九尾
「それにしても驚いたよ……SSランクだなんて。」
「今まで隠してすまんな。隠しといたほうがいろいろ都合がいいもんで。」
俺たちは今、いつもの宿の女の子2人の部屋で作戦会議だ。
「さて、皆にお願いしたいことがある。……すでに分かっていると思うが、今回の敵は洒落にならんくらい強いだろう。とてつもなく危険になる。それを承知で、皆に一緒に来てもらいたい。」
俺は全員を見回す。
「行くに決まっているでしょ。」
「もうこの前の戦いで慣れましたからね。」
「僕も……皆に協力したい。」
皆は、強い意志を瞳に込めて頷いてくれた。
「よし、皆来てくれるんだな……ありがとう。」
俺は一旦顔を綻ばせて、また顔を引き締める。
「さて、こいつを倒すのに、ここを出発するのは夜の9時にしようと思う。」
「夜中に行くの?それってかなり危険じゃん。」
ミリアがその内容に異を唱える。
「そうなんだけどな……俺の知識が正しければ、この朝とかにいくと、討伐できないか、討伐できても全員死ぬことになると思う。」
俺は苦虫を噛み潰す。『あれ』が無ければ御の字だが、そうそう上手くいくもんじゃない。
「それって……もしかして、その変異種が何かしてくるのかい?」
クロロの質問が入る。
「ああ、ここで一気に奴について知っていることを話そうか。まず―――。」
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夜の9時になった。俺たちは村を出て、調査団の人が白面金毛九尾の狐にあった場所に向かう。
今回は、危険を伴いすぎるので、ギルドから記録結晶を全員分借りてきた。これで、もし俺たちに何かあったら村はリアルタイムで対応できる。調査団の人を援軍で送ってくれるなり、村人の避難なりだ。
『皆、聞こえるか?』
俺は全員にテレパシーを使う。いろんな神様は、時に神託はテレパシーで行う。この魔術はそれを利用したものだ。
全員が頷き返してくれる。よし、大丈夫だな。
今回の作戦の1つ、俺からの連絡はテレパシーで送る。
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2時間程歩いたところで、調査団の人たちが襲われたあたりに着いた。
「あ、あれは何でしょう?」
優秀な弓使いのレイラの視界に何かが移った。何か、動物の気配だ。俺たちは駆け寄っていく。近づいていくと、それがとてもきれいな女の人だと分かった。向こうも俺たちに気が付いたみたいで、顔をぱぁっと明るくすると、俺たちに駆け寄ってくる。
「旅の方!申し訳ございません!遭難してしまいました!ここ3日間ずっとです!」
その女性の姿が全体で捉えられるようになる。
長い黒髪のストレート、すっきりとした顔立ちとふくよかな頬と、とても美人、それも日本美人だ。
「どうかなさったんですか?」
ミリアがさっそくその女性に問いかける。
「はい。私はここで遭難をしてしまいまして、今日の日が昇る少し前に調査団の方が保護して下さったんですが、その時、とても強力な魔物に襲撃され、はぐれてしまい、今に至るのです。」
「なるほど、大変だったでしょうね。」
女性の話にレイラが心配そうに話しかける。
「ギルドからの依頼は、調査団の人が保護できなかったこの女性の保護と、あと変異種の討伐だったね。」
クロロが俺に確認を取る。
「ああ、これでいったん1つはクリアだな。1回山を下りて村に戻ろう。」
俺たちは来た道を戻り始めた。
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そこから30分ほど歩いたところで、ちょっと開けたところに出た。
『構えろ!』
俺が皆にテレパシーを飛ばすと、皆は武器を構えた。
女性に向かって。
「ひっ!な、なんのつもりですか!?」
女性は怯えたような動作をするが、俺たちの目は真剣そのもの。
「いい加減、茶番はやめろ。ここで襲うつもりだったんだろ?『白面金毛九尾の狐』!」
俺は女性に向かって言い放つ。すると、
「け、けけけ、けけけけけっ!良くわかったなぁ人間!」
