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魔術師の異世界ラプソディー  作者: 木林森
10章 祈りは力となりて理を支配する(ハンド・オブ・ゴッド)
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支配

12月20日。3話纏め投稿の1話目です。

 今まで来た道を戻る。帰り道に関しては一切襲われなくなり、楽に歩ける。

 草薙の剣――天叢雲剣は思わぬ収穫だった。それも、それがあったのが水底だと言うのだからびっくりである。

 なんせ、本物の天叢雲剣は壇ノ浦の戦いの際に海に沈められ、見つからなかったと言われているのだ。幼い帝を慰めながら跳び込むあの台詞には、思わず感情が揺さぶられてしまった記憶がある。

『そういえばアカツキ。』

 『淼皇の杯』から、水龍が話しかけてくる。ここまで歩いてくる道程で既に互いの自己紹介は済ませた。水龍の名前は、予想通りアクアだった。

『さきほどの水の支配だが……レイラと協力してやったのは分かるが、どうしてあそこまで魔力が混じり合う?普通、あれほど多く互いに混ぜたら、拒否反応を起こすはずだ。』

 アクアは、どうやら先ほどの戦いで水の支配を奪われたことを考えていたようだった。

「あー、そういえばそんな話は聞いたことがあるな。」

 魔力は個人によって千差万別だ。そんな魔力を同調させるには、かなり『波長』のようなものがあっているものでないと難しい。

「まぁ、俺の魔力とレイラの魔力は波長が似ているからな。」

 実は、俺もそれが気になっていて、さっき自己紹介をしながら互いの魔力を探っていた。そうしたら、どうにも『波』のようなものが似ていたのだ。

 ためしにミリアとクロロのも計ってみたが、こちらも俺と親和性がありそうな感じだった。どうにも、俺たち4人は魔力の波長が合うらしい。

 こんな説明をしてみたところ、アクアは考え込むように深く唸った。

『むぅ。そこまで波長が合う相手がこうも一堂に会するものなのか……いや……『波長が合うからこそ引き寄せあった』のか?』

 アクアの言葉に、なんとなく俺は納得した。

 類は友を呼ぶ、という言葉があるが、それみたいなものだろう。術話の世界でも、割とそう言った、会うべくして会った――それこそ、宿命や運命のような出会いがよく見られる。現実でもまま起こりうることなので、それがあっているのかもしれない。

「考えてみれば、アカツキさんは神様に呼ばれてこの世界に来たんですよね?それから数時間で私たちと会って、その後数週間でクロロさんと会ったから……もしかして、この運命の中心ってアカツキさんじゃないんですか?」

 レイラが自分の予想を述べる。なるほど、そんな考え方も出来るか。

「そうなると……アカツキはさしずめ『台風の目』ね。行く先々でトラブルに遭うんだもの。」

「リアル台風の目なミリアには言われたくないな。」

 ミリアの冗談に、俺も冗談で返す。

「それにしても、さっきのアカツキさんとレイラさんの同調は凄かったね。もしかして、無意識にアカツキさんの魔術が発動していたんじゃない?」

 運命とかなんとか、こういった乙女なものが(レイラやミリアよりも)好きなクロロが、わくわくした表情でそう言った。

「あー……あ、それあるかもしれんな。」

「えっ?」

 俺はクロロの言葉を肯定する。すると、当の本人は冗談だと思っていたため、驚きの声を上げる。

「いやぁ、アクアを倒すのに使った術話が『八岐大蛇退治』なわけなんだけどさ……それに、奇稲田姫クシナダヒメっていう女性が登場するんだよ。」

 俺が話し始めると、皆聞き入っているみたいで黙る。いや、そんな期待されても困るんだけどな……。

「で、その奇稲田姫なんだけど、八岐大蛇を退治する素戔嗚尊スサノオヲミコトによって一時的に姿を変えられて、櫛になったんだ。素戔嗚尊はそれを頭にさして、奇稲田姫がいる前で八岐大蛇と戦ったんだよ。」

