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魔術師の異世界ラプソディー  作者: 木林森
最終章 希望の夜明け(サン・ライジエズ)
162/166

エピローグ ラプソディー・フィナーレ

「レイラ、ちょっとこの本運ぶの手伝ってくれ。」

「はい、分かりました。」

 神野家の屋敷。俺はちょうど出くわしたレイラに頼んで、たくさんの本を一緒に運んでもらう。

 この地球に帰ってきてから数年。親父が一線を退いた今、俺が神野家の当主だ。

 レイラとは結婚した。あまり恋愛感情というものを自覚していなかったようだが、あの後、気づいたのだ。俺は、レイラに惹かれていた。

 さて、何故レイラが地球にいるのか。

 それは――俺が天照大神に頼んだ、『お願い』に起因する。

             __________________

「それじゃあ、地球とあの世界を、俺の一存で好きなように行き来できるようにして貰っていいですか。レイラたちを家族に紹介したいし、やり残したこともあるので。」

 俺は脳裏に、三人の仲間の顔を思い浮かべる。

「やっぱり、予想通りだ。じゃあちょっと制限はつくけど、そうしよう。まず、オルケストラに地球から行けるのは神野家のみ。オルケストラから地球に行けるのはレイラ、ミリア、クロロ、クリムのみになるよ。これぐらいに収めないと、ちょっと世界のバランスが崩れちゃうからね。」

「じゃあ、それでお願いします。」

「ん。繋ぐ扉は、コンドゥクト湖と神意の鏡でいいよね。かなり不便だけど、これ以上扉を繋ぐと、それこそバランスが崩れるからね。」

「はい。ありがとうございます。」

「うんうん、大丈夫大丈夫。それじゃあね。」

「ええ、それでは。」

 最後に短い言葉を交わし、俺は光の中に踏み込んだ。

             __________________

「最後の感動的なお別れも、オチとしては拍子抜けだったな。」

 あの時の事を思い出し、俺は苦笑いする。

「そうですよ!あの後、もう会えないんだって泣いていて、それでも割り切れかけたところに『よう、元気か?』って軽く出てくるんですもん!思わず失神しちゃいましたよ!」

 レイラは頬を赤くしてそう叫ぶ。

 一通り家族に報告した後、俺はまたオルケストラに戻り、レイラたちに会いに行ったのだ。

 ちなみに、その騒ぎを聞いて駆け付けた隣の部屋にいたらしいミリアとクロロの反応はこれまた面白い者だった。

 まずミリア。魔族か何かが化けて出たと思って、双剣を構えてこちらに般若のような形相で攻撃をしてきた。

 クロロは、目を丸くして静止した後、その頬を静かに引っ張った。

 その宿は俺が魔王を封印した後に目覚めた宿だったわけだが、そこはミリアの攻撃によって部屋一つがごっそり吹き飛んだ。しっかりと(一生遊んで暮らせるほどの金額を)弁償したおかげで許して貰えたが。

 しばらくたってレイラが目覚めた頃、三人とも一周回って落ち着いていた。曰く、『俺ならこの程度はやってのける』だそうで。

 俺の説明を聞いてあきれ顔になった三人は、それでも最終的に良かった、と笑ってくれた。

 その後、三人を連れて地球に戻って家族に紹介し、改めて詳しい話をしたのだ。言語とか文字が心配だったが、どうやら天照大神が気を利かせてくれたようで、全員に『言語理解』の加護がついていた。

 レイラを見て少し茜がむくれていた理由が未だにわからないのが唯一の謎だが、その場はなんだかんだで収まったのだ。内の家族はそろって突飛な事情ですらも簡単に受け入れる性格なのだ。

