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魔術師の異世界ラプソディー  作者: 木林森
3章 男の意地(ナイトオブ・コーデシュバリー)
37/166

九尾

「それにしても驚いたよ……SSランクだなんて。」

「今まで隠してすまんな。隠しといたほうがいろいろ都合がいいもんで。」

 俺たちは今、いつもの宿の女の子2人の部屋で作戦会議だ。

「さて、皆にお願いしたいことがある。……すでに分かっていると思うが、今回の敵は洒落にならんくらい強いだろう。とてつもなく危険になる。それを承知で、皆に一緒に来てもらいたい。」

 俺は全員を見回す。

「行くに決まっているでしょ。」

「もうこの前の戦いで慣れましたからね。」

「僕も……皆に協力したい。」

 皆は、強い意志を瞳に込めて頷いてくれた。

「よし、皆来てくれるんだな……ありがとう。」

 俺は一旦顔を綻ばせて、また顔を引き締める。

「さて、こいつを倒すのに、ここを出発するのは夜の9時にしようと思う。」

「夜中に行くの?それってかなり危険じゃん。」

 ミリアがその内容に異を唱える。

「そうなんだけどな……俺の知識が正しければ、この朝とかにいくと、討伐できないか、討伐できても全員死ぬことになると思う。」

 俺は苦虫を噛み潰す。『あれ』が無ければ御の字だが、そうそう上手くいくもんじゃない。

「それって……もしかして、その変異種が何かしてくるのかい?」

 クロロの質問が入る。

「ああ、ここで一気に奴について知っていることを話そうか。まず―――。」

             __________________

 夜の9時になった。俺たちは村を出て、調査団の人が白面金毛九尾の狐にあった場所に向かう。

 今回は、危険を伴いすぎるので、ギルドから記録結晶を全員分借りてきた。これで、もし俺たちに何かあったら村はリアルタイムで対応できる。調査団の人を援軍で送ってくれるなり、村人の避難なりだ。

『皆、聞こえるか?』

 俺は全員にテレパシーを使う。いろんな神様は、時に神託はテレパシーで行う。この魔術はそれを利用したものだ。

 全員が頷き返してくれる。よし、大丈夫だな。

 今回の作戦の1つ、俺からの連絡はテレパシーで送る。

             __________________

 2時間程歩いたところで、調査団の人たちが襲われたあたりに着いた。

「あ、あれは何でしょう?」

 優秀な弓使いのレイラの視界に何かが移った。何か、動物の気配だ。俺たちは駆け寄っていく。近づいていくと、それがとてもきれいな女の人だと分かった。向こうも俺たちに気が付いたみたいで、顔をぱぁっと明るくすると、俺たちに駆け寄ってくる。

「旅の方!申し訳ございません!遭難してしまいました!ここ3日間ずっとです!」

 その女性の姿が全体で捉えられるようになる。

 長い黒髪のストレート、すっきりとした顔立ちとふくよかな頬と、とても美人、それも日本美人だ。

「どうかなさったんですか?」

 ミリアがさっそくその女性に問いかける。

「はい。私はここで遭難をしてしまいまして、今日の日が昇る少し前に調査団の方が保護して下さったんですが、その時、とても強力な魔物に襲撃され、はぐれてしまい、今に至るのです。」

