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魔術師の異世界ラプソディー  作者: 木林森
4章 合わせ鏡の混乱(ミラー・ミラージュ・ライアゲーム)
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襲撃

(くそっ!マジかよ!)

 俺は姫様に向かって飛びながら、心の中で毒づく。来賓に化けていた魔物は、姫様に近い最前列に座っているため、いくら俺が全力で飛んでもさすがに追いつけない。

(おっ!忘れてた!)

 魔物と姫様の間に、騎士団の人が次々と割り込んでいく。昨日訓練に参加したときにもいた、Sランク魔法使いやAランク魔法使いが合計10人くらいで協力して、無属性中級魔法『プロテクト』を強力な魔力で重ねがけする。さらに、騎士の何人かは盾を構えてすでに守る姿勢に入っているし、戦士隊もすでに武器を取り出し迎撃準備は出来ている。姫様の後ろの建物を見ると、その窓から弓使い隊の人たちはそこから弓をすでに構えていた。

 さすが、国を守る騎士団だ。不測の事態への対応が早い!しかし、

「ぐはっ!」

「なっ!?」

「キャアッ!」

 魔物はそれを上回った!いとも容易くプロテクトを破り、騎士を吹き飛ばし、迎撃してくる戦士を殺していく。そしてついに、魔物は防衛線を突破して姫様に手を伸ばす!

「させるかっ!」

 俺はギリギリ間に合い、魔物共に飛んでいる勢いを利用した飛び蹴りをお見舞いする!魔物は折り重なるように吹っ飛んでいく。

「姫様、大丈夫ですか!?」

 俺は吹っ飛ばされていない魔物と姫様のあいだに、姫様を守るように立ち、ちょっと振り返って姫様に確認を取る。

「は、はい!あ、あなたは?」

 姫様は混乱はしているが、怪我はないようだ。

「大丈夫です!魔物に襲われる前に早くっ!」

 俺は姫様に注意を飛ばしながら、魔法を連発して向かってくる魔物に応戦する。観客側を見ると、騎士団の人が避難誘導をしていた。これだけの大人数が集まっているというのに、観客は統制の採れた動きで城へと避難していく。

「がらぁっ!邪魔をするな!」

 魔物の1匹が、俺に向かって『人語』で叫んでくる。

「そんな!『魔族』なんて!」

 姫様が顔を青ざめさせて叫ぶ。

「魔族だと!」

「そんな馬鹿な!」

 騎士団の人も驚愕を露にしている。

 魔族、それはそこらの魔物よりもはるかに強力な魔物だ。人語を話し、高い知能を持ち、1匹1匹がとてつもなく強い。国中の精鋭を集めた騎士団ですら、平均的な能力の騎士10人ほどで囲んでやっと魔族の弱い方を1匹倒せるレベルだと言われている。

(魔族が15匹も一気に姫さまの命を狙いに来ただと!?)

 俺は心中で驚きながらも、魔法で魔族を迎撃していく。

「ごめんっ!遅れたわ!」

「参加するよ!」

 ミリアとクロロが到着してくる。よし、

「ミリア!クロロ!お前らも魔族と応戦しろ!騎士団の人!俺たちも加わります!」

 俺はこの場にいる全員に大声で確認を取る。

「あら?貴方たちは昨日の?」

 戦士の格好をした女性がミリアを見て声をかけてくる。

「ええ、そうよ。私たちもこの非常事態だし加勢するわ!」

「む、普通なら危ないからやめろというところだが……お前らは下手な騎士よりも強いからな、加勢は助かる。」

 ミリアの言葉に騎士の男性が低い声だが、嬉しそうに言う。

「おおっ!先生だ!先生とそのお仲間が加勢してくださるぞ!」

「先生!ありがとうございます!」

 魔法使い隊の連中は俺たちを指差して嬉しそうに騒ぐ。……昨日、俺は途中から先生と呼ばれ始め、それが魔法使い隊で定着してしまった。

「あ、あれはっ!」

 クロロが、空を指差す。その先には、


 黒い大群がこっちに飛んでくるのが確認できた!