女性の態度が急激に変化した。それとともに、徐々に女性に輪郭が崩れていく。そして、女性が立っていた場所には、
「俺様の変身を見破るとは中々だ!」
大きな『白面金毛九尾の狐』がいた。
教えられた特徴通りだな。全く、調査団の人が不意打ちを食らうわけだ。ここまで精巧な変身魔法だもんな。
調査団の人が保護した女性は、『白面金毛九尾の狐』が化けたものだった。そして、いきなり襲われたのだ。
「アカツキさんの言うとおりだね。」
クロロが俺にそう話しかけてくる。
「ああ、予想通りだ。」
俺はクロロに頷き返す。
「人語を話す魔物……アカツキさんの言うとおりです。」
レイラはまだ驚きを隠せていない。
俺は宿での作戦会議を思い出す。
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「まず、1つ。調査団の人が保護した女性は、その『変異種そのもの』だ。」
俺は皆にそう伝えた。
「ええっ!?変身魔法ですか!?」
レイラが驚きの声を上げる。他の2人も少なからず驚いている。
「……ってことは何?その変異種は超精巧に人間に化けて油断させ、折りを見て襲い掛かったってわけ?」
ミリアが質問をしてくる。
「そういうことだ。いきなり保護した女性が行方不明になったのも分かる話だ。」
俺は皮肉を込めてそういう。
「ということは、その変異種は人語を話すくらい賢いのかい?」
クロロが俺に質問をしてくる。
「そういう事だな。」
「……それって、まるで『魔族』じゃないですか。」
レイラがぼそりと呟く。魔族は、とても強力で、知能が高いので人語を話すという。
「そんなわけで、この女性と接触したら、俺がテレパシーで連絡をとるから、騙されている演技をしてくれ。」
俺は、そういって一旦まとめた。
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そして、女性と接触したとき、俺はテレパシーでこんなことをしていた。
「旅の方!申し訳ございません!遭難してしまいました!ここ3日間ずっとです。」
女性が話す。
『これは、変異種だ。騙されている演技をしてくれ。』
俺がテレパシーを飛ばす。俺の視界には、目を凝らせば輪郭がぼやけた姿が映る。目を凝らして輪郭がぼやけるか。相当強力な変身だ。
「どうかなさったんですか?」
ミリアがさっそくその女性に問いかける。おお、とても自然な演技だ。
「はい。私はここで遭難をしてしまいまして、今日の日が昇る少し前に調査団の方が保護して下さったんですが、その時、とても強力な魔物に襲撃され、はぐれてしまい、今に至るのです。」
「なるほど、大変だったでしょうね。」
女性の話にレイラが心配そうに話しかける。すげぇ、とんでもない演技だ。
「ギルドからの依頼は、調査団の人が保護できなかったこの女性の保護と、あと変異種の討伐だったね。」
クロロが俺に確認を取る。とても自然な感じだ。
「ああ、これでいったん1つはクリアだな。1回山を下りて村に戻ろう。」
俺たちは来た道を戻り始めた。
『しばらくすると開けたところに着く。そこで俺の合図で一斉に武器を構えてくれ。』
テレパシーで皆への連絡も忘れずに。
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「けけけっ、なぁるほどな。俺様がだましていたつもりが騙されていたわけだな。」
『白面金毛九尾の狐』はさも面白そうにそう話す。
「そういうことだ、似非女。オカマの真似はもうしなくていいからよ。」
俺は皮肉を込めてそう言い放つ。
「けけけっ、久しぶりに面白いことになりそうだ!」
そう言うと『白面金毛九尾の狐』は殺気を隠そうともせず溢れさせる。
「俺様の事は『九尾』とでも読んでくれ。けけけっ、綺麗な尻尾だろ?」
おどけた口調で九尾はそう嘯く。
「まぁ、お前らに俺様は殺せない!殺せてもお前らに待つのは『死』だ!」
九尾がそう続けると、殺気がより強まる。
「上等だ!妖怪退治と行こうじゃねえか!」
夜の戦いが始まった。
昼寝すると気持ちいいです。




