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魔術師の異世界ラプソディー  作者: 木林森
3章 男の意地(ナイトオブ・コーデシュバリー)
35/166

ちょっと怖い感じです。

 結局、そこから先はめぼしい異変も見つからず、良さげな素材も手に入らなかった。Aランクなので報酬は3日間は過ごせる量を貰いはしたが、正直むなしかった。

 報酬を貰うと、俺たちはそのまま宿に帰った。

「調査団の人はまだ帰ってきてないようですね。」

 レイラが宿の窓から外を見て呟く。

「こんな遅くまで大変ね。」

 ミリアが感心したように呟く。

「Aランクでほとんど構成されていて、中にはSランクの人もいるからね。面目の為にも遅くまで仕事をさせられるんだよ。」

 クロロがそんな風に解説してくれる。

「昨日のスカウトに乗らなくて本当に良かった……。」

 俺はその内容に苦虫を噛み潰した。その時、

「すみません。アカツキ様はいらっしゃいますか?」

 ドアの向こうから声が聞こえた。

「はい、どなたですか?」

 ここは女の子2人の部屋だ。俺が部屋にいないので、連れの部屋であるここを当たったのだろう。俺がドアを開けると、昨日の大会の解説者がいた。

「アカツキ様、昨日はいきなりいなくなったので景品が渡せませんでした。というわけで今からお渡しします。後ろのお三方も来てくださって結構ですよ。」

「ああ、なるほど。すみません、ちょっと昨日は事情があって……。おい、皆、ついてくるか?」

 俺は解説者さんに謝ると後ろのみんなに声をかける。

「あ、ついてくついてく!」

「どんな景品なんでしょうね?」

「楽しみだなぁ!」

 全員乗り気で腰を持ち上げはじめた。

「それじゃ、行きましょう。」

             __________________

 行先は村長の家だった。ひときわ目立つ立派な屋敷だ。神野家程じゃないけど。

「おお、良く来なすった。優勝者様。さ、さっそく我が家の宝庫へ。」

 壮年の男の人が村長さんのようだ。俺たちの姿を見るや否や、宝庫とやらに案内される。

「毎年優勝者にはこうして、宝庫のモノを一つ差し上げ取るんだよ。これも村おこしの為だ。」

 宝庫に向かう際に、村長さんが俺たちに解説してくれる。

「さ、ここが宝庫だ。自由に一つ選んでくれ。」

 立派な倉庫の扉を開けると、そこには様々な価値のありそうなものが置いてあった。

『おおぉ……!』

 思わず俺たちの口から感嘆の声が漏れる。雅な絵画や立派な宝石、いかにも価値のありそうな剣や弓や鎧や盾、金や白金のインゴットなどが置いてある。

 あの剣なんかミリアが持っているのより断然いいし、弓も同じ、鎧もとてつもなくいいものだ。実際に3人の目の色が変わったし。

「また随分と集めましたね。」

 俺はそういいながら、壁際に並んでいる箱の列に近寄る。その瞬間、

「あっ!」

 思わず俺は大声を上げてしまった。

「な、何よ!?」

「どうしたんですか!?」

「何かあったの!?」

「ど、どうした!?」

 仲間3人と村長さんの狼狽する声が聞こえる。

「すまん!とんでもないものを感じ取ったぞ!」

 俺は駆け足で反対側の壁にいき、入り口から3つ目の箱に目をつける。

「とんでもない魔力だ!こいつは凄いぞ!」

 俺はささっと箱を開ける。

「どれどれ?」

「何でしょうか?」

「いったいなんだい?」

「どれを選んだ?」

 さっき驚かせてしまった4人が俺の後ろから箱を覗き込む。中に入っていたのは、

「……え?」

「う、うわぁ……。」

「え、えーと……。」

「ああ、それかい……。」

 錆びた細長くて先端のとがった30本の鉄の棒だった。反応に困った人3人、何やら分かった人1人。

「こいつは凄いや!とんでもないものだ!」

 俺は一人箱を持ってはしゃぐ。この中で特に一際魔力を強く感じるのが2本ある。

「これら貰っていきますね!」

 俺は首を思いっきり回して村長さんを向き、確認を取る。

「あ、ああ、構わん。しかし、本当にそれでいいのかね?」

「はい、ところでこれはどこで?」

「私が昔に冒険者をやっていて、その時に洞窟で手に入れたもので、とりあえず持って帰ってみたはいいが全く使い道が分からんかった。捨てようかと思ったがわずかに魔力を感じたので一応とっておいたんだ。」

 なるほど、洞窟の中か。やっぱり、これは多分そうだ。見つけたシチュエーションが『八咫鏡』の時と同じだ。これは、『俺たちの世界』のものだ。

「……で、そんなボロッちいの何に使うのよ?」

「……当然、何か役に立つものなんですよね?」

「……他のものを差し置いて選んだからにはさぞかしいいものだよね?」

 ……3人の目線が痛い。何かもう台詞と目線から不満が伝わってくる。今までこの世界に来てから喰らった視線の中で一番痛い。これ絶対「剣が欲しかった」「弓が欲しかった」「鎧が欲しかった」の怨念が籠ってる。

