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魔術師の異世界ラプソディー  作者: 木林森
10章 祈りは力となりて理を支配する(ハンド・オブ・ゴッド)
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最後の竜装備

12月20日3話纏め投稿の3話目です。

二つ前の話からご覧ください。

「ぐっ……っ。」

 魔術師の一族、神野家の当主である剛毅は、痛む身体に鞭を打って、古びた本を読んでいた。

 神野家の内、現状最高戦力の2人と直系の娘の3人で戦ったにもかかわらず、全員が大きな負傷をした。一番戦闘能力の高い剛毅は骨が何本か折れ、他打ち身や深めの傷程度で済んだ。これぐらいの範疇なら、痛みはかなり残るものの傷は魔術によって一瞬で治る。

 だが、翔太と茜はかなり重傷だった。魔術がなければ、迅速で適切な処置を施したとしても、生と死は五分五分のレベルの大けがを負った。魔術による回復で命に別状はなくなったが、それでも定期的な魔術治療と入院が必要となっている。

 剛毅は今や必死だった。日本三大悪妖怪と呼ばれるほど強力な妖怪『酒呑童子』と戦い、今の危険さを改めて実感した。『危機感に欠ける』欠落を持つ彼ですら、気づくほどだ。

 もし、今の状態で、あれと同等や、それ以上の妖怪が現れたら――?

 そんなことを考えると、気が気でなかった。

 そこで彼は、過去の文献を片っ端から漁り、少しでも情報を手に入れようとしていた。

 調べているのは、『異世界』『妖怪が増えた時代』の2つ。

 目についたものは、北欧神話の九つの世界、オズの魔法使い、不思議の国のアリス、ラグナロク、天岩戸の神話……といった、抽象的なものばかり。

「あぐっ……!」

 もう何冊目だかわからない分厚い本をしまう時、思わず剛毅は呻いた。体に激痛が走る。

 剛毅は、今自分がムダな事をやっていると言う事は実感していた。とてもではないが、ずっと全身が痛みにさいなまれている状態で、頭を使う調べ物など出来ない。彼の頭は、ほとんど働いていなかった。

「暁……。」

 それでも、大事な息子のために――父親は動き出す。

             __________________

 賑やかなエフルテの街並みから少し外れた宿。そこの一室に、俺たち4人は集まっていた。

「なんというか、悪目立ちしちゃってるね。」

 クロロが少し疲れた表情でそう言った。スキンブルからここに来るまで、道行く野次馬たちに揉みくちゃにされたのだ。

「はうう……疲れました……。」

 元来は気弱で人見知りの気がある――最近あまりそんな場面は見なかったが、さすがにあれでは再発するか――レイラが、気の抜けた声を漏らす。

「うーん、ちょっとめんどくさいけど、変装が必要かしら。」

 ミリアは眉をひそめ、腕を組みながらそう提案する。

 変装か。そういった隠密とか忍系なら魔術の得意分野――

「おえっぷっ!」

 急に吐き気を催し、言葉を詰まらせて嘔吐えづく。

「ちょ、ちょっと、どうしたんですか!?」

 レイラが弛緩していた体を急に起こし、アワアワと慌てはじめる。他の2人も同様だ。

「――っ!――っ……はぁ……はぁ……だ、大丈夫だ。」

 俺はこみあげてきた吐き気を飲み込み、息を整えて、体調が悪くない事を伝える。

「ほ、本当に大丈夫なの?」

「どうみても体調が悪そうだけど……。」

 ミリアとクロロがまだ心配そうに確認を取ってくる。

「いや、ちょっと嫌な事を思い出してさ。あれは思い出すだけで吐き気が……うぷっ……。」

 いかん、またこみ上げてきた……。あのおぞましい光景は思い出したくもない。人の惨殺死体や、それより酷いのをいくらでも見たことあるし、自分で作り出したこともあるが……あれは別ベクトルのおぞましさだ。今できることと言ったら、出来るだけ思い出さない事、そして面白がって『あれ』をやらせた過去の自分と一族一同を恨むのみだ。

