神界
あまりにまばゆい光に目を閉じていた。その目を開けると、俺の視界には柔らかな白い光にあふれる世界が写っていた。
「これが、俺がこれから住む異世界……?」
俺は思わず呟く。あはは、未だに頭が追い付いてない。
「それは違うぞ。」
俺の言葉に対する返信は、いきなり目の前に現れた、白いトーガを着た、これまた白いもじゃもじゃ髭と白い髪の毛を生やしたおじいさんが答えてくれた。
「貴方は……その声は、神様でしょうか?」
ついさっき聞いた、威厳のある低い声。
「いかにも。さぁ暁、ついてこい。」
その神様は、俺を先導するように前を歩く。さっきまでフルネームで呼んでたけど、今は下の名前で呼んでいる。俺はそれにならって着いていくと、
「え?」
何のとっかかりも無しにいきなりゲームのお城の中のような謁見の間みたいな場所に着いた。思わず声が出てしまう。だって、扉とか、窓とか入口に入った様子もないし、そもそも建物すら見えなかったよ?
「そう驚くな。」
神様は謁見の間で言うところの玉座に座る。そして、神様が腕を一振りすると玉座の前にもう一つ豪華な椅子が出てきた。
「腰を掛けな。」
俺はそれにしたがって腰を掛ける。ってふかふかだな。心地いい。しかし、神様の前で失礼をするわけにもいけないので、高校入学試験の時の面接を思い出しながら姿勢を直す。
「ふぃ~疲れた。」
そしたら、神様は急に気の抜けた声を出して全身の力を抜いた。俺はそれをポカーンと見てしまう。
「ん?ああ、すまんな。お主らの前では威厳を保っていなくてはいけなくての、正直あれ、疲れるんじゃ。ここならお主だけだし、そのお主も長い間向こうに帰らんのだからこうした姿を見せても問題あるまい。」
「は、はぁ。」
その気持ちは分かる気がするけど……まぁいい。俺はいくつか、依頼内容の確認をするべく質問する。
「あの質問よろしいでしょうか?依頼内容の質問に入りたいのですが。」
「おう、構わん。」
神様は鷹揚に頷く。
「えぇと、聞きたいことは山ほどありますが、まず、異世界で俺……私は何をすれば?」
「気ままに旅をするだけで良いぞ。」
「はい?」
それって……依頼になるの?
「依頼内容は異世界にて生活して貰う事じゃ。」
ほうほう、なるほど。
「して、そのわけは?」
「それは教えることが出来ん。勘弁してくれ。」
俺の2つ目の質問には回答を拒否される。
「いえ、理由は必ずというわけではないですよ。では、異世界と言いましたがどんな世界なのですか?」
「簡単に言うと、人間の作ったゲームや物語、それの中に出てくるような、ファンタジーの世界じゃ。お主らは、確かゲームや小説、それもファンタジーやRPGをよくやるのじゃろう?」
「あ、はい。魔術を覚える教育の一環です。」
俺たち魔術師は、神話、童話、民間伝承、古くから伝わる物語や考え方を応用し、それらを参考にして現実世界に干渉する。それを魔術と呼び、日々鍛え、仕事の道具にしてきた。例えば、炎の神様の力を借りて炎を出したり、といったところだ。
ゲームや小説、それもファンタジーやRPGは、神話などをモチーフにしたストーリーがよくあるため、それらを楽しむことも魔術教育の一環としてやってきた。
「それらのテンプレートみたいな感じじゃな。人間がいて、科学の発達が遅れていて、代わりに魔法が発達しておる。未開拓地も多く、魔物や亜人がいて、それぞれで共生し、または争っておる。国も王国か帝国ばかり。そんなもんかのう……あ、あと剣や槍なんかも実戦兵器として使われておる。火薬は魔法の方が強いのでほとんど発展しとらんがの。」
「は、はぁ……。」
思わず曖昧な返事を出してしまう。よし、今一つ理解できないから次行こう。
「で、ここがその異世界ですか?」
「いいや、ここは『神界』じゃ。ここで一通り説明をしたあとに送り込むつもりじゃ。」
「あ、なるほど。」
早とちりが恥ずかしい。
「以上で質問はよろしいかの?」
神様が若干焦ったような声を出す。これは早く進めた方が良さそうだ。相手は神様だし。質問は山ほどあるけど。
「あ、はい。大丈夫です。」
「あい分かった。では、お主にはある程度困らないように、いくつかの加護を与えよう。」
おお!神様の加護だと!?そんなの親父クラスじゃないと手に入らないのに。
「ありがとうございます!」
思わず勢いつけてお礼。
「いやいや、異世界に飛ばすなんて無茶振りをさせるんじゃからこれぐらいはせんとな。さて、1つ目は『言語の理解』じゃ。向こうはこっちと言語が違う。そんなわけで、会話は自分も相手の言葉も両方自動翻訳、しかも違和感0で出来るようにしよう。さらに、文字も読めるし、自分が別の言語を書いても、お主の意志次第で向こうが理解できるようにする。」
おお!すげぇ!
「2つ目に、お主に、お主が望むものをやろう。とりあえず、その着衣は着ていけるし、通貨は3日分用意しよう。他になにか欲しいものはあるかね?」
なるほど。ええと、それじゃあ……あ、その前に、
「私の魔術は向こうで使えますか?」
これが重要だな。
「おう、特別に使えるようにしてやろう。お主が意識すればお主の魔術が向こうでも使えるぞ。あと、お主なら向こうの魔法も使えるじゃろう。」
「はい、それじゃあ……短剣、円盤、杯、杖を下さい。ある程度魔力の宿ったものを。」
「なるほど、そういえばお主らは物を媒介にして魔術を発動したり強くするんじゃったな。」
「はい、できますか?」
「簡単じゃ。ほれ。」
神様が腕を振ると俺が望んだ4つの道具が出てくる。しかも、
「すげぇ!全部神器クラスじゃん!」
性能がいい!思わず素が出る。
「それは、向こうでのお主の使い方によってさらに強くなるぞ。」
「ありがとうございます!」
やった!これでしばらくは安心だろう。
「さて、ではそろそろいくぞ。」
神様が急かすようにして俺を手招きする。そそくさとそっちにいくと、
「これからお主を異世界に送る。準備はいいな?」
「……はい。」
直前になって急に不安と疑心が首をもたげる。これって本当に現実か?夢か、はたまた家族総出で幻術を使ったどっきりか?
「では……ふん!」
神様が力を込めて俺の背中を押す。その瞬間、
俺は気持ちの悪い感覚に襲われた。
次から異世界です。




