備え
試験の結果発表はもう昨日の事、今日は俺たちが旅に出る日だ。それに当たって、ここスーネアの街で旅に必要な道具をそろえる。
「金はたくさんあるしな、結構いいものが揃えられるだろう。」
「それもそうですね。でも、本当にあれは売らなくて良かったんですか?」
「そうよ、あれって結構高額よね?」
レイラとミリアが言っているのはさっきのことだろう。
「なぁに、俺にはちょっと考えがあってな。」
俺はそういいながら今日の朝からの行動を思い出す。
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「そういえば、あの後のごたごたで試験の時に得た素材を売ってないわね。」
ミリアがそういったのは朝食時のことだ。
「ああ、そういえばそうだったな。」
俺はハムエッグの目玉焼きを崩しながらそう言った。
「結構いい素材が手に入りましたからね。それなりにいい額は出ると思います。」
レイラもそれに賛同する。
「んじゃ、この後ギルドにでも行きますかね!」
「おいよ。」
「は~い。」
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ギルドに着くといつもの部屋に案内され、俺は素材を並べといて準備する。2匹分のサラマンダーの成体のと、何匹かの幼体の部位。角、牙、爪や鱗や尻尾といった強そうな部位がずらり。
「そういえば、この中の素材をいくらか売らずに持って帰って何かしらの素材に自分でしてもいいんだよな?」
俺はそのいい素材を見てそう考える。そこらの武器屋や防具屋で売っているのよりいいものが作れる気がする。
「ええ、構わないはずです……が、武器のオーダーは高いですよ?」
レイラが即座に答えてくれる。
「といってもお金に余裕あるしいいんじゃない?」
ミリアが補足をいれる。
「じゃあ、いくらか持って帰ろうかな。武器の製作に時間がかかるようならちょっと待ってもらう形になるけど。」
俺は2人に確認をとってみる。
「あー、問題ないわよ。昔と違って今は魔法の効率が上がってるから武器の製作も3時間ぐらいで出来るわ。」
さすがミリア、武器に詳しい。
「じゃあ、そうだな。あの鑑定士さんに見繕ってもらうか。」
ちょうどそのタイミングで鑑定士さんが部屋に入ってきた。
お約束の騒ぎを終え、俺は質問に入る。
「あの、これらの素材で両手剣をつくるとしたらどんなのがいいですかね?」
「ふむ?それなら角と爪じゃな。成体の中で一番固いのを持っていくといい。」
鑑定士さんは俺の質問に素材を指さす。
「あ、じゃあこれ持っていきますね。」
俺はそういいながら持ち上げる……って結構重いなこれ。赤鬼と青鬼の金棒より重いぞ。見た目は変わんないのに。
「……なぜそのサイズを持ち上げられるんじゃ?」
鑑定士さんが俺に丸くした目を向ける。
「アカツキは力も異常なのよ。」
ミリアがそんなことを言う。
「い、一体どうしたんだ?」
いきなりのみんなの反応に戸惑う俺。
「飛龍の爪と牙は、普通ならそのサイズは力仕事専門の方3人ぐらいで運ぶんですよ。」
レイラの解説。なるほど、俺は日本でも力は鍛えさせられたせいで重量挙げもちょっとした大会程度なら優勝してしまうくらい強かったからな。いや、出てないけど。こっちは重力が1・5の1だ。軽くなる、結果的に俺のこの現状だと。
「そうか……そういうことにしておこう。今回は白金貨5枚でどうかね?」
鑑定士さんがそんなことを俺たちに言う。
「まぁ、一番いい部分を貰ってますし妥当ですかね……。2人も別にいいよな?」
「はい、問題ないですよ。」
「白金貨にも慣れてきたわね……。」
俺は一応確認を取る。ミリアの返事は了承と看做そう。ちなみに、試験までのクエスト強行軍祭りで、大量のクエストをクリアし、大量の素材をストレージで持って帰ってきているので、白金貨にはお目にかかりまくってた。今の俺たちはリッチだ。といっても、いつもは白金貨1~2枚なんだけどな。
「では、こちらをどうぞ。」
お姉さんが白金貨の入った袋を渡してくれる。
「ありがとうございます。」
俺はそれを受け取った。
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と、いうようなことがあったのだ。
「これで剣でも作ろうと思ってな。いくら魔法使いとはいえ、前は近接戦闘もあって武器はよく使ってたからないと落ち着かないんだ。」
「ふーん。」
ミリアの気のない返事。ちなみに今回は、2人は旅に使うものだけを買う予定で、新しい武器防具は買わない。
「ギルドでこの街一番の鍛冶屋も聞いてきたし、そこに行くぞ。」
「お金があるっていいわねぇ。」
ミリアはそんなことを呟く。
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鍛冶屋の名前は『シリア』という。この街で唯一『ドワーフ』が鍛治屋をやっている。ドワーフとは、亜人の一種で、鍛冶技術に関しては他の追随を許さない。亜人は何かしらの能力に秀でている、というが、こういうところで実感できるな。
「すみません、武器の制作を頼みたいんですが。」
