かり、それをベースに新たな2本の剣を作り出した。」

 王様がそういうと、騎士が2人、それぞれ剣を1本ずつ持ってきた。

「名はそのまま『ヴォルケイノ』と『テンペスト』を受け継ぐ。素材は、『アヴァランス』と同じように、外側はミスリル、芯にはそれぞれのSクラスの結晶を使っておる。」

 王様の言葉が終わると、ミリアに剣が手渡される。ミリアの目は今にもハートマークになりそうなくらいだ。

「刀身にまとうことが出来る炎や風の質は、今までの物では上限があった。だが、これは本人が送った魔力次第でいくらでも質を上げることが出来るようになった。」

 王様の言葉にミリアが元気よく一礼をする。そうとう嬉しそうだ。今にもスキップせん勢いでこちらに戻ってくる。

「次に、レイラ殿!」

「は、はい!」

 ミリアが戻ったのを確認すると、王様はレイラの名を呼ぶ。レイラはどもりながらも返事をし、王様の元に行く。

「彼女はすでに先ほどの品に劣らない弓を持っているため、武器でなく別の品を用意させて頂いた。」

 『インフロウ』を買ったのは昨日の事なのにしっかり対処してくれる。まぁ、事前に、夕食会の時に褒美は何がいいか聞かれてたから、そんときにレイラが、弓は購入する旨を伝えてたからな。

 また別の騎士が、50センチほどの高さの箱を持ってくる。

「レイラ殿には、こめた魔力の量によって走るスピードがあがる靴、『ラピッド』を与えよう。レイラ殿の魔力ならば素早さ特化の魔族にも劣らないほどのスピードが期待できる。」

 箱の中には王家の紋章が赤色で刻まれただけ(というと変だが)の、一見普通のブーツが入っていた。仕立てはとてもよいが、それでも金貨10枚ほどで買えそうな感じだ。見た目『は』。

「これも魔力が放たれているな。それも結構な量だ。」

 そのブーツ、『ラピッド』からは並々ならぬ魔力が溢れている。これは、魔力を込めなくてもそれなりのスピードが出せるな。戦線離脱からの後方支援に使えそうな、弓使いにぴったりな代物だ。

 レイラは王様に促され、早速履き替える。履いた瞬間、レイラは嬉しそうに顔を輝かせると、その場で感触を確かめるようにぴょんぴょんと跳ねた。心なしか、いつもより軽く飛んでいる。

「その革は普通の皮に見えて、実際は火山麓の荒野に生息する『鬼駿馬おにしゅんめ』の革で出来ておる。鬼駿馬の革で出来た靴は、雑に細工してもまぁまぁ速く走れるが、それは、裁縫した糸も鬼駿馬の尾の毛で出来ており、革も最良質のものを厳選した至高の一品だ。」

 鬼駿馬か。イグニスと戦った火山の麓にある荒野に生息する馬の魔物だ。血のように真っ赤な毛並みに、成体ならば通常の軍用馬(普通の馬ではない)よりも2回りほど大きい体躯をしている。幼体でも軍用馬ぐらいはある。逞しい4本の脚に鋼鉄のごとき蹄、足に劣らぬ、太いが引き締まった胴体。そして、毛並みの色よりもさらに真っ赤な鬣で有名だ。数多くの冒険者がこいつの前に全滅、死亡、または大けがをしている。持久力もスピードも、さらには耐久力も並の軍用馬の比でない。そうなると、こいつはそれこそ軍用馬に使われそうだが、それは無い。なんせ、鬼駿馬はAランクの上の方に位置するほどの強さ(サラマンダーの幼体ぐらいなら勝率は5分だ)を持っているし、気性も荒く、プライドが高い。従うのは騎士団長や各隊の副隊長クラスまでだろう。ちなみに、一度従い、それを主人と認めると、従順になる。鬼駿馬を手なずけたかどうかが、一流の騎士とそれ未満の騎士の見分け方とも言われている。

