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魔術師の異世界ラプソディー  作者: 木林森
最終章 希望の夜明け(サン・ライジエズ)
164/166

明のラプソディ―(なお、不協和音の模様)

感想でご希望頂いたお話です。

「お父さんの自由人度ときたらとんでもないわね……」

 スカート丈が短く、胸元が大胆に開いた、深夜アニメでもそうそうないようなきわどいセーラー服を着た、黒髪を二つ結びにしている少女が顔をしかめて呟いた。髪は日本人風だが目はエメラルドのような緑色。肌は白く、白人と黄色人種のハーフに見える。

 事実そうであり(地球の定義に当てはめると微妙ではあるが)、彼女の見た目はどことなくエキゾチックだ。その右手に握られているのは、少女でも扱えるような小型の拳銃。回転式拳銃、通称レンコンと呼ばれる、早撃ちに適した銃だ。

 左手にはスタイリッシュなフォルムのスマートフォンが握られており、そちらの手はワナワナと震えている。

『少しばかりアメリカまで行ってくる。一ヶ月以内には戻る。』

 その画面には、そう簡潔なメッセージが書かれている。

「あんのクソ親父……」

 可憐な声が、ドスと殺気と狂気を内包する。高い可憐な声にも関わらず、地の底を這う大蛇のような、不気味な低さを伴っている。

 少女の名前は神野明じんのあかり。魔術師として世界の裏で暗躍する一族、神野一族の直系の娘だ。当然、彼女も魔術師である。

 本来は以来の対象物に向けられるであろう銃口は、今やスマートフォンの画面に向いていた。このメッセージを送り付けてきやがったクソ親父に、画面の向こうにいる自由人に届け。そんな非科学的な願い(さつい)がその眼には籠っている。魔術師なら本当に出来そうで怖いが。藁人形や呪いといった類感呪術の応用だ、とか言いそうである。

 彼女の父親にして、現神野家の当主である神野暁は、今日も元気に自由人だ。依頼を違えるような真似は一度もしないが、暇なときはこのありさま。当主が不在でどうすんじゃボケ、と目にもとまらぬ速さで返信してから、少女はスマートフォンを乱暴に仕舞う。

「こんなときに限ってお母さんまで乗っかるんだからっ……」

 いまだに胸も身長も成長しない、暁が犯罪者か何かと疑われそうな(実際、彼は罪状は別だが犯罪者ではあるが)中学生みたいな容姿をした、外国人風の母親の顔を思い浮かべる。のろけた顔で父親の後ろをぴょこぴょことついていく姿が脳裏に浮かぶあたり、明は文句を言いつつも諦めている。

 母親の名前はレイラ。話を聞くに異世界人であり、かつて父親が神様からの依頼を受けたついでにオとした相手らしい。初めて聞いた時は、両親の非常識さに慣れた彼女でも理解をあきらめた。

 さて、ここまでの話から分かる通り、この少女は、暁とレイラの娘である。その年は16歳。ぴちぴちきゃぴきゃぴの女子高生だ。

 暁が神の依頼を見事達成し、地球に妖怪の類が出なくなり、なおかつ神野家に幸運が次々と舞い込んでくるようになってから20年弱。スマートフォンはよりスタイリッシュになり、魔術師が隠れるような路地裏も少なくなり、暁は当主としての貫録が出て、その妻のレイラがまだ子供みたいな見た目であるぐらいの年月は経っている。

 暁の、レイラの、明の遠い遠い子孫は、またもや復活したしつこさ満点の魔王を封印しに異世界の旅をする羽目になるのだが(オモイカネと暁が残した太陽復活の術話を使って封印するのは大方の予想通りである)、それは彼女にはまだ関係のないこと。

「くっそ、どうにか一矢報いてぇな……」

 誰もが振り返るようなかわいらしさ満点の見た目が台無しな台詞を吐きながら、震えるスマートフォンを再度取り出す。

 書かれている内容はおおむね予測出来ている。

(どうせ『ごめんネ★てへペロ♪』とか書かれてるんだろ……)

 年を取って、自由さが増え、代わりに自重をほとんどどこかへ放り捨ててしまった暁は、娘から冷ややかな目で見られていた。これでも仕事をする姿は格好いいのだが。

『ごめんネ★てへペロ♪』

「予想通りだよドコンチクショー!」

 明は即座に拳銃から銃弾を放った。その銃弾は暁が異世界から取ってきたミスリル製で、魔力をよく通す。

 その銃弾は、ありえない軌道を描き、真っ直ぐから上昇へ、そして空の彼方へ向かって飛んでいく。成田空港の方向だ。

 彼女の得意な魔術は、どちらかと言えば魔法寄りだ。レイラの矢を銃弾にしたバージョンのその効果は『必中』。奇しくも母親につけられた二つ名『必中アブソリュート』と被っているあたり、遺伝と親による薫陶の影響力の高さがうかがい知れる。ちなみにレイラと暁につけられた二つ名は、数が多すぎて収拾がつかなくなった。最終的に各国のトップが無理矢理決めたのが『必中アブソリュート』である。単純だ。暁については二つ名すらつけないことになっている。自由すぎて何をつけたらいいか分からないのだ。

「さ、仕事仕事」

 どうせ効かないのは分かっている。だが、ほんの少し面倒をかけさせただけで満足した明は、『落とした携帯ゲーム機の捜索』の依頼を開始する。依頼人は子供。一般人のガキがなんで魔術師の存在知っとんじゃ、と明は大層突っ込みたかったが、依頼人のプライバシーには極力踏み込まないのが魔術師の大原則である。

「はぁ、私もお父さんやお母さんみたいに『ラプソディー』を奏でるような人生を送りたい……」

 明の呟きは、数少ない路地裏に虚しく響いた。

             __________________

「まったく、やんちゃだなぁ」

 はるか遠くから音速の数倍で飛んできたミスリルの銃弾を『プロテクト』で防ぎながら、慈愛溢れる表情を浮かべて、中年になった暁が呟く。

 この20年弱で魔術は異世界の文化と魔法を取り入れ、もはやカオスになっていた。具体的に言えば、もう手が付けられないほど強くなっていた。神野一族だけで地球が滅ぼせるレベルである。

「さて、それじゃあいくか、レイラ」

「はい、アカツキさん」

 そんな化け物の筆頭である二人が、仲睦まじく手を繋ぎながら飛行機に乗り込んだ。


 余談ではあるが、その後数千年の時を経て魔術はより凶悪になり、はるか遠い子孫は神様が依頼をしてから一日で魔王を封印した。

 ……時代によって、奏でる曲の時間も変わるものである。

現在、質問は五つ集まっております。今日が終わるまでにあと五つ欲しいなー(チラッ)

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