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魔術師の異世界ラプソディー  作者: 木林森
4章 合わせ鏡の混乱(ミラー・ミラージュ・ライアゲーム)
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訓練

 そんなわけで、俺たちは城(王宮ともいう)を観光に来た。城門のところでギルドカード(俺はSランクのも特別に発行してもらっていて、それを見せた)を提示し、しばらく待っていると許可が下りた。

「Sランクが3名、Aランクが1名ですか……優秀ですね。」

 管理していた騎士がそんなことを呟いた。

             __________________

 城の中に入ると、ガイドさんのごとく別の騎士がにこにこと案内してくれた。この世界の兵士や騎士はいい人が多いのだろうか。考えてみれば、初めてスーネアに入った時の兵士もいい人だった。

 謁見の間への階段や壁の材質、図書館や研究室といった、中々見ごたえのある内容が1時間ほど。

「では、最後にメインであろう、訓練所です。」

 そして、騎士がそれはそれはもうにっこにこしながら案内してくれたのが訓練所。そこでは、いかにもといった人たちが訓練を行っていた。

「ギルドカードを拝見させて頂いたところ、3名の方はSランクとのことですので訓練が体験できます。Aランクの方も、先日マリムバ周辺に出没した強力な変異種を協力して倒した実績があるとのことですので、参加できます。」

 手元の書類を見ながら、騎士は説明する。

「良かったな、クロロ。」

「うん、ラッキーだよ。」

 俺たちは顔を合わせてこんな会話をした。

「4名とも職業はバラバラで、戦士、弓使い、魔法使い、騎士ですね。……全部国にとって需要のある職業ですね。訓練も実際のに近いのが受けられます。どういたしますか?」

「当然、受けるわよ。」

 ミリアが俺たちの総意をまとめるかのように力強く頷いた。

「はい。では、戦士はこちら、弓使いはこちら、魔法使いはこちらの方に着いていって下さい。騎士は私に。」

 騎士は、俺たちの職業に合わせて、それぞれの職業であろう騎士や王宮魔法使いを手で示す。俺を案内してくれる人は……見たことある人だ。

「あれ、君はマリムバの祭の優勝者じゃないか?俺も参加してたよ。」

「ええ、そうです。」

 やはり、見たことある人だった。

 俺たち4人は一旦分かれてそれぞれのところに進んだ。

             __________________

 魔法使いの訓練は、簡単に言うと的当てだった。ただし、ギルドに入った時の最終試験と違って、距離が離れている代わりに的は正面にしか出てこない。当てた的の数だけ1点追加。また、逃した的の数だけ四方八方からゴム弾が飛んでくるので、それに被弾したら得点が1点マイナスされる。ちなみに、的は上級魔法クラスじゃないと壊れないようになっている。道具は使用あり。

(攻撃力と守備力、どちらも併せ持って初めて強い人間ってわけか。)

 よし、ルールは理解した。道具は、一応短剣を構えるだけ。基本的に魔法でやる予定だ。

「おいおい、皆、よく見とけよ。この人はマリムバの祭の優勝者だ。しかも無詠唱で、あの計測装置を壊すほどの使い手だ。」

 案内してくれた人が周りの人間に注目を集めるように言う。すると、周りは俄かにざわつきだす。

「もしかしたら、この中の何人かはこの人に負けるだろう。よく見て、よく学べ。」

 案内してくれた人が最後にそう締めると、空気が緊張感を含むようになった。言っていることは正しいが、余計なことは言わないでほしかった。恥ずかしい。

「じゃ、じゃあ始めましょう。」

 俺は緊張でどもりながら開始して大丈夫、と意思表示をする。

「はい。……よーい、スタート!」

「はっ!」

 スタートされた瞬間、俺は的の出てくる範囲内に、『3つ同時に』祭りの時にも使った『プロミネンス』を使用する。

 的は、俺が意識せずとも勝手に火柱の中に飛び込んでいく。

(3つくらい出せば、漏れることもないだろう。後は、これを維持するだけだな。)

