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魔術師の異世界ラプソディー  作者: 木林森
4章 合わせ鏡の混乱(ミラー・ミラージュ・ライアゲーム)
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謁見

 結局、姫様はその後泣き疲れて寝てしまった。なので、俺はまんまお姫様抱っこをして、先ほどの広場に戻ってきた。当然、歩いたりせず、飛行魔術だ。

「あ、アカツキ!」

 ミリアが俺に気付いて駆け寄ってくる。そこでは、すでに戦いが終わっていたようで騎士の死体と魔族の死体がそこらじゅうに転がっていた。

「お前らも、被害は大きいが何とか倒し切ったようだな……。」

 魔族の死体は、何匹かは矢が刺さってほぼ全身が腐食していた。あの猛毒、予想以上に危険だ。

「姫様はちゃんと守れたみたいだね。」

 クロロも気づいて駆け寄ってきた。

「当たり前だ。……少々きつかったが九尾に比べたらあいつらは雑魚だ。」

 俺は軽口を叩きながら、見かけた騎士に声をかける。装備から見て戦士隊の人だろう。とても大柄だ。190㎝はあるだろうか。装備は他の騎士に比べて明らかに立派だ。魔法の気配が強く漂ってくる。

「姫様はこの通り無事です。……恐怖で号泣して今は泣き疲れて寝てますがね。」

 俺はその人に、姫様を差し出す。

「おお!姫様を救ってくれた御仁はそなたか!すまぬ、私は陛下の警護であったため、到着が遅れたのだ。陛下!姫様が帰ってきましたぞ!」

 その人は俺が抱えている姫様の無事を確認するや否や大喜びを始めた。最後に、遠くの方でそわそわしながらも騎士たちに指示を飛ばしていた、装備ではないが明らかに立派な服を着た人がこっちに猛ダッシュしてくる。

「ヴィリア!ヴィリア!おお、ヴィリア!無事だったんだな!」

 今回で会うのが2度目となる王様は、俺から受け取った愛娘を抱きしめておいおい泣いている。

「この御仁が姫様を助けて下さったのです。遠くから見た限りだと、空を飛んで、80を超える魔族に対し、姫様を守りながら全員倒していました。」

 立派な装備を着た人が王様に説明をする。

「おお、お主が!ありがとう、本当にありが……と……?」

 王様が涙目で俺の手を上下にぶんぶん振り、俺の顔を見る。その瞬間、王様は固まった。

「お久しぶりです、王様。」

 俺はにっこにこと作り笑顔で応対する。

「……皆の者!この場にいる全員は一通りの処理が終わったら一旦城の謁見の間に集まろう!殉死した者は……手厚く葬ってくれ……。」

 王様はとりあえず俺の事はスルーして全員に指示を出す。最後の方の台詞は、本気で沈鬱そうな声と悲壮な顔をしていた。

 立派な王様だというのは、本当みたいだな。殉死した人間を、敬うことができる。当たり前のことで、案外権力者はほとんどやっていないことだ。

             __________________

 騎士と王様は処理、俺たち4人は魔族の素材をちゃっかり回収した。合計で100匹はいたが、ほとんどが最後のブレスで消し炭なったか灰になり、レイラの毒で全身腐食してて、まともな素材は20匹分ほどしか取れなかった。一応、質が悪い奴も皆回収したけど。

 そして、今は、あの場にいた全員で謁見の間に集まっている。王様の横には大臣が控えている。

「まず、皆の者!こたびの大事件をよくぞ3時間足らずで収めてくれた!」

 王様が大声でそういうと、皆で一礼する。魔族が首都を100匹ほどで襲ってくるとなると、まずは滅ぶのが常識らしい。過去に何回かそういうことがあったそうだ。そんな大事件を3時間足らずで収めたのだから凄いことだろう。

