生息
「それにしても、皆さんはお強いんですね。」
馬車の前方を囲むようにして俺たちは雑談しながらマリムバに向かっている。そんな中でクロロが俺たちに話しかけてきた。
「そうだな。あれはAランク相当の冒険者がやっと倒せるくらいなのだろう?」
マークさんもそれに乗ってくる。
「まぁあたしたちはSランクだからねぇ。昨日なったばっかだけど。」
ミリアが地図とにらめっこしながら答える。ミリアは地図が苦手で、一生懸命今は勉強中だ。
「え、Sランクですか!道理で……たち、ということはアカツキさんやレイラさんもですか?」
クロロが俺たちにも話しを振ってくる。
「はい、そうです。私たちもSランクですよ。」
「まぁ、俺たちも昨日なったばかりだがな。」
俺たちは事前に確認していた通りに話す。俺がSSランクなのは秘密になっている。
「Sランクが3人……あ、今私ってもしかしてとても安全なのでは?」
マークさんがとぼけた声でそんなことを呟く。
「ふふふっ、そうですね。」
クロロがおかしそうに口元を抑えて笑う。
「あ、そろそろ見えてきたわよ!」
ミリアが進行方向を指さす。そこには柵に囲まれた村が見える。
「お、あれがマリムバか。」
俺は遠くのほうを眺めて呟いた。
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マリンバは、村というわりには活気にあふれていた。旅行者みたいな人も結構見受けられる。どうやら、今夜は祭りをやるそうなので、それで人が集まっているのだ。
マリムバに入ると、俺たちはまっさきにギルドに向かった。ちなみに、ここに来るまでにクロロとマークさんはちょっと揉めた。クロロは自分で守れなかったので報酬はいらないと言うが、マークさんは命懸けで守ってくれたし、あれが無ければ助からなかったんだから払うのは当然、と言っている。最終的に報酬は受け取ることで決定した。2人ともいい人なのはいいことだが謙虚すぎる。初クエストの鑑定の時の俺はまさに悪人に見える。
まず、正式にクロロが報酬を受け取り、その後に俺たちでそこの村のギルドの偉い人にさっきまでの経緯を報告する。
「そうか……ダークフェンリルがこんなところまで……。本来は森の大分奥の方まで行かないと会えないような奴らなのにな……。」
偉い人はその報告を聞くと、紙にメモをとっていく。
「よし……ありがとう、このことは本部に連絡して至急調査団をよこさせよう。君たちはまず、その素材を鑑定してもらうといいよ。」
そういってお偉いさんは席を立つと、最後ににっこりと笑いかけてくる。いい人なんだな。
「それじゃ、鑑定しにいこうか。」
俺はそういって席を立ち、即座に現れたお姉さんに案内されて鑑定してもらいに行った。
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こっちの鑑定士さんは普通の人で、あっちみたいに騒ぐことはしなかった。しめて白金貨2枚と金貨3枚をゲット。
「そういえばマークさんはどんな商品を扱っているんですか?」
俺は宿を取りに行く途中でマークさんに尋ねる。
「ああ、私は主に宝飾品を取り扱っている。この後、祭りで露店を開くから見ていってくれ。安くするよ。」
商魂たくましい人だ。
「いいですねえ。マジックアイテムなんかは取り扱ってますか?」
俺は気になるところを質問する。
「ああ、私は祭りでもそういうのは売るんだ。期待していてくれ。」
「じゃあ、今夜行きますね。」
そんな会話を交わしながら俺たちは進む。
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俺たちはそのあと宿を適当にとり、祭りまで時間が3時間あるということで、宿の中でクロロと親交を深めることにした。
「そういや、クロロって騎士なんだよな?俺って世間知らずでさ、あまりそういうのが分かんないんだけど、騎士ってどんな職業なんだ?」
「騎士は、重装備でパーティーの最前線を維持する役割なんです。時には攻撃を、場合によっては相手の攻撃を一手に引いて後ろの援護をする、みたいなことをするんです。」