 そして、それから数カ月たち、三人と家族の交流が深まったころ、俺はレイラに告白をした。

 レイラは泣いて喜び、しばらく俺にべったりだったのを覚えている。まぁ、俺もそれが嬉しくてべったりだったわけだが。

 ちなみに、それから数日後、俺たちに刺激されたのか、ミリアとクロロも恋人同士となっていた。

 そして今になって、俺たちは結婚したのだ。

 俺とレイラの結婚式は地球で挙げ、その一週間後に、オルケストラでミリアとクロロの結婚式が行われた。

 ちなみに、レイラの戸籍に関しては、魔術師の威光で各方面に『平和的』に働きかけて偽造した。

 そして今は、俺とレイラは地球に、ミリアとクロロは異世界に住んでいる。

「あー、昔の事思い出していると、『あれ』を思い出すな。」

「そ、それは禁句でしゅ!」

 俺がからかい交じりにそう言うと、レイラは顔を真っ赤にして叫びだした。

 あれ、とは、俺が魔王を封印した後、どんな応急処置を施したのか、ということだった。

 付き合い始めて数カ月たったころに聞いたのだが、なんとも大胆な内容だったのだ。

 俺は気絶している上、血を吐き出しているため、ポーションを飲ませることが出来なかった。

 そこでレイラは、なんととっさにポーションを口に含み、『口移し』で俺に飲ませたのだ。それも、何回も。

 それを傍から見ていたミリアとクロロは驚きで声も出なかったそうだが、俺もその話を聞いて同じ反応だった。

 なるほど、あの時にどう処置を施したのか尋ねたときの反応はそういうことだったわけだ。

「まぁそう照れるなって。結婚式では沢山の人の前で何回も熱いベーゼを交わしたわけだし、今更だろ。」

「それとこれとは話が別です!」

 そんな他愛のない会話をしながら、愛しい相手と廊下を歩く。

「あ、そうだ。また探し物の依頼来てるけど、今回もまた数が多いぞ。前みたいに競争するか?」

「望むところですよ。今度こそ勝って見せます。」

 レイラの探し物をする方法はとても大胆だ。探し物を思い浮かべ、矢を適当に放つ。そうしたら、矢が勝手にそちらの方向に飛んでいくのだ。『対象に当たる』という性質を利用した方法だ。

「とかいって、前みたいに間違って依頼物に刺して、依頼人に怒られるなよ。」

「こ、今度は対策があるから大丈夫ですよー。」

 目を逸らすな、目を。

 レイラは神野家当主の妻として、並々ならぬ努力をして魔術師の一員となった。今ではたまに失敗をするものの、優秀な魔術師だ。


 こうして落ち着いてみると、あの異世界での日々が、どれだけ俺にとってかけがえのないものだったかを思い出す。


 天照大神に依頼されたことから始まり、自由に旅をして、その現地の力も活用して魔王を封印し、今では二つの世界を渡り歩いている。

 最初に言われた通り、『自由に』旅をしているだけでこれだ。天照大神で言うところの『運命』の力が、いかに強いかがわかる。もはや必然といっていいほどに。


 自由で流動的ではあるものの、ターニングポイントではしっかりと型にはまる。まるで音楽――中でも、自由に演奏する音楽だ。


 地球の、異世界の、様々なものから力を取り入れ、旅に役立ててきた。

 旅を音楽に例えるならば、これは『民族音楽』だろう。


 自由に演奏し、民族音楽の要素を取り入れる音楽。


 それは――言うなれば、『狂詩曲ラプソディー』というやつだろう。


 そういえば、天照大神に頼まれていたことがあった。

 それは、この異世界での出来事を記録し、後世に残すこと。前の勇者が、俺たちに残してくれたように。また魔王が復活した時、また俺たちの子孫が依頼を受け、封印できるように。


 異世界での楽しかった日々は、もう過去のものだ。


 だが、俺たちの心には、ずっとそれが残っている。


 そして、あの旅の成果は、後世に残されるのだ。


 俺の『異世界ラプソディー』は終わったが――俺の人生はまだまだ続くし、世界はこれからも回り続けるだろう。


 ラプソディーは終わっても――大切な人が隣に、周りにいるのだから、俺の幸せは終わらない。






 ――――魔術師の異世界ラプソディー・FINE

これにて本編は終了となります。

明日は、感想にて希望を頂いた、メイン三人のその後、ということで、クロロとミリアの結婚式を、未消化の伏線消化含めて投稿します。かなりざっくりした内容ですが。

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