俺は扉を叩いて中に入る。
「おう、入ってくれ。」
カウンターには、ヒゲがもじゃもじゃのおじさんがいた。これがドワーフの特徴だ。
「見たところ、素材は持ってねぇようだが?」
「あ、これです。」
ストレージでさっき貰ってきた爪と牙を出す。
「……今のはお前さんの魔法かい?便利そうだな。」
「まぁ、そんなところです。」
本当は魔術だけど。
「まぁいい。で、何を作ってほしいんだ?」
お、本題だな。おじさんも表情が真剣になった。
「これで両手剣を作ってほしいんです。刀身は俺の握りこぶし10個分で、細身、それと、若干曲げて、刃は片刃でお願いします。」
俺はそういいながらストレージで取り出した紙と筆(マジックアイテムで、インクが切れない)でイメージを描きだしていく。
「切れ味を重視して、鞘もこれらの素材からお願いします。柄の部分はこんな感じで布を巻いて、鍔はこんな形ですね。」
よし、完成。俺は、魔術で魔方陣や絵なんかも描いたりするので、こういうのは得意なんだ。
俺が描きだしたのは、まぎれもなく『日本刀』だ。
「むぅ……今までにねぇ注文だな。しかもここまで細かく……これはもはや芸術の域だな。」
おじさんもそれを見て唸る。
「ついでに、切れ味の強化なんかもお願いできると助かります。柄に巻く布はこれを。」
そして俺はストレージで布を取り出す。
「へぇ、何か不思議な柄ね。」
後ろで見ていたミリアが感想を言う。
それもそうだろう。これの柄は、『魔方陣』なのだ。魔力が伝わりやすいようになっている。俺がストレージに入れっぱなしにして日本から持ってきたものの1つだ。
「むむむ、この布、魔力を感じるぞ。」
お、この人は感じ取ったようだな。
「3時間……いや、4時間くれ。久しぶりに腕が鳴る。難しそうな仕事だ!金は勉強してやろう!」
おじさんはそういうと、奥の工房らしきところに駆け込んでいった。
「こ、これでいいのかな……?」
「い、いいんじゃない?」
「で、では待っている間は別の買い物に行きましょうか。」
俺たち3人ドン引き。
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俺たちはその後、野宿に使う道具一式やロープやポーション、地図なんかも買った。なんとびっくり、俺はこの世界に来て地図をはじめて見ることになる。
この世界は、1つの大陸で出来ている。名前は『オルケストラ大陸』。それを東西南北に分けて4つの国が存在する。まず、南で、ここ『パーカシス王国』。東に、これからの当分の目標である『ウドウィン王国』。西に『ブラース帝国』がある。北には、魔族の国である『ストリーグス』がある。
ちなみに、『魔族』とは、魔物の中でも特に強力な集団と種類のこと。知能がより高い。魔物とは違うのだ。つねに他の国を狙っていて、ずっと戦時体制だそうだ。
(にしても、この大陸の名前と国の名前……いや、考えるまい。)
何か嫌な予感がした。
そんなこんなで4時間ほどたった。俺たちは再び『シリア』に向かう。
「すいません、完成しましたか?」
俺がそういいながら扉を開けると、カウンターにいたおじさんが飛び上がった。
「ついに来たか!」
そういうとまた工房に駆け込んで、すぐに戻ってくる。
「これが完成品だ!」
その手には、見事な、鞘に収まった『日本刀』が収まっている。
「いやあ、苦心したぞ!こんなの生まれて初めてだ!そんな形状で切れ味抜群だ!装飾も過剰でなくシンプル、芸術性と実用性を併せ持った素晴らしい剣だ!世の中にこんな剣があるたぁ知らなかったぜ!」
顔が満足げにテカテカしているおじさんから日本刀を受け取る。
「おお……。」
鞘から抜いてみると、ほとんど抵抗も感じずに、滑るように抜くことが出来た。刀身は、爪と牙で出来ているはずなのに、磨かれているからか、金属のような光沢を放っている。
「よっ、ほっ!」
ためしに素振りをしてみる。うん、手に重みを良く感じる。見た目からして丈夫そうだし、かなりの代物だろう。
「金についてだが、本来はそれほどの名剣だと白金貨10枚は下らん。しかし、今回は勉強費と満足費で、5枚にしよう。」
「はい、分かりました。」
俺はストレージで白金貨を5枚取り出し、おじさんに渡す。
「世界はまだまだ広いな!こんな剣、どこで知ったんだ?」
おじさんが、俺の顔を見てそんなことを言ってくる。
「まぁ、生まれ育ったところのやつですね。」
「ほう、なかなかいいところに生まれたんだな!」
「はい。ありがとうございました。」
「おうとも!じゃあな!」
おじさんは俺たちに気さくに手を振って別れを告げた。
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俺たちは現在、街の門を出て徒歩で北上中だ。
「とりあえず、この国の首都にいってみたい。」
「あたしも~!」
「私もです!」
「じゃ、そこで決定だな。」
俺たちは歩き出した。
当面の行先は、パーカシス王国の首都、『ドラミ』だな。
国の名前と大陸の名前、街や村の名前の法則を見つけた人はコメントに書き込んでください。
国の配置については、厳正なるくじ引きで決めました。個人的な感情は皆無です。




