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魔術師の異世界ラプソディー  作者: 木林森
最終章 希望の夜明け(サン・ライジエズ)
163/166

番外編 勇者たちのラプソディーが終わり……

かなりざっくりした内容です。

 あの異世界での旅の思い出から二年。俺とレイラは結婚した。

 レイラは地球に移り住み、魔術師としてメキメキ頭角を現していった。

 結婚式は俺たち魔術師らしく、非常に渾沌としたものだった。

 魔術師が扱う魔術自体が『世界中の風習の寄せ集め』みたいなものであるため、その手の儀式も、様々なものが入り混じっている。

 結婚式の前半はウエディングドレスにタキシード。お色直しを挟んで、今度は着物に紋付き袴。いくらなんでも混ぜすぎだ。とくにウエディングドレスとタキシードの状態で三々九度をやった時は、緊張感も何もかも吹っ飛んだものだ。

 その一週間後、今度は地球とは違う――激動の日々を過ごした世界で、大切な仲間たちの式が挙げられる。

「示し合わせたような日程だな。」

「幸せが波のように押し寄せてくるんですから、悪いことなんかありませんよ。」

「それもそうだな。」

 神意の鏡を通ってコンドゥクト湖に着くなり、すぐに駆け付けたクリムの背に乗って空を飛びながら、背中から抱きついてくる妻――レイラと呑気に話す。

「ただまぁ、心配があるとすれば……ミリアですね……。」

「ミリアが? そりゃまたなんでだ?」

 ミリアは多少破天荒だが、俺なんかよりよっぽど良識がある。そう滅多な事はしないと思うが……。

「いえ、その、結婚式自体は全く心配ないんですけど……それが終わった後の、二次会が、ちょっと……。」

 結婚式の段取り自体は、招待された全員に既に知らされている。

 この結婚式はこの世界の様式を中心として行われる。スピーチだけやたらと長い印象がある式だが、その退屈さが晴らされるのは新郎新婦のスピーチ。招待客のスピーチはすべて、長い前座、と言ったところか。

 結婚式はその後指輪を交換して、後は和やかな食事となる。ただ、ここでアルコールの類は出ず、料理も軽め。歓談を楽しむ時間となり、最後に新郎新婦が挨拶して、結婚式は御終い。

 そして二次会だ。まるで宴会かなんかのノリだが、この世界ではこれが普通らしい。

 ここは無礼講となり、料理もアルコールも派手に出される。芸人の結婚式みたいだ。

 確か、この二次会では、ミリアとクロロがそれぞれ育った村の伝統を取り入れているみたいだが……そういえば、そこらへんは聞いてないな。本番の楽しみにしておこう。

「お、見えてきたな。」

「そうですね。……あ、向こうも手を振ってますよ!」

「お、本当だ。」

 結婚式の会場は、ここ二年でストリーグスに、魔王封印を記念して造られた聖堂だ。たった二年でなんてものを造ってくれたんだ、と思わなくもないが、それでいてかなり立派である。実は各国の王様と皇帝様から、俺たちの結婚式もここで行ってくれと頼まれたんだが……さすがに、ねぇ?

             __________________

 結婚式は無事に終了した。俺とレイラも事前に準備していたスピーチを読み上げ、失敗なく終わっている。問題は各国のトップと王族、騎士団長や軍団長、そして騎士隊隊長と戦士隊隊長、さらに四体の龍(象徴武器に収まった状態で話すと言うシュールな事態)、さらにさらにライナーさんやルドルフさん、ニコラスさんまでスピーチしていた。二十人を超える、数も個人の立場も濃いスピーチだったが、これらですら、新郎新婦の前座である。しかし、あの二人のスピーチは感動したなぁ。レイラなんか号泣してたし。

 さて、二次会だ。各国のトップクラスとSランク冒険者が集うそれは大変カオスだった。酔った勢いで各国の王様、皇帝様が舞台の上に立って一発芸をやりだした時はさすがに肝を冷やしたが(仲良すぎだろ……)、まぁ、これがこの世界の二次会らしい。

