鬼
翌朝、俺たちは大量に手に入ったあぶく銭で装備を整えることにした。2人は今まで金がなく、満足に装備も整えられなかったそうで、買い物の時には目を輝かせていた。
レイラは、前に使ってた普通の木の弓から、木のつやが良く、弦の張りが強い弓と、矢じりに特殊な結晶が使われている『魔法矢』というものを数種類買った。矢じりの色は、黒、白、濃い赤、透明である。俺がなんの効果があるのかを聞いたところ、それぞれ、暗黒、聖光、地底、天空の属性を持つと言われた。
「属性?火と水と地と風だけじゃないのか?」
「はい。水と地の間に暗黒、風と火の間に聖光、地と火の間に地底、風と水の間に天空の属性が入ります。」
レイラはそういって、紙に筆で図を描いて見せる。
上から順に、水→天空→風→聖光→火→地底→地→暗黒ときて水に戻る円形を描く。
「水、風、火、地は基本属性で、さっきの4つはそれぞれを挟む基本属性の性質に近い性質を持っています。こちらも相変わらず反対側は相反する属性です。」
「へえ~。よく出来てるな。」
この面では、地球とは全く考えが異なるな。そのうち魔法も覚えようかな。というか、覚えなければ大分不便だろうな。
「こっちもいい買い物ができたわ。」
ミリアがほくほく顔で戻ってくる。昨日まで使ってた剣を売って、それよりちょっといい奴を『2本』持っている。
「何で2本なんだ?」
俺はたまらず質問する。
「あ~これね。あたしさ、本来は『二刀流』なんだよね。今まではお金が無くて1本だけだったけど、大量の臨時収入があったからね。」
「ほう、『二刀流』か。」
俺は表向きは軽く感心して見せたが、内心は違う。
(何それ!?カッコイイ!)
男心がくすぐられる。
「で、アカツキさんは何を買ったんですか?」
レイラが話の区切りを見て俺に質問する。
「ああ、おれか?俺はちょいと小物を買っただけだ。あとそうだな……あれをもう一着買おうかな。」
俺はそういって服屋に目を向ける。このまえの暗殺に使った真っ黒の長そで長ズボン。あれ、結構動きやすくて丈夫なんだよな。
「そ、そんなの買ってどうすんの?」
ミリアが俺に質問してくる。
「決まってんだろ。着るんだよ。これだといろいろなものに紛れるから役に立つ。」
俺は服屋の戸を開けた。
__________________
「そういえば結局何を買ったんでしたっけ?」
服屋を出て、ギルドに向かう途中にレイラが聞いてくる。
「そういやうやむやだったな。正方形の紙を100枚といろんな色のカードを数枚ずつと方位磁石、それとインクがずっとついてる筆。マジックアイテムだな。」
マジックアイテムとは、まんま魔法が込められたアイテム。お値段はけっこう張るが便利なものが多い。例えば、この世界は筆でいろいろ書くが、この筆はインクがずっと付いている状態になる。
「アカツキって本当に謎よね。」
「用途が想像できません……。」
「俺は物を媒介にして魔法を発動するんだよ。そういう風に習ってきたから仕方ない。」
俺たちは会話をしながらギルドのドアを開ける。
掲示板の前には人だかりができていた。
「昨日の特殊クエストだね。」
ミリアが呟く。ああ、あれか。
「どれどれ、俺が見てくる。」
そういって俺は掲示板を覗き込む。お、あったあった。だれもまだクエストを受けてないようだ。周りの会話を聞いてると、
「おい、オーガの変異種だってよ。」
「昨日ルドルフさんたちが話してたやつだな。」
「オーガよりさらに強いなんて俺たちじゃほとんどムリだ。」
「しかもこれ、2体の変異種だぜ。1体でも珍しいのにな。
という内容が聞こえてくる。
「はいはい、失礼します。」
俺は人混みを縫って紙が良く見える位置にいく。
(ほうほうどれどれ。……えっ!)
俺はその内容のある一点をみて驚く。俺は、無意識のうちにその紙を掲示板から外した。
『おおっ!』
周りからどよめきが上がる。俺はその紙をもって2人の元にいく。
「このクエスト、受けよう。」
「「ええっ!」」
2人は大声で驚きの声を上げる。
「大丈夫。2人が怖いなら俺一人で行くよ。」
俺は努めて優しい声でそうつぶやく。2人は大切な仲間だ。危険なところに本人の意思を無視していかせられない。
「アカツキ、あたしをなめんじゃないわよ。いいじゃない、いってやるわ。」
ミリアが目を鋭くする。あ、逆効果?
「わ、私だって、負けてられません!」
レイラはちょっと弱気気味だが目に宿る意志は強い。
「そうか……じゃあ、いくぞ。」
そういって俺は受付に紙を持っていく。
「この特殊クエスト、受けます。」
「は、はい、ですが……どなたかの推薦はございますか?」
お姉さんが目を丸くしながら質問してくる。そうだった、推薦者がいないと……。
「俺が推薦者になろう。」
「儂もじゃ。」
俺が頭を抱えた瞬間、奥の通路から声が聞こえた。そこには、ライナーさんとルドルフさん。周りがざわつき始める。
「だが、お前、勝算はあるんだろうな?」
「決意の程を聞こう。」
2人の目が鋭くなる。俺は2人の目を見返し、力強くうなずく。
「はい、あります。」
周りのざわつきが強くなり、2人は驚いたように目を丸くする。そして、口角を上げると、
「いいな。俺が推薦しよう。」
「儂からもじゃ。」
2人はお姉さんにそう声をかける。
「か、かしこまりました。それでは、アカツキさん、レイラさん、ミリアさんの3名で、このクエストの受理を承認します。」
お姉さんはどもりながらも承認をしてくれる。
「本当に、お前は凄いな。」
ライナーさんが声をかけてくる。
「何か策はあるのかね?」
ルドルフさんも近づいてきて俺に尋ねる。
「ええ。」
俺は力強く返事をしながら、さっきの紙の内容を思い出す。
条件は山奥に現れた2体のオーガ変異種を討伐すること。
その2体は、通常の固体より1回り大きく、特殊能力として、異常なまでの怪力。その証拠として、手には2mくらいの金棒を持ち、自在に振り回す。
常に2体で行動し、さらに5匹くらいのオーガの通常種が取り巻きにいる。
昼は巣穴にて門番をしており、夜になって巣穴にオーガ達が戻ってくると2体と取り巻きで洞窟を離れる。
「大丈夫です。」
見た目の特徴として、2体の色と顔、身に着ける者が変わっている。
片方は肌の色が赤、もう片方が青。腰には黄色と黒の色の布を巻いている。頭にはパーマ気味の頭髪をはやしている。
「俺は、そいつらの対応策を知っています。」
それは、どう考えても俺が住んでた日本の、
『赤鬼』と『青鬼』だ。
ちなみに今回の小説も前作同様見切り発車です。
それと、いくつか前作のネタもだすかもしれません。




