神託
「一体なんなんだ?」
俺は思わずそんな疑問が口を突いて出てしまう。
俺の名前は神野暁。高校1年生。現代の陰で暗躍する『魔術師』、その仕事を代々続けている一族、『神野家』の長男だ。俺が用事を終え、家に帰ると、そこでは家族の大人連中(親戚とかも全員この家に住んでいる。広さは屋敷レベル。)がどたばたとしていた?
「お、おい、何があったんだよ!?」
丁度目の前を通りかかった親父に疑問をぶつけると、
「き、来たんだ!何十年ぶりの神託だ!」
「はぁ!神託!?」
俺も思わず驚いてしまう。
「正確には神託の予告が届いたんだ!これから掃除しかすることのなかった神託の間に全員集合だ!」
親父は嬉しそうな笑顔で、頬を子供みたいに紅潮させながら説明してくれる。
「分かった。じゃ、また神託の間で。」
「おう!」
俺は状況が分かると、神託の間に向かった。
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神託の間に全員が揃った。神託の間はとても広く、雰囲気は和風。ただしところどころに注連縄やら御札やらが貼ってあり、ちょっとした雰囲気を醸し出している。部屋の中央は注連縄で区切られ、そこにはご神体である、『神意の鏡』が置いてある。
「何十年ぶりの神託か。神様からの依頼ならさぞかし大規模な依頼になるな。」
俺の隣にいる親父がふっとこんな言葉を漏らす。
俺たち神野家は『魔術師』一家だ。政治家から一般人、暗殺からもの探しまで、依頼を『魔術』で解決し、報酬を貰って生活している。嫁や婿を取るときは、その相手(決して家柄などを見ない)の性格や根性をじっくり吟味してから取る。
そんな神野家のところには、数十年に一度、『神託』というものが舞い込んでくる。いわば、神様からの依頼で、それを成功させたらしばらく生活は安泰になる、らしい。あくまでらしいと言うのはその恩恵を受けたことがないから。
「さ、そろそろ始まりそうだな……。」
俺がふと呟く。だから、というわけでもないが周りの家族も静かになった気がする。その少しあと、
『お、おおお……!』
突然中央の『神意の鏡』が輝きを放つ。いまさらだが神託にはたいした儀式などは無い。実際今だって思い思いのところで勝手に座っていたり立っていたりする。俺や親父は直系だから中央近くにいるけど。
「久しぶりだな、神野家の者よ。」
『はっ!』
鏡から威厳のある低い声が聞こえる。それが聞こえたら皆鏡に向かって跪く。
「今回は、お主らに頼みごとがあってこの鏡を通して接触をしておる。」
「はい、存じ上げております。」
一族の長の親父が返事をする。さて、どんな依頼なのだろうかな?
「そうか、では、今回の依頼を頼む相手は……1人だ。」
『……!』
俄かにざわつきだす。神からの依頼を……1人で?前例だとトップ10人、果ては一族総出で危険な任務をやったこともあると言う。それなのに……今回は何故?
「そして、頼む相手も決まっておる。」
『……。』
神の言葉に緊張感が高まる。俺も心臓が激しく動いている。
「その相手は……神野暁、お主だ。」
『えっ!?』
「へっ!?」
神の言葉に一斉に疑問と驚愕の声を皆が上げる。俺だけ気の抜けたような声だったが。
「俺……いや、私ですか?」
「うむ。いかにも。そして、家族の皆に頼むことがある。」
ざわついた空気が再び引き締まる。
「神野暁には『異世界』にいってもらう。そして、もしかしたら長い間、下手をすれば一生帰ってこれんかもしれん。その間、どうか、耐えていてくれ。そして、神野暁の事を忘れないでくれ。」
「つ、謹んで承ります。」
神の言葉に親父が返事をする。
「それと、神野暁、お主も異世界に行くのには抵抗があろう。もし、だめなら断ってもよい。どうする?」
いや、どうするって言われても……。助けを求めるように親父を見ると、親父も訳が分からない、といった表情だ。
「つ、つ、謹んで承ります。」
俺は、日本人の悲しい性で、つい返事をしてしまう。
「そうか。それは良かった。」
神が安心したような声を出す。
「お、お兄ちゃん……。」
親父と逆側の隣にいる妹が心配そうに声を出す。ただ一人の可愛い妹だ。
「大丈夫。きっとな。」
俺は安心させるべく、一生懸命笑顔を作って頭を撫でる。
「う、うん……。」
妹はなんとか納得してくれたようだ。
「ふむ。では、今からこの世界から神野暁は消える。最後に言い残すことはないか?神野暁。」
神がその様子を見て話しを進める。
「皆、俺の事は心配しないでくれ。……もういいです、神様。」
俺は一言言い残すと神様に先を促す。
「そうか……では、いくぞ!」
神の言葉と共に、鏡は光を強くし、皆から俺の姿を隠す。
この瞬間、俺は『異世界』に旅立った。俺の姿は、もう向こうでは見られない。
異世界まで暫くお待ち下さい
文法は前作よりはましになったかと思います
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