「なるほど、大変だったでしょうね。」

 女性の話にレイラが心配そうに話しかける。

「ギルドからの依頼は、調査団の人が保護できなかったこの女性の保護と、あと変異種の討伐だったね。」

 クロロが俺に確認を取る。

「ああ、これでいったん1つはクリアだな。1回山を下りて村に戻ろう。」

 俺たちは来た道を戻り始めた。

             __________________

 そこから30分ほど歩いたところで、ちょっと開けたところに出た。

『構えろ!』

 俺が皆にテレパシーを飛ばすと、皆は武器を構えた。


 女性に向かって。


「ひっ!な、なんのつもりですか!?」

 女性は怯えたような動作をするが、俺たちの目は真剣そのもの。

「いい加減、茶番はやめろ。ここで襲うつもりだったんだろ?『白面金毛九尾の狐』!」

 俺は女性に向かって言い放つ。すると、

「け、けけけ、けけけけけっ!良くわかったなぁ人間!」

 女性の態度が急激に変化した。それとともに、徐々に女性に輪郭が崩れていく。そして、女性が立っていた場所には、

「俺様の変身を見破るとは中々だ!」


 大きな『白面金毛九尾の狐』がいた。


 教えられた特徴通りだな。全く、調査団の人が不意打ちを食らうわけだ。ここまで精巧な変身魔法だもんな。

 調査団の人が保護した女性は、『白面金毛九尾の狐』が化けたものだった。そして、いきなり襲われたのだ。

「アカツキさんの言うとおりだね。」

 クロロが俺にそう話しかけてくる。

「ああ、予想通りだ。」

 俺はクロロに頷き返す。

「人語を話す魔物……アカツキさんの言うとおりです。」

 レイラはまだ驚きを隠せていない。

 俺は宿での作戦会議を思い出す。

             __________________

「まず、1つ。調査団の人が保護した女性は、その『変異種そのもの』だ。」

 俺は皆にそう伝えた。

「ええっ!?変身魔法ですか!?」

 レイラが驚きの声を上げる。他の2人も少なからず驚いている。

「……ってことは何?その変異種は超精巧に人間に化けて油断させ、折りを見て襲い掛かったってわけ?」

 ミリアが質問をしてくる。

「そういうことだ。いきなり保護した女性が行方不明になったのも分かる話だ。」

 俺は皮肉を込めてそういう。

「ということは、その変異種は人語を話すくらい賢いのかい?」

 クロロが俺に質問をしてくる。

「そういう事だな。」

「……それって、まるで『魔族』じゃないですか。」

 レイラがぼそりと呟く。魔族は、とても強力で、知能が高いので人語を話すという。

「そんなわけで、この女性と接触したら、俺がテレパシーで連絡をとるから、騙されている演技をしてくれ。」

 俺は、そういって一旦まとめた。

             __________________

 そして、女性と接触したとき、俺はテレパシーでこんなことをしていた。

「旅の方!申し訳ございません!遭難してしまいました!ここ3日間ずっとです。」

 女性が話す。

『これは、変異種だ。騙されている演技をしてくれ。』

 俺がテレパシーを飛ばす。俺の視界には、目を凝らせば輪郭がぼやけた姿が映る。目を凝らして輪郭がぼやけるか。相当強力な変身だ。

「どうかなさったんですか?」

 ミリアがさっそくその女性に問いかける。おお、とても自然な演技だ。

「はい。私はここで遭難をしてしまいまして、今日の日が昇る少し前に調査団の方が保護して下さったんですが、その時、とても強力な魔物に襲撃され、はぐれてしまい、今に至るのです。」

「なるほど、大変だったでしょうね。」

 女性の話にレイラが心配そうに話しかける。すげぇ、とんでもない演技だ。

「ギルドからの依頼は、調査団の人が保護できなかったこの女性の保護と、あと変異種の討伐だったね。」

 クロロが俺に確認を取る。とても自然な感じだ。

「ああ、これでいったん1つはクリアだな。1回山を下りて村に戻ろう。」

 俺たちは来た道を戻り始めた。

『しばらくすると開けたところに着く。そこで俺の合図で一斉に武器を構えてくれ。』

 テレパシーで皆への連絡も忘れずに。

             __________________

「けけけっ、なぁるほどな。俺様がだましていたつもりが騙されていたわけだな。」

 『白面金毛九尾の狐』はさも面白そうにそう話す。

「そういうことだ、似非女。オカマの真似はもうしなくていいからよ。」

 俺は皮肉を込めてそう言い放つ。

「けけけっ、久しぶりに面白いことになりそうだ!」

 そう言うと『白面金毛九尾の狐』は殺気を隠そうともせず溢れさせる。

「俺様の事は『九尾』とでも読んでくれ。けけけっ、綺麗な尻尾だろ?」

 おどけた口調で九尾はそう嘯く。

「まぁ、お前らに俺様は殺せない!殺せてもお前らに待つのは『死』だ!」

 九尾がそう続けると、殺気がより強まる。

「上等だ!妖怪退治と行こうじゃねえか!」


 夜の戦いが始まった。


 

 

昼寝すると気持ちいいです。

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