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魔術師の異世界ラプソディー  作者: 木林森
4章 合わせ鏡の混乱(ミラー・ミラージュ・ライアゲーム)
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鉄の靴

「へぇ、やっぱりそうだったんだな。さしずめ、『悪女な王妃様』ってところだな。そうだろ?カサンドラ。」

 カサンドラが一通り有益な情報をべらべら喋ったので、背後にいた俺は声を発する。

「なっ!?」

 カサンドラはすぐさま振り向く。その顔は醜悪にゆがんでいた。そして、鏡はいつのまにか普通の鏡に戻っていた。

「その鏡を通じて魔族と接触してたのか。やっぱり、内通者はお前だな?」

 俺はすでに知っていることだが、確認と嗜虐の意味を込めて質問する。

「……っ!」

 カサンドラは驚きに口をぱくぱくさせている。

「がっつり、この目で見ちまったぜ。確か、この国では無用な殺人を超える、最大の犯罪だったな。魔族に協力するのは。」

 俺はにやりと笑って詰め寄る。

「く、くふふ、何をおっしゃているか存じかねます。ここは王族の私室ですよ、勝手に入るのは重罪です。」

 カサンドラは、どうやら図太い性格の様で、既に手遅れ感は否めないが、体勢を立て直した。

「それに、貴方のおっしゃったことは、貴方が見ただけです。そんな信用できない言葉が、私相手に通るとでも。」

 カサンドラは、ようやく余裕を取り戻したのか、むしろ嗜虐的な笑みで俺を見返す。確かに、一冒険者と腐っても王族なこいつとは、証言の信用度がけた違いだ。

「出てきていいぞ。」

 俺はその言葉を受けて、後ろに声をかける。

「……みごとに、いかにもって感じね。」

「……こ、ここまでテンプレートだと、逆にびっくりします。」

「……これは救いようがないね。」

 部屋の外に待機していたミリア、レイラ、クロロが呆れたような声と表情で部屋に入ってくる。

「なっ!?……あら、皆様、どうされたのですか?」

 カサンドラは図太さだけは褒めてやりたい。ちょっと表情を崩したが、それでも取り繕う。これじゃあまだ足りない。所詮、冒険者4人だ。

「はい、次の方々どうぞ~。」

 俺は日本のバイトの真似とかして見せて、ふざけながら次の人たちを呼ぶ。

「……そこまで堕ちたか、カサンドラ。」

「……。」

「……お母様、いくら貴方と言えど、魔族との接触は許しません。」

 王様、姫様、レイトン様だ。王様とレイトン様は氷の表情。姫様は無表情で睨んでいる。

「ひ、ひい!」

 今度こそカサンドラが動揺を露わにする。国王と次期女王、それに息子と、発言力が高い人が勢ぞろいだ。

「詰みだ、カサンドラ。これだけの証言があるんだ、お前はもう逃げられない。」

 俺は、カサンドラを思い切り睨み付け、声を低くして脅しつける。

「洗いざらい、全部吐け。魔族との接触の切っ掛けから何から何までな。」

 王様が、今まで見たことない迫力でカサンドラに迫る。さすが国王、迫力が凄いな。

「ふ、ふふふ、しょ、証拠ですわ。物的証拠を、貴方方はお持ちですの?」

 カサンドラが往生際の悪いことを言う。名探偵物の犯人みたいだ。

「はいよ。」

 俺は懐から記録結晶を取り出して見せる。さらに、カサンドラ以外のこの場にいる全員が、記録結晶を取り出す。

「あ、あああ、あああああ……。」

 カサンドラはそれを見て、絶望したように崩れる。

「とっとと吐きなよ、お母様、いや、カサンドラ。」

 とても冷たい声で声を発するのはレイトン様。ついに親子の縁を切って、逆らえなかった今までとも縁を切った。

 今回の作戦は上手くいったな。

 内容はこうだ。昨日の夜にレイトン様の証言を聞いた俺は、内通者がカサンドラと確定して、王様に頼みごとをした。それは、『一晩カサンドラを仕事漬けにして自室に帰らせないこと』だ。これによって、『鏡の中の何か』との、襲撃前以来の接触を避けさせ、今の時間にこうなるように誘導した。これは、襲撃が失敗して、苛々しているカサンドラを苛つかせ、さっきみたいにいろいろ喋らせること。それと、これは『この後の仕事』があると思ったので、時間に余裕のある昼にしてもらった。

