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魔術師の異世界ラプソディー  作者: 木林森
10章 祈りは力となりて理を支配する(ハンド・オブ・ゴッド)
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悩み

 丁度いい感じの時間だったので、いったん人間の領域、砦を挟んでブラース側に帰ることにした。

 すると、砦の周りは大騒ぎ、俺たちが帰ってその場に姿を表すと、軍の一人が詰め寄ってきた。

「す、ストリーグスでなにやら不穏な黒煙が現れ、不可解な奇声が響き渡ってましたよ!今はどちらもありませんが何があったんですか!?」

 必死だ。今にも俺の胸ぐらを掴み上げかねない勢いだ。

 俺が順序を追って説明していくと、クリムがキメラをばったばった倒したあたりでクリムを尊敬のまなざしで見つめ、鵺が現れた辺りで恐怖に顔を歪め、倒したあたりでズッコケた。

「あ、あの恐ろしいキメラの親玉をそんないとも簡単に……。」

 雰囲気からして、死闘の末に帰ってきたとでも思っていたのだろう。どっこい、すでに倒す方法が確立されていて、さらにそれを後押しする魔術まであるんだ。元々扱いが不憫な妖怪と言う事もあり、倒すのは簡単である。

 俺の話を聞いて精神力が削れているうちに交渉に入る。当然、ここの詰め所に泊めてもらえるかどうかだ。

 すると、男女別に二部屋貸して貰えることになった。

 詰め所と言う事で設備は期待できないが、ベッドの上に寝れる上に風呂付、さらに雨風がしのげるのだから問題ない。仮に危険が迫っても人間の中ではこの世界の帝国軍の人がそばにいる。頼りになるだろう。

 クリムの世話は軍の人がやりたがらなかった(むしろクリムに首を垂れる人がほとんど)ため、俺たちがやることにする。

 レイラと2人でクリムがいる厩舎に向かう。その厩舎の仕切りの一部を取っ払い、クリム専用に造り直してくれたのだ。どうにも、皆クリムの事を尊敬しているらしい。まぁ、喋るし、神馬だし。

「ほら、クリム、飯だぞ。」

「今日は頑張ってくださったので大好物ですよ。」

 そういってレイラが超容量鞄から、クリムの大好物であるホーンラビット肉のウドウィンジュース漬けを焼いたものを渡す。

「感謝感激の極み!早速頂きます!」

 バリトンボイスでそう言うと、クリムはガツガツ食べ始める。馬は元々よく食う動物だが、クリムの場合は馬体も大きいため、かなり食べる。普通の『軍用馬』の二倍ぐらい食べるが、それでも全然肉のストックは減らない。向こう数年は持つはずだ。

 レイラはそんなクリムを慈しみの籠った優しい笑顔を浮かべながら見ている。ふむ、もとが美少女だからこういった表情も様になるな。最近になって少し背も伸びたような気もするし、雰囲気も落ち着いてきた感じがする。どんどん大人に近づいていっているのだろうか。そういえばミリアとクロロも身長が伸びてるな……3人とももとの身長が低めだったし、成長期が来るのがちょっと遅めなんだな。

 とどうでもいいことを考えているうちにクリムは完食したようだ。健啖家だな。

 容器を回収し、クリムの馬体を一通り撫でてから厩舎を去る。

「そういえばさ、レイラ。最初にあったころに比べると背伸びたな。」

「へっ?え、あ……そ、そうでしょうか……?」

 月が輝く夜空の元、レイラと並んで歩く。さっき思ったことをレイラに言うと、少し唐突だったようで、困り顔をしてしまった。

「少し大人っぽくなった感じがする。それと、強くなったな。」

 最初の内こそ、目の前で大量虐殺を見せられて怯えていた。それが今では、こうしてストリーグスに一緒に進むことが出来るほど強くなっている。

 たった数か月だ。数か月もあればかなりの成長が見込めるのも確かだが、世界屈指の強さになるほど成長すると言うのは凄いな。ミリアやクロロもそうだが……魔族に命を狙われるのも分かる気がする。勇者の因子……ねぇ……。

「そう……なんですかね……。」

 しかし、俺の言葉に、レイラは落ち込んだように目を伏せる。声のトーンも悲しげだ。

「最近、私は役に立っていません。サクソーフの時も、あの巨人の時も……私は何もできていないんです。アカツキさんは言うまでも無く凄いですし、ミリアはあの巨人にとどめを刺しました。クロロさんなんかあんなに凄い魔法を使って一人であの巨人を止めましたし……私、足手まといになっている気がします……。」

 ……なるほどな。確かに、最近レイラは『目立った』活躍はしていない。

 けれど、レイラがいなかったらミリアはウルリクムミの頭まで届かなかっただろうし、レイラ以外にあの高さまで飛べる人はいないだろう。人狼の件は仕方ないとして、その前のミスリルゴーレム事件では止めを刺したのはレイラだし、イフリートの一件でも数多くの命を救った。