「と、とうぜんだ。こいつらは凄いんだからな。」

 そういって俺は1本取り出して見せる。それにしてもこれだけ大きい金属の塊があると重みが違うな。

「だれか、これの実験台になってくれないか?ちょっとばかり体にこれの凄さを教えてやるよ。安心しろ、危害は無いから。かなり怖いけど。」

 これの凄さを教えて不満を消し飛ばしてやる。

「じゃああたしが行くわよ。」

 ミリアが前に一歩進み出る。目には「お手並み拝見」といった内容が見受けられる。

「ほいよ。」

 俺は手に持っていた金属の棒のとがった部分を、ミリアの『影』に投げて刺す。

「……え?嘘!何で何で何で!?」

 ミリアが急に涙目になって騒ぎ始める。顔の表情は動くが、首から下は『全く動いていない』。

「な、凄いだろ?」

 俺は地面から鉄の棒を抜いてやる。すると、ミリアは体が自由になり、半べそ掻きながらへなへなと地面にへたり込んだ。

「な、なんなのよこれ!?全く『体が動かなかった』じゃない!」

「「「えっ!?」」」

 ミリアの言葉に、皆は驚き、俺はほくそえむ。

「分かっただろ?これの凄さが。こいつは、巨大な『釘』だ。」

 ここから先は心の声だ。

 この『釘』はただの釘じゃない。

 『イエス・キリストを磔にした釘』、所謂『聖釘せいてい』だ。『聖遺物』である。30本のうち、2本は『本物』、残りの28本は『レプリカ』だ。キリスト教の決まりの中で、『聖遺物』が権力者にはどうしても必要な時期があり、その時に騙すために作られたのがこの28本。表向きの理由がこれ。実際は『聖遺物のレプリカ』、つまり『強力な魔術道具のレプリカ』を作ることで、魔術的な武装をキリスト教が強化したのだ。現代では魔術は廃れて、使うのは俺たち神野家とマイナーカルト宗教の雑魚だけだが、昔は魔術全盛期の時代だ。これがレプリカとはいえ、増えたことでキリスト教はより力をつけた。魔術道具のレプリカは、本物に劣るが、それと同じような効果を持つ。よって、この28本のレプリカも効果を発揮するのだ。

 『聖釘』はイエス・キリストを磔にした、つまり”人間を磔にした”のだ。影は、その影を作ったものの延長と考えられる。よって、これらの釘は、『ものを地面に磔にし、動けなくする』のだ。

 そんな効果を持ったこれらを俺が魔術で後押しすることで、効果を発揮するのだ。

「これらの釘は、影に刺すと、その影を作っているものを動けなくするんだ。いっとくけど、さっきのは大分手加減したぞ。」

「ものを……動けなくする……。」

「だからさっきあたしは……。ん?手加減!?」

「て、手加減かぁ……。それって、あまり聞きたくないけど、本気出したらどうなるの?」

 3人は俺の説明を聞いて顔を青くしている。

「本気か……例えば、全身を動けなくするようにすれば、”心臓も動けなくなる”からそのまま死ぬし、さっきのミリアみたいに口を動かせるようにせず、口を動かせないようにしてミリアみたいに動きを封じれば、じわじわと餓死する。動けない、目の前の景色は変わらない、助けも呼べない。そんな中で、じわじわと腹が減ってきて飢えに苦しみ、自分の死を実感する。そしてゆっくりと苦しみながら死んでいく。口が動かせない分、舌をわざと切って自殺も出来ないからね。」

「お、恐ろしい……。」

「あ、あたしもうダメ……。」

「わ、私もです……。」

 クロロはなんとか耐えたが、ミリアとレイラは恐怖で気絶してしまった。村長さんはミリアを動けなくした段階で腰を抜かしてあわあわ言っている。

「それでは村長さん、これらを貰っていきますね。」

 俺はそういって『聖釘』を掲げてみせる。村長さんは恐怖に歪んだ顔でガクガクと壊れたおもちゃみたいに頷く。俺はそれを確認すると、ストレージでこれらをしまう。

「よし、クロロ、2人を宿まで運ぼうぜ。俺はレイラを運んでいくから。」

 そういって俺はレイラをお姫様抱っこする。

「う、うん、分かった。」

 クロロも、恐怖でマヒする体を動かして、ミリアをお姫様抱っこした。

 2人で並んで、そのまま宿まで帰っていった。

念のため言っておきますが、私はキリスト教徒でもなければアンチキリスト教徒でありません。普通です。無宗教です。ただの厨二病です。

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