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魔術師の異世界ラプソディー  作者: 木林森
10章 祈りは力となりて理を支配する(ハンド・オブ・ゴッド)
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トロンボ

10章開始です。

「おはよう、アカツキさん。」

「おう、おはよう。」

 恐ろしいほど上質なベッドから目覚め身なりを整えてから部屋を出ると、ちょうどクロロも部屋から出るところだった。

 昨日、地の四天王『ウルリクムミ』を倒す際、値千金の活躍をしたクロロは、冒険者としてはとてつもない名誉となる二つ名『守護神砦ガーディアン・ナイト』を皇帝より貰った。

 これで俺のパーティーには二つ名持ちが2人いることになる。また、2人ともそれぞれの困難を乗り越えたせいか、強さが格段に上がっているように感じる。保有魔力の量も一気に増えたし、もしかしたらアキレウスさんやヘラクレスさんにも引けを取らないのではないだろうか。

 また、2人が使用している装備も、事件を境にものすごくなじんだように感じる。クロロの『シュバリエ』なんかはリニューアルしてからやっと一日経った程度だ。それなのに、もう何年も使い続けてきた装備のようにぴったりはまっている。

 長い間使い続けた剣に『リターン』が付与できるように、レベルの高い装備は、なんらかの壁を乗り越えたところで使用者に強くなじむのだろう。

 2人揃って洗面所で並んで歯を磨きながら雑談をする。クロロの髪の毛と同じ青い毛でおおわれている猫耳が、眠気のせいかペタン、と寝ている。こうしたところを見ると見た目も相まって女にしか見えないんだが……男なんだよなぁ。

「あら、2人とも早いわね?」

「おはようございます。」

 ちょうど磨き終えた頃になって、洗面所にレイラとミリアが来た。2人とも身だしなみに気を遣っているのか、もうそれぞれの部屋で寝癖直しは終わっているようだ。

「この後、朝食ついでに儀式の打ち合わせだったな。」

 事前に渡された冊子を頭の中に思い浮かべながら、この後の予定を確認する。冊子になっている以上本であるため、俺はさっと目を通しただけで全部記憶済みだ。

「楽しみだわね。それにしても、昨日の要求した時の王様と財務大臣の顔ったらないわね。」

 ミリアがそういって、小さく笑う。

 そう、昨日は皇帝直々に俺たちに希望の品を聞いてきた。中々直球な国だが、それが国風なのだろう。その時に、色々と思いついたことを言ってみたが……財務大臣と呼ばれていた身長190cmはありそうな厳つい男性が顔を青ざめさせていた。四天王を四人で倒したという圧倒的な功績を残した以上、国は要求を突っぱねることはまずできない。この国にも、パーカシスやウドウィンが盛大に俺たちに褒美をくれたのも伝わっているだろうから、他国と比較されないためにも結構な品を出す必要がある。そんなわけで思い切り足元を見させていただいた。

 色々と図々しい要求に、最終的に皇帝とヘラクレスさんは大笑いし出した。大した子供だ、あの巨人を倒すだけある、とヘラクレスさんには陽気に背中を叩かれる始末。普段の厳格なキャラはどこにいったんだとばかりに周りはぽかんとしているし、『闇夜ノワール』ごしに叩かれているはずなのに滅茶苦茶痛い。さすが力自慢の軍団長だ。あとで背中を鏡で見てみたら、修学旅行中の入浴時、男子の間で悪ふざけでやった『もみじ』の跡のように、手の形に真っ赤になっていた。魔法で回復はさせたが、あれはちょっとばかり恐ろしい。

「それにしても、もう大分寒くなってきたな。」

 ここ最近の旅で感じたことをこぼす。

 もうこの世界に来てから何か月も経った。この世界にも暦はあり、今は冬。一か月後ぐらいには冬至(陽が一番短い日の事)がやってきそうということもあり、旅支度も少し変えていく必要がある。

 それにしても……冬至……ねぇ……。

             __________________

 もうこの状況も何回目になるだろうか。国のトップと対面だなんて最初はあり得ないと思っていたが、だんだんありがたみが無くなってくる。謁見の間の豪華な飾りも見慣れたようなものだ。