 けれども、劣等感というのは恐ろしいもので。自分のいいところというのは案外見つけにくいものだ。もともとレイラは人を上に見て、自分を下に見てしまう性格だ。謙虚ではあるが、悪くいってしまえばそれまでになる。

「そうだな……俺の言葉は無駄だろうと思うけど。」

 俺はそう前置きした。このような感情は、俺ごときの言葉では解きほぐすことはできない。ただ、俺は気休めを口にするだけだ。

「足手まといなわけがあるか。だったらストリーグスに入る前にここに置いていくさ。それだけ、レイラの強さを俺は評価している。それに、レイラがいなかったら、多分俺とミリアとクロロは今頃死んでるだろうな。」

 俺がそう言うと、レイラは涙が溜まった透き通るような緑色の目で、バッと俺の顔を見上げる。

 俺はその目を真っ直ぐ見つめ、言いたいことを言い切る。

「ミリアもクロロも、大きな事件を挟んでとんでもなく成長した。正直、あそこまで強くなるのはびっくりしたよ。けれど、レイラにはまだその機会が来ていない。それが不安なんだろ?」

 俺が問いかけると、レイラは何かに気付いたように目を見開き……強く、ぎゅっと目を閉じて頷いた。

 周りの成長に取り残される劣等感は俺も味わってきたことだ。後になってようやく自分のやり方を見つけてまともに働けるようになったが、妙に尖った特徴のせいで最初は苦労した。

「成長の機会なんか人それぞれだ。そりゃあ早いに越した事はないが、焦ったらもっとダメになる。それじゃあ本末転倒だから、ゆっくり適当に頑張ればいいんだよ。レイラは足手まといでもないし、2人に比べて劣っていると言う事も無い。」

 俺はそう言って、レイラの頭に静かに手を置く。そのまま安心させるように、優しく、ゆっくりと頭を撫でる。

 レイラは最近成長してきたとはいえ、容姿は中学生でも通じるほどだ。そんなレイラが悩んでいる姿は……地球に残してきた妹、茜に重なる。茜が同じような悩みで落ち込んでいた時もこんな風に撫でてやった記憶がある。

「アカツキ……さんっ……!」

 レイラは、俺の胸にバッと顔を埋め、思い切り抱きついてきた。俺の身体の中で震え、嗚咽を漏らしている。

 これは……ここ最近のに見えて、結構長いこと悩んでいたっぽいな。

 気づいてやれなかったか……。仲間は大切に思っているけど、その仲間の悩みに気付けないようじゃダメだな。

 夜空の元、月明かりを幻想的に反射させるレイラの金髪を優しく撫で、俺は安心させるように、レイラをそっと抱きしめた。

             __________________

 暁のあずかり知らぬところで、それを遠くから見ている一人の乙女がいた。

(ど、どど、どどどどおなってんのよおおおっ!?)

 流れるようにサラサラな明るい茶髪をポニーテールに纏め、濃緑色の鎧に身を包む少女。ミリアは、それを遠くから見て激しく混乱していた。

 うっかりクロロが着替えている部屋に入ってしまい、その繊細ながらもがっしりとした体つきを目に焼き付けてしまったミリアは、顔を真っ赤にしながら、逃げるように、クールダウンをしようと夜風に当たりに外に出た。

 気分のままフラフラ散歩していると、余計に顔を熱くする羽目になったのだ。

(あ、あの二人ってそう言う関係!?アカツキって枯れているように見えて意外と!?そしてレイラも意外と大胆!?なにあれ!?甘い、甘すぎるわああああ!)

 ミリアはこの4人の中では一番遠見が苦手だ。普段は風属性魔法による『触覚』と『聴覚』によって周囲を探知しているミリアは、別段遠見を身につける必要もない。

 だが、今回に限ってはそれが良くも悪くもうまく働いた。ミリアの目には、月と星が瞬いていようとも夜で視界が悪くなっているせいか、レイラが暁に抱きついて、暁が彼女の頭を優しく撫でているようにしか見えない。それを傍で聞いていたら、ミリアは涙を流してレイラの悩みに気付けなかったことを後悔するだろう。代わりに、今こうして、そして翌日からはレイラに尋ねるにも尋ねられないというもどかしさに襲われる羽目になるのだが。

 つまり、今回の場合、ミリアが遠見が苦手だったことは、一概に良いとも悪いとも言えなかった。

 どちらなのか。それは――


(もうなんなのよおおおおおおお!?)


 ――――……本人にすら分からなそうだ。

本日、新作である『異世界で唯一の男魔法使い』を投稿しました。

オーバーラップ文庫の大賞に応募するため、異世界ハーレム学園物です。

魔法や魔物、美少女が盛りだくさんのハイテンションなお話です。

ぜひご覧ください。

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