 俺はそう考えて、3つの維持に神経を傾けた。

『……。』

 ふと周りの気配を探ると、唖然とした空気が流れていた。見てみると揃いも揃って口がだらしなく開いている。

 結局、1発もゴム弾は発射されることなく訓練は終了した。後半なんかはここの上手い人でも打ち漏らしがあるくらい難しいらしいが、俺の方法にそれは関係なかった。

「お疲れ様でした。次は何やるんですか?」

 俺は案内してくれた人に話しかける。

「き、ききき、ききききき……。」

 しかし、その人は俺を指さして『き』を連呼している。

「ど、どうしたんですか?」

 俺はたじろぎながら尋ねる。

「君!ここに入らないかい!?」

 その瞬間、俺の方を強くつかんで、大声で叫ぶ。

「満点なんて『初めて』だ!是非、ここに入って国のために働こう!そして、俺たちに魔法を教えてくれ!」

「へ?」

 あ、これ……デジャブ……。

「そうだそうだ!」

「あれだけの魔法を無詠唱で同時に3つ、しかも訓練の間余裕で維持し続けるなんて相当だ!」

 周りからも喝采の声が上がる。

 ああ、マジで勘弁してくれ……。

 結局、あの手この手を尽くして、何とか入団は免れた。かわりに今日1日体験を無視してコーチをやらされたが。

             __________________

 レイラは、自分の案内役である弓使いの女性の後ろについていきながら訓練の説明を受けていた。

 ルールとしては、1つの動く的を時間内にどれだけ多く中てることが出来るかを競うものだった。打ち漏らしは減点で、中った場所が中心に近いほど、または威力が高いほど得点が大きくなる。矢は刺さったままにならず、中った瞬間、的にかけられた魔法が作動して下に落ちる仕組みになっている。

(よっし、頑張るぞ!)

 レイラは意気込みながら訓練所に入っていった。

「皆、今回の体験希望者よ。」

 案内役の女性が正規メンバーに紹介すると、好奇心に彩られた目線がレイラに集まった。

(ううう……。)

 気弱なレイラは首をすくめてしまう。

 メンバーの割合は男女半々といったところだ。弓使いは女性に人気の職業だ。雑誌の記事曰く、『弓を扱う女は美しい』という風潮が強まっているようだ。

「さて、準備はいい?」

「は、はい!」

 声をかけられてレイラは必要以上に声を上げながら固い返事をする。それを見てほほえましげに女性がふっと笑うと(レイラには見えていない)、レイラから距離を取った。

「それでは、始めますので準備をしてください。」

 女性がそういうと、レイラは弓と矢を構える。

(よし、集中!)

 レイラの雰囲気が、さっきまでの気弱な女の子から弓使いのそれになる。

「それでは、よーい、スタート!」

 その女性がそう宣告した瞬間、的がいきなり現れ動き出した。

(よし!)