 頭の中に、次々と論理立てて説明が組み立てられていく。

「でさ、装飾品っていうのは、昔からそれをつけた人を、守ったり補助したりするものが多いんだ。地球の神話でも、身代わりになる道具を持っていたらそれが守ってくれた、なんて話はごまんとある。で、この八岐大蛇の話が載っている神話には別の話もあってさ。こっちでも、櫛がそれをつけていた人を助けるシーンがあるんだ。」

 黄泉平坂の伝説だ。

 イザナミとの約束を破り、黄泉醜女ヨモツシコメに負われる羽目になったイザナギは、それに頭にさしていた櫛を投げることで逃げ切ることが出来たのだ。

「それに、八岐大蛇退治に使った酒を造ったのは奇稲田姫の両親だ。素戔嗚尊は奇稲田姫を求めて大蛇を退治しようとしたのだから、ある意味奇稲田姫は八岐大蛇討伐の最高の協力者ともいえるんだよな。」

 この解釈は恐ろしくマイナーな上にこじつけだが、魔術なんか結構こじつけが多いため、この理論でも問題ないはずだ。

「奇稲田姫は素戔嗚尊に協力し、さらにそばにいてずっとその戦いを見守っていたわけだから……レイラに結構当てはまるんじゃないかな。」

 今回、レイラは『八塩折之酒やしおりのさけ』にあたる九尾の血を、八岐大蛇すいりゅうに飲ませる役割を持った。ここで俺は、当てはめるとしたらレイラは奇稲田姫の両親かな、と考えていた。

 けれど……この理論で行くと、レイラは奇稲田姫にも当てはまるのではないだろうか。

『ふむ、魔術と言う奴は奥が深いのだな。アカツキの言う術話の解釈次第で、色々なことが出来る。』

 アクアは感心したように呟いた。ちなみにここまでの道程で魔術についても簡単に説明してある。

 ああ……ここまで感心されると照れるな。

「さて、これで配役としては、八岐大蛇がアクア、俺が素戔嗚尊、レイラが奇稲田姫と仮定してみるとしよう。」

 そんなわけで、照れ隠しがてらに冗談を言ってみることにした。たまには若者らしく、軽口でからかうのも面白いだろう。ターゲットは……レイラだ。

「ところでレイラ。物語の中で、素戔嗚尊と奇稲田姫は最終的にどうなったか知っているか?」

「い、いえ、それはまだ教えていただいてません。」

 俺が的を絞ったのを感じ取ったのか、レイラが少したじろぎながら答える。

 ふんふん、この冗談なら、初心うぶなレイラにはさぞかし聞くだろう。

「今回は、今までの中でもかなり符号を多くできたんだ。そうなると、その後の展開も、魔術の副作用で似てくる可能性があるわけだが。」

 俺は口角を吊り上げて、にやりと笑う。

「素戔嗚尊と奇稲田姫は、最終的に――結婚するんだ。そうなると、魔術の副作用で展開が同じになった場合、素戔嗚尊である俺と奇稲田姫であるレイラは――っておい!?」

「ふ、ふにゃ~……。」

 冗談でエキサイトしていたら、レイラが顔を真っ赤にして、頭から湯気を出して倒れていた。

「え、ちょ……初心過ぎないか?」

 ちょっとした冗談でこれは……やり過ぎたかな?

「な、なんて大胆っ……!」

 そしてなぜか、ミリアも顔を真っ赤にし、口を手で覆って、裏返った小さな声で何か呟いた。

 ――口を覆っていたせいで読唇術が使えなかった。

             __________________

 レイラが気絶してしまったため、俺が抱えて運んでいくことになった。いわゆるお姫様抱っこである。

「それにしても、支配か……。」

 俺はさっきの会話を思い出していた。

 相手の魔法を奪う。世界を奪う。支配し、使役する。

 膨大な魔力を使って世界の理に干渉し、支配する。

 それはまさに――『神の力』ではないだろうか。

 そもそも、魔法も魔術も、それに近いものがある。龍や俺たちのように、魔法や魔術が行き着くところまで行くと――『神の力』と同じもの、つまり、『支配』がその本領発揮となるのではないだろうか。