「此度の事件で殉死したものの葬儀については、後日厳粛に行う。まず、この場では彼らに尊敬と感謝の意を込めて、黙祷したいと思う。では、黙祷。」

 王様がそういった瞬間、俺たちは黙祷を捧げる。すすり泣く声がどこからともなく響く。騎士たちにとっては、大切な仲間が死んだのだ。こうなるのも無理はない。

「やめ。うむ、ありがとう。」

 1分ほどたって、王様がそういうと、皆は緊張をとき、目を開けて王様を見る。

「では、今回起こったことを、ヴィリアの護衛についていた騎士団騎士隊副隊長より、分かっていることだけでいいから報告して貰いたい。」

「はっ。」

 王様の指示に、俺に姫様と逃げるようにいった男性(騎士隊の副隊長だったようだ)が返事をして一歩前に出る。

 姫様がパレードが一旦終わり、スピーチを始めた時、いきなり来賓席の20人のうち15人が立ち上がるや否や、形を変えながら走り寄り、姫様に襲い掛かったこと。それに反応した護衛の騎士が即座に対応するも、あまりの強力さに全く歯が立たず、姫様が危なかったこと。ギリギリのところでいきなり現れた俺が魔族を蹴っ飛ばし、姫様を助け、その挙句そこから他の騎士がつくまでほとんど1人で魔族を食い止めたこと。ミリアとクロロと騎士がたどり着いた後、じり貧になって姫様が危なくなった上に、空から魔族の大群が迫ってきていたため、戦士隊副隊長(あの女性だった)と相談した結果、この中で1番強い俺に姫様を託したこと。そこから、空を飛んで俺が大立ち回りをしたことと、俺がいない間に俺の仲間の3人と3人に訓練体験の時に教えてくれた人(先ほどの男性と女性、それと弓使い隊の隊長だ)を中心に、その場にいた魔族をなんとか殲滅したこと。これらを報告した。ちなみに、素性の知れない冒険者に大切な姫様を任せたことを、戦士隊副隊長の女性と土下座して謝っていた。

「いや、よい。結果的にヴィリアは助かったんだ。むしろ、その即座の判断を、俺は褒め称えよう。見事であった。報告と合わせて、ご苦労であった。」

 それに対して王様は笑顔で2人の仕事を称えた。2人はお礼を言うと、一歩下がってもとの位置に戻る。

「さて、次は、このたび多大なる協力をしてくれた冒険者の4人に話しを聞きたい。」

 王様は俺たちのほうを見てそういう。俺たちは各々返事をして(3人はテンパって声が裏返ってた)一歩前に出る。

「まずは、此度の多大なる協力を感謝したい。これが無ければ、今よりも格段に悪い事態になっていただろう。ありがとう。」

「「「「ありがとうございます。」」」」

 王様に対しての礼儀作法なんざ知らない俺たちは、とりあえず声を揃えて全員で同じ反応をする。

「さて、では、そなた達がどのようにして加勢をしてくれたのか、パーティーリーダーに教えてもらいたい。」

 王様がそういってくる。その発言で、俺たちに混乱が走る。高速アイコンタクト開始だ。

(おい、どうするんだ!?リーダーなんか決めてないぞ!)

(すっかり忘れてましたね……。)

(もうアカツキでいんじゃない?)

(まぁ、それが無難だね。)

(勘弁してくれ……。)

 こんな感じの会話が目線でやり取りされ、流れで俺が報告することになった。

「はっ。俺……私たちも姫様のご誕生祝のパレードの観客として、見ていました。姫様がスピーチをお始めになったころ、私は不吉な気配を感じ、その気配が姫様に向かっているのを感じました。私は姫様を助けようと飛び出しながらレイラ、ミリア、クロロに指示を出しました。その嫌な予感は当たり、来賓の方のうち15人が魔族で、姫様に襲い掛かっているのをその一瞬後に確認しました。必死に飛んで行ったところ、間一髪で間に合いました。以降は、騎士隊副隊長様のご報告と変わりません。」

 俺は慣れていない分、変な敬語になりながらも報告する。……自分で言ってて思ったが、嫌な予感だけで姫様に飛んで行った俺は、何もなかったらただの犯罪者だ。

「飛んだのか……。」

 王様は俺の報告の飛んだ、という部分にのみ、放心状態で反応した。

「……さ、さて、次は、アカツキ殿が副隊長たちと別れてからの経緯を聞きたい。」

 王様ははっとして意識を取り戻すと、俺にさらに報告を求める。

「はっ。副隊長様によるお願いを実行した私は、姫様を抱えて空を飛んで逃げました。80匹ほどの空を飛ぶ魔族に追われながらも、なんとか全員倒しました。姫様を私の未熟で危ない目に遭わせたことを、お詫び申し上げます。」

 魔術やイグニスのことを説明せず、おおざっぱに。ついでに姫様が危険な目にあって恐怖心を感じたのは事実のため、俺は謝っておいた。なれなれしく撫でたりしたことは、後が怖いので伏せておくことにした。

「いや、よい。むしろ、ヴィリアはお主がいなかったら、もっと危なかっただろう。本当に……本当に……うう、感謝する。」

 王様は、途中で感極まったのか、泣きながらお礼を言ってくる。そらに玉座から降りて俺に歩み寄り、俺の手を両手で握ってぶんぶんする。

 俺にはたまったもんじゃないが、他の人は安心したように俺たちを見ている。王様と姫様は、城の人に信頼されているんだな。

「……さて、他にもいろいろアカツキ殿とお仲間に聞きたいことはいくらでもある。暫く付き合ってくれ。他の者も、頼む。」

 王様は握手をやめ、涙をふくと、晴れやかな顔でそういった。

最近暑いですね。2日前まではちょっと寒いくらいだったのに。

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