 軽く50匹はいる。少なめに見積もっても60は下らないだろう。

「攻め込んできたなっ!」

 騎士の男性が憎々しげにそっちを睨む。

「あいつらも多分魔族です!こっちまで気配が伝わってきやがる!」

 俺はその場にいた全員に大声で状況を説明する。

「そ、そんな……なんで……。」

 姫様は、戦場にさらされ、さらに加わった絶望的な情報を聞いて目を虚ろにして座り込んでいる。下手に移動すると、不測の事態が怖いため、姫様はずっとここに居ざるを得なかった。

「ここは俺たちで食い止める。お前は姫様を連れて逃げてくれないか?」

 騎士の男性が俺に向かってそう言ってくる。

「へ?俺がですか?それはさすがに危ないですよ?俺は素性の知れない冒険者ですし。」

 俺は目の前の魔族に回し蹴りを食らわせながら答える。

「……悔しいけど、この場にいる人間で一番強いのは貴方よ。……その目を見れば、信頼できる人間ということは分かるわ。」

 戦士の女性は歯噛みしながら答える。

「……分かりました。ミリア!クロロ!あとは任せたぞ!」

「おっっけい!」

「わかった!」

 俺は行動に移すことを決め、ミリアとクロロにあとを託す。

「姫様!俺が貴方を逃がします!しっかり捕まっててください!」

「え?」

 俺は腰が抜けた姫様をお姫様だっこすると、ここにきたときにも使った『ピーターパン』の魔術で空に浮かぶ。

「そ、空を飛ぶ魔法ですか!?」

「高速で移動するんで舌を噛むと危ないですよ。」

 姫様は何か驚いた様子だが、俺はそう警告すると、思いっきり空高く飛ぶ。

 空を飛んでくる魔族はもうすぐそこだ。

「こかかか!覚悟しろぉ!」

 先頭を飛んでいた魔族から、魔法の気配を感じる。やばい!とっさに逃げられない!

「かはっ!」

 しかし、その魔族はいきなり横からものすごい勢いで飛んできた矢が脇腹に刺さる。そこの部分は一瞬にして腐食し、とんでもない速さで傷口から腐食が進む。

「今だ!」

 俺は集団に『トルネード』を放って牽制すると、そのまま空を飛んで逃げる。

 今の矢は、確実にレイラだ。あのえぐい効果と強さを持つ毒を使った矢を放つのはレイラぐらいしかいない。

「くそう!逃げるんじゃねえ!」

 魔族の集団が俺の後ろを追ってくる。強力な攻撃魔法が連発されるが、おれは旋回したり、上下左右に飛んだり、回転したりしてそれらを全部避ける。

「きゃあっ!」

 抱えている姫様は、俺の首に腕を回し、思い切りしがみついて俺の胸に顔をうずめて恐怖に耐えている。

 魔族は魔法を俺たちにに向かって連発してくる。このままじゃジリ貧だ!

「いくぞっ!」

 俺は姫様を片腕で抱きしめるように抱えて右手を空ける。すかさずストレージで、5行思想で火を表す赤いカードを持てる限り取り出して、それらを後ろにばら撒く。

「くらえっ!」

 俺はばら撒いたカードに向かってトルネードを放ち、カードの行き先に指向性を持たせる。その行き先は、当然後ろを飛んでくる魔族だ!

 ドドドドドッ!

 赤いカードは魔族に当たると、爆炎を上げてはじけ飛ぶ!

『グワアアア!』

 魔族たちの悲鳴が聞こえる。直撃だぜ!何匹かはそれで羽根をやられたようで、ふらふらしながら落ちていく。

「邪魔をするなぁっ!」

 それでも、ほとんどがまともに生き残っている。とんでもない強さだ。俺は全力で飛んでいるが、それに追いつくほどの速さでほぼ全員が飛んでくる。あと70匹は残っているな。

「おりゃっ!」

 俺は次に聖光属性上級魔法『ライトセーバー』(どこかで聞いたことある名前だ)を魔族どもに使う。何十本もの光の剣は、いくつかは魔族の体に突き刺さり致命傷を与えるが、それでもほとんど倒せていない。

「げっ!」

 俺が後ろに集中しすぎていたのか、俺の進行方向に何匹かの魔族が凶悪な笑顔で待ち構えていた!待ち伏せかよ!