 狙いを一瞬で定めて、引いて打つ。これを流れるようにレイラは連発し続けた。矢は、全部がまるで吸い込まれるかのように中心近くに中る。威力や速度も申し分ない。

 レイラは、競技終了までその動作をし続けた。

「す、すごい……。」

 どこからかそんな声が漏れる。

 結果としては、かなりいい記録が出た。具体的に言うと、ここ1年間で3位にマークした。

『おおっ!』

 全体から拍手が沸き起こる。一転して気弱な女の子に戻ったレイラは、恥ずかしそうに顔を真っ赤にしながらぺこぺこと全方位に頭を下げる。

「君!凄いな!ちょっとこっち来てくれ。」

 拍手が鳴りやむと、特に立派な弓を構えた女性がレイラを手招きする。

「他の者に君を教えさせるのは無理があるようだ。ここは、弓使い隊長である、私から直接アドバイスしよう。」

 その女性がおおらかな笑顔で、レイラに向かってそういった。

「あ、ありがとうございます!」

 レイラは感激に顔を輝かせると、深々と礼をした。

             __________________

 ミリア案内してくれている男性についていきながら、その男性に質問される。

「それにしても、女で戦士とは珍しいな。うちでも5~6人くらいしか居ねえぜ?」

「まぁ、それぞれ理由はあるもんよ。ところで、訓練って何をするの?」

 ミリアは質問をいなしながら逆に質問をする。

「ははっ、そりゃあそうだな。……俺たちは毎回、弱い奴から勝ち抜きで模擬戦をやっている。まぁ、ある程度差が開きすぎていたら、一気に上にかけ上ることも出来るがな。」

 男は快活に笑いながらルールを説明した。

「へぇ、単純で気持ちのいいルールね。」

「うちはそういうのが好きな連中ばかりだからな。」

 初対面なのに軽口を飛ばしあう2人。それぞれの性格のよさがなせる業である。

「おい、皆、今日は体験する奴がくるぞ!Sランクだから気を抜くんじゃねえぞ!」

『おうっ!』

 男が訓練所の扉を開けてそうそうに大声で全員に指示を飛ばす。すると、そこらから声を揃えてたくましい声が上がる。男が言った通り、5人ほど女性がいる。

「どれ、それじゃ体験する方はこちらへ……まずは、Sランクでも1番弱い私が相手になります。」

 別の、今度は若い男がミリアを部屋の中心から3mほど離れたところへへ促すと、その正面の、ちょうど中心を挟んで3m向こう側に移動する。

「それじゃ、よろしく。」

「よろしくお願いします。」

 男は両手持ちの剣を、ミリアは2つの剣を構える。

「ほう、二刀流か……珍しいな。」

 ミリアの構えを見ただれかがそう呟く。

「では、始め!」

 開始が宣告された瞬間、2人は真正面から突っ込みあう。

「おらあっ!」

 先ほどの柔らかい態度とは裏腹に、気合の入った野太い声と共に、男は両手剣をミリアに向かって振る。それをミリアは、

「やっ!」

「なっ!?」

 左手に持った『テンペスト』で弾き飛ばすと、そのまま『ヴォルケイノ』をのど元に突きつける。

「勝負あり!」

 審判役の女性の声が響く。

「両手剣を……片手だけで……?」

 対戦相手の男は呆然としながらミリアの顔を見る。

「ありがとうございましたっと……次は誰かしら?」

 ミリアは呆けている男に軽くお礼を言うと、次の相手を探す。

 ミリアは息をするように当たり前にやってのけたが、これはとてつもない技術が必要である。

 『熟練の成人男性』が『両手』で力を込めて『両手で持つほど重い剣』を、『若い女性』が『片手』で、『片手で持てる重さの剣』を用いて難なく弾いたのだ。普通はなすすべもなく押し負けるのがオチだろう。しかし、ミリアはそうならない。

 ミリアは、確かに普通に比べれば格段に筋力は強いが、熟練の成人男性に勝てるほどではない。ミリアは、とにかく『力の使い方』が『上手い』のだ。ミリアは、力の流れを読み取るのに長けていて、弱い力で上手くやることが出来る。今のも、男が振り下ろす力を利用して、上手い角度で男の剣を横に弾いただけだ。ミリアは、力の使い方を知っているがゆえに、2つの剣での猛攻を生み出し、攻撃は切れ味を帯びる。

「次は私がいくわ。」

 審判役とは別の女性が中央に歩み出る。手に持つのは鋭い輝きを持つ細剣レイピアだ。

「では、行きます……始め!」

 審判が合図した瞬間、先ほどと同じように2人はお互いに高速で走り寄る。

「やぁっ!」

 今度はミリアから先に仕掛けた。左手の『テンペスト』を先に突出し、そちらに対応させてから右の『ヴォルケイノ』でとどめ……のつもりだった。

「なっ!?」

 ミリアが攻撃を仕掛けた瞬間、女性はいきなり、視界から『姿を消した』。

「終わりよ。」

 後ろから女性に声が聞こえたかと思うと、うなじに鋭くて冷たい感触が伝わってくる。

 女性は、ミリアの後ろに移動し、細剣をミリアのうなじに突きつけていた。

「勝負あり!」

 訓練の終了が宣告される。その瞬間、背後から伝わるプレッシャーは霧散し、うなじの感触もなくなった。

「……いつのまに後ろに回ったのよ?」

「ついさっきよ。それじゃ、貴方には私が教えてあげるわね?」

「……騎士から個人レッスンを受けれるなんて光栄だわね。」

 女性が嗜虐的な笑みを浮かべて質問に答えると、ミリアは同じような笑顔で個人レッスンを受ける意志を見せる。

 個人レッスンが終わっても、ミリアは知ることはなかった。彼女は、騎士団の戦士隊の中で2番目の実力者で、彼女の訓練は厳しいので有名だということを。

             __________________

 クロロは、男の騎士の後ろについていきながら、緊張で顔を強張らせていた。

(うわぁ、騎士様と訓練が受けられるなんて!いつかはやってみたいと思っていたけどこんなに早くなるなんて!)

