出会い
俺たちは現在、スーネアの街を出て3時間、北へ徒歩でのんびりと向かっている。雑談を交わしながらゆったりとした時間だ。首都に続く道なだけあって、地面もあるていど均されているし歩きやすい。ここから1時間ほど歩いたところでは、道の左右がそれなりに大きい森に囲まれていて、魔物に遭遇しやすいらしいから、そこが注意だな。
「そういえばさ、アカツキが持ってる珍しい装備の名前ってどうすんの?」
その雑談の中でミリアが一言。
「名前?別に普通に杖とか短剣とか剣とかじゃダメなのか?」
その疑問の意味が分からず俺は問い返す形になる。
「珍しい装備には名前を付けるのが一般的なんですよ。例えばミリアの剣は珍しいものなので名前もついていますよ。赤いのが『ヴォルケイノ』、緑色のが『テンペスト』ですね。どちらもそれぞれの属性の上級魔法の名前からとってますよ。」
レイラがさっと解説してくれる。
「へぇ~。ミリアの武器って結構珍しいんだ。俺のか……。」
俺が持っている珍しい装備……というかもはや唯一の装備だが、象徴武器の4つと日本刀だな。この黒い服はなんか違う気がする。
「こっちの剣のほうなら名前はぱっと思いつくんだよな。」
この刀にはモデルがある。今後、また別の龍と戦うかもしれないし、用心のためだ。ちなみに、俺は怪しまれないように口では剣と言っている。
「『布都斯魂剣』にする。これは俺が生まれたところの独特の名づけ方だけどな。」
俺はそういってまた考えだす。
「後はこの4つか……あ、いいこと考えた。」
俺は杖を取り出し、2人に見せる。
「他の3つは決まってないけど、これは『焔帝』と呼ばれた龍が宿っているから『焔帝の杖』にするぜ。」
そういって俺はまた杖をしまう。
「ま、他はぼちぼち考えていけばいいわよ。」
「そうですよ。強制でもないですし。」
このまま、俺たちはまったく別の話題へと移った。
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そろそろさっき考えていた危ない道に入るな。といってもここはせいぜいDランクくらいのやつしか出ないから大丈夫だろうな。
「ってあれは?まさか!?」
思った矢先にこれだよ!
「どうしたの?」
「どうかしましたか?」
2人はまだ気づいてないようで、俺にきょとんと視線を向ける。
「2人とも、全力疾走しながら戦闘の準備だ!この先で魔物に襲われている人がいる!襲われている人で戦闘できるのは1人だけっぽいぞ!」
「え!うそ!?」
「早くしなくちゃ!」
2人も反応したようだ。全力疾走で駆け出す。結構速いな、さすがSランクだ。
「俺も負けてられん!」
俺は短剣を取り出し、自分に魔術をかけてスピードアップ、ついでに2人も。
「あんがと!」
「ありがとうございます!」
「おう!」
俺たち3人は数秒で1kmは先の現場に到着する。やっぱり、1人で戦っている!魔物は5匹もいるのに!
魔物は、まがまがしい真っ黒な毛並みの2足歩行の狼だ。高さは3mはある。
1人で戦っている人は全身に分厚い鎧を着て、大きな盾と片手剣で、馬車を守るように迎え撃っている。なかなかいい動きだが……。
「あれって『ダークフェンリル』じゃないの!?何でこんなところに!?」
そういいながらもミリアが手っ取り早く1匹をかたずける。
「『ダークフェンリル』といったらAランク相当だな!?しかも5匹もいるのか!」
俺も攻撃をする。襲われていた人に当てないために、魔法でなく魔術で。5行思想で土を象徴する黄色いカードを相手の足元にばらまく。そして念じると、地面が一気にダークフェンリルの足元だけ浮き上がり、3匹が空に勢いよく吹っ飛んでく。俺はそれを見逃さず、『トルネード』で全部にとどめを刺す。
「これは調査の必要がありますね!」
レイラが弓を構えて矢をつがえて発射する。その速さたるや以前の比でない。その矢は一発で残ったダークフェンリルの心臓を貫く。
その後、俺が飛ばしたダークフェンリルが死体になって上から落ちてくる。
「大丈夫ですか!?」
俺はすぐに戦っていた人に駆け寄る。容体と顔色を見るために兜を外すと、青色の髪と同じ色の猫耳がぴょこん、と出てきた。『猫人』か。幸い、酷いけがはないようだ。顔色も悪くないし、多少朦朧としているが、意識もあるようだ。