「ミリア、ちょいといいか?」

「ん、何?」

「それっ!」

「わにゃっ!?」

 俺は不意打ちで風属性下級魔法『ウィンドアロー』をミリアに放つ。ミリアはそれに驚くものの、魔力で風を操り、その威力をけし飛ばした。

「あ、アカツキさん……?」

「いきなり何すんのよアホタレ!?」

 クロロは狼狽え、ミリアは詰め寄ってくる。

「やっぱりそうなんだよなぁ……。」

「だから何がよ!?」

 俺の呟きに、ミリアが声を荒げながら詰め寄る。

「いや、すまんすまん。少し実験したいことがあってな。」

 俺はミリアをなだめ、説明に入る。

「さっきの水の支配云々を聞いて思ったんだが……魔法や魔術の行きつく先は『支配』なんじゃないかと思ってさ。そこで風のエキスパートであるミリアで実験してみたんだ。そうしたらミリアは、風属性の俺の魔法に、より強い魔力で支配を奪っただろ?これを意識的に力として振るえるようになったら、もっと強くなれるんじゃないかと思ってさ。」

「だったら事前に説明の一つぐらいいれなさいよ……。」

「あ、あははは……。」

 ミリアはげんなりし、クロロは苦笑する。

『ほう、支配か。たしかに、我らはそれぞれの属性を支配するな。この象徴武器の力を使って我らの攻撃を反らしたアカツキも、あの時、確かに支配を我らから奪ったことになる。』

 イグニスは興味深そうにそう言った。

「試してみる価値はあるよな……。」


 この会話がきっかけで、俺たちは膨大な魔力による支配の練習もしていくことになった。

             __________________

 その頃、ストリーグスの東寄りのところにある急峻な山の麓にある森の中。

 その中でもひときわ大きな木の根元で、1体の異形が鎮座していた。

 頭は人間だが、体は牛。その、あまりにも異質で異常な異形は、当然ただの生物ではない。

 魔物。中でも強力とされる魔族。――暁の生まれ故郷である地球で言えば、『くだん』だ。

『件』の由来となったともいわれるその異形は、『予言』を授ける妖怪だ。

 また、それでいて、その予言のタイミングは全くの気まぐれだともいう。

「……『勇者』が『因子』と合流し、さらに『龍』とも交わったか。」

 深みのある声でくだんは呟いた。寝るように目を閉じてはいるが、彼は常に、運命の流れ、未来に身をゆだねている。

 かつて、この森をたまたま訪れたイフリートに予言を授けたのは、このくだんだった。

 その内容は一つ。

『魔王が復活せんと滾る時、それに伴って『勇者の因子』が生を授かるだろう。その生誕場所は、テーバとヴァイヴラ。彼の者たちが勇者と混ざりとき、魔王は再び鎖される。』

 というものだ。

 このくだんの噂を知っていたイフリートは即座に普段は虎人族の姿をしているクルミと相談し、それぞれの村を襲撃に向かった。

 くだんの言っている勇者の因子は、レイラとミリアとクロロ。

「『神の子』――『勇者』がここまで進むのも、また予定調和。」

 くだんはこの展開を予想していた。

「こうなると……『嵐』が訪れるな……。」

 くだんは閉じていた目をそっと開け、木々の隙間からわずかに見える空を見上げる。

「ここから先は波乱……予言は分岐する。」

 くだんには、様々な未来が見えていた。長く生きていたくだんにとって、それはとても稀なことだった。

 世界の、大きなターニングポイント。そのタイミングでしか、この現象は起こらなかった。

「『剣の因子』と『鏡の因子』はすでに目覚めた。後は……『璧の因子』のみ。第一の分岐は『璧の因子』にあり。」

 抽象的な言葉を用い、誰にも届くことがない言葉を紡ぐ。ただ、本能に従って。

「魔王が持ちし『たま』を『神の子』が手に入れしとき……世界は照らされ、あるべき姿に戻る。」

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