鬼退治
俺たちは昨日向かった山へとまた馬車に乗って向かっている。
「はぁ、で、作戦はどうすんの?」
ミリアが俺に深いため息とともに説明を求める。
「2人で取り巻きを足止め、メインターゲットは俺が倒す。」
俺は適当に答えながら手元の紙に集中する。さっき市場で買ったやつだ。
「アカツキさん、何やってるんですか?」
レイラが興味を示したようで俺に質問してくる。
「俺の出身地の遊びだ。『折紙』だよ。」
よし、一つ完成。俺はもう一つ手に取る。
「へぇ~、それってどうやって遊ぶの?」
ミリアも興味を示す。
「紙を折って色々なものを作るんだ。例えば……ほい。」
今折っていたものが完成したので2人に放り投げる。
「それは鳥を作った。」
2人でそれを手に取って覗き込む。
「へぇ~、よく出来てるわね。」
「凄いですね。」
2人は感心の声を漏らす。
「よくこんなこと考えるやつもいるよな。」
といいつつも俺はもう1つ完成させ、ストレージで仕舞い込む。
「そういえば、アカツキってどこで生まれたの?」
ミリアがそんなことを聞いてくる。む、参ったな。これは凄く参った。俺は異世界からきたことを話さないことにしている。頭のおかしい人とか思われるのがオチだ。……いや、どうせ嘘かどうかばれないし本当の事を話そう。
「日本ってとこだ。東にあるしがない小国だよ。」
面積だけな。経済は3位だし、技術力も高く治安もそれなりに良い。この面は大国だな。
「ニホン?聞いたことないなぁ……。」
首をひねりながらレイラが反応する。若干素が出てる。
俺たちは、微妙に緊張感の欠けたまま山の麓に着いた。
__________________
麓で装備を整え、山の中に入っていく。
「さて、そろそろ詳しく説明するかね。俺たちは、このままターゲットがいると言う巣穴に向かう。地図も貰ってるし迷うことはないだろう。昼の明るいうちに討伐した方が楽だからな。俺はメインの2体を、2人で取り巻きを相手にしてくれ。」
俺は作戦の概要を説明しながら地図を取り出す。
「で、アカツキさんが考えた対策ってなんですか?」
「見てのお楽しみだよ。」
俺は、振り返ると口角を上げて見せた。
__________________
巣穴の前に着いた。
「う、うわぁ、すごい迫力……。」
「う、ううう……。」
巣穴の前にいるオーガに2人は若干及び腰だ。通常のオーガのほうも、他よりちょっと大きく、強い個体なのが分かる。
そして、より異彩を放つ2体。他よりも1回り大きく、筋肉は盛り上がり、金棒もかなり大きい。腰には黄色と黒のしましまの布を巻いている。そして、2体で大きく違う肌の色。赤と青。
「あれが赤鬼と青鬼だな。」
俺は方位磁石を見ながら呟く。今回は方角がものをいうからな。
「じゃ、始めるぞ。」
俺は昨日も使った青いカードを5枚掴んでそこらの木に投げて刺す。そこから意志を送り、木の成長を操作する。成長の仕方は、2体の鬼とオーガを分断するように。
「ガガ!?ガガグゴ!」
『ギグゴエゴガウ!』
オーガ達は混乱する。力づくで突破しようとしてもそれをかぶせるぐらいの枝がまた増える。
「じゃ、頑張ってこいよ。」
俺は2人にそう言い残して鬼たちに向かう。
「アカツキもね!」
「頑張りましょう!」
2人も後ろから励ましてくれる。
さて、ここからちょっと面倒だぞ。
__________________
2体の鬼が暴れている。いきなり取り巻きと分断されたから当然だな。
(まぁ、これでも終わりじゃないけど。)
俺はさらに青いカードを木に刺し、成長を操作する。それとともに方位自身の方角も計算に入れながら。鬼の2体は俺から見て北東に並ぶようにする。そして、俺はあるものをそれぞれ西南西、西、西北西の方向に置く。
(『桃太郎』は犬、猿、雉子を仲間にして鬼を退治した。)
心の中で『桃太郎』の内容を思い浮かべ、そこに解釈を加えていく。
(鬼は、牛の角とトラ柄の腰巻をつけている。干支を方角に見立てると、丑と寅の間の方角は『北西』だ。『艮の方角』は、またの名を『鬼門』!)
俺は後ろにほうったものを振り返る。
(『桃太郎』の仲間の犬、猿、雉子……これは鳥としよう。干支の中では、猿、鳥、犬の順で西南西、西、西北西に当たる!そしてここは……『鬼門の逆』だ!)
放り投げたものは、さっき俺が馬車の中で作った猿、鳥、犬の『折り紙』だ。しかし、ただの折り紙じゃない。それには、俺の『血』を染み込ませている。その折り紙は、今や光を放って宙に浮き、圧倒的な存在感を放つ。
(『桃太郎』は3匹を仲間にするにあたって『きびだんご』を渡した。団子は、沢山の穀物を潰し、つまり殺してからそれを固めたもの。つまり『命の塊』だ。それを渡して仲間にする……つまり、あれは『生贄』だ!今回は俺の血を贄として与えた!俺は『桃太郎』、あいつらはその仲間だ!)
