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魔術師の異世界ラプソディー  作者: 木林森
4章 合わせ鏡の混乱(ミラー・ミラージュ・ライアゲーム)
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鏡界

「この無限回廊のどこかに、何かがあるはずだ。進んでみようぜ。」

 俺は唖然としている3人を、とても曖昧な言葉で促す。

 この空間は、鏡の部分以外は、濃霧に覆われたように真っ白だ。

「……なんか、曖昧ですね。」

 レイラが俺に突っ込む。

「具体的に言うと、一枚だけ映り方が左右逆になっているんだよ。」

「なるほど。……となるとあれですね。ここから数えて27番目です。」

 俺が説明すると、レイラは頷いて、無限回廊に目を凝らす。すると、即座に見つけた。

「あんた、相変わらず目がいいわね。」

 ミリアが感心したようにレイラを褒める。

「言われれば気づくけど、あれは見つけにくいね。鏡は基本左右対称だから。」

 クロロも同じようなことを考えていたようだ。

「何はともあれ、進もうか。」

 俺はそういって、回廊を進んだ。3人もついてくる。1枚目は八咫鏡、2枚目はカサンドラの鏡……と続いていく。そして、レイラが言っていた27番目の鏡にたどり着く。八咫鏡だ。

 俺はそれの鏡面に触れる……本来はそのまま通り抜けるし、今も感触は無い。正確には触れるように感じる、だ。そして、魔力を送り込む。

「お、手ごたえあり。」

 どうやら正解の様だ。

「じゃあいくぞ、皆。ここに、敵がいる。」

 敵の気配を、急に感じるようになった。方向は、今触れている鏡の向こう側だ。

「それ!」

 俺が飛び込むのを皮切りに、3人も飛び込んでくる。

「……さっきと、違いますね。」

 レイラが呟く。今のこの空間は、鏡が無く、ただ真っ白だ。壁や物がない。

「ようこそなのねん。ここは『鏡界きょうかい』なのねん。」

 すると、奥の方から声が響いてきた。目を凝らすと、人影のようなものがこちらに近づいてくる。

「よくもまあ、ここに辿りつけたのねん。そこの黒づくめのお前はイレギュラーだ、と聞いていたけど、確かにそうなのねん。『存在』だけでなく、能力も変なのねん。」

 それの姿が遂に見える。茶色くて長い毛に全身が覆われ、黄色い目は不気味に吊り上っている。口は大きく、鋭い牙が覗き、口角をニヤつくようにあげている。身長は190cmほど。そして、何よりも特徴的なのが、鋭くて長い、両手に生えた左右3本ずつの爪。それぞれが、切れ味と強靭さを兼ね備える剣のようになっているのだろう。長さは軽く1mはありそうだ。

 この特徴、特に長い爪、これが決定的だな。

 こいつは『天邪鬼あまのじゃく』だ。日本の昔話『瓜子姫』に出てくる。瓜子姫は、おじいさんとおばあさんに、『誰に言われても戸をあけてはいけない』と言われていた。しかし、そんな瓜子姫を唆して戸を開けさせ、長い爪を差し込んで扉を開け、瓜子姫をさらって悪さをした。その悪さをした妖怪こそが『天邪鬼』だ。

 ここで、ここまで使用した魔術を説明しよう。

 まず、最初の鏡の前で言葉を呟く魔術。都市伝説で、『夜中の12時に鏡の前で『うりこひめ』と言うと天邪鬼がやってきて悪さをする』というものを参考にしたものだ。

 鏡は異世界とつながっているとされている。天邪鬼がこちらに接触できる、つまり、これは『鏡を通じて異世界とつながる』とも捉えられる。この都市伝説は、異世界とつながる儀式のようなものだと考えられる。 

 結果的に効果は『鏡を通じて異世界とつながる』魔術となる。

 次に、八咫鏡を取り出して、『合わせ鏡』を作り、それを利用した魔術だ。

 これは、先ほどの鏡の前で『うりこひめ』と言う魔術を強化する目的でしようした。

 これも都市伝説で、『合わせ鏡で映る無数の鏡の中に、1枚だけ映り方が左右逆のものがあり、それは異世界とつながっている』というものだ。これは、まさにそのまんまだ。

 『鏡』とは単に景色や物を映すだけでなく、『異世界とつながっている』と捉えられることが多い。今回は、それを利用した形だ。

「まぁ、それも関係ないのねん。ここは儂のホームグラウンドなのねん。ここでは、儂はとても強いのねん。」

 先ほどの言葉に続けるように、天邪鬼が喋る。

 それにしても、この世界の特殊な魔物は、俺たちの世界の妖怪と一致するものが多い。この天邪鬼だって、女を唆して悪いことをさせるし、爪が長くて鋭いし、鏡に強く関連してるし、共通点が多い。

「そんなことは関係ない。俺たちはもっと強いぜ。」

 俺は、ひとまず疑問を隅に置いて、強気の発言を叩きつける。

「頑張りますよ……。」

「また随分、変わり種ね。」

「いろいろありすぎて訳が分からないけど、とりあえず目の前の問題を片付けなきゃ。」

 3人とも、すでに臨戦態勢に入っている。興奮しすぎず、冷静だ。

「それもそうだ。それじゃあ……行くぞ!」

 天邪鬼が言うところの、鏡界。ここでの、奇妙な妖怪退治が始まった。

今回も短いです。前回の話にくっつければよかったと後悔。

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