 心は期待と不安に満ち溢れている。

「ところでよ……」

「は、はい!」

 いきなり案内役の男に声をかけられて、クロロは裏返った声で返事をする。

「……よし、とりあえず落ち着け。」

「は、はい。」

 促されるがままにクロロは深呼吸をする。動悸が落ち着いたため、クロロは男に確認する。

「あ、改めて要件をお伺いします。」

「ああ、なに、ちょっとした雑談だ。女が騎士……冒険者としての職業の方だぞ?それをやってるなんて珍しいと思ってな。」

 男は純粋な好奇心でクロロに質問する。

「あはは、こんな見た目でも、僕は男ですよ。よく女の子に間違えられますがね。」

「むっ、それは失礼した。」

「いえいえ。」

 緊張感のほぐれた状態で、ついに訓練所にたどり着く。

「皆、今日は体験する冒険者がいる。Aランクらしいが、かなり強いそうだ。」

 男が扉を開け、早々に全員に連絡を済ませる。

「さぁ、こっちに来てくれ。」

 男はクロロを促すと、そばにある等身大の藁人形を手で示す。

「訓練の内容としては、この藁人形を守ることだ。四方八方からゴム弾が少しずつ多くなりながら、藁人形を狙って発射される。ゴム弾が藁人形に当たったら得点がマイナスされ、飛んでくるゴム弾を迎え撃って切ることができれば得点がプラスされる。持ち点100からスタートだ。」

 男の口から訓練のルールが説明される。クロロはそれを真剣に聞きながら頷く。

「うむ、では始めよう。」

 男は静かに頷いてそういうと、クロロから離れたところに歩いていく。クロロは剣と盾を構え、訓練の開始を待っている。

「5、4、3、2、1、スタート!」

 男がそう宣告すると、それと同時にゴム弾が1発、クロロの正面から発射された。クロロはそれを難なく切る。

 今度はクロロの藁人形を挟んだ反対側から2つと、右側から1つが同時に飛んでくる。

「とうっ!」

 クロロは重い装備にも関わらず、ケットシーの特徴である素早さですぐに反応し、2つを切って1つを盾で防ぐ。

「ほう、なかなかやるな。」

 男がそれらの動きを見て呟く。ゴム弾はすでに、同時に10発発射されている。間隔も狭くなってきている。だが、クロロはそれらを見事にさばき、内2発は必ず切る。

「ほんとうにAランクかよ……?」

 どこからともなく、そんな呟きが聞こえた。

 ゴム弾が全部打ち出され、訓練は終了した。結果は、247点だった。前半は調子よく全部さばいたり、切って見せた。だが、ラスト1分から感覚と同時発射の数、発射の場所の全てが段違いにレベルアップし、そこからは記録がどんどん下がっていった。それでも、毎回7割ほどは防いで見せたが。

「ほう、Aランクなのにこれほどの点数とはな。」

 男がクロロに歩み寄ってくる。

「見事だ。これほどの成績はSランクの者でも平均より上の奴が取れるか取れないかぐらいだぞ。もはや、Aランクの器に収まるものじゃない。」

「あ、ありがとうございます……。」

 クロロは手放しで褒められ、照れて後頭部を片手で掻く。

 ちなみに、クロロは1週間とちょっと前にはBランクの上の方の強さだった。だが、アカツキと会って、九尾との1戦で一皮むけた。さらに、仲間になってから道中で、日本での用心護衛任務もこなすアカツキから技術を教わり、攻撃する職業でもないのにアカツキの指示で途中であった魔物は積極的に倒したこともあって、今はSランクに値する強さを持っている。レベルはAランクの下が精々だが。

「お前には私が教えよう。騎士隊の副隊長である私がな。」

「は、はい!」

 クロロは喜んで訓練を受けた。

今回は無理矢理詰め込んだため長くなりました。

それと、これからちょっと忙しくなるので投稿ペースは落ちると思います。

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