「さぁいけ!猿、鳥、犬!『桃太郎』のごとく、『鬼退治』だ!」
俺はそう折り紙たちに声を飛ばす。その瞬間、折り紙たちは鬼に殺到し、何十倍も大きい相手を蹂躙する!
(紙に神を宿す。『式神』ならぬ『式紙』といったところだな!)
2体の鬼は成すすべもなく、ついに3体の『式紙』に首を取られる!
『鬼退治』完了!
俺はすぐにレイラとミリアのもとに向かおうとする。さっき視界の端に捉えたが、二刀流と的確な弓矢でオーガたちを圧倒していた。だが油断は禁物だしな。しかし、俺の心配も無駄に終わった。
「あれ?そっちも終わったの?」
「お怪我はありませんか?」
2人がちょっと疲労した感じでこっちに向かってくる。
「お前らも、よくあんなの倒したな。」
「どう?あたしたちもやるでしょ?」
「もうあんなこと言っちゃダメですよ。」
俺たちは軽口を叩き合いながら合流する。
「アカツキ、その後ろに浮かんでる3つの光の玉は何?」
ミリアが俺の後ろを指差す。ああ、式紙のことね。
「俺の魔法だよ。鬼に止めを刺したな。」
「ふぅ~ん。」
ミリアがそんな声を漏らす。
「とりあえず、解体してストレージで回収するか。」
「はーい!」
全員で分担しての解体が行われた。
__________________
全部を解体してストレージで回収したころ、俺たちは異変に気づいた。
「大量の……50体くらいのオーガがこっちに向かってきてる!」
「嘘!本当に!」
「トップがやられたのを感じ取ったようです!すぐに逃げないと!」
俺たちは色めき立つ。
「いや、これは囲まれてる。あと30秒ほどで第一波と接触だ。」
「どうすんのよ!?」
く、仕方ないか。後ろにこいつらを待機させて正解だった。
「俺が片付ける。」
俺はそういって立ち上がる。
「お前らは、俺がやられたら俺を回収して逃げてくれ。」
「「えっ?」」
オーガが姿を現す。その瞬間、式紙の1体が即刻止めをさす。
「鬼退治は終わってないな。」
先頭集団がやられたのに気づいたのかオーガたちが雄叫びを上げながら一気に突っ込んでくる。
「よっしゃ!お前ら、あとひと踏ん張りだ!」
俺はそういいながら式紙を操る。
オーガが視界に入るたびに、または派手な動きをするたびに、それは即死させられる。たった3つの光によって。たくさんのオーガの悲鳴が、怒号が、角が、体が、肉が、血が、そこらじゅうで飛び散り、舞う。
その中で俺は不思議な爽快感を感じた。こっちにきて、やっぱりストレスが溜まってたようだ。
(そういえばテレビで見たな。『桃太郎』の4番。)
また何体ものオーガが死体になる。
(『楽しいな 楽しいな♪』、か……。)
それを頭に浮かべた直後、オーガの悲鳴も、怒号も、角も、体も、肉も、血も、何も飛び散らなくなった。
その蹂躙は、30秒ほどで終わった。30秒で、50体も殺した。
俺はそこらに飛び散っているオーガの体の部位のうち、比較的綺麗なものをストレージで回収する。だが、あたりには血の匂いが漂ったままだ。
「終わったぞ。」
俺は、いつもの調子で2人に近づく。
「う、うん。」
「は、はいっ。」
2人の表情はどこか、いや、確実に、俺に恐怖を抱いている。
(やっちまったな。)
酷いところを見せてしまった。あ~あ、これで仲間を失っちまうな。完全に嫌われたな。
「あいつらの巣穴に行ってみようぜ。何かあるかも。」
俺は、ぎこちなくならないように笑顔を作り洞窟に向かう。2人は、怯えた感じだが俺についてくる。
__________________
「おい!こっちこい!すげえぞ!」
洞窟の奥に一足早く付いた俺はものすごい光景を目にする。
「わぁ……。」
「凄い……。」
2人が反応を示す。きらきらと、目の前には輝く大量のものがあった。
「まさか、こんなに溜め込んでいたとはな。」
それは、沢山の金銀財宝。
「これ、持って帰るか。」
俺はそう言いながらストレージで回収する。持ち物の数に制限がないのがこの魔術の魅力だな。
「さ、帰ろうぜ。」
俺はそういって踵を返して洞窟の外に向かう。目指すは麓のベースキャンプ。2人も、おずおずとした感じでついてきた。
(桃太郎は鬼ヶ島にあった金銀財宝を持って帰りましたとさ、ってか?)
心の中でつぶやく。ああ、あとあれもあったな。
(あの番組ではオチになってたな。『分捕りものを えんやらや♪』、だな。)
歌のネタはあのボタンを押しまくる番組です。
動画サイトで検索すれば多分でますよ。
こんな感じで戦闘シーンは解説も交えながらやってきます。前作と変わりませんが。