「覚悟しろ!」

 魔族たちは俺たちに襲いかかってくる。

「いやっ!ちょっ!ほっ!」

 俺は襲いかかってくる牙や爪や尻尾を移動と回転で躱しきる。さらに、すれ違う際に天空属性上級魔法『アブソリュートゼロ』を使い、そいつらの『口の周りだけ』気温を一気に下げる。

「かはっ!」

「がふっ!」

 体の中に氷点下100度を下回る超低温の空気を一気に吸い込んだ魔族は、顔面の周りを凍らせ、体の組織がやられてそのまま下に落ちていく。

「う、ううう、ううううう……。」

 胸の中で、姫様が恐怖で泣いているのがわかる。

「大丈夫ですよ、姫様。」

 俺は優しい声を出して、姫様の頭を撫でながら決意する。

(女の子を集団で襲うなんざ許さねぇ!)

 こうなったら、あれを使ってやる!本邦初公開だ!

「いくぞっ!イグニス!」

 俺はそう叫びながらストレージで『焔帝の杖』を取り出す。

『わかった。ここで召喚は危険だから我の力を杖を通じて発現しよう。』

 俺は杖に魔力を思いきり送り込む!

「くらいやがれっ!」

 俺は杖を思い切り振って、杖先を追ってくる魔族の集団に向ける!

『ゴアアア!』

 すると、杖の先から、前にも見たイグニスの炎ブレスが出てきた!しかも、威力はあの時より上がってる気がする。

『ギャアアアアア!』

 魔族たちは、それを1匹残らずくらい、全員が体全身を炭のようにして、またはすでに焼き尽くされて、力尽きて地に落ちる。

「やったぜ!」

 殺気が全部なくなった!俺たちを襲ってくる奴は全員倒した!

「ありがとよ、イグニス。」

『うむ。この杖はやはり凄い。我の力を底上げしてくれる。お前の魔力も手伝って最高に気持ちよかった。』

 俺たちはそんな会話を交わしながら、目に付いた建物の屋根に着地する。

「もう大丈夫ですよ、姫様。」

 俺はストレージで杖をしまい、抱えている姫様を優しく下ろしてあげる。

「……。」

 姫様は放心状態で、足をつけるとそのままふらふらと足が崩れ落ち、屋根の上に女の子座りになる。涙に潤んだ目で、俺の顔を見上げている。やっぱり、どんなに立派な仕草をしていても、危ない目に合えば普通の女の子なんだな。

 俺は笑顔を作ると、しゃがみこんで姫様と同じ目線になり、姫さまの目を覗き込んで話す。

「もう大丈夫です。貴方を襲うやつらは俺が全部倒しました。よく耐えてくれました。怖かったでしょうけど。」

 俺は優しい声でそういいながら姫様の頭に手を伸ばし、優しく頭を撫でる。空を飛んで、乱れていてもなお肌触りのいい髪の毛も、ついでに直してやる。

「う、ううう、うえええええ……。」

 それで安心したのか、姫様は涙をボロボロと流すと、俺に抱きついてきて顔を埋める。

「怖かった、怖かったよぉ……。」

「大丈夫、大丈夫ですよ。」

 号泣する姫様を俺は左腕で抱きしめ、右手で優しく頭を撫でる。

 やっぱり、普通の女の子だ。王族だろうと、13歳の少女なのだ。

(思い出すな……。)

 俺は姫様を慰めながら過去を思い出す。それは、まだ俺が中学3年生の頃で、まだこの世界に来る前だ。

 その時、妹の茜はまだ小学6年生だ。中学校にもうすぐ上がるということで、初めて1人で依頼を受けた妹は、そこで失敗して、相手に捉えられ、命の危機にさらされていた。もう少しでナイフに心臓を貫かれて死ぬ、そんな時に、嫌な予感がして茜が仕事を実行する相手のアジトに俺は急行した。ギリギリで俺は間に合い、相手を殺して茜を助けることができた。その時も、茜はこんなふうに俺に抱きついて泣いてきた。魔術師の家の子供でも、やはり、普通の女の子であるということを、俺はあの時実感した。

 今はそれと同じだ。俺は、あの時のように、姫様に優しく語りかけ、抱きしめ、撫でながら、大切な妹を慰めるようにした。

戦闘描写が雑ですみません。

40話「エピローグ3 新たな仲間」にて、ミスを発見したので修正しました。すみません。重要な場面をそのまま書き忘れていました。読み直してくださると幸いです。

ここの下を見ればお分かりになると思いますが、アルファポリス様のランキングに登録しました!是非投票してください!

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