 それと、王族3人を連れ出すアポイントメントと、記録結晶をなるべく多く用意するよう頼んだ。結果的に、カサンドラの拘束の言い訳は、『仕事が忙しいから手伝え』というものだったので、王様もカサンドラに悟られぬように、一晩起きっ放しで仕事をしているふりをしてもらった。王族のアポイントメントを取ってもらうのも大変だったし、王様には迷惑をかけた。

「嫌だ!話したくない!そんなことしたら、今までしてきたことが!」

 カサンドラは、恐怖に慄いて、首を横に振って叫んでいる。今までやってきた悪行も話す羽目になるだろう、死刑は免れない。

「仕方ない、じゃあ拷問だ。」

 俺は土を表す黄色いカードと、久しぶりに使う円盤をストレージで取り出す。どちらも、土に関連するものだ。

「あれ、あの不思議な釘は使わないんですか?」

 レイラが、俺が取り出した道具を見て疑問の声を発する。ていうか、レイラもそうだが、皆これから拷問が始まるってのに表情が飄々としている。それだけ、こいつがクズ人間ということか。

「せっかくだから、このクズにぴったりな拷問がある。」

 俺はそういいながら、石で出来たそこらの壁にカードを貼りつけ、魔術で崩し、泥にする。それを、カサンドラを無理やり立たせて、足に『靴』のように塗りたくる。カサンドラは、不快感と恐怖で暴れ出したが、俺の筋力で動けない。俺は、円盤に魔力を送り、泥を、『鉄』に変換した。西洋で一時期流行った錬金術の応用だ。金属は土から出てくるから、4大元素では地に近いものとされている。

「さて、仕上げだ。」

 俺は、赤いカードをその両足の『鉄の靴』に貼りつける。それから数秒後、

「あつっ!」

 カサンドラは、大声を上げて足を跳ね上げさせる。

「あつっ!あっ!」

 それを皮切りに、カサンドラは両足を交互に跳ね上げさせている。熱いトタン屋根の上の猫といったところか。滑稽な『ダンス』だ。

「い、一体何をしたの?」

 ミリアがそれを見て、俺に質問を飛ばしてくる。

「カサンドラに鉄の靴を履かせて、それを熱してこうなった。足を地面につけると、靴に足を押し付けるような感じになるから余計熱くなる。それを両足で繰り返してこうなるんだ。」

 俺は、滑稽なダンスを見ながら冷静に説明する。今や、鉄の靴は熱せられて真っ赤になっている。カサンドラは相変わらず悲鳴を上げている。「あつっ!」とか、終いには「あせっ!」とか意味不明な悲鳴も上げ始めた。

 これは、グリム童話の『白雪姫』を参考にしたものだ。鏡の影響で白雪姫を殺そうとした『悪女な王妃様』は、最終的にそのことがバレて、『赤熱した鉄の靴』を履かされて、死ぬまで踊り続けた。ちょうど、今の状況にそっくりだったので、やってみた。『姫』を『鏡の影響』で殺そうとし、そのことが『バレて』しまった王妃様、転じて『王族の女性』であるカサンドラにはぴったりだろう。まぁ、これはまだ『途中』だけど。

「ちなみに、これは俺が解除しない限り脱げないようになっているから。さぁ、とっとと吐け。」

 カサンドラの顔をにらみ、俺は問い詰める。

「前回の釘といい、なんでそんなエグいことばかり知っているんだい?」

 クロロは呆れ顔だ。

「……時々アカツキさんって怖いですよね。」

 レイラも頷いている。……レイラの猛毒矢よりはましだと思うがな。

「長い間っ!そこのっ!忌々しい小娘をっ!殺そうとしたっ!けどっ!上手くいかなくてっ!2週間くらい前っ!鏡がっ!突然しゃべりだしてっ!魔族をっ!名乗ってきてっ!協力をするってっ!言うから乗ったのっ!あついっ!」