「そっちも大丈夫!?」
ミリアは馬車の中を確認する。
「あ、ああ、すまない。助けてもらって……。」
馬車の中からは成人男性っぽい声が聞こえる。
「はい、これどうぞ。」
レイラがポーションを取り出し、重装備の猫人に飲ませる。
「あ、ありがとうございます。」
すると、話しが出来て、目の焦点もあってくるぐらい元気になった。
「ほ、本当にありがとう。死ぬかと思った。」
馬車の中から商人風の男性が出てくる。そのままこっちに駆け寄ってきて、
「おい、大丈夫か?すまない、無茶させて。」
猫人に話しかける。
「い、いえ、大丈夫です。こちらこそすみません。」
猫人は元気になったのか、そのあと起き上る。そのあとこちらに向き直り、頭を深く下げる。
「本当に危ない所を助けてくださりありがとうございます。僕の名前はクロロ・アムストです。」
お礼をすると顔をあげる。俺はやっと観察する機会が出来た。
髪の毛や耳の色と同じく瞳の色も青、くりくりとした目だ。髪の毛はショートカットで、顔つきもなかなか可愛い。一人称は僕になっているけど、女の子だろう。年は俺たちと同じくらいだろうか。
「俺はアカツキジンノだ。よろしく。」
「私はレイラ・ワトソンです。よろしくお願いしますね。」
「あたしはミリア・マグヌス。よろしくね。」
俺たちも自己紹介を仕返す。
「私は、遅れてしまったがここらへんで商人をやっているマークだ。」
マークさんが挨拶をしてくる。
「今までの経緯を、出来る限り説明していただけますか?」
俺は不躾ながら早速質問に入る。ちょっと気がかりなのがある。
「あ、ああ、喜んで。私はこの先にある『マリムバ』という村に品物を仕入れに行く途中なんだ。途中で魔物が出ると言う事で、冒険者のこの方に依頼をしたんだ。この辺は魔物が弱いし、この方はBランクだから1人でも大丈夫だろうということで、他の冒険者は雇っていない。それで、ここで何故か強そうな魔物が5匹も現れて、さっきの状況なんだ。多勢に無勢な上に、相手の1匹1匹が強いのに、命懸けで守ってくれたんだ。だが、そろそろヤバいというところになってな、その時に貴方達が助けてくれたんだ。」
「なるほど、分かりました。」
もしかしたらダークフェンリルが出てきた理由が分かると思ったがそうはいかないな。
「いえ、そんな……僕は騎士ですから、守るのは当然の仕事です。」
クロロが照れくさそうに顔を赤らめて頭を掻く。
「それにしても、何でこんなところにダークフェンリルが……?」
レイラがぼそっと呟く。ちゃっかりダークフェンリルを解体しながら。これも貴重な資金源だもんな。
「まぁ、そのへんの事はこの先にあるらしいマリムバの村のギルドで報告しましょ。」
ミリアがそんなことをいう。
「あ、ああ、私もそうすればいいと思う。」
「僕も異存は無いです。」
「俺も。それじゃ、ちょっと解体が終わるまでまってもらえますか?」
襲われていた2人は異存なし。俺は図々しくお願いもする。
「ああ、構わん。素材は馬車の積んでくれて問題ない。」
マークさんがそんなことを言ってくれる。
「あー大丈夫です。」
俺はそういってチラリと死体の山を見る。全部解体は終わったようだな。俺はストレージを使って全部回収する。
「「っ!?」」
あ、やっぱり2人は驚いたか。
「い、今のは……なんですか?」
「物が……消えた?」
そして質問。
「あー、これは俺が開発した魔法で、自分のものなら消去と出現が自在に出来るんです。魔法空間のようなところにしまって出し入れ可能、みたいなイメージですかね。」
俺は苦笑しながら説明する。
「しょ、商人だったら誰でも欲しがるな、その魔法……。」
マークさんが特に目を丸くしていた。
「さあ、それでは出発しましょう。いつさっきのと同じ魔物が来るかもわかりませんし。」
解体セットを片付け終わったレイラが俺たちを促す。
「そうですね。僕もまた襲われるのは嫌ですし。」
クロロがにっこりと柔和に笑って歩き出す。
「それでは行きましょうかね。」
俺の言葉を皮切りに全員が歩き出した。
ケットシーにした理由は、最近ミュージカルのキャッツを見たからです。