クロロはさすが、すらすらと答えてくれる。なるほど、そういう役割なのか。
「レイラさんは弓使い、ミリアさんは戦士、は分かるんですが、アカツキさんは何ですか?戦闘を見たところ、魔法使いのように思うのですが……。」
今度はクロロの質問だ。
「その認識であってるよ。俺は魔法使いだ。ちょっとばかし変わっているがな。」
俺の回答に「ちょっと?」「ちょっと……ですか?」とミリアとレイラが反応する。……自覚はある。
「やはりそうなんですか。あまり装備が魔法使いに見えなかったもので。魔法使いの方は大体魔法効果を高めるローブなんかを着ているものだと思っていました。」
ルドルフさんもその格好だし、俺が見てきた魔法使いは実は皆ローブを着ていた。
「アカツキは近接戦闘も強いのよ。Sランク戦士の私より遥にね。」
「さらに聖職者でもないのに回復魔法も扱えます。属性も結構な属性に適してましたよね?」
2人は俺のプロフィールに補足を入れる。
「……凄すぎませんか、それ?」
クロロは目を丸くしている。やっぱりな。
「俺は元々ずっと1人でやってきたから、1人でたくさんの事が出来なきゃ駄目だったんだ。」
俺は定番の理由を説明する。
「ところで、1人と言えばクロロは1人で活動しているのか?それともパーティーは組んでいるけど、今回の仕事は1人で受けたのか?」
俺は、さっきの話題を掘り下げられるとボロが出そうだったので話題を転換する。
「僕は特定のパーティーに所属せず、雇われて一時的に参加する形の仕事をしていたんです。騎士って危険なので今一つ人気が無いんですよね。だけど、重要な役割だから、割と仕事は多かったんです。」
「へぇ~、そんな事情もあるんだねぇ。」
俺の代わりにミリアが反応をする。
「そういえば、結局ダークフェンリルの件はどうなったのでしょうね?」
ふと思い出したみたいにレイラが疑問を口にする。
「そうですね……今一つ分かりませんね。ためしにここら一体の魔物の生息図でも見てみましょうか。」
クロロがそういってポケットから地図のようなものを取り出す。
「さっき襲われた場所はこの左右が森に囲まれた場所ですね。基本的にここの道に近い場所は『スライム』や『ビッグワーム』のようなE~Dで狩れるような魔物ばかり出てきます。奥の中盤くらいになると、暗黒属性魔法を使ってくる『マジックフォックス』が生息しています。この辺はCランクは必要ですね。そこのさらに奥に『ダークフェンリル』が住んでいるようですね。」
地図のところどころを指さしながら説明をしてくれる。
「ふーん。じゃああれはこの辺一帯のボスなわけだ。」
「サラマンダーの幼体ほどではないけどね。」
俺とミリアで先日の試験の苦労と絡めて軽口を言い合う。
「……サラマンダーの幼体とも戦ったんですか。凄いですね、本当に。」
それを聞いたクロロが目を丸くする。
「実はあたしたちも2週間ほど前まではCランクでレベルも100前後だったのよね。」
ミリアが懐かしそうに呟く。
「あれから、1週間のクエスト強行軍祭りを挟んで強くなりましたよね。普通は数年かかることを1週間でやったあれは……思い出すだけでも……。」
レイラがそういうと、2人揃って身震いする。
「2人ともレベルが90くらい増えたもんな。」
俺もたった数日前の事なのに、懐かしくて思わず目元が緩む。
「……もともと100前後の人が1週間で90レベルも上がるんですか?」
あ、クロロが本日数度目の目を真ん丸表情だ。
「あー、じゃあどんなことをやったか説明してやるよ。」
受けられる最高ランクのクエスト、しかも全部討伐物を1日で3個ずつ、しかも全部30倍ぐらい余計に狩ってやったこと。途中からBランクに上がって効率が良くなったこと。どんなに疲れても、どんなに怪我しても、疲労回復の魔法(実際は魔術)で疲れをとり、ポーションの大量使用で怪我を回復させては休む間もなく狩りに行かせたこと。眠気を取る魔法(これも魔術だけど)を使って寝ずに狩ったこと。
そういったことを話した。
どうでもいいことだが、俺はこれの2週間バージョンを日本でやらされた。親父に。
『生息図』と打とうとしたら『清楚クズ』と出てきました。
新ジャンルですかね?