 さて、それも終わりに近づき、いよいよメイン。

 新郎新婦は今まで酒を一滴も飲まず、この二次会の終わりになって、大勢の前で大量に飲む。それが、二人の村にそれぞれ伝わっていた伝統だ。滅茶苦茶健康に悪そうなうえ、村同士も離れていたのに、共通の風習があるのには驚いた。いや、でも、そんな性質を利用するのが俺たち魔術師なわけだが。

「それじゃあ、ミリアさん――」

「クロロ――」


「「乾杯!」」


 二人で向かい合い、互いに大きな杯で、酒を飲ませ合う。

 それを招待客全員で囃し立てる。実に宴会のノリだ。

 だが、二人が仲睦まじく酒を飲ませ合っているのは、なるほど、たしかに盛り上がるし、見ていて楽しい。

 ミリアは満面の笑みを浮かべて、クロロは酒が苦手なため少し複雑そうだが、それでも幸せそうだ。

 うんうん、なによりなにより。

「ああっ……ついに始まるっ……!」

 だが、となりで蒼い顔をしながらレイラがガクガク震えているのはなぜだろうか。

 魔術師の勘が告げている。


 ――なんか、ヤバい。


 ここで、俺は、旅の中でも前半の方に知ったことを思い出した。

 それは、パーカシス王国の王都であるドラミを魔族の襲撃から守り、それを感謝されて褒美を渡されたあとの、パーティーでの話。

 俺もレイラもクロロも酒が苦手だが、ミリアは酒が好きらしい。だが、レイラが必死で止めるため、そういえばミリアが酒を飲んでいるところは見たことがない。

 それで……レイラは、ミリアを止める理由について、何といっていた?


 ――ところで、なんでそんな必死に止めるんだ。


 ――ミリアは……とんでもない『酒乱』なんです……。


 レイラとの会話。そのピースが唐突に浮き上がり、嫌な予感と言うパズルが完成し、『確信』へと変わった。

 だが、時すでに遅し。ミリアはあの大きな杯に満たされた酒を、飲み干している。


 …………。

 ……………………っ!?

 …………………………――――っっっ!!!!



             __________________


「すげぇ……」

 ミリアの酒乱は、むしろ盛り上がる要因となった。大聖堂は滅茶苦茶に荒れたが(原因はお察しください)、招待客の全員がそれを喜び囃し立てたのだ。騎士団長と軍団長まで。結果、(お察しください)が(お察しください)で(お察しください)な結果になり、クロロは酔いつぶれ、ミリアも暴れるだけ暴れて満足そうに寝た。今は二人そろって、同じベッドで互いに寄り添いながら幸せそうな顔をして寝ている。

 あくまで一般人が造った、一般的な造りの聖堂だ。四天王すら一撃で葬る力を持つ『疾風迅雷グラディウスデュオ』ことミリアが酔って暴れたらひとたまりもない。クロロがそれを止めようと、『守護神砦ガーディアンナイト』の名にふさわしい力を振い、あの砦を造り出した。

 だが、酒に弱いクロロが、あれだけの量を一気に飲み干した後なのだ。造り出すだけ造り出してクロロが気絶してしまい、全く役に立たなかった。

 笑い上戸なミリアが、酔った勢いで暴れた時は恐ろしかったな……。

「ううう、これだからミリアは……」

 レイラなんか、あの恐怖が抜けないのか、いまだに布団に蹲っている。

 それでも、皆は盛り上がって囃し立てるんだもんな……酒の力は恐ろしい……。


「いろんな風習と考え方があるんだなぁ……」


 魔術師として、色々考えさせられる。

 ……ちょっとためしにこれをベースにして魔術を開発してみるか?


「アカツキさん、変なこと考えちゃダメですよ?」


 ……レイラに心を読まれていた。

次は感想でご希望頂いた、暁とレイラの間に生まれた子供の話です。投稿はあさってです。

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