             __________________

 翌日、適当にラフな服装で俺たちはスキンブルに向かった。それっぽい装備をしていないだけで一気に目立たなくなったのは良かった。なんだかんだあの装備は目立ってたからな。とくにミリアとクロロ。

「おう、また一般人みてぇな格好してきたな。よし、もう出来ているから待っててくれ。」

 スキンブルさんはそう言って奥にいく。しばらくして戻ってくると、スキンブルさんは立派な革鎧と弓を持っていた。

 まず革鎧。ウンディーネの成体の中でも、特に上質なものを使った唯一無二の一品だ。タイプとしてはミリアと同じで、動きやすさ重視。それでいて守備力も頑丈さもあり、かなり高性能だ。色はあの地底湖の水底を思わせるような深い青だ。

 そして弓。パーカシス王国王都ドラミにある、騎士御用達の超高級店。その中でも高級な品に改造を加えてほしいと頼んだものだ。

 本体の色は青くなり、弦はほんの少し太くなった。『インフロウ』は全属性対応だったが、ついにこの弓は水属性特化、それもウンディーネの素材を使っているから相当だ。

「ウンディーネの素材を使ったから当然高いぞ。白金貨500枚だ。……つってもどうせ聖金貨出してくるんだろうけどよ……。」

 そのまさかである。レイラは堂々と聖金貨を1枚スキンブルさんに渡す。

「まったく……数えるのが面倒だ……。国も白金貨と聖金貨の間にもう一つ創ってくれよ……。」

 スキンブルさんはそれを受け取り、手に持っている超容量鞄から白金貨を10枚ずつに分けて並べていく。

 その間に、紙に書いてもらった付与した効果でも見てみるか。

 水属性強化に水属性耐性、防御アップ大はもはやおなじみだ。

 他、前にレイラがイフリートの『インフェルノ』を防ぐときに使った『ハイパーウォーターベール』。あの上級魔法と同じ名前がついているそれは、装備している者を水のベールで守る効果を示す。

 また、ウンディーネ独特のスキルとして『固定砲台』がある。ウンディーネ自体が、あまり移動せずに遠距離攻撃で攻めていくスタイルだ。まさに固定砲台なわけだが、今回はそれがまんま効果として付与された。効果としては、遠距離攻撃を放つ前に10秒以上動いていなかったら威力と精度が上がる、というものだった。レイラは移動しながら打つスタイルが多いので使いどころは少ないだろうが、ないよりはマシだろう。

 そして固定砲台のレギュラー版ともいえるべき効果も付与されている。その名も『遠距離攻撃特化』という。名前の通り、遠距離攻撃の精度と威力を常時格段にあげてくれる効果だ。固定砲台の上り幅に比べたら見劣りするが、それでもこれがあるかないかで大きな違いが出る。

 珍しいものでは『水中呼吸』と『液体操作』だろう。前者は水中でも呼吸が出来る、後者はある程度の量までなら液体を自由に操作できる効果だ。

 次に『インフロウ』を改造した弓だ。

 こちらはインフロウの効果を受け継ぎつつ、水属性だったら通常の何倍にも魔力をふくらます効果がある。また、弦が強くなっているため、威力も高くなっているはずだ。

 新しく追加された効果は『精密射撃』。そのまんま、命中率を上げるものだ。レイラにはあまり必要ないが、ないよりは全然いい。また、革鎧の方の『固定砲台』や『遠距離攻撃特化』を含め、魔法にも効果を発揮するのが大きいだろう。弓に効果がついているのに、それを使わなくても発揮するのだから不思議なものだ。

 それにしても……付与された効果が悉くレイラに御あつらえ向きだ。遠距離攻撃特化だ。それでいて近距離攻撃をする際のデメリットが追加されないのも大きい。大体特化型になると、それと反対のタイプでハンデを背負う羽目になるんだけどな。

「さて、じゃあレイラ。早速装備に名前をつけましょう!」

「そうね。うーん、どうしようかなぁ……。」

 ミリアに促され、レイラが顎に指を当てて考える。

「うーん……あ、弓の方は『ピアース』、鎧の方は『サージ』……ですね!」

 レイラはあれこれ悩んだ末、弓に『射貫く(ピアース)』、鎧に『うねる大波(サージ)』と名付けた。

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