ギルド
ここがギルドか。他の建物よりちょっと派手な感じだが、構造は変わらない感じだ。扉を開くと、これまたよくある酒場と窓口と掲示板が見える。
「へぇ……。」
俺はそれに微かな感動を感じつつ、いつまでも入口にいると邪魔なので中に入る。窓口は二つあり、どちらにも記号のようなものが書いてある看板が脇に立っている。右は登録および質問、左は依頼、とそれぞれの記号の上に振り仮名のようにあるのが見える。
(これが『言語の理解』なのか。)
そういえばスルーしてたが今までもあんな感じだったな。俺はそう考えながら登録の窓口に進む。
「あのう、ギルドに登録したいのですが、大丈夫ですか?」
俺はおずおずと声をかける。
「はい、ではこちらの書類に必要事項をお書きください。」
受付のお姉さんから書類と筆が渡される。……この世界は筆なのか。俺はそれを受け取って礼をいうと、空いている机に腰を掛ける。墨はそれぞれの机に置いてあった。
(書く内容はなんだろう?)
書類を確認する。
・名前
・年齢
・職歴(経験があれば)
・職業(以下のどれかにしるしをつける。)
と書いてある。職業欄には、
戦士、魔法使い、騎士、聖職、商人、鍛冶師、弓使い、その他とある。その他の横には空欄があり、そこに内容を書き込むようだ。
(俺は魔術師だから……魔法使いだな。)
俺は魔法使いに丸をつけ、他の項目にも記入していく。日本語で。向こうには俺の書いた字が見えず、直訳された字が表示されるそうだ。便利。
(にしても、戦士、魔法使い、商人、鍛冶師、弓使いは分かるとして、騎士と聖職って何をするんだ?)
俺はそんな疑問を心で呟きながら書いていく。履歴には「戦闘履歴を少々」と書いておいた。
よし、じゃあ出してこよう。俺は書き終わった書類を持って窓口に持っていく。お姉さんは俺から受け取ると書類を確かめる。様子を見るとしっかり翻訳されているな。
「はい、確かに。ではアカツキジンノ様、登録料銀貨1枚です。」
「あ、はい。」
登録料がいるのか。俺は『ストレージ』の魔法を使ってこっそり金袋を全員から見えない場所にだし、中から銀貨を1枚渡す。アカツキジンノは俺の名前だろう。名前が先なのか。
「はい、確かに。では、実力を測って初期ランクをつけるために実戦式の試験を行いますがよろしいでしょうか?」
「ランク、ですか?」
「はい。ランクとは、SS、S、AからEまであり、ランクによって受けられるクエストは違います。上に行くほど報酬も高いですが難易度も高いです。」
「なるほど。」
俺たちのやり取りに、後ろで酒を飲んでいたマッチョなおじさん4人の集団が笑う。素人め、とでも言いたいのだろう。言い返す言葉もございません!
「では、こちらにどうぞ。」
俺は、窓口の奥の通路に案内され、屋内競技場のようなところに案内される。体育館くらいはありそうだ。
「お、新しいのかい?」
マッチョ(ただしさっきと違って引き締まっている)なおじさんが受付のお姉さんに声をかける。
「はい。今からルールを説明いたします。」
「はい、わかりました。」
俺とおじさんへの状況説明を同時に済ますと、お姉さんはルールを説明してくれた。
「只今より、3人の試験官からの試験をしていただきます。1人目はあのかたです。ルールとしては、道具は持ち込みありで、魔法、武器、防具なんでも大丈夫です。3種類の試験をして、その結果から3人が点数をつけて、それでランクが決まります。何かご質問は?」
「ありがとうございます。分かりやすい説明で助かります。」
思わず余計な言葉をつけるくらいに。
「恐縮です。それでは、あちらの部屋で準備をしてください。30分後に開始します。」
俺はその部屋に通され、準備を始めた。
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ここで魔術について説明しよう。
魔術とは、簡単に言うと『意志をもとに現実に干渉する』ことだ。簡単に説明すると、火が出ると思ったら火が出る。思えなかったら絶対でない。『意志の強さ』はそのまま魔術の強さに影響するのだ。
俺たち魔術師は、意志の強さをだすために、様々なものを媒介として魔術を行使する。ポピュラーなのは杖や水晶玉やタロットカード、中には自分の身体だけで魔術を使えたりもするが、道具を使う方が強力だ。
魔術の参考にしているのは、たくさんの神話、童話、民話、民間伝承や考え方。神話には宗派とかなんやら細かい問題があって、他の宗教の神話などを参考にしたものは使えない、と思われがちだが、『そうは言ってられない』現状があり、俺たちは出来るだけのものを取り入れている。古今東西、津々浦々、世界各国、東西南北。たくさんの神話、童話、民話、民間伝承や考え方があり、それらを駆使して魔術を使う。
神話や童話をまとめて俺たちは『術話』と呼んでいる。これらは、人間の考え方や当時の風潮、深層心理を抽象的に、ときに具体的に描いている。モチーフ、メタファー、暗喩、象徴。それらがたくさん詰め込まれている。ポピュラーなところだと、五行思想を駆使して、対応した色のついた道具で水や火を出す、と言った感じだ。これら『術話』はすべての人間の深層心理に刻み込まれている。本能のように。だからこそ、これらは生まれるのだ。
俺たち魔術師は、それを利用して本来ありえない『現実への干渉』を行う。
『人間の意志による現実の改変』、それが『魔術』なのだ。
ちなみに俺が使った『ストレージ』という魔術は、ネットゲームの『アイテム欄』をもとに、俺が開発した魔法だ。自分の道具を、自分の意志とともに自由に出現、消滅させたりできる。ただし、他人の物やあまりにも大きいもの……俺の体積の2倍以上のものは一気に入れることは出来ない。ただし、小分けにすればいくらでも入る。例えば、俺の体積の2倍以上の物体は入れられないが、解体して、2回に分けてやれば入れられる。運べる量に限度はあるけど収納先は無限、といったイメージだ。
ちなみに、『欄』と言ってはいるが、実際のところはそんなに丁寧に分けているわけではなく、某ロボットの不思議ポケットに近い。名前として便利だから使っているだけだ。
元にしたのは、いろいろな物語に出てくる魔法使い。杖を一振りして、いろいろなものを出現させる。それと、先ほどのネットゲームを参考にしている。ちなみにこれは大変便利で、開発した俺は家族から感謝されている。
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「そろそろ、30分だな。」
俺は立ちあがり、部屋のドアに向かう。手に持っているのは神様からもらった杖。
(実戦でためすことになるとはな。)
こんなことなら実験しとけばよかったな。
「おう、来たか。じゃ、そこについてくれ。」
さっきのおじさんが全身武装して登場。俺はラインの後ろに立ちおじさんと向かい合う。
「俺はライナー。お前は?」
「俺は暁。お願いします。」
自己紹介。
「では、始めますよ。よーい、はじめ!」
お姉さんの合図で、試験が始まった。
次、次こそは!戦闘シーンに!
魔術の説明です。魔法と魔術の違いはそのうちに。
7月7日
ストレージの説明を加筆修正いたしました。感想にてアドバイスを頂き、わかりにくいことに気づきました。