「では、これより救国の英雄に対する、感謝を込めた贈り物をいくつか渡したいと思う。」

 ただ思うのは、この国は軍関係じゃなければ、こういった式典系統は他の国に比べて簡略だ。正直こちらの方が助かる。

「まずは、多大なる貢献をしてくれた四名に、この国においての特権を約束するミスリル硬貨を渡そう。」

 そう、パーカシスとウドウィンでも貰った、この騎士団長や王族並の発言力を約束するミスリル硬貨。偽造は不可能で、この前ふと気づいたが、何かの魔法がかけられている。

 俺たちにそれぞれ、広大な大地を模した国章がかたどられたミスリル硬貨を渡される。うん、名前も違わないな。

「次に、今回の報酬として硬貨を渡す。……昨日のアカツキ殿の発言には困らされたが、奮発させてもらった。」

 皇帝はそう言って、にやりと口角を上げて笑う。

 昨日俺が言った言葉。確かにそれは向こうを困らせるものだっただろうが……逆に相手の意地を刺激して、高い金額を貰えるよう狙った。

 皇帝が「報酬はいくらほどがよいか?言い値で払おう。」と気前のいいことを言ってきたので、俺は

「私たちの働きを皇帝様が評価して下さった額で結構です。」

 と言った。つまり、金額はお任せだけど、これで低い額だったら国の品位が問われるぞ、と脅したわけだ。このあたりで財務大臣の顔は真っ青になった。……考えてみれば、このあたりでヘラクレスさんは笑ってた気がする。

 渡された袋はかなり重かった。中身は聖金貨だろうから……あれ、もう俺たち一生働かなくてよくないか?と思うほどの総資産だ。四人で分けても、一生豪遊しても使いきれまい。一通り落ち着いたらどっかに寄付でもしようかな。

 とりあえずストレージに放り込み(金銭感覚が狂ってきている証だ)、次の皇帝の言葉を待つ。

「さて、では次は……馬車の修理だったな。これも一晩で終わった。いくらパーカシス王国が技術の粋を尽くして造った馬車だとしても、長い旅の間に壊れている部分があったから、そのあたりを修理した。」

 一晩で馬車の修理を終えるって……これまた凄いな。確かになるべく早くとは頼んだけど、相当早い。確認していないからわからないが、これで今まで以上の快適な旅が始まるだろう。……旅、ねぇ……。日本並みの心地よい旅になりそうだ。

「それと……これが一番驚いた。まさか、地獄ともいえる国に自ら跳び込もうとは……。」

 皇帝の声のトーンが下がる。これが、俺が最後に希望した報酬だ。

「まさか……『ストリーグス進入許可証』が欲しいだなんてな……。」

 そう、これこそが俺が欲したもの。

 この『ストリーグス進入許可証』は、そのまんまの意味で、持っていればストリーグスに入れることを示す。

 この許可証は、存在はするもののまず手に入れることは不可能な代物だ。

 この許可証は国に申請することで発行される。ただ、今まで発行された例はないに等しい。

 まず、弱かったり一般レベルの人間は行っても死ぬだけだから申請は拒否されるし、そもそも行きたがらない。

 強者が申請したとしても、今度は国がそんな強者を無駄死にさせたくないから申請は拒否される。そもそも、魔族と渡り合えるほどの強者だったら、自分の実力を弁えることが出来るため申請すらしない。

 この許可証を持っているのは、それぞれの国の騎士団長が軍団長のみ。その彼らも今のところいくつもりは全くない。偉い立場になった以上、勝手に危険な地域に進む必要はないのだ。

 ストリーグスは、魔族の領域だ。魔物に分類されるほど弱い者などおらず、すべてが賢く、狡猾で、強力だ。そんな中に進むのは自殺行為とも言えるだろう。

 そんな許可証の申請を、俺はした。理由としては……至極単純だ。

 まず一つは好奇心。砦の向こう側がどうなっているのかが知りたい。もう一つは水龍に会いに行くため。そしてもう一つは、神様の目的の調査。タイミング的に見て、神様の意図は魔族に大きくかかわっている。それを調査するためには、やはり奴らの根城に向かう必要があるだろう。

「本当に、本当に向かうのか?貴殿らみたいな強者は、いまや人間側にとっては限りなく貴重だ。魔族の活動が活発になっている今、貴殿らの存在は大きいのだぞ?」

 皇帝はためらいを見せる。昨日こそ、俺が頼んだものを聞いて大笑いしたが、一晩考えて深刻な事だと気付いたのだろう。

「無理そうだったらすぐに撤退しますよ。それはそれでいい勉強になります。」

 俺は飄々としたふうに見せてそう言った。実際そうだ。ダメでも、撤退できる程度には俺たちは強いはず。

「そうか……よし、私も男だ。いつまでも女々しく説得するのも恥だろう。……この許可証を渡そう。」

 そう言って皇帝は、自らこちらに歩いてきて、一つずつ、俺たち4人に渡した。

「魔族が強力になっている今、油断は出来ん。これから、三国で協力して、より戦力を強化する必要がありそうだ。だから……貴殿らは、遠慮なく向こうの世界を見てくるといい。ついでに有力情報の一つでも提供してくれると嬉しいな。」

 皇帝はそう言って、また大笑いし始めた。

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