 そんな鬼駿馬の一級品の革と尾でつくられた靴だ、見た目は目立たぬよう普通の革に加工してあるが、ああみえて滅茶苦茶丈夫で、魔法的能力も高いだろう。2人が貰った剣には見劣りするが、それでもいい品だ。

「最後にアカツキ殿!」

「はい。」

 レイラが戻ってくると、王様が俺を呼ぶ。返事をして王様の前に行き、跪く。

「……アカツキ殿は魔法使いらしいが近接戦も出来るらしいな。魔法使いならば杖を贈ろうと思ったが、すでに国宝級の杖を持っておる。ならば近接戦も出来るなら武器を、とも思ったが既に見たことない珍しいタイプの、サラマンダーの成体の爪を利用した剣を持っておる。身体能力にも優れ、靴での強化などはあまり大きな意味がない。……アカツキ殿の褒美を選ぶのに一番苦労した。」

 王様が遠い目をしながら話す。……申し訳ないな、本当に。

「しかし、やっといいものを見つけた。」

 王様がニヤリ、と笑うと、騎士が両手で持てるサイズの包みを持ってくる。一体なんだろうな。

「広げてみよ。」

「はい。」

 手渡され、言われるがままに包みをとり、広げる。それは、

 黒い長そでのシャツと長ズボンだった。

 ……。場の空気が凍りつく。え、これとまったく同じものを俺着てるよ?

「まぁ、そう反応があると思った。アカツキ殿は、隠密行動が得意、というか好んでいるようで、紛れやすい黒い長そで長ズボンを選んだ。今、アカツキ殿が着ているのは市販のものに、防御アップの魔法のみを付与していたものだった。しかし、これは違う。先日、アカツキ殿のパーティーが討伐した、魔族のような強さを誇り、人語を話す『マジックフォックス』の変異種の革を加工して作らせたものだ。元の魔法効果で、『ハイド』と『シャドウハイド』、さらには『暗黒属性強化』と『猛毒耐性』までついておった。これだけでも凄まじいが、そこに『大防御アップ』、『麻痺耐性』、『暗黒属性耐性』、『精神干渉耐性』といった、この素材と相性がいい耐性を付与しまくった。」

 場の空気が静まり返る。……とんでもない効果が目白押しだ。あの九尾の革から作った服か。『ハイド』は気配を消す、『シャドウハイド』は影の中に潜り込むことが出来る。地球の吸血鬼のような感じだ。『暗黒属性強化』は、まんま暗黒属性魔法が強くなる、『猛毒耐性』は大体の毒に耐えられる。……これって九尾の『猛毒の血』が原因だよな。だとしたら、恐らく通常の『猛毒耐性』をはるかに凌駕する耐性になるだろう。通常のはあんな毒に耐えられない。『大防御アップ』は『防御アップ』と違って、服を着ている部分だけでなく、薄い魔力の障壁で『全身を護る』。『麻痺耐性』、『暗黒属性耐性』はまんまだろう。『精神干渉耐性』は聖光属性と暗黒属性の精神干渉系の魔法のみ耐性があるんだろう。

 なんというか、やはり、九尾らしい相性だ。暗黒属性系を筆頭に状態以上と精神干渉に耐性があるのは、あいつが暗黒属性使いであり、精神干渉魔法使いだからだろうな。

「……ちなみに、信じられないことに、それは着用した本人の魔力に比例して能力の強さが上がるそうだ。アカツキ殿が着用したら……すまぬ、やっぱりアカツキ殿の褒美は無しがいい。」

 王様は頭を抱えながら、最後の台詞は嫌な想像でもしたのだろう、真っ青になりながら紡いだ。

「ありがたく頂戴します。」

 王様の言葉を無理やり押し切り、その服とズボンを貰う。ぱっとみサイズもピッタリだし問題ないだろう。あとで試着だな。

「……さて、これで全員に褒美が渡し終わった!」

 王様のいいところは切り替えが早いところだな。それを発揮し、王様ははきはきした声でこの場にいる全員に告げる。

「そして、最後に、これから旅を続ける4名にあるものを贈りたい!皆の者、城門へ集合じゃ!」

説明が長いですよね。大分遅れて申し訳ございません。

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