 カサンドラは、相当焦っているのか、かなり早口で吐き始める。ちなみに言葉を一回途切れさせる事に足を入れ替えている。

 そのあと、正直聞き取り難かったが、カサンドラから情報を抜き出した。全部まとめると、

・レイトン様を王様にして、自分も権力を得ようとしたこと。

・そのために姫様が邪魔だから殺そうとしたこと。

・だけど上手くいかなくて、そんな2週間ほど前に、鏡を通じて魔族を名乗る者が協力を申し出てきて、それを承諾し、内通者として働いたこと。

・殺して、それに化けさせた、来賓の貴族は、皆カサンドラ派の人間で、権力目的のやつらばっかりと言うこと。

・そいつらに「どこそこにくればより高い地位につけさせてやる。」と言って、そこに待ち構えさせていた魔族に殺させ、化けさせたこと。

 と言った感じだ。思ったとおり、下衆だった。

『……。』

 俺の仲間3人と王族3名の、計6人の冷たい視線がカサンドラに向いているが、カサンドラはそれに構わず悲鳴を上げながらダンスを踊っている。

「知ってることはっ!全部話したわよっ!早く脱がせなさいっ!」

 カサンドラが俺を睨んで命令してくる。

「嫌だ。」

 俺はそう言って、この魔術を、『完成』させる。

「っ!カサンドラはどこにいった!?」

「一体何があったのですか!?」

「いきなりあいつが消えた!?」

 王族の3名が、いきなり『カサンドラが居ないかのような』反応をする。

「なっ!」

 カサンドラがそれを見て、驚愕の声を上げる。

「皆さんには、カサンドラを認識できないようにしました。今この場にカサンドラは居ますが、貴方がたは『認識できません』。認識できるのは、俺とレイラとミリアとクロロだけです。未だにカサンドラは踊り続けていますよ。カサンドラを『認識させない』ことで、こいつを助ける人は居なくなりました。」

 俺はすかさず、レイラ達への説明も兼ねて、3名に説明する。

「……よくもまあ、そんなこと思いつくわね。」

 ミリアが本格的に呆れている。他の人もそんなことを思っているような表情をしている。

 これは、『白雪姫』の、『赤熱した鉄の靴』と、『悪女な王妃様』の状況に着目した魔術だ。

 『悪女な王妃様』は、とんでもなく悪いことをして、全ての人に『嫌われた』のがあの状況だ。『靴』は『人の足を守るもの』だ。『足』は、人間の体の下にある、つまり『人間を支えている』のだ。人間を支えているものとして、もう1つ考えられるのは『心』だ。この繋がりで、『足』は『心』とも考えられる。『靴』は、『心を守るもの』と捉えられるのだ。そして、その『靴』からすらも、『高熱』という『攻撃』を加えられている、つまり、『心を守るはずの物から攻撃を受けている』のだ。

 それと、『人間の心』というのは、『別の人間との関係』で出来ている。つまり、『人の心を守る』のは、『別の人間の心』なのだ。しかし、『悪女な王妃様』に対する『別の人間の心』は、嫌悪感、つまり『心を攻撃するもの』だった。

 『人の心を守るもの』繋がりで、『靴』と『別の人間の心』を重ね合わせると、この『悪女な王妃』の状況は、『誰にも守られず、嫌悪されている』、と捉えられる。

 そこに、もう一味加える。『悪女な王妃様』は、結局、誰にも助けてもらえず死んだ。つまり、『人から関心を寄せられていなかった』のだ。転じて、『認識されていない』と捉える。この解釈を加えて、この魔術の効果は現れる。『攻撃されている上に、認識されない』という効果が成り立つのだ。

(好きの反対は『無関心』、とはよく言ったもんだな。)

 俺はそう考えながら、皆に振り向く。

「さ、これでカサンドラの処刑……しかもかなり苦しい処刑は終わったので、もう帰りましょう。」

 俺は全員を促して、部屋を出る。

「ちょっ!ふざけんじゃないわよっ!脱がせないさいっ!」

 カサンドラはそんなことを言っているが、俺たちは無視、内3人は認識せずに部屋を出て行った。

魔術の説明が、見にくい上に分かりにくいと思います。これでも、無い頭を振り